姪 no Real
決して軽くはない子供3人を背負っての強行軍。なんか軍隊じみた過酷なマラソンがようやく終わり街に辿り着くと、破壊された街の門がまず俺達を出迎えた。
「これは……敵の侵入を阻む筈の門の守りが、まるで役に立たなかったようですね」
壊されたというよりは、鋭い何かで斬り倒されたといった感じの門構え。門の左右上に建てられていた見張り台も既にその形はなく、地面の上で踏み壊された状態でその木片が散乱していた。
それとは別に地面へと倒れているNPC衛士の骸の成れの果て。門と同じく何か鋭いもので斬られたかのようにその死体のほとんどはすべて寸断されており、どこかしら欠損していた。
「ひどい……」
まさに虐殺された後の光景に、頭の上のリンネちゃんが呟く。流石に臓腑がまき散らされているとか、悲惨な死に顔を晒しているような事はなかったが、その光景は十分にスプラッタな状況には違いない。
半ば予想していた事とはいえ、俺は咄嗟に姪二人の目を隠す。これは、子供が見てもいい光景ではない。
「リアルすぎだよ~。うう……なんだか気持ち悪くなってきちゃった」
「きゅ~」
少し遅かったか。刺激の強すぎた光景を見て奇妙な言葉を発して崩れ落ちたセンねぇちゃんを再び抱っこしてその頭を撫でる。マリリンの方はまだ大丈夫のようだが、俺の腕に強くしがみついていた。
「いくよ! こんな所で立ち止まってる訳にはいかないんだ、私達は!」
「うん、早く行こうよカズミお姉さん」
「そうですね、行きましょう。彼等が守ろうとしたものを守るために」
憤るアイナの言葉にリンネちゃんが同意し、シン君が口元を抑えながら先に走り始めたアイナに続く。その後ろをササメさんが続き、遅れて俺も止めていた足を再び動かし始める。最後尾のレイ君は目の前の光景よりも重量級装備でのマラソンの方が苦痛なのか、一番最後までその場に残って息を整えていた。いや、あの恐ろしく視界の狭そうな兜のせいで、よく見えないだけか。
ちなみに、どうでもいいけどそろそろ降りようよリンネちゃん。いつまで楽をしてるのですか。ここから先も幼女を肩車してるのは流石にちょっと恥ずかしいです。浮きすぎです。場の空気読んで!
「きっさまらがーー!」
場に馴染みすぎの狂戦士と化したアイナが視界前方右側の通路に後ろ姿を見せていた蟻くんを見つけて剣を鞘から抜き放つ。そのまま大きく跳躍。両手で持った剣を上段に振りかぶり、全力でその蟻くんの背中に斬りつけた。
血飛沫というか液飛沫をあげて前のめりに倒れる蟻くん。否、渾身の斬撃を放つ前にアイナが叫んだ鬼声に反応し咄嗟に回避行動を取ったのだろう、まだ動く事の出来た蟻くんが振り返り、鋭い鉤爪を持つ腕を振るう。アイナはその攻撃をまるで回避する気もなく、身体に新たな傷が生まれる。次の瞬間、返した剣刃の軌跡によって蟻くんの身体は今度こそバッサリと真っ二つに割れた。
しかし敵はそれだけではない。その蟻くんが何に意識を向けていたのか。
リンネちゃんを降ろし(強制的にね)、センねぇちゃんをマリリンに預けた後、シン君とササメさんに続いて俺も加勢する。
通路の中には、まだ4体もの蟻くんがいた。その向こう側には、木箱やらテーブルやらでバリケードを作り蟻くん1体と応戦しているNPC男性の姿。そして更にその奥には子供達の姿が見える。何故、子供達がこんな所にいたのかは分からないが、そこで敵を食い止めていなければ間違いなくそのNPCの子供達の命はなかっただろう。通路の奥は行き止まりになっていた。
「前のようにはいきませんよ! 鍛冶士徒弟ササメ渾身の一降り、巴型大薙刀『細椿・虎月』、受けてみなさい!」
あ、まだ根に持ってたんだ。
などと思いながら、シン君と二人がかりで一匹の蟻くんを相手にし始めるササメさんを横目に通り過ぎる。そして二匹と交戦するアイナから一匹を奪う……事はせず、そのアイナの横も通り過ぎて俺は通路の奥にいる敵へと斬りかかった。
「助けに来た。生き残っているのは御前達だけか?」
「助かった! ……残念ながら、他にも似たような事になってる連中が数多くいる。この子供達は俺が責任を持って安全な場所まで送り届けるから、どうか他の奴等も助けてやってくれ!」
「……善処する。御前も無理はしても無茶だけはするな」
その俺の言葉に男は頷かなかった。このような状況に陥っている時点で無茶は承知の上なのだろう。その男の足下にちらりと視線を向けると、そこには二人の子供の死体。恐らくこの男と一緒に頑張ったその結果か。
視線を目の前の敵へと戻し、短剣を握る手により一層の力をこめる。そんな事をした所で俺が敵に与えるダメージが増える訳でもなく、逆に力んだ事で剣速を落としかねないのだが、構わず俺は短剣を振るう。と同時に思う。まさかNPC勇士というのは子供達の事なのか?
狭い通路の中では俺もうまく回避する事は出来ない。ターゲットを俺の方へと移した蟻くんの攻撃をほとんど後ろに下がって躱しながら、徐々にその蟻くんを通路の外へと誘導していく。俺はアタッカーではない。ただの引き付け役、釣り役、囮役、時間稼ぎの捨て駒。
「少し待たせちゃいましたね、カズミちゃん」
その稼いだ時間が無駄ではなかった事を、上から聞こえてきた可愛らしい声を聞いて俺は一安心する。遅れて、狭い通路の壁を走る復活したセンねぇちゃんの姿を確認する。
え? 忍法壁走りですか?
と思っていると、そのセンねぇちゃんに向けて炎の玉が向かった。え?
二度驚いている間にセンねぇちゃんが手にした剣でその炎の玉を受け止め、続いて「やぁ!」という掛け声と共に跳躍。
「秘剣! 炎剣兜割り!」
そして日本語と英語がごちゃ混ぜになった必殺技で、蟻くんを頭から真っ二つに斬り裂いた。斬った断面からは炎があがり、蟻くんの全身がこんがりと焼けていく。ちょっと食欲をそそられる良い臭い。
「また詰まらぬものを斬ってしまった」
「センねぇ、グッジョブ! かっこいー!」
いやもう、なんかシリアスな展開が一気に吹き飛びましたよ。
と気を緩めている場合ではない。振り返った先にいたマリリンの背後から忍び寄る魔の手を打ち払い、間に割り込む。続く攻撃は右手の短剣で受け流し、左手でマリリンの背中を押して通路の中へと押し込んだ。
半ば予想していた事ではあったが、その敵の背後ではアイナが地に倒れ伏していた。敵の一体と差し違える形で。
何故、俺の方に助けに入った、などとは聞かない。瀕死状態のNPCアイナの命よりも、自分達と同じプレイヤーでありレベル1の弱小キャラだと知っている血縁者でもある俺の命を優先させる二人の行動に誤りはない。しかもゲームなのだから、それは至極当然の選択だ。
納得出来なくとも、理解するしかない。
理解出来なくとも、納得するしかない。
その不条理ともいえる論理とまだ子供である二人の不安定な心情を思いながら、俺は姪二人の方へと天秤を傾ける。優先順位は、より現実に近い方。現実に起こっている目の前の仮想世界の出来事ではなく、まだ起こってはいない後ろにいる少女二人の現実世界での未来を選択する。
これは、ゲームだ。
迷う事なくアイナの命を切り捨てた二人の選択に間違いはない。
人が死んでいる中でも巫山戯て楽しむ二人の姿に咎はない。
そう割り切る。
「マリリン、支援を頼む。俺じゃこいつの相手は辛い」
「はいはーい。それじゃ、カズねぇの短剣にも炎属性を追加しちゃうねー」
「そんな悠長な事をしてたらカズミちゃんが死んでしまいますよ。ここはまたこのおねぇちゃんに任せて下さい。ひと~つ、人の世の生き血をすすり、ふた~つ、不埒な……」
いやいや、センねぇちゃんの方がよっぽど悠長です。
だが、それでいいのだろう。今、二人はそうして巫山戯ている事で必死にこのゲームを楽しもうとしている。先程見た悲惨な光景を忘れようとしている。思わず崩れ落ちそうになるほどのショックを受けたのに、そう簡単に復活出来る訳じゃない。今、センねぇちゃんはおちゃらける事で必死に自分を奮い立たせようとしている。心配する俺やマリリンに自分が大丈夫だという事を伝えようとしている。
だから俺も、二人がNPCのアイナを切り捨てた事に触れるような事はしない。心を鬼にして、二人のために自分もアイナの事を頭の片隅に追いやる。
「おーい、何でもいいから早く助けてくれ」
「いつ~つ、絶体絶命ピンチのカズミちゃん、む~っつ、それをズバッと解決センちゃんが~、なな~つ……」
って、いつまで続くのその台詞!? 四つ目以降はない筈だよ!?
「カズねぇ、避けるのうまいねー。やっぱオートバトルアシスト機能使ってないから?」
マリリンも、短剣に炎属性を追加してくれるんじゃなかったの!? そんな所に腰掛けて傍観してないでよ! あ、オニギリまで食べ始めてる。ちょっとプラチナむかつく。……洞窟でケルベロン君と戦ってた時の心情ってこんな感じだったのかな? ごめんなさーい。
「喝! ぜぇ、ぜぇ……。や~~~っと追いついたっすよ! ぜぇ、ぜぇ……」
スキル有効範囲圏内ギリギリで発動させたのだろう、挑発された蟻くんがくるっと反転して勢いよく走っていく。レイ君は結構遠い位置にいた。しかし滅茶苦茶疲れている御様子。
蟻くんが怒濤の如き勢いでそのレイ君へと走り向かう。その距離を零にする頃には蟻くんの速度は十分に無視できない速度域に突入していた。そして蟻くんお得意のタックル攻撃がそのまま発動。あ、レイ君が軽々と吹っ飛ばされた。やっぱり物凄~く疲れてたんだね、レイ君。まるでボウリングのようだったよ。
それで気が済んだのだろう、蟻くんが再びくるっと反転して戻ってくる。レイ君、いったい何がしたかったんだろう……。
「マリリン、お願い」
「はいは~い。センねぇも好きだね~」
今度は姪二人が何やら含みのある会話を俺の背後で交わす。そしてマリリンがいきなり全速力ダッシュ! え!? 質量差から考えてそのままだと絶対にマリリンが吹き飛ばされるよ?
と思っていたら、遅れてセンねぇちゃんもいきなり全力ダッシュ!
そして先行したマリリンが今まさに蟻くんと正面衝突すると思われた瞬間。
「「チェンジ!」」
二人が同時にそう叫び、走っていたマリリンの姿が一瞬にしてセンねぇちゃんに変わる。
「裏奥義! 瞬天絶華!!」
そして繰り出された技の速度は、二人の疾走速度を足し算したかのように瞬間的に最高速度を叩き出し、蟻くんと交差した。
マリリンとセンねぇちゃんの疾走速度と、蟻くんの疾走速度と、センねぇちゃんが繰り出した技の衝撃力とが合わさり、その全ての力が一瞬の競り合いに押し負けた蟻くんの身へと襲い掛かる。遅れて、まるで爆音のような音が響き渡った。
蟻くんは、空を舞っていた。しかしその胴体は無惨に砕け散っている。間違いなく絶命した光景。飛び散る肉片と堅い皮膚の破片と液飛沫。感情を読めない筈の硬質な蟻くんの顔が、何故か驚愕に染まっていたような気が何故かした。
だが二人の攻撃はそれで終わりではなかった。
「とぉ!」
位置が入れ替わった後も疾走し続けていたマリリンが、地面を強く蹴って飛び上がる。その位置は当然それまでセンねぇちゃんがいた場所。まだ蟻くんと交差していない位置。
そのマリリンの小さな手には法術士の象徴ともいえる杖。赤い宝玉の埋め込まれた杖の先端が、宝玉を中心に真っ赤に燃え始める。
「ひ~~とっ……」
そして大きく振りかぶり。
「えんどーーーーっ!!」
まだ空中にあったボロボロの蟻くんの身体へと振り下ろされた。
直径1メートルぐらいの大きさにまで膨れあがった杖先端の炎が絶命した蟻くんの身体を包み込み、振り下ろされた速度そのままに杖を離れ地面へと叩き落とされる。
炎が地面にぶつかって消えた後、そこには原型をとどめていない炭と化した蟻くんの残骸があった。
「マリリン、グッジョブです」
「センねぇもグッジョブだよ」
親指をあげて笑いあう姪二人。えっと……実は俺の気遣いって全然必要ない?
「色々と規格外の御姉妹ですよね。私達もそうありたいものです」
いや、ササメさん。いったい誰とそうありたいのか知りませんけど、ああいう規格外になっちゃだめでしょう。もっとまっとうな規格外になって下さいよ。
ササメさんの瞳が後ろの方へと向かう。その先にはリンネちゃんの姿。さっき助けたNPC達に何やら催促しているような感じ。あ、なんか受け取った。ていうか、かつあげしてる!?
と思ったら、回復用のアイテムが底をついてたから、何か貰えないかと聞いていたらしい。蟻くんと戦う前から瀕死だったアイナを回復しないのは何でかなと思ってたけど、NPC相手にけちってたんじゃなくてアイテム尽きて回復そのものが出来なかったんだね。ちょっと安心。
しかし、ね……。
俺、このイベントはシリアスな展開一直線だと思ってたんだけど、普通のプレイヤーにとってはどうもそんな気はしていないみたいだなぁ。NPC達は全員が顔面蒼白なのに、その彼等とプレイヤー達とのギャップがちょっと大きすぎです。
俺って、感情移入しすぎなのかな……。
なんかちょっと胸が苦しいです。
この胸の苦しさはいったいどこからくるものなのか……。動かなくなったアイナを見ていると、その苦しみは酷くなったように感じられた。
――たぶん、それは錯覚だろう。姪二人のためにそう思い込む事に決めたので、そう思い込んだ。
♪御意見、御感想をお待ちしています♪
リン「リンちゃんと」
チー「チーちゃんの」
「「ネオあとがき劇場!!」」
リン「わー、わー、ぱちぱちぱちぱち」
チー「ドンドン、ぱふぱふ」
リン「ずばっと解決、第31話!」
チー「犯人はこの中にいます! それはあなたです!!」
リン「まさか完全に部外者だと思われていた読者さんが犯人だったとは……」
チー「凶器は思いのパワーですね。ほにゃらら趣味もここに極まれりです」
リン「ちっこい羽虫もきっと本望だねー。そんなに思われて殺されるなんて」
チー「動機はやはり、そのちっこさでしょうか?」
リン「いえいえ。可愛さ余って憎さ100倍だと思います」
チー「それなら納得♪」
リン「そしてスッキリ♪ あー、良い仕事したー」
チー「でも、また詰まらないものを斬ってしまったです」
リン「それはそうと、チーちゃんさっきの技、始めてみる技だね」
チー「はい♪ さっきようやく覚えたんですよ」
リン「技名を聞くと刀技に聞こえるんだけど、チーちゃんの持ってるそれ、剣だよね」
チー「剣ですね。片手剣です。流石に刀は高くてまだ買えないです」
リン「ササやんにオーダーしてみたら?」
チー「ササメさん、意外と守銭奴なのです。ウハウハなのに……」
リン「でもそのお金全部、自分の武器に注ぎ込んでいそうだよねー」
チー「です。金に糸目をつけずに生産系スキル上げに慢心していそうです」
リン「巴型大薙刀『細椿・虎月』だっけ? 私もあんなの欲しいなー」
チー「リンねぇは杖を使ってますから、流石に無理ですよ」
リン「いや、出来る! この世には仕込み刀という武器があるのだー」
チー「仕込むんです?」
リン「うん、いつかね。それでまた私の火力アップ♪」
チー「魔法士が目指す火力じゃない気が……」
リン「それにしても、薙刀かー。ササやんすっごく似合ってるよねー」
チー「服装から入ってますしねー。構えもなんか本格的に見えます」
リン「案外、リアルで薙刀術でも習ってるのかもね」
チー「そんなマイナーな武術、まだ生き残ってるんです?」
リン「生き残ってるんじゃない? よくわかんないけど」
チー「学校によっては、もしかしたらクラブ活動で行っているかもしれませんね」
リン「どっちにしてもすっごくマイナーな気がするけど」
チー「それにしても、薙刀ですか……系統種はいったいどうなってるんでしょうね」
リン「両手武器は確定だよね。あとは薙刀だけ?」
チー「槍術と棒術も入ってるんじゃないでしょうか? あとは、大薙刀?」
リン「どっちにしても、系統種少なそうだよね。しかも特殊そう」
チー「生産職の方ですから、武器系統スキルは一つか二つあれば十分ですけど……」
リン「それが薙刀スキルなら、随分と思い切った事するよね」
チー「拘りプレイなのです。服装からしてもそうですし」
リン「チーちゃんも拘ってるけど、あそこまでじゃないよねー」
チー「です。でもちょっと羨ましいです」
リン「序盤からどっぷりはまり込めるのは良いよね」
チー「私達が目指してる所は、相当先にならないと無理ですし……」
リン「オンリーワン。早く辿り着かないかなー」
チー「あれ、リンねぇもオンリーワン目指してましたっけ?」
リン「うん、そうだよー。だからボコボコ殴ってるんだし」
チー「え!? その行為にはそんな裏設定があったのですか!?」
リン「あれ、言ってなかったっけ?」
チー「聞いていないです……」
リン「ほら、あれ……ごにょごにょごにょ……なんだよ」
チー「……全然ルート違いません? しかも元ネタと全然路線も違いますし」
リン「アレンジだよアレンジ。カスタマイズ♪」
チー「別の意味でオンリーワンになれそうな気がしますです」
リン「ゆくゆくは更にその先、オンリーナンバーワンが最終目標だけどね!」
チー「リンねぇの先は私よりもずっと長そうです。ファイトです、リンねぇ」
リン「ありがとー♪」
チー「また少し話し込んじゃいましたね。そろそろお時間なのです」
リン「む、もうそんな時間なんだ。仕方ないなぁ」
チー「そういう訳なので。皆様方、申し訳ないですけど、お開きなのです」
リン「んじゃ、バイバーイ。また来てねー♪」
♪(こっちも)御意見、御感想をお待ちしています♪




