姪と Break
敵はいったいどこまで狡猾なのか。更に追加投入された泥人形達をようやく全滅させたマリリン一向が俺達に合流した時には、その数はかなり減っていた。
最初は40名いた複合PTだが、マリリン率いるフレンドPTと敵第三勢力の飛翔系モンスターの一団を引き付け続けた熟練者6人組PTは連携の熟練度が高かった御蔭か丸々生き残ったが、その他の寄せ集めPTは連携が上手くいかず、一人また一人と泥人形の攻撃を受けて死亡していった。
攻撃しすぎて盾役からターゲットをとってしまい殺された者、範囲攻撃に巻き込まれて死亡した回復役、多数の敵を引き付けたために回復が追い付かず地に伏した盾役。
最初は7PTの計40名で100体近くの泥人形達を相手取り、その後は5PTの26名で約50体もの泥人形達を退け、やっとの事で片づけ終わったと思われた瞬間に追加の25体。敵の数も減ってはいたが、連戦に次ぐ連戦によりMPは常に枯渇寸前、アイテムもほぼ底を尽き、最終的に生き残ったのはマリリンPTの他は壊滅寸前の2PTだけだった。
その数、8名。その人数は途中で俺と合流して敵第三戦力を叩き始めたササメさんとシン君を除いた人数である。
つまり、マリリン、センねぇちゃん、レイ君、リンネちゃんの4人以外に生き残ったのは4名だけ。自己回復可能な前後衛どちらも出来るバランスタイプ職と思われる高Lv者だけが生き残ったソロPT状態のお姉さんと、仲良し三人組と思わしき盾職/弓職/回復職のバランスのとれた少女PT。ソロのお姉さんが最後の方では一人で泥人形数体をまとめて相手にしていた事も驚きだったが、仲良し少女三人組もなかなかの実力者らしく、その見事な連携はこの戦場の中で唯一と言っていいぐらい優雅な立ち振る舞いだった。実質、最も敵を狩っていたのはその仲良し少女三人組だろう。
その実力者8名を加えた計12名で、今も飛んでる敵を全て引き付け続けている熟練者6人組から確実に一匹ずつ敵を剥ぎ取りながらその数を減らしていく。
まずは時計回りにグルグルと周り続けている盾職の方から、ソロPTのお姉さん、仲良しPTの少女三人組、マリリンPTの4名、途中から俺の援護に駆けつけたササメさんとシン君およびNPCアイナに雀の涙ほどしか火力がないレベル1の俺を加えた4人が、各一匹ずつ片付けていく。ちなみに、ササメさんとシン君はPT移籍はしていません。しちゃえばいいのに……。
体力を回復する手段を持ち合わせていない俺達には、敵の数が減った事で負担が軽くなった熟練者6人PT内の回復役4人から回復法術が順次飛んできた。勿論、俺以外にだけ。だって俺、攻撃は一切受けてないし、何より被弾した瞬間に即死するし……。
順調に数を削っていった結果、程なくして最後の敵となる一際大きな鳥さんを熟練者6人PTが危なげなく討ち取る。回復役から一転、それまでの鬱憤を晴らすかのように、まったく同じ形の武器を閃かせた4人の怒涛の攻撃によって、その大きな鳥さんは一瞬後には無残な姿へと変り果て地面に落ちる事となった。
そして4人一斉にまったく同じ決めポーズが披露される。いやなにそれ、カッコいい! 彼等の顔には、やり切ったという表情。まさか実はそれがただやりたかっただけとか……。ちょっと優越感に浸ってる笑みが浮かんでいた。
その横では大の字に寝転がっている盾職2名。兜に隠れてその表情は見えなかったが、きっと兜の中では悔しそうな顔をしているのだろう。いくら仮想世界の中とはいえ、あれだけの間ずっと走り続けながらヘイト管理をしていたのだから、心身ともに疲労の極みにある筈だ。もしそんな状態で決めポーズに加われば、きっとあの4人とはタイミングが噛み合わなかっただろう。故に今回は泣く泣く自嘲した……という事を想像してみた。確信はなかったが、たぶんあってると思う。
この6人は、きっとそのうち大なり小なり有名になるだろう。勿論、色々な意味で。後でこっそりギルド名を教えて貰おうと思う。まだたった6人だけど絶対にギルドを作ってると思った。こちらは確信あり。
「さて、この後はどうするんだ?」
まだまだ周囲ではNPCカダル指揮下の同盟PTが激戦を繰り広げている最中。何だか指揮してるのは副官のシェーン嬢のような気がするけど、うん、たぶん気にしちゃいけないんだろうな。
その彼等主力からはほとんど気にもとめられていない陣内部の掃除をし終えて目的を失った面々――まぁ、あちらさんもかなり苦戦してるみたいだし。数もだいぶ減ってるなー――を代表して俺がこの複合PTリーダーのマリリンへと話しかける。というかマリリン、絶対リーダーだって事忘れてます。完全に休憩モード。一息を入れるのもいいけど、みなさん困ってますよ?
「うーん、どうしよっか?」
「向こうの戦線は膠着しているみたいですから、まずは十分休んで回復してはどうでしょう? 合流するにしても遊撃隊になるにしても、万全な状態で挑めばこの膠着した状況を打破出来る可能性も十分にあると思います」
「今度は私達が敵中を突破して、敵を混乱させるというのもいいですね」
会話の切り出しは俺だけど後の話し合いには口を挟まずに、裏でこっそりソロPT状態のお姉さんと仲良し少女三人組へとPT合流申請を出してみる。暖かく承諾された。まぁ、自然の流れだよな。PT人数による補正もある事だし。
ただ各々好き勝手に動きたい方達のようなので、PT念話チャットで「特に指示する気はないから自由行動で」と言っておく。了承の意が返ってきた。ちなみにPT念話チャットではNPCのアイナには言葉は通じません。
ついでに4人にフレンド申請も送ってみる。こっちはアッサリ拒否されました。ちぇ。
ちなみに、NPCのアイナは7人目としてカウントされている。別枠扱いらしい。
「カズミちゃん、何か良い案ありませんか?」
俺に振らないでよセンねぇちゃん。俺はあんまり目立ちたくないんだから。もう手遅れだと思うけど。
「シン君、第三陣の連中はどうなっているか確認出来るか?」
でも仕方なく応じちゃう。可愛い姪に少しは頼りになる所を見せておこうかな? という打算。
「えっと……」
その反応から察するに、既にシン君は知っているのだろう。そのあまり伝えたくない現状を。だからこそ、知っておかなければならない訳なのだが。
俺達が倒したのは200体弱。第四陣主力が相手にしている敵の数が多く見積もって約1000体とするならば、残っている敵はいったいどれぐらいなのか。俺達が戦線に参加した時には既に第一陣と第二陣は壊滅し、第三陣は包囲されて敵の数をざっとでも見積もる事が出来ない状態にあった。
だとしても、第一陣から第三陣までは討伐PT級の人員がいたのだから、かなりの敵の数を減らした筈だ。特に第三陣は現在トップを争っている大型ギルドが複数参加していたのだから、かなりの敵を片付けたと思われる。
希望的観測で見積もって、敵の残存戦力は今現在この第四陣を襲っている敵を除けば恐らくもう1000体にも満たない筈だ。対してこちらは、1時間の衰弱待機時間が確保さえ出来れば何度でも闘う事が出来るプレイヤーが多く混じっている。第一陣に参加したプレイヤーは既に衰弱から復活してる時間。第二陣もそう遅くない内に復活するだろう。俺達の後に募集された第五陣ももうとっくに街を出発した筈だ。
「少し前に……たぶん全滅、との報告を第三陣に参加していたフレンドから聞きました。確定情報じゃないんですけど」
半ばその言葉を既に予想していた10名は、シン君のその言葉に驚く事はなかった。
「全滅だって!? なら、生存者は!?」
しかし……。この場において唯一のNPCであるアイナだけは違った。
「多数の魔者に完全包囲されて逃げ道を完全に塞がれた後、徹底的に叩かれたみたいですので、恐らくは……」
「馬鹿な! 何でそんな戦い方をしたんだい! 敵の方が圧倒的に数が多いんだから、包囲されたら終わりだって事ぐらいすぐに分かるだろう!」
いや、俺達も同じように包囲されてますけど? その理屈から言えば、俺達も全滅確定じゃないですか。まぁ、否定できないけど。徐々に方円陣の輪っかが小さくなってきてるし。
それよりも、俺にはもっと気になる事があった。
第三陣は、いったいどうやって全滅したのか、もしくは全滅の危機に瀕したのか、である。
『シン君。そのフレンドとはまだ連絡が取れるのか?』
『え? あ、はい。まだぎりぎりログイン限界時間は越えていませんので連絡は取れますけど……』
『なら、確認してくれ。何故「たぶん全滅した」と思ったのかを』
確定情報ではなく推測情報だったのは、間違いなくそのシン君のフレンドは全滅する前に殺されて街に死に戻りしたのだろう。その死ぬ直前に感じた感想は、いったいどのような状況からくるものだったのか。
その理由によっては……。
『……聞いてみましたが、やはり僕達と同じように空や地中から何度も奇襲を受けて、包囲戦というよりは完全に乱戦だったみたいですね。圧倒的な数の暴力で有力ギルドのメンバーも各個に分断されたみたいです。そんな状況でしたので、回復役もどんどんと殺されてジリ貧になったそうです。全滅までに時間が掛かったのは、僕達と比べて人数差とトップギルド故の力量差があったからでしょう』
『つまり、数で押し切られたという事だな?』
『みたいです。それがどうかしました?』
「マリリン、街へ戻るぞ」
悪い方の予想が当たって、俺は即決で進言する。このまま悪い予感まで当たらなければいいと心の底から思う。
「え? どうして? まだ敵さんあんなにいっぱい残ってるよ?」
「――なんだい、臆したのかい?」
敵前から逃亡をしようというような俺の言葉に、第三陣は全滅しただろうという情報から期限がすこぶる悪くなっているアイナが俺へと殺気を漏らす。目の前にいる仲間まで見捨てて自分だけ生き残ろうなどという気はさらさらないといった強い意志。
アイナがモンスターの血に濡れた剣を握りしめ、俺の額に若干の汗が浮かぶ。同時に、俺のPTに加えた他4人の女性プレイヤーの双眸に批難の色が浮かび上がる。印象最悪といった視線。株が下がりすぎてそろそろ破産するんじゃないかなー、な気分です。
だが、そんな些細な事に臆している場合ではない。
「理由はいくらでもある。リンネちゃん、俺達の目的はなんだ?」
「ほぇ? 何でここで私に振るの!?」
いや、御前が一番緊張感が足りないからだけど? というのは嘘で、一番そういう事には直感で気が付いていそうだからだ。この面々の中で唯一、リンネちゃんだけがずっとその事を気にしているようだった。今も、そちらの方向を少し眺めていた。
「まぁ、良いけどー。ねぇねぇ、街を守らなくて良いの?」
悪い予感が確信に変わる。リンネちゃんはリンネちゃんで、シン君とは別のネットワークから情報を得ているようだ。その情報源はフレンドには違いないが、修理した顧客もしくは生産職繋がりからの情報だろう。
「はっ、なに言ってんだい。今もこうして敵の侵攻をここで食い止めてるじゃないか」
それこそ何を言っているのか、と思ってしまう。まぁ、アイナは脳筋っぽいしな。その事に気がつかないのも無理はない。他の面々にしても、これはクエストなのだからあまり深くは考えていないのだろう。
見た所、ササメさんとシン君以外はリンネちゃんの言葉をまだ不思議がっているし。ソロだったお姉さんは戦闘狂、仲良し三人組はお気楽三人組という烙印を押しておく。君達もそういうレベルなんだね。どうでもいい事だけど。
リンネちゃんが俺の方を見る。というか睨む。アイナの矛先がリンネちゃんに向いちゃったからだろう。やっぱあの強烈な殺気は浴びたくないよねー。
仕方ない、その矛先をまた俺の方へと戻す事にしましょうか。非常に気が進まないけど。
「アイナ、俺達の目的は敵の討伐じゃない」
「――なんだって?」
アイナの殺気がまた数段膨れあがる。まるですぐにでも俺の事を斬ってしまおうかというぐらいの強烈な殺気。アイナが無造作に俺の方へと歩み寄り、俺の胸ぐらを掴む。それを誰も止めようとはしない。
え? いや、誰か少しぐらい助ける素振り見せてよ!?
「寝言は寝て言いな、嬢ちゃん。私は遊びに来てるんじゃないんだよ」
俺も遊びに来てる訳じゃない……と言いたい所だけど、実際には遊びに来てるからなぁ。これ、ゲームだし。何だか嘘を吐くようで嫌だったので、その言葉だけは飲み込む。
あと、これ以上はアイナを刺激しないように、ちょっと考えて言葉を選ぶ。なんかどんどん悪い方向に言ってる気がするし。思わせぶりな事を言わず、もう率直に言っちゃうかな。
直球勝負!
「俺達の目的は、街を無事に守りきる事だ。だが……」
「そんなのは当たり前だろう! 今更、嬢ちゃんは何を言ってるんだい!」
いや、だから俺の話を最後まで聞いて! っていうか、胸をそんなに絞めないで! 苦しくて喋れないよ!
「――まさか! ここで食い止められているのは、実は僕達の方ですか!?」
その事にようやく気がついてくれたシン君が事実関係を確認すべく一瞬固まる。恐らく、街にいるだろうフレンドの誰かに確認を取っているのだろう。それも複数人に。
同様に、NPCアイナを除く全員の動きが固まり、視線が虚空を見つめているようにこの場所から意識が離れる。念話チャットに集中している時によく見る症状だ。あ、一人だけ反応が違う。ソロなお姉さんだけがちゃんとこの場に意識を残してる。おーれーとーおーなーじー。フレンド少ないんですね。仲間仲間♪
「確認が取れました」
いち早くその情報を得る事に成功したササメさんが口を開く。
「エルファシルの街は、既に大量のモンスター達によって攻撃を受けているそうです」
最大目標は、既に達成不可能となっていた。
♪御意見、御感想をお待ちしています♪
リン「リンちゃんと」
チー「チーちゃんの」
「「ネオあとがき劇場!!」」
リン「わー、わー、ぱちぱちぱちぱち」
チー「ドンドン、ぱふぱふ」
チー「第29話なのです。タイトルコール奪ったのです」
リン「譲ってあげたんだよ、譲って。たまにはねー」
チー「それよりリンねぇ」
リン「ん、なーに?」
チー「こう密集してると、リンねぇお得意の巻き添え魔法が使えませんね」
リン「使おっか?」
チー「ダメです! 一発でアライアンスPTが崩壊しちゃいます!」
リン「だよねー。全力全開でうてば、敵中突破は楽なんだけどねー」
チー「爆風で陣形が崩れちゃいますよ」
リン「敵さんも爆発で飛び散って陣の中に入ってくるしねー」
チー「ただでさえ地中と空から敵さんが襲ってきてるのに、追加はいらないです」
リン「それ以前に、方円陣あまり役に立ってなくない?」
チー「ですよね。敵さんが陸戦部隊だけならまだしも、地中軍はないです」
リン「空からの敵もあまり抑えられてないし」
チー「なんというか、貧乏くじを引かされたような気がします」
リン「私達ばっかり慌てふためいて闘ってるよね」
チー「アライアンスPTさん達はじっくり戦いすぎです」
リン「やっぱここは、味方もろとも吹き飛ばしちゃいたい気分。そわそわ」
チー「確実に皆さんから恨まれますので、やめてください」
リン「私の覇道の前には、多少の犠牲などー」
チー「防衛戦なんですから、犠牲者増やしちゃダメです」
リン「よいではないか、よいではないか。減らないんだし」
チー「減ってはいけないものが減りますし、増えちゃいけないものも増えちゃいます」
リン「うー。盛大にストレス発散したいー」
チー「杖で敵さん殴りまくってる時点で、大いにストレス発散してる気が……」
リン「乱戦続きでMP切れちゃったからねー。今は回復待ち」
チー「それでいて無駄に強いのがリンねぇの凄い所なんですよね」
リン「私、武闘派魔法士だから」
チー「魔法士に武闘派はいりませんです」
リン「赤の魔法士の赤色は血の色じゃー!」
チー「炎の色のはず……」
リン「チーちゃん手が止まってるよー。もっと血を浴びないと」
チー「敵さんは斬りますけど、血は浴びたくありませんです!」
リン「目指せ、撲殺で一騎当千!」
チー「せめて魔法で一騎当千をお願いします……リンねぇ」
リン「うっちゃっていいの? 味方巻き添えの殲滅級魔法」
チー「ああ、そうだった……。リンねぇには可能だったんでした……」
リン「レア魔法様々だね♪」
チー「なんで天はリンねぇにそんなものを与えたのでしょうか」
リン「神ちゃんは私に全てを焼き尽くせと言っているのです」
チー「言ってません!」
リン「なんでもいいから、チーちゃんも頑張って敵さん斬り刻んでねー」
チー「かくなる上は、リンねぇが倒す前に私が倒すしか……」
リン「む! 横取りする気だ! 負っけないよー!」
チー「という訳なので、私はこれから修羅道に入ります。皆様、さよならなのです」
リン「あ、もうそうなんだ。それじゃ、みんなまったねー。バイバーイ」
チー「またの御来読をお待ちしていますのです」
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