メイド no ad hoc Party
現在のPTメンバーの御紹介です。
魅惑の妹魔法使いこと《赤の魔法士》マリリン。中位下級職だそうです。前に聞いた時は下位上級職の《魔法士》でしたね。今回はそのマリリンがPTリーダーです。なんでだろ?
《青龍の聖剣士》という固有職かな?を目指してるセンねぇちゃんの現在職は、まだまだその目標には遠い下位上級職の一つである《水妖の片手剣士》です。この前は同じく下位上級職の《水精の片手剣士》でしたよね。目標に向かって着実に進んでいるようで何よりです。
シン君の職業は当然変わっていません。《旋棍使いもどき》です。もどき、という言葉がついてるので下位中級職です。でもレベルはまぁまぁ高いみたいです。中位下級職のマリリンや下位上級職のセンねぇちゃんと比べても、能力は全然見劣りしないそうです。
晴れてダークでグロテスクな近づきたくない人ナンバーワンに輝いたレイ君も、当然その職業は変わっていません。同じく下位中級職の《入隊したての雑用兵士》です。どっからどう見てもそんな風には見えませんけど。呪いで職業も強制変更されれば面白かったのに。
新しく加わった和風なササメさんは見習いを卒業していました。下位上級職である《鍛冶士徒弟・鉄/薙刀》になり、自ら槌を振るって打った自慢の一品を手にしてます。たぶん、このPTの中で一番の業物を持っているんじゃないかな?
そして最後に、我等がちびっ子アイドル幼女のリンネちゃん。ササメさんが作った武器を修理させられてるのか、《修理士徒弟・中級/刀剣系》なる職となっていました。下位上級職だそうです。得物は変わらずその体格に似合わぬ柄の長い大きな木槌。ピコピコハンマーが似合うよって言ったのに、変えてくれませんでした。残念だなぁ。
以上6名がPTメンバーです。
……って、あれ? PTの中に俺が入っていないよ?
「レベル1の人をメンバーに入れても……」
というマリリンの呟きは近くにいた俺とセンねぇちゃんにしか聞こえていません。実際には、ササメさんとリンネちゃんの二人が加わった事で都合7人になったため、また俺が一人あぶれたというだけの話。1PTは6人までです。うう……ぼっちPTは寂しいよぉ。
それはそれとして、この6人PTですが一見すると回復役らしき職の人がいませんよね? その事を突っ込んで聞いてみると、意外にもリンネちゃんの《修理士》という職は、回復役としてもそれなりに頑張れる職らしいです。人体の修理ですか……機械仕掛け的な何かで俺達は動いていたんですねぇ。
♪♪♪♪♪♪♪♪姪とオンライン♪♪♪♪♪♪♪♪
「カズねぇ、いくよー」
メンバーの中で唯一の中位職だったマリリンがリーダーをしている複合PTの面々が、マリリンの軽快な言葉を発すると同時にのそのそと移動を開始する。都合、7PTもの集団が合体した計40人の大所帯。
流石にこの大集団の中で一人PTという訳にもいかないので、野良PTに混ぜて貰いました。良かった良かった。
しかしこんな大所帯でも実はこれでもまだ少ない方で、この第四陣の募集が開始された直後に参加した人達は、7PTが合体した複合PTが更に5つ集まった同盟PTなる大集団へと強制参加させられているのです。えっと……最高で210人です。多すぎです。絶対に指揮できないでしょ、そんな人数。
だがこれで驚くなかれ。まだこの世は広いのです。実は実は、更にこの上の集まりがあるんだとか。同盟PTは更に3つ合わさる事が出来るんだそうです。その最大630名にも及ぶ大部隊の名は、討伐PT! いや、流石にその数はやばいって……流石に個人だとそれだけの人数を集めるのは無理です。大所帯ギルドでもようやくですよね。第一陣から第三陣はこの討伐PTを組んで向かったそうです。
しかーし! もっと上がある!? 500名以上の討伐PTが2つ合わさって1000人を超えると軍団PTになるという。いや、もう……なんと言っていいやら。まぁ、軍ですよね。
軍団PTにまでなると、そこからはいくつでも軍団PTは合わさる事が出来るそうです。れっきとした『軍』になるそうです。もう国家レベルの話です。
『軍』にまでなると下位のPTもその支配下に置く事が出来るようになり、もはや何でもありです。まぁ、国家ですから。それだけの数を揃えて何をするのかと聞かれれば、決まってます。戦争ですね。
『この世界では戦争もあるみたいですから、もっと先の街や都にまで行けば参加出来るんじゃないでしょうか? チュートリアルクエストで経験した戦争シュミレーションがあったぐらいですし』
何も知らない俺にPTに関するうんちくを個別念話チャットで丁寧に説明をしてくれたシン君が、ついでとばかりに自身の推論を述べてくる。正直言って俺にはどうでも良い内容です。
そんな事よりも、PTメンバーの皆さんから「なんだコイツ……」というような痛い目で見られている事の方が俺には気になります。レベルは明かしてないけど未だ初期装備なままなので俺が低レベルだというのはバレバレです。戦地まで装備を変えないという人も当然多くいたけど、初期装備なのは当然の事ながら俺だけでした。
ああ……あの店でせめて何か買えれば良かったのに。まぁ、ワンピース姿で戦地に向かうのだけは遠慮したいけどね。
『カズミ氏、心の声がだだ漏れなんですけど……』
シン君に対してだけは俺の心は解放されているのさ、などと気取って言ってみる。迷惑です、と素で返されました。シン君ったら、意外と冗談が通じない時があるよね。そんなんじゃ俺の愛は受け止められないぜ?
『やっぱりフレンド登録解除させて貰っても良いですか……?』
御免なさい、俺が全面的に悪う御座いました。この罪は身体を使って返し……。
『フレンド登録解除しますね』
などという冗談はさておき、先程の続きです。えーと……あー面倒だな。というか時間がないや。
順に、アドホックPT、アライアンスPT、レイドPT、アーミーPTと呼ぶそうです。説明終わり!
――奇襲を受けました。マジで?
♪♪♪♪♪♪♪♪姪とオンライン♪♪♪♪♪♪♪♪
思っていた以上に軍としての統率が取れていた敵に、この第四陣も一気に修羅場へと突入する。
報告によるとまだ少し先の平地で先陣の部隊は交戦中の筈だったのだが、敵は数に物を言わせて第三陣も取り囲んで死角を作り、密かに強襲部隊を先行させて地中に潜ませていた。そうとは知らず暢気にピクニック気分で進んでいた第四陣一行は、急に陣のど真ん中に現れた敵集団に驚き、一気に混乱状態へと陥ってしまう。
奇襲を仕掛けてきたのは、俺も苦手とする泥人形のモンスター達。奴等は基本的に地面の中に潜んで獲物を待っている事が多く、ちょっとやそっとの索敵スキルレベルでは発見する事が出来ない。その強さも蟻君並にこの辺りではそれなりに高レベル。そんなのが百体規模で突然に現れたのだから、さぁ大変。この第四陣の中核をなす同盟PTは大打撃を受け、いきなり数人が脱落する事となった。
だが、予め先人より「何があっても驚くな」と釘を刺されていた事と、基本的に個人や少数PTの集まりでしかない面々はすぐに冷静さを取り戻し、各地で乱戦を開始。
結果、あっというまに取り囲まれました。
「マリリン、やばいですね」「うん、やばいね。これじゃリベンジどころじゃないかも」「内と外の両方から攻められたら流石に俺もみんなを守りきれないっす」『ちょっと! あんたも戦いなさいよ!』「どう致しましょうか? 先に内の敵を片付けるか、それとも外に突破口を開いて陣の立て直しを図るか」「NPCの方達は陣の立て直しを図っているみたいですね」「うおりゃああああ!」「どっちにしても、こんな乱戦の中じゃ私の強力な魔法が全然打てないよー」『てめぇ! そこのルーキー! 突っ立ってないで、何でも良いから働けよ!』
「どうします? マリリン」「うーん、どうしよう」
そんな風に話ながら、目の前の泥人形達を相手にするマリリン達。レイ君が挑発スキルで敵のターゲットを固定し、左右からササメさんとリンネちゃんが攻める。複合PTのリーダーであるマリリンはその戦闘には参加せず周囲の状況を確認中。マリリンの護衛としてセンねぇちゃんがつく。
更にその周囲では、マリリンの複合PTの寄せ集めメンバーが同じく乱戦を繰り広げていた。まずは互いの戦闘スタイルを確認するためか、しかしその動きは少々ぎこちない。寄せ集めだけあって前衛系が最も多く、盾役も回復役も補助役もかなり不足気味。但し1PTだけ連携は取れている。恐らくマリリン達と同様に、知り合い同士で組まれたPTなのだろう。
ちなみにさっきから俺に向けて罵声を浴びせてきているのは、俺の所属しているPTメンバーさん達です。二刀流の女剣士に重装備の大剣使いの男性、同じく重装備の斧槍使いの男性、同じく重装備の大鎌使いの男性という、ものすっごくバランスの悪い攻撃型メンバーだった。
その4人が二人ずつに分かれて泥人形各一体を相手に奮戦している。それも全員が手にする武器をぶんぶんと広範囲に振り回しながら。そんな中にいったいどうやって混じればいいというのか。危なくて無理です。怖くて無理です。御免なさい。頑張ってね。
「カズミ氏はどう思います? どちらに攻めるべきでしょうか? それともここは引くべきでしょうか?」
そんな何もしていない俺の側から何故か離れないシン君が俺へと語りかけてくる。いや、俺の護衛なんていらないから、シン君も戦闘に加わってきなよ。俺なんかと違ってれっきとした戦力なんだから。
「この集団にまとまりなんてないからなぁ。引こうとしても引かない奴がきっと出てくるだろう。なら、とりあえず内の敵を潰して方円陣になって、その後は第三陣との合流名目で一点集中突撃で良いんじゃないか? そうすれば勝手に偃月陣になるだろう」
「えっと……方円陣は何となく分かりますが、偃月陣というのは?」
「簡単に言えば逆V字型の陣だな。中央の攻撃力と突破力がやたらと高いが両翼がちょっと弱くなる陣形だ。敵中を突破して分断するなどの駆動前提の陣だが、練度の低い部隊を指揮する時などに有効だ。とりあえず前へ前へ的な意味合いが強いので、両翼に零れた連中も行き先さえ先に示してれば、兎に角先に進もうとする中央部隊に付いていこうする。それでもこの場に取り残されてしまった者達は、この包囲されてる状況だと切り捨てるしかないだろう」
「仮に突破したとなると、その後はどうします? 第三陣の人達と合流するんですか?」
「それは状況次第だ。このクエストの現在目標は街に向かっている敵の殲滅だからな。この場に敵を残して先に進むと、この敵が街になだれ込むかもしれない。もし前方に敵がいなければ、左右どちらかに迂回して再度接敵するのが良いんじゃないか?」
「では、逆に突破出来なかった場合には……」
「考えるまでもないだろう。無陣になって乱戦になるだけだ。そのリスクを避けたければ、無難に方円陣で防御を固めて少しずつ削っていくのを選べばいい。恐らく第三陣もそうしてるんじゃないか? 数の差があるからな」
圧倒的な物量差がある事は最初から分かっていた。しかし個々の質でいえば間違いなくプレイヤー側に軍配があがるだろう。その利を活用し、尚かつ数の不利による前後左右からの挟撃および多数対一にさせないためには、方円を組んで全方位に盾役を配置し、PT単位で前にいる敵だけを相手に出来るようにして闘えばいい。そうすれば、持久戦にはなってしまうが確実な戦果はあげられる。
例えあの泥人形がかつてササメさんとリンネちゃんが二人掛かりで闘っても倒す事が出来なかった蟻くんと同レベルの敵だったとしても、盾役のレイ君がガッチリ守っている状況下で闘えば、3分もしないうちにアッサリと片がつく。既に3匹目へと取りかかっているレイ君達だったが、例え盾役がいなくとも俺が所属しているPTメンバーのように生粋の前衛職であれば火力で押し切ってしまう事も出来る。
流石に回復役がいないと次の戦闘までのインターバルがやたらと長く、レイ君達に比べて短時間辺りの討伐数は格段に落ちるが、このまま30分も戦闘を続けていれば陣中の泥人形は全て片付くだろう。
「くそっ、ついてねぇ! 後は任せた!」
そんな安定した戦闘が出来ないからこそ、この乱戦状況は辛い。休む間もなく連戦を強いられた斧槍使いの男性が遂にHPを0にされ、霞となって消えていく。
ようやく戦えるだけのスペースが空いたため俺もその彼の穴を埋めるために猫の手として戦線へと加わるが、既に泥人形の攻撃は大鎌使いに固定されている。結局、その泥人形を倒しきる事が出来ず、彼もまたHPを0にされて死亡した。
泥人形との一対一の戦い。過去に何度か行った事のあるその戦績は無勝惨敗。泥の身体から放出される泥砲弾攻撃や腕をぶんぶんと振り回すダブルラリアートなどの攻撃は回避出来るのだが、地面を泥化してこちらの動きを阻害したり必中である【土】属性の追跡法術をしてくるため、回避一筋で持久戦にしか持ち込むしかない俺にはすこぶる相性が悪すぎる相手だ。
故に、今回もいつも通りに……。
「援護します!」
なる事はなかった。シン君が援護ならぬ救助を行い、俺のそれと比べて圧倒的に高いダメージを叩きだし、すぐにターゲットを奪い取ってくれる。事前に体力のほとんどを削られていたのだろう、泥人形はシン君の攻撃を何度か受けると動きを止めて、地面へと溶けるように消えていった。
「助かった、シン君」
どういたしまして、と返してくるシン君。俺のレベルが低い事とPTメンバーの特徴からこうなる事を予測していたのだろう。これで、あの洞窟での借りは返されたという事になるのかな?
それはそれとして、多少の犠牲は覚悟しつつも、このまま順調に泥人形達を一掃したとして。それから方円陣を敷いて堅実に戦う事を選んだとして。
俺とシン君の会話を盗み聞きしていたのだろう、マリリンが泥人形の一掃を指示して自身も戦線に加わり、マリリンとセンねぇちゃんという大火力二人が加わった事でリンネちゃんが後退。殲滅速度が飛躍的に上がったその5人の安定した暴力を目にしつつ、明確な方針が下された事で周囲にいた複合PTメンバーも、集中して泥人形達へと攻撃を加え始める。
俺の所属するPTに残っていた二人も早々にこのPTへと見切りを付けてPTを離脱し、他のPTに空いた穴へと潜り込んでいく。また一人ぼっちPTになりました。
対して、NPCのリーダーを中核とする同盟PTメンバーは、泥人形達をマリリンの指揮する複合PTに押しつけつつ、陣形を徐々に方円へと変えて外なる敵を中心に相手取る。円の外側には敵しかいないため、それまで強力な法術の行使を控えていた法術職系の面々も嬉々というか鬼気として詠唱を開始。遠隔物理攻撃職系の弓士達も捨て矢をたまに斜め上方へと撃ち始め、奥の方にいる見えない敵へとダメージを与えていく。
そんな事をすれば普通ならアッサリと多数のヘイトを独占してしまいフルボッコされる訳なのだが、そこは方円陣に配置された盾役達が敵の進行を妨害し食い止める。結果、法術士系の面々が自身のMPが即効で尽きるのも厭わず、更に暴走。爆発の嵐が四方八方で巻き起こりました。
――しかし。
この方円陣による戦法には、重大な問題があった事に俺は気がついている。
「空中から敵襲! 注意されたし!」
その戦法は、敵が大地のみを踏みしめて向かってきてくれる場合に限り、絶大な効果を発揮してくれるのだという事を。
「また地中から敵かよ!?」
盾役でも食い止める事の出来ない、遙か上空からの進撃と、地中からの侵攻と。
その戦いは、第二幕へと移っていく。
♪御意見、御感想をお待ちしています♪
リン「リンちゃんと」
チー「チーちゃんの」
「「ネオあとがき劇場!!」」
リン「わー、わー、ぱちぱちぱちぱち」
チー「ドンドン、ぱふぱふ」
リン「決して腐ってない第27話だよー。ほんとだよー」
チー「好い加減、認めればいいのに。そしたら楽になれますよ」
リン「私は絶対に腐ってなーい!!」
チー「リンねぇがリーダーのこのPTも、腐った人達ばかりですね♪」
リン「チーちゃん、そろそろそこから離れようよ。お願いだからー」
チー「あ、そうですね。初対面の人達が多いので、そろそろ戻ります」
リン「ん~、それにしても凄い人の数だよねー。これでも少ないんだっけ?」
チー「です。人がゴミのようです」
リン「いや、チーちゃん。それ、私の問いかけとあまり繋がってないし……」
チー「そうです? 人ゴミ、イコール、人がゴミですよ?」
リン「いやいやイコールじゃないって! それだと私達もゴミじゃない!」
チー「あ、そうでした。私達は腐ったゴミでしたね」
リン「うう……。まだ残ってた……」
チー「リンねぇリンねぇ」
リン「ん? なに、チーちゃん」
チー「リンねぇは同盟PTに入った事、あります?」
リン「ないよー。というか、いつもチーちゃんと一緒にいるじゃん」
チー「いえ、もしかしたらと思いまして」
リン「同盟PTがどうかしたの?」
チー「複合PTのリーダーする時より、何かコマンドや陣形が増えてるのかなーっと」
リン「あ、その可能性はあるよね。特に陣形とかいっぱいありそう!」
チー「少なくとも、複合PTの陣形のような簡易的なものではないと思います」
リン「こっちはただ選ぶだけだからねー」
チー「勿論、陣形を選んでも皆さんがその配置に付かないと追加効果ありませんけど」
リン「うん。今だと……カズねぇだけが陣形乱してるね」
チー「たぶん、知らないんじゃないでしょうか?」
リン「きっとシンちゃんがまた説明してくれるんじゃないかなー」
チー「シンさんって面倒見良いですからね。その分、少し心配ではあるのですが」
リン「え、なにが?」
チー「腐ってないリンねぇにはまだ分からない境地です」
リン「またその話に繋がるんだ……」
チー「早く人類が皆、腐ると良いですね♪」
リン「うーん……ちょっとテンション落ちてきた。今日はもう終わりにするね」
チー「あら。それは仕方ないですね。残念です」
リン「という訳だから、みんな御免ねー。終わっちゃうねー」
チー「またの御来読をお待ちしています。それでは御機嫌よう」
リン「バイバーイ。まったねー」
♪(こっちも)御意見、御感想をお待ちしています♪




