冥土の Berserker Knights
『きゃー。やーらーれーるー』
「と言ってる割には余裕そうですね。思い切り棒読みです。この期に及んで敵を指揮官であるおねぇさんに引き付けさせて自軍の被害の抑えようという魂胆ですか」
『なんだ、ばれてるのか。折角、三文芝居を頑張ったのに』
「敵は歩兵、おねぇさんは騎兵。機動力の差を見れば一目瞭然かと。それにおねぇさんを守る筈の重装歩兵さん達の引き際が良すぎます。それ以前に、おねぇさんが出した命令をしっかり聞いていれば簡単に分かる事です」
見抜かれました。
俺ちゃんを狙ってやってくる敵兵さん達は、馬で逃げる俺ちゃんを追って死に物狂いで走っています。でも追いつけません。だって人と馬ですから。でもゆっくり逃げてるので、もう後がない敵兵さん達は諦める事も出来ず。結果、一点集中で攻撃を仕掛けた事が徒となり、後ろの方から一人また一人と戦場に散っていきました。魔法兵さん達も守る人がいなければ恐れるに足りません。
「勝負ありましたね。敵方の将軍が討たれた様です」
模擬戦終了のホラ貝がブオーっと鳴りました。何で戦国時代の合戦風……。
ほっと一息、お馬さんと一緒に休憩致しましょう。良く頑張ったな、御前、ご褒美のニンジンは無いけど、ナデナデしてあげましょう。あ、嫌がった。
「……ん? あれ、何でまだ戦っているのでしょうか。戦闘は終了したというのに」
『ん?』
そう言われて戦場の方へ目を向けると、まだ戦闘は鎮静化していませんでした。戦闘終了の合図は確かに聞こえたのに、剣を振り上げて敵に斬り掛かっている人達が大勢いらっしゃいますよ。しかも攻撃を仕掛けているのは主に味方の兵士さん達。敵兵さん達は防御に専念中です。あれ……新米兵士さん達、もしかして終了の合図を知らない?
「ちょっとちょっと! 何であんたんところの兵は戦いをやめないのよ! もう戦いは終わってるのよ。早く止めさせなさい!」
「おねぇさん、戦闘終了の号令出して! 怪我人が増えちゃう! 僕ちゃん怒られちゃう!」
うぉ、急に現れるなよな。ピクリちゃんとポックルくんが空から降ってきました。文字通り降ってきました。飛べるって良いね。
「え~と……」
部隊への命令は、基本的に視界内に表示される大量の命令一覧から一つを選び、それを声に出して読み上げる事で行われます。でも、戦闘が終了してしまった事で、その命令文は何も表示されていませんでした。つまり、命令不可能です。
『命令文が表示されてないんだが……』
「あんなの飾りだって事、おねぇさんとっくに知ってるでしょ!」
『ん? そうなのか?』
「はい? ……って、幾つも幾つも命令文を組み合わせて使いこなしている時点で気付いてよ!」
あれ、そうなの? そんな仕様、初めて知りましたよ。
命令文には前列防御とか右翼前進とかやたらと短い命令文ばかり陳列しています。チュートリアルでの初戦で試しに複数の命令を組み合わせてみたら普通に兵士さん達が動いてくれたから、組み合わせオッケーなだけかと思ってました。そうか、あれは初心者が命令しやすいように表示させているだけなのね。
部隊への命令って、基本何でも良いんだー。って事は……女兵士さん達がいる場合、鎧脱いで色仕掛け攻撃とかも出来るんだね!
「なお、命令文に表示された事のない命令は受け付けませんので御注意下さい。イケメンの男性兵をおねぇさんの周りに侍らせようとしても無駄です」
あ、ダメなんだ……侍らせるのは男じゃなくて女なんだけどね。となると、最初から女兵士さんだけの部隊を用意しないといけないのか。
ヴァニーちゃんにお願いしたら用意してくれるのかな? 俺ちゃんこの世界では女性キャラなので、もしかしたらもしかするかも。
「おや、今度は味方同士で戦ってますね。暴れている者を止めている様にも見えませんが……これはいったい」
「そんな事は今はどうでも良いから、おねぇさん早く早く! 下手したら誰か死んじゃう!」
『分かった分かった』
「武器を収めよ! 全員、休め!」
「後半の命令文はありませんが……」
伝令さん達が復唱した後、シタタタタッと走っていきます。いや、復唱は良いから。状況を察してよ。
『戦闘やめないな』
「これはどうした事でしょう。おねぇさん、何か致しました?」
『最初から最後まで御前もいただろうに』
「小生がいたのは戦闘が始まる直前です。それより前に……例えば彼等の糧食に薬を混ぜられていても小生には気付けません」
「はへる?」
「あなたという方は……何を勝手に手を付けているのですか。……頂きます」
頂くのかよ!
あ、俺もちょーだい。頭を動かしたので小腹が空きました。燃費悪いのよね、俺の脳味噌ちゃん。甘いのプリーズ。
「はぐはぐ……特に毒は入っていませんね。妙な味も致しません」
でも不味いです。まぁ長持ち優先の戦闘食ですから仕方ありませんね。おかわり!
「あんたたち……あれ、放っておいて良いの?」
「そうだった! おねぇさん、こうなったら緊急手段だよ! 魔法の言葉を言って!」
魔法の言葉って何だろ。
「ファイヤーボール」
「ちっがーーう! 御飯燃やしてどうするの! 僕ちゃん、飢え死にしちゃうよ!」
魔法スキル持ってないから魔法は発動しませんよ~っと。というか、糧食がメラメラ燃えちゃってるのは魔法兵さん達の無差別魔法の余波なんですけどね。
と思ってたら、こっちにも飛び火してきた!? うぉ、あぶね……ちみ、何するの。天誅!
『経験値1か。しけてるな』
「うわ~~っっ! おねぇさんまで乱心した~~っっ!」
ポックルくんが大混乱の舞いを踊り始めました。折角だからそれらしいBGMに変えましょうか。あ~らよっさっさー。
「あれ? そう言えばこの曲はいったい……」
「あ~~……なるほど。私、分かっちゃったわ」
「……もしかして、これはおねぇさんの仕業ですか?」
『ん? 覚えていないのか? スキル取る時に御前はいただろうに』
「そんな昔の事を持ち出されましても。私がいったい何人の方と同じやりとりをしていたと思っているのですか。流石に全員のスキルは覚えられません」
ゲームなんだから、ちょちょいとデータ調べれば済むような気がするんだけどね~。
「ですが、ようやく合点がいきました。おねぇさん、犯人はあなただ!」
名探偵宜しくビシッと指差されました。きっとやりたかったんですね。
『ちっ……ばれちゃーしょうがねぇ。俺は怪盗83面相。俺に化けられねぇ奴はこの世には3億人ぐらいいるぜ。へへっ』
「ノリ良いわね、あんたも。というか3億って、この世界の総人口じゃない。いったいどうやって知ったのよ」
突っ込む所、そこですか? ちなみに3億というのは適当です。ピクリちゃん、情報ありがとう。知った所で使い道無い情報だけど。せいぜいネットで自慢気に呟くぐらいです。まぁ、根拠無い情報だとして叩かれるだけだけど。
「話を戻します。おねぇさん、今すぐ曲を止めて下さい」
『え~。折角こいつの泡踊りが様になってきたのに』
「妙な駄々をこねないで下さい」
「というか、あんたも好い加減踊るの止めなさい! みっともない」
「うぐっ……ぐるぢぃ。ぎぶぎぶ」
ポックリ君、再び! チーン。
『これで良いか?』
「音量下げて誤魔化すのは止めて下さい。おねぇさん、とっくに気が付いてるでしょう?」
ギロッと睨まれ怒られました。プクーラ君はあまり感情は表に出さないタイプだと思ったのに。どうやら大層ご立腹な模様です。
BGMを止めると、暴れていた赤鎧の兵士さん達は次第に大人しくなっていきました。反面、これまで防戦一方だった青鎧の敵兵士さん達が一部、ここぞとばかりに反撃に移るなどし始めています。恨み辛みの倍返しかな~。
紅天すでに死す、蒼天まさに立つべし。紅蒼逆だったらもっと似てたのに。一字違いなだけで読みまで同じだったのに。残念。
それはそれとして、完全に沈静化するのはもう少し時間が掛かりそうですね。
「やはり、全ての元凶は今回もおねぇさんでしたか」
今回もって……もしかして、あの件の事も知ってるのかな~。例の『狂人鬼、港町エルファシルを襲う、の巻』事件の詳細を。やばい、ゆすられる!? 女性バージョン俺ちゃんの貞操の危機が!
「プッ君、どういう事?」
あ、いつの間にかポックル君が復活してる。んで、ちみはプクーラ君の事をそんな風に呼んでるんですね。真似しちゃおっと♪
『教えてプッ君』ちょっと艶めかしくしちゃいましょう『お姉様も詳細が知りたいわ』プッ君を抱き寄せて首筋をサワサワ触っちゃいます『お・ね・が・い』
「三文芝居は止めて下さい」
と言いつつプッ君の顔は赤く染まっていました。男って奴は……。
「おねぇさん、僕も僕もっ! ……ぐぇ」
ポックリ君、再び。ピクリちゃんの豪腕が炸裂致しました。
いや、そろそろ話を進めようよ。俺が言うのも何だけど。
「要は、おねぇさんが使っていたBGMスキルの特殊効果で、味方兵士がバーサーカー状態にされていたという事ですね」
『俺は鼓舞し続けていただけなんだけどな』
「やり過ぎです」
例のレベルアップ事件でBGMスキルのレベルも途轍もない数値になっていますからね~。PT組んでたマリリン達には何の効果も無かったのに、マスコン兵士さん達には効果がある様です。
戦場の歌姫とか、そんな感じかな? いつの間にか決死の軍団と化してしまった様です。道理で経験の浅い若手兵士さん達が熟練兵士さん達を開幕から圧倒していた訳ですね。いくら戦術でカバーしているからといって、そう簡単に勝てる訳ないじゃないですかー。
うん、納得。この勝利は8割方とんでもスキルレベルの御陰だったんですね。少し安心しました。俺ちゃん、起死回生の一手ぐらいは打てるけど、化け物軍師みたく脅威の戦術までは組めません。……たぶん。
『とりあえず、終わったんだったら帰って良いか?』
「あ、そうですね。おねぇさんは家で待っていてくれる人がいるんでしたね」
あってるけど、ちょっとだけ間違ってるような。俺ちゃん独り身です。家には姪ちゃんが3匹、猫ちゃんが3匹いますけど。あ、匹って言っちゃった。ま、いっか。みんな猫ちゃんみたいに思ってるし。
「後の処理は任せて下さい」
「というか、あんたに任せたら碌な事にならなさそうだから、ちゃっちゃと帰ってくれると助かるわ」
酷い言われようデスね。デスりますよ?
「ああ、そうそう。私に喧嘩を売りたいのなら喜んで買ってあげるわよ。でも気をつけてね。私のレベルは軽く300を越えてるから」
「年の功……」
言っちゃいけない事を口走っちゃったポックル君がデスられました。もうポックリ君に改名したら?
そんな事より、レベル300オーバーですか。この世界のNPCレベルシステムはよく知りませんが、リアル事情の様に能力が衰える事が無いのなら、年長者ほど有利ですね。チュートリアルクエストで仲良くなったお爺さんも、見た目には覇気が無いのに危険な匂いがぷんぷんしてましたから。後で別の意味でも危険な匂いを漂わせていたという事を聞いて背筋が凍っちゃいましたけどねー。
『んじゃ、お言葉に甘えて……どうやって帰るんだ?』
「お飛ばし致しましょう。おねぇさんのお仲間の所で良いですか?」
おねがーい。
「では、飛ばします。模擬戦、ご苦労様でした。追って沙汰がくだると思いますので、それまでは街でおくつろぎ下さい」
沙汰って何ですか!? なんて物騒な表現を使うんだろう……。
聞く前に飛ばされました。その先でいったい何が待ち受けているのか知らないまま。
いち早く、地獄の沙汰がくだりましたよ。ぐぇ。




