Valkyrje Bard --戦詩姫神--
思い出せ!
『君と共に輝かせる、燃え尽きるその時まで、永遠に、永劫に』
狂人鬼の眼前で急停止し、即座に直角へと斬り曲がる。返す刃と共に背後へと回り、地面を斬った後、炎をまとった短剣にて斬り上げる。同じ軌跡を斬り返し、再び直角に斬り曲がる、返す刃と共に正面へと回り、地面と斬った後、再び炎をまとった短剣にてその身を斬る。ライジングクルセイドノヴァ。
『この世界に、鮮やかに舞う、君にしか見えない
ただ一つの奇跡を』
「まさか……!? まだ速くなるというのか!?」
「そんな事よりも歌が変わりましたね。こっちの歌も凄く良い! 燃える!」
「いえ、萌えます!」
「いやいや、女の御前が萌えてどうすんの。あの子、どうみても女の子でしょ?」
「だからこそです!」
「えっと……」
『求めて』
氷門・雪刺迅。岩タイル砲弾が放たれるよりも早く、一瞬で距離を詰めキラーナイフで刺突を繰り出す。と同時に試し斬りの短剣を高速で振るいつつ背後へと抜ける。再び距離を取り、同様の技を繰り出す。繰り返すごとに刺突の刃に霜が降り、辺り一面を凍てつかせていく。狂人鬼の身体を凍てつかせていく。白く染め上げていく。
『遠すぎて届かない、この先の景色が』
月輝・孤影舞踏。凍った地面を滑りながら狂人鬼とすれ違う。その瞬間、孤月の刃を七つ繰り出す。そのままスケートのように弧を描いて滑り、三日月の如き軌跡の後、大振りに薙ぐ。小さな満月の弧を描いて再び斬り薙ぐ。振り返り、姿無き新月の如く零距離で斬り薙ぐ。
『削り取られた時間のように、撮られた中でしか見られない』
華刹・紅。狂人鬼の間近で優雅に舞いながら刃を振るい続ける。決して大振りにはせず、小降りに薙ぎ、斬る。まるで扇を振るうかのように斬り、薙ぐ。舞踊を踊ってるかの如く小さく周り、肌が触れ合いそうな距離で斬る。綺麗な花が散っていくように、血の花を咲かせていく。狂人鬼の身体は斬れないため、血の花が咲く事はなかったが。
そして、その技をようやく終える。
絶刀・乱れ雪月花。
『駆けてゆく未来には、美しさが、無く
それぞれが翔んだ過去には、夢だけが残る』
「あれは、ちょっと速すぎるわね」
「合計で軽く100回以上斬っていましたね。斬りすぎです」
「そういう事じゃないわ。数はどうでもいいの。あの速さちょっとやばいわね」
「え? それってどういう事ですか? 確かにあの人は滅茶苦茶速いですけど、それがどうかしたんですか?」
「貴女達の世代だと、まぁ知ってなくても仕方ないわね。貴女、自分の脳がどれだけのスペックを持ってるのか知ってる?」
「え、脳のスペックですか? そんなの分かる訳ないじゃないですか」
「そうね。分からないわね。普通はね」
「普通は、って……普通じゃなければ調べる事が出来るんですか?」
「そう、あるのよ。しかも別に難しい事じゃないわ」
「それって、どういう……」
「簡単よ。壊れるまで使い潰せば良いだけよ。そうすれば、その人の脳のスペックを調べられる」
「は? そんな事したら死んじゃうじゃないですか」
「そう、死んだのよ。実際にね。しかも罪に問われない方法で、何万人もね」
「な、何万人!? そんな事したら絶対にニュースになってみんな知ってる筈じゃないですか!」
「だから、知ってるわよ。あの時代にこの世界……VR世界で生きていた人達は、ほぼみんなね」
『この世界に、鮮やかに舞う、君にしか見えない
夢見て初めて辿り着ける、未来があるのだから』
加速していく。それがとても危険な事だと分かっていながら。
例えこの世界が現実の3分の1の速度で時が流れようとも。進化した技術によってどれだけ時の魔術を駆使しようとも。現実世界の俺の脳の処理速度は変わらない。この世界では3分の1、イコール現実世界では3倍速の処理。
それがどれだけ危険な事なのか。俺達は、知っている。
『もっと高く、もっと遠く、羽ばたきたい
ただ一つの奇跡を』
「あー、なんだっけ」
「ん、何がだ?」
「いやね、メイドシリーズの過去作を思い出してるのよ。そしてね、あの女の子の職が何なのかちょっとばかし脳内検索してるのよ」
「無難にアイドルじゃないのか?」
「アイドルにあんな戦闘能力ないっしょ。もっと上位上位。あー、何があったかなー」
「おほっ。なら、バトルプリンセス! それしかない!」
「お、闖入者あり。叔父さんも痛だね。メイド痛だね」
「おうよ。根っからのメイド痛よ。っていうか実年齢ばれるから、せめてお兄さんと呼べ」
「そんな事はどうでもいいのよ」
「俺にとっちゃ、どうでもよくねぇよ」
「バトルプリンセス、確かに近いものがあるねー。でも戦闘狂王女ちゃんって音痴スキル所持だったのよね。だから違うのよね」
「なら間を取ってバトルアイドル!」
「いや違う! 俺はアイドルプリンセスに一票!」
「私は廃上位職ヴァルキュリアに一票入れちゃう!」
「どう見たって限定固有職でしょ。廃上位職とか、たった1週間じゃありえないから」
「超がつくあの限定版購入者のみが選ぶ事が出来るだろうと言われていた、伝説の隠し職疑惑ねー。あれ、結局どうなったの?」
「買った人が特定出来なくて、報告もなくて検証出来ずじまいね」
「それがあれかー。いったいなんて言う職なんだろうね」
「超万能なメイドマスターとか?」
「意表をついて吟遊詩人とか」
「ないない、それない。メイドちゃんなら兎も角、吟遊詩人それ絶対ないない。女の子、詩人なれない」
「実は胸パット……」
「「「「俺達の夢を壊すな!!」」」」
「ひぇっ!? すみませーん!?」
『求めて』
オービット・ランドクリース。短剣を回転させた後、打つように斬る。曲を奏でるように。
夢幻㭭之太刀・月光。三日月の孤月が同じ軌跡を八度なぞる。
偽技戦神槍。短剣を槍に見立て、上空から鋭く投擲。
疾風閃迅刃。疾走し、無数の斬撃を浴びせながら斬り抜ける。その際、短剣を回収。
ナイトメアハーベスト。逆手の裏刃で狩り斬る。
『零じゃない、零じゃない、零じゃない
いつか覚めるとしても、その夢は零じゃない』
次なる曲へと変える。使う音源の数を更に増やす。観客の数と、その耳に届き認識される音源の数だけBGMスキル熟練度は比例して上昇する。BGMスキル熟練度の上昇速度に比例して錬金術スキル熟練度も上昇していく。
錬金術スキルとは、いったい何を錬金しているのだろうか。金を練る術。その金とはいったい何なのか。己にとって価値あるもの、それを比喩としているのだろうか。
他のスキルが上昇する度に、まるでそこから零れ落ちていく砂のような欠片をかき集めているかのように。砂金をかき集め不純物を取り除き金を練るかのように。金ではないが、金でないものを金のようなものに変えようとするかの如く。
その可能性を練り上げていく。狂人鬼の命を奪う可能性を練り上げていく。俺の心に宿る微かな期待を膨らませていくように。ゆっくりと錬金術スキル熟練度が成長していく。
『悲しくても苦しくても辛くても諦められないその夢は
叶えたいと達したいと成し遂げたいと思い続けたその夢は何』
「――かつて、このVR世界には、制限がなかった」
『逃げ出してもいつかは戻ってきてしまうただ辛いだけの夢なのに
なぜこの思いは陰る事なく私の心を蝕んでいくその夢は何故』
「は? いきなりなんすか、リーダー。何、語り始めてるんですか。一人だけ難しい顔して場違いですよ。もっとこのイベントを楽しみましょうよ、いつもみたいに」
「技術の進歩、それは確かに素晴らしい事だ。しかしその素晴らしさに、そのあまりの輝きに目を奪われてしまった結果、世界は一度その過ちを犯した」
「聞いちゃいねぇし」
「俺達は、この世界ではどこまで加速していく事が出来るのか? 現実の枷を引き千切り、仮想の世界へと旅立つ事を可能にした技術は、更なる高みを求めて更に加速していった」
「いやいや、脳だけはリアルのものを使用してますから。いくら肉体の枷を取っ払ったといっても脳だけはリアルそのままですから限界はちゃんとあるでしょうに」
「そう……限界はあったのだ。それを俺達は知っている筈なのに。俺達は、この世界に感動し熱中するあまり、かつてそれを忘れてしまった」
「忘れたって……別に問題ないでしょうに。やばそうになったらちゃんと機械が止めてくれますし。直接脳を使ってるんですから安全第一ですよ」
『大事に大事にして、小さな箱に仕舞ってしまう』
風刃水鳥刀。地面近く水平に短剣の刃を振るい二つの風刃を引き起こす。後、両の刃による抜刀斬り上げを放つ。逆鳥居型の風刃が狂人鬼の足と手に襲い掛かる。狂人鬼の四肢が風の気流により一瞬拘束される。
ライトニングラデーション。その場にしゃがみ力を溜め、空中へ一気に飛び上がりながら斬撃を放つ。後、高速の刺突を無数に放ち続ける。次第に刃へ雷が迸り、更に刺突が加速していく。世界が減速していく。
『簡単に踏み壊す事の出来るのに、言い訳を探して開けないまま』
「うわぁぁ。凄い速いですねー。あんな技あるんですねー。私もいつか使えるようになるのかなー」
「……いえ、恐らくあんな技はこの世界にはないわよ」
「はい? またまたー、お姉様ったら嘘ついちゃってー。現にあの人使ってるじゃないですかー」
「確かに使ってるわね。でも、あれは間違いなくシステムに組み込まれている技じゃないわよ」
「システムニ、クミコマレテナイ? はい~?」
「あの子、ちょっと加速しすぎよ。気が付いてるのかしら? ここが3倍世界だって事に」
『夢じゃない、夢じゃない、夢じゃない
いつまでも叶えない、その思いは』
「かつては、それがなかったのだ」
「なかった? 脳がPCみたいに限界突破して熱暴走してしまうのを制限する制御プログラムがですか? マジで?」
「そう……かつてはなかったのだ。俺達の命を守るその鎖が。楔が」
「えーと……つまりそれって……」
「敢えて悪い言い方をすれば、頑張り次第で自殺する事が出来たという事だ」
「いやいや! そんな風に言い変えなくて良いですから!? めっちゃ怖いですよ!」
「だが、事実だ。それによって、一度この技術は封印されてしまったからな」
「リアルに経験済って事ですか。リーダー、やっぱり見た目通りオッサンだったんですねー」
「そんな事はどうでもいい。問題は、あの娘の速度だ」
「あー……確かに速いですねー。凄いですねー。でも昔は昔、今じゃちゃんとプログラムは改善されてますから、大丈夫じゃないですかねー」
「……普通の仮想世界ならな」
「普通の仮想世界なら? ……あーっと、そういえば」
「ここは3倍速の世界だ。つまり、あの程度の動きでも、脳の負荷は3倍となって襲ってくる」
「あの程度の動きって……かつてはどれだけ速く動けたんですか、リーダー」
「さて、な。俺は限界を突破する事は出来なかったからな。突破した者もこの目で見た事はない。だがもしかすると、この世界は……」
「突破してたら今ここにリーダー生きていませんって」
「……まさかな」
『でも、零じゃない、零じゃない、零じゃない
いつかその過ちに気付くなら
いつか本物と思えるなら』
インペリアル・エヴィサレーション。1突5撃の刺突技。それを両の腕で交互に5回ずつ、同じ軌跡をなぞる。途中、襲ってきた攻撃は全て上半身の動きのみで躱す。
キラーナイフが、それを最後に根本から折れた。
♪御意見、御感想をお待ちしています♪
リン「リンちゃんと」
チー「チーちゃんの」
「「あとがき劇場スペシャル!!」」
リン「わー、わー、ぱちぱちぱちぱち」
チー「ドンドン、ぱふぱふ」
リン「第45話だよー♪ でーあいとともにはじま~って~♪」
チー「ねぇ♪ あ~いしたら~♪ だ~れもが~こん~な~♪」
リン「カズねぇまだ歌ってるねー」
チー「でも二曲目からはフルコーラスじゃなくなりましたね」
リン「うん。でもそれより気になる話が本編の中でされてたね」
チー「昔のVR機器にはリミッターがなかった事ですか?」
リン「チーちゃん。そういう話、聞いた事ある?」
チー「いえ、ないのです」
リン「だよね。そんなに昔の事じゃないのに、何で聞いた事がないんだろ」
チー「リンねぇは調べた事があるのです?」
リン「うん、一応ね。いくら技術が発達したといっても、脳から直接だからね」
チー「普通に考えれば怖い技術なのです」
リン「だから、過去に事故とか起きてないのか調べたんだー」
チー「でもあの会話の内容は見つからなかったんですね」
リン「少なくとも、事故としてはね」
チー「なら、あの会話は何なのでしょう?」
リン「当時の人ならみんな知ってるって事みたいなんだけど……」
チー「大人さん達は、みんなで情報を隠匿してるのでしょうか?」
リン「その可能性もあるよね。Rー16情報にされてるのかも」
チー「全てのサイトや情報に年齢認証が必要ですから、それもあるかもなのです」
リン「もしくは、年代認証かな? 特定の年以降に生まれた人には開示しないとか」
チー「知ってる人に聞けば知る事が出来るのです」
リン「だから絶対という訳じゃないんだよ。Rー18情報でも抜け道一杯あるし」
チー「カズミちゃん秘蔵のコレクションから拝借です♪」
リン「まだ見つかってないけどね……ほんと、どこに隠してるんだろ」
チー「それはそれとして、何故そのような事をするのでしょう?」
リン「ん~、たぶんVR技術を衰退させないためじゃないかなー」
チー「どういう事です?」
リン「ほら、物凄い事件を引き起こした技術だと、最悪封印されちゃうじゃん」
チー「当たり前の事だと思うのです」
リン「でもね。あまりにも魅力的すぎて、国民の大反発をかっちゃったら?」
チー「死んだ人達とそれに近しい人達は、逆の立場で大反発なのですよ」
リン「そういう人達も、VR世界の魅力に抗えないのだとしたら?」
チー「死ぬのは怖いです」
リン「だからリミッターなんだよ、きっと。それさえあれば絶対に大丈夫ってね」
チー「原因を解決すれば、受け入れられるのです?」
リン「そこは時間が解決! ほら、一度は封印されたって言ってるし」
チー「ほとぼりを冷ますための空白の数年間があったのですね」
リン「あとは検証と実験を繰り返した結果、事故なし! っていえば問題なし!」
チー「それにも色々と問題がありそうな気もしますけど……」
リン「ま、どっちにしても今こうして最新VR機器が出てる事を考えれば」
チー「封印は無事に解除されて、黒歴史情報は封印されたのですね」
リン「うん。もしかしたらいつか歴史の授業でコソッと出てくるかも知れないけど」
チー「現代史は人気ないですからねー。受験次期の最後の方に教わるかもです」
リン「もうその頃にはまったく耳に入ってこない無駄知識としてね」
チー「そこ、試験には絶対に出ないので覚えなくても結構ですって言われそうです」
リン「さてさて、本編の方はもう佳境だねー」
チー「なのです。キラーナイフさんお疲れ様なのです」
リン「次はいよいよクライマックス!?」
チー「と思うのは時期尚早かもしれません。でもとりあえず、こうご期待です」
リン「という訳だから、みんなも楽しみにしててねー」
チー「それでは本日もこの辺りでお開きなのです」
リン「バイバーイ♪」
チー「さようならです♪」
♪(こっちも)御意見、御感想をお待ちしています♪




