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姪とオンライン!  作者: 漆之黒褐
第一節 『VALKYRJE SONG』
30/115

姪と hughug

 その悪い予感を予感させしめるピースはいくつもあった。

 膨大な敵の数。されどよく見知っている敵。驚きと安堵による心理操作。

 有象無象の敵と思いきや、各モンスターの特徴を使った奇襲戦法。包囲戦。それだけの戦術を行使出来るのに、何故か南西の一方向からのみ固まって進撃してきた敵集団。それさえ叩けば問題ないと思わされた。

 確かに数の利はそのまま圧倒的な力になる。だからといって数を集めれば必ず勝てるという訳ではない。故に、地中と空からの2段構えの奇襲攻撃。多種多様なモンスターだからこそ、そういう事もあり得るという事につい納得してしまう。

 第一陣と第二陣を壊滅に追いやったのはいったい何か? 全滅した訳ではないのは、俺達が街にいた際に負傷したNPCが何人もいた事からも分かる通りだ。瀕死の重傷を負ったのだろうミックという人物は、恐らく第一陣に参加していたNPC衛士。彼等が戦場で見た敵は、圧倒的な強さを誇っていた。

 だが、第三陣はどうだろう。そんな話をシン君は聞いていない。数の暴力と奇襲戦法によって蹂躙されただけ。この第四陣も同様。どちらの陣も包囲された事によって周囲の敵情報を遮断された。しかし圧倒的な数の奇襲による殲滅戦は仕掛けられなかった。まるでこちらの戦力を読み、天秤が僅かに敵側へと傾く程度に戦力を投入してきたかのように。あの圧倒的な強さを誇った敵はいったいどこにいったのか?

 そもそも、圧倒的な数の利があるならば街を全方位から襲えばいい。泥人形達の生息地は街の北側なのに、何故に街の南西へと集結させたのか。飛翔系モンスターにしても、空を飛べるのだから直接街を襲えばいいのに、わざわざ一箇所に固めて南西から進軍させた。奇襲戦法や包囲戦が出来る程度に知恵が回るのならば、わざわざそんな面倒な事をしなくても十分に戦果を上げられると予想出来る筈だ。

 まだピースはある。俺達は、あの洞窟に行く前に二度も謎の戦闘集団に遭遇した。滅多に出会えないというのに、二度もだ。あの集団はいったい何処から現れたのか? 決まっている。自動的に沸く敵が集まっただけだ。つまり、敵は倒せばまたどこかで自動的に沸き、徐々に集結してまた街を襲いに向かう。しかし何故? その理由のピースはまだ見つかっていない。

 洞窟内では、敵がほとんどいなかった。それは何故か? 今ならその理由が分かる。既に街へと向かったからだ。

 ここからは最悪の予想。

 敵は陸軍の他に、空軍と地中軍がいた。エルファシルは海に面している港街だ。ならば海軍はいないのか? それこそが最悪の状況を予想させる。

 南西から攻めてきた敵はただの囮。街を守っている衛士や戦力となりうる傭兵やプレイヤー達を街の外へとおびき寄せるための駒。但し、最初にボス級の個体が姿を表しその囮軍の中にそういう指揮官的なボス存在がいる事を見せる事で本隊と思わせる。しかしその実、本当の本隊は阻む者のいない海から街へと一気に侵攻。守る者達のいない街へと襲い掛かる。しかも、南西は敵が攻めてきて危険という事で、力を持たない者達が避難しているだろう場所の有力候補である街北東部を真っ先に狙って。

 ついでに、プレイヤー達のほとんどは街の中央もしくは街の西や南の端っこにある復活ポイントを好んでよく登録している。活気があり、便利であり、イベント的にも適している場所。つまり、プレイヤーは死亡しても街の北側や東側の海岸一帯にはほとんど復活しない。そんな訳なので、もし敵の襲撃が海からあっても、恐らくほとんどのプレイヤーはすぐには気が付かないだろう。皆、この突発イベントで街の南西側に意識を向けているので尚更だ。

 そんな街の南西付近に、第三陣と第四陣、恐らくは第五陣もだろう、それらの部隊との接触を回避したあの凶悪な力を見せつけたボスが率いる少数精鋭部隊が現れれば、いったいどうなるか。当然、更にプレイヤー達は南西へと目を向ける。その間に、北東にいたNPCは壊滅的な打撃を受けるだろう。

 死ぬと二度と生き返らないNPCが全滅すると、エルファシルの街の機能は完全に停止する。それは、プレイヤーにとって最悪のシナリオだった。

 果たして、この突発イベントを失敗させるとそれ程までに残酷な結末が待っているものなのか。

 仮定にしか過ぎないその最悪な予想を、個別念話チャットでシン君だけに伝えてみる。

 俺がフレンド登録をしている6人のうち、唯一の男性であるシン君に。

 過去作のメイドシリーズの内容も知っていると思われる意外と結構物知りなシン君に、意見を求める。

『本当に、最悪ですね……』

 シン君は聞いて後悔しましたといった表情で俺の顔を見た。さしものシン君も、そこまで悪い予想はしていなかったのだろう。普通に考えて、南西から攻めてきた敵の一部が俺達を素通りして街に辿り着いた程度のシナリオを思い浮かべるのが無難か。

『それだと、ほぼ確実に最初から僕達プレイヤーサイドはこのクエストをクリアする事が出来ない事になります。いくらなんでもそれはないでしょう』

『それはどうだろうな。オープニングイベントがなかったんだ。あの街が滅ぶ事を前提としたプレイヤー参加型の悲惨な物語イベントを用意していないとは言い切れないだろう』

 そう、このゲームには初めてログインした際に、普通なら存在するオープニングイベントがなかった。突然、俺達はあの街に現れゲームを開始した。いくらなんでもそれはお粗末すぎるだろう。普通に考えて、それこそゲームとしてはありえない。

『カズミ殿、シン殿。お二人が何を話しているのかは分かりませんが、察するにあまり良い話ではないようですね。恐らくその件にも関わる事なのですが、私が得た情報を皆様方にお伝えしようと思うのですが、いかがなものでしょう?』

 双方向通信を三方向通信に切り替える。念話チャットの難易度はちょっとだけ難しくなるが、別にそれほど苦労する訳ではない。伝えたい意識を二つに分けるような感じで言葉を紡ぐ。

『それはアイナを含む全員か?』

『いえ、アイナ殿を含まない皆様方です。アイナ殿にはこれ以上心配の種を増やさない方が良いかと思います。あの方にとってこの戦は愛する家族を守る戦いですが、あの方の性格上、無茶をしかねませんので』

 ちらっと横目でアイナを見る。敵包囲網の一角を無理矢理食い破った後も全力疾走を続けるアイナの全身は、返り血と傷跡から流れる自身の血で真っ赤に染まっていた。剣に付着した血もぬぐう事なく鞘に収め、野生のような壮年期前半の美貌の頬には一筋の傷跡がその美貌を汚している。あまりその傷を長く放置していると傷跡が残ってしまうだろうに、しかし当の本人にそれを気にしている様子は一切ない。

 そんなアイナを先頭に、俺達7人が(ヽヽヽ)続く。あの戦場でたまたま一緒になっただけの他10名は、今から街に戻ってもそこに己の利はあまりないと考え、そのままあの激戦の地に残った。

 敵包囲網を無理にこじ開けた所で4つに別れ、その内の一つが俺達7人。熟練者6人PTはそのまま右側の敵へと襲い掛かり、ソロな万能お姉さんは左側に。お気楽少女3人組は踵を返して陣中央経由で別の場所へと増援に向かった。

 故に、この場にいるのはアイナを除けば全員が俺の見知った面々。一時的に俺のPT内に合流したあの4人は既にPTから離脱し、熟練者6人PTも既にマリリン指揮下の複合(アドホック)PTから離脱。シン君とササメさんはもともとマリリンPT。

 その他大勢の死亡者達も、事前の打ち合わせ通りに死亡した時点で複合PTから自主的に抜けている。そのルールを忘れているのかまだ残っていた一部の面々は、丁度良いのでマリリンに強制排除(キック)させた。彼等はPT内にいても何も発言しないので、街の情報もこちらに流してこない。邪魔なだけだ。

強制排除(キック)おっけー。ササやん、PTチャットでいいよー』

 どうでもいいけどマリリン、ササやんって呼ぶのやめない? イメージ崩れちゃうよ。

『お手数を掛けます、マリーベル殿』『フルネームじゃなくてマリリンって呼んで♪』『……私の事をササやんと呼ぶのを止めて頂ければ考えましょう』『どうでもいいっすよ、呼び方なんて。ササメ、早く話を始めるっす』『『どうでもよくないよ(ありません)!!』』『うっ……』『レイさんは引っ込んでて下さい。今はお呼びではありません』何気に酷いなシン君も『カズミちゃん、おねぇちゃんちょっと走るのに疲れちゃいました。おんぶしてくれませんか?』『街に着くまでだぞ?』『やったー♪』『あ、ずるいセンねぇ』『カズミお姉さん、私も私も』『寝言は寝て言え』『この扱いの差はなに!? なんか私だけ扱い酷くない!?』『喜べ。リンネちゃんだけの特別対応だ』『全然嬉しくないよ!』『あの……そろそろ話を始めても宜しいでしょうか?』『ササやん、巻きでお願いねー』『はぁ……』

 ササメさんの話を要約すると、街を襲ったのは堅い皮膚を持つ蟻くんの集団だった。加えて、例のボス級的存在。それ以外にはいないという。

 俺が懸念した海からの襲撃は幸いにしてなかった。このイベント期間中限定の使い走りクエストで街のあちこちを走り回される事となった一部のプレイヤーからの情報らしい。まぁ、生産職NPCが軒並み逃げたのだから、彼等が安全圏で作成した各種アイテムを運搬する人が必要になるからな。意外な所でプレイヤーの目が行き届いていたという訳である。

 ただ、海からの襲撃はなかったがそれとは別の襲撃部隊はいたらしい。第五陣のメンバーは急遽そちらの対応に向かい迎撃しているとの事。数も多くなかったため、順調に消化しているとか。

 南西から街へ侵攻してきた蟻くん部隊と戦っているのは、衰弱から復活した第一陣に参加していたプレイヤー達。一部、武器を手に取った街のNPC勇士達も参加し、入り組んだ街の狭い通路で個々に防衛線を引いて奮闘中らしい。

 大通りではボス級的存在が猛威を振るい、衰弱から回復していない野次馬達を順次蹴散らし続けているという。しかもそのボスはもうすぐ復活ポイントの一つへと到達するため、それを食い止めるべくプレイヤー達がその復活ポイントのある広場に集結中。しかも彼等はその場所を復活ポイントに変更するように数名の指揮プレイヤー達から指示を受けているらしい。いったい何を考えているのか。復活ポイントを利用したゾンビ作戦かな?

 どちらにしても、まだ街の被害はそこまでないようだ。殉職したのは討伐隊に参加した街の衛士達と傭兵達。討伐隊には参加しなかった太った衛士長や新人衛士、それに若年の新米傭兵である少年少女達、危険な事には首を突っ込みたがらないNPC冒険者達は今も健在で、全体を指揮する大変太った街のトップさんも安全圏である後方に指揮所を移して今も慌ただしく指示を出し続けているらしい。ちなみにササメさん、太っているという情報はいりませんよ。

 プレイヤー側で残っている戦闘可能な人数は、街の外で闘っている人達も含めて約800人程度。うち、130名が街の外で今も戦闘継続中。第四陣の残り人数は80名弱。別働隊の対処に向かい順調と聞いた第五陣の数がやたらと少ないように思えるのだが、どうやら最初から人数がかなり少なかったようだ。報告を聞いて慌てて募集を打ち切って向かったのもその数が少ない理由の一つだろう。

 ところで俺達は街の外と内のどっちに含まれているのかなー? たった7人だから誤差の範囲内だけどね。ちょっと気になる気になる木~、名前~も知ら~ない~~、気に~なるでしょう~。うーん、懐かしい歌だねー。

『カズミ氏、結構余裕がありますね』

『フフフ。心強い限りです』

『『『らくちんらくちん』』』

 背中にセンねぇちゃんを背負い、胸にマリリンを抱いて、更にリンネちゃんを肩車して走る俺の表情に緊張感が見られなかったのを盗み見て、シン君とササメさんが三方向通信でそんな感想を零してくる。まったく、緊張感がないのはいったいどっちなんだろうねぇ。というか、何で俺こんなに苦労してるんだろ。子供とはいえ、三人は流石にめっちゃ辛いんですけどー。

 あと、レイ君。そんな羨ましそうな瞳を向けてきても、君だけは絶対に運ばないからね。装備解除不可能な呪われた装備を着た君が悪いんです。いくらなんでも重量級の装備品を身に付けている君だけは持てませんよ。辛いだろうけど、頑張ってねー。

♪御意見、御感想をお待ちしています♪


リン「リンちゃんと」

チー「チーちゃんの」

「「ネオあとがき劇場!!」」

リン「わー、わー、ぱちぱちぱちぱち」

チー「ドンドン、ぱふぱふ」


リン「第30話! 実況は、カズねぇの胸の中からお送り致します」

チー「うう……リンねぇ抱っこいいな」

リン「でも片手で支えられてるから、ちょっと不安定だよ?」

チー「それは私もです。お尻のすぐ近くにカズミちゃんの手があります」

リン「だからというか、こっちからしがみつかないといけないんだよね」

チー「ちょっと腕が疲れますね。リンねぇ降りて下さい」

リン「やだ」

チー「あと、目の前にちびっ子さんのお尻があって複雑な気分です」

リン「私の方は目の前にちっこい羽虫の足があって凄く邪魔だけどねー」

チー「引きずり落とします?」

リン「んー、今はやめとく。カズねぇがバランス崩してこっちまで被害きそうだから」

チー「じゃ、後で体育館の裏に呼び出してボコボコにしましょう」

リン「おっけー。でもこの辺りに体育館なんてあったかな?」

チー「港にある倉庫の中という手もあります」

リン「そっちの方が現実的だね」

チー「でもその前に、敵さん達のど真ん中に放り込んで殺してしまいましょう」

リン「いや、それは流石に……他の人達にも迷惑かかるからやめようね、チーちゃん」

チー「えー」

リン「うん。チーちゃんにも後で教育的指導が必要そうだね」

チー「返り討ちにしちゃいますよ?」

リン「大丈夫。カズねぇに頼んで、鉄拳制裁して貰う予定だから」

チー「カズミちゃんはそんな事しません。私はカズミちゃんに愛されてますから」

リン「甘やかされてるだけな気がするけど」

チー「それはリンねぇも同じ気がします」

リン「カズねぇ甘いよねー。レイレイにはすっごく厳しいけど」

チー「男は嫌いなんですよ。カズミちゃんは百合なのです♪」

リン「リアルは狼さんだから、チーちゃん本当に間違っちゃダメだよ?」

チー「きゃー、食べられちゃうー」

リン「棒読みだね」

チー「でもこの体勢だと、私の方がサキュバスさんになっちゃうかもです」

リン「首筋にカプっとだね。でもそうなると、私は襲われてる方?」

チー「あ、そっちの方が良いなー」

リン「体勢はたぶん私の方が辛いと思うけど」

チー「リンねぇ、本当にらくちん?」

リン「微妙」

チー「私も少しばかり微妙です。となると……」

リン「このちっこい羽虫が一番楽そうだね。やっぱ殺しちゃおっか」

チー「賛成です♪」

リン「そんな訳だから、計画練るために今日はもう終わるねー」

チー「完全犯罪を行うには、色々と考える事が多いのです」

リン「それじゃ、バイバーイ。まったねー」

チー「さようならですー。あ、この事は秘密でお願いしますね♪」

リン「共犯者ゲット♪」



♪(こっちも)御意見、御感想をお待ちしています♪

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