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姪とオンライン!  作者: 漆之黒褐
第三節 『LEGEND OF DARKNESS』
101/115

姪 to Formidable Enemy

「プチプチファイア・ビッグバンフォトンバージョン!」

 巨大騎士の周囲に無数の小さな火の玉がポツポツと現れ、まるで吸い込まれるように巨大騎士の方へと集結。全ての炎が巨大騎士の胸の前に集まった瞬間、眩しい光の爆発が巻き起こりました。

「うわっち! マリリン、巻き添え熱いっす!」

「む、避けられた。鎧の中からバーベキューにするオリジナル魔法なのに。開発苦労したのになぁ。やっぱ制御が難しいから命中率に難ありかな?」

「……フレアですか?」

「うん、それのプチファイアバージョン。ほら、私ってメテオに命かけてるからスキル枠ほとんど他のスキルにふれないじゃん。だから小手先の魔法でも高威力出すにはどうしたら良いかな~って」

「創意工夫だけで防御越えの魔法を編み出すなよ……」

「カズねぇに相談したら、色々教えてくれたの」

「犯人はやっぱりあなたですか!」

 クシュン。うん、誰かが俺の事を噂してますね。

「菊花・五月雨射ち!」

「龍水閃!」

 初めて回避行動を取った巨大騎士に、すかさずセンねぇちゃんと信号三姉妹次女が連携技を繰り出します。顔目掛けて無数の矢が突き進み、その死角からセンねぇちゃんが巨大騎士の足先を狙って水平斬り。剣閃の中に一瞬だけ顔を見せる水龍。しかし水龍は硬いブーツに守られた巨大騎士の足に当たった瞬間、無惨に砕け散りました。まぁ、所詮は水だし。

「来たれ、霧玄ノ界!」

 その飛び散った水を媒介に、センねぇちゃんが霧を呼びだし視界悪化の地形効果を発生させました。でもその霧は巨大騎士の視界だけでなくこの場にいる全員の視界も塞いじゃいました。でも有効視界半径は目算で5メートルといったところです。敵味方ともに注意が必要な状況となりましたけど、肝心の巨大騎士はその大きさが目印となっているため、こちらが有利だというのは一目瞭然。

 その視界半径の外へとシン君の姿が消えます。言うまでもなく、空から急襲する予定なのでしょう。あまり高度を高く取りすぎると防御された際に落下ダメージも加算されて即死しかねませんが、気功硬による一点防御を限界まで絞れば、もしかしたら敵の防御を突破出来るかも知れません。シン君、期待してますよ~。

「喝!」

 そんな期待を込めた一撃をサポートするためにか、レイ君が巨大騎士に負けず劣らずの声量で挑発スキルを使用します。モンスター相手ならばそれでヘイトを取れますが、流石に人間相手にはそのスキルはほとんど意味がありません。殺気とかを込めれるようになればまた違うと思いますが、まだレイ君はその域に達していません。

 とはいえ、この平和な世の中、その歳で殺気が出せるようになるというのはいかがなものでしょう。ゲーム世界故にシステムによって殺気のようなプレッシャーが放たれるというのならばまだ許せますが、そういうサポートなしで殺気を出す技術を会得するのは色んな意味で間違っています。

 効果がないと分かっているのについつい使ってしまうほど癖になっている挑発スキル。レイ君はいつでも誰が相手でもその挑発スキルを使っています。盾職の鏡ですね。早くその挑発スキルが成長して、疑似殺気などの効果がつく上位のスキルを覚えてほしいものです。

「プ・チ・ファ・イ・ア」

 レイ君が懸命に声を張り上げてラズベリーの注意を引き付けようと頑張っている中、マリリンが両手の指に炎を灯しました。ちっちゃくて可愛い拳を作ったあと、一音ずつハッキリと口ずさむごとに1本ずつ指を立てて、その指先にプチファイアの炎を宿していきます。

「滅炎、フィンガープチファイアボムズ!」

 そして一度拳を握りしめたかと思うと、腕をクロスさせたのち、巨大騎士に向けて腕を振りました。拳から放たれた圧縮された2つのプチファイア弾は螺旋状にグルグル回りながら霧を蹴散らし、巨大騎士の盾へと激突。その瞬間、大きな爆発音とともにプチファイア弾が盛大に弾け飛びました。

「ぐぬ……なんという火力。だが!」

 裂帛の気合いを放ち、巨大騎士ラズベリーが大地に向けてシールドバッシュ。零距離から行われたその攻撃は、衝撃波となって大地と大気を震動させます。普通の人間サイズでそれを行っても威力が足らず盾を震わせるだけですけど、超重量級の巨大騎士と化しているラズベリーがそれを行うと周囲に震度4ぐらいの地震を巻き起こしてくれます。

 同時に起こる衝撃波は、間近にいればレイ君でも踏ん張って1メートルも後退させてしまうほどの威力を秘めていました。ダメージとしては大した事なさそうですけど、そのノックバック効果によって全ての近接攻撃を強制的に中断させてしまうので、ラズベリーの周りに集まっていた前衛さん達は軒並み吹き飛ばされて一時硬直。運が悪い人は攻撃が盾にヒットした瞬間にその技とぶつかってしまい、保っていた武器が破壊されていました。

「ふん! ふんふん!」

 四方八方を取り囲んでいる者達を強制的に引き剥がした後にラズベリーが取る行動は、やはりというか攻撃です。一時的に自由になったことで、ラズベリーは巨大な剣を振り回してこちらの命を狩り取りに来ます。その巨体から繰り出される剣撃はまともに受ければゴッソリとHPを持っていかれ、下手をすると即死してしまいます。重量級の盾職であれば受けきる事は出来るものの、一撃ごとに気合いを入れて受けなければ盾を弾かれ体勢を崩されるみたいです。並の前衛職では防御しても吹き飛ばされるだけでした。

「その攻撃は既に見切りました。霧明氷月・雫!」

 しかしその凶悪な一撃を一度受けた事があるにも関わらず、センねぇちゃんは全く臆した様子なく剣の暴風雨の中へと突っ込んでいきます。ハードル飛びよろしく斬撃を飛び越え、高飛びよろしく背面飛びで次の斬撃を躱し、更に次なる斬撃は身を低くして剣で上に弾き、懐に到達。

 近づく間に一層濃くなった霧が剣の一振りで巨大騎士の頭上に集まり氷結。薄く透き通った氷の塊から大きな水滴が滴り落ち、その雫目掛けてセンねぇちゃんが華麗に跳躍し剣を振るいます。

 そして雫を斬った……と思った瞬間。センねぇちゃんの身体が水のように弾けました。

「ぬっ!?」

「こっちです。やぁ!」

 標的を見失った巨大騎士の頭部に、センねぇちゃんが繰り出した大振りの一撃が決まりました。お見事!

 いつの間にか頭上にあった氷塊の中へと移動していたセンねぇちゃん。恐らく濃霧と水で作った擬態と光の屈折率とを利用したトリックだと思います。これがもしオリジナル技だとしたら、センねぇちゃんもなかなか侮れませんよ。

「味な真似を。だがその程度の攻撃では俺を倒す事など出来ぬ!」

 完全に意表をついた斬撃が巨大騎士の顔面を斜めに斬り裂き、兜に大きな傷を付けました。でも中身まで剣は届きませんでした。落下速度と全体重を乗せた会心の一撃だったにも関わらず、センねぇちゃんの攻撃はラズベリーの防御力を突破する事は叶いませんでした。

 それが意味するのは、斬撃ではまずあの硬い防御を突破するのは至難の業だということ。ハンマーなどの打撃系武器であれば鎧越しにダメージを与える事は出来るかも知れませんけど、困った事にその系統の武器の使い手は仲間の中にはいませんでした。ほんと、偏ってるなぁ。

 隕石法術の使用を禁じられているマリリンが低威力の法術を駆使して火力を出そうと頑張っていますけど、それにもやはり限度があります。火力を出すためには一度に数十の法術を同時使用する必要があるためMP/SP消費が恐ろしく高く、かつマリリン自身にも大きな負担がかかってしまいます。

 元々隕石法術を使用するためにマリリンはMPとSPの総量は極大まであげてますけど、だからといって中身は未だ成長途中の可愛い女の子。無茶な方法で火力を出す事が出来ていると言っても、無理をすればそのうち自分に跳ね返ってきます。そうならないように何度も口酸っぱく言い聞かせているので、無茶した後にはちゃんとクールタイムを取ってくれていました。

 うん、良い子良い子。リアルに戻ったら頭を撫でてあげましょう。その直後には、たぶん跳び付き腕拉ぎ逆十字固めとかをしてくると思いますけどね。今度はどの技で返そうかな~。

『マリリン、この前の決闘で使用したドーピングは?』

『カズねぇがどこかに隠しちゃった。副作用がとんでもないものなら幾つかまだ隠し持ってるんだけど、いくら緊急事態でもあれだけは使いたくないなぁ』

『マリリンにそう言わせるほどの副作用って……聞くのが怖いですね』

『うん、聞かない方が良いと思う。私も性能見て後悔したから。あ、それ有りなんだ~って』

『カズミちゃん、捕まってもおかしくないですよね……もうマッドサイエンティストの領域にいる気がします』

『それは言い過ぎだと思うけど』

『あの……そういう話は出来れば個別チャットでして欲しいのですが。PTチャットで垂れ流すのは危険かと』

 聞かなかったことにしてみんな戦闘再開!

 兜の斬り傷の隙間を狙って矢と法術が飛びます。放物線を描く矢、直線的に進む法術。ラズベリーもその部分が弱点となってしまっている自覚があるのか、たまに頭を振って狙い撃ちされないように闘っていました。盾ブーメランが飛んできた時には剣で弾き返し、前衛さん達が多数とりついてきたら盾の衝撃波で蹴散らし、日本狼さんがガウッと腕に噛み付いてきたら腕を振って振り落とし、巨大ひよこさんがキックを放ってきたら同じくキックでお返しです。

「なんか全然倒せる気がしないっすね。マリリンの法術でもあんまりダメージ与えられてない気がするっす。タイムリミットまで粘っても削りきれるんすかね?」

「弱音を吐くんじゃねぇよ。俺達はみんなを信じてただじっと耐え続けるだけだ」

「そろそろ飽きてきた~。このボス、単調すぎてつまんない」

「だからって盾を投げ付けんなよ……」

「ふぅ、ちょっときゅーけー。今日のオニギリの中身は何かな~」

「あ、マリリンずるいです。どさくさにまぎれてお馬さんに乗ってます」

 俺の許可なしに勝手にヴェル君に乗ってマリリンがオニギリを食べはじめちゃいました。

「役得役得♪ 私はMPとSPを回復させないといけないからね。あ、キムチ味だ」

「マリリン、相変わらずのマイペースっすね……」

「でもこの歯ごたえ、間違いなくプチポちゃんだ……ついにここまで浸蝕されちゃってるんだ。カズねぇ、どこまで行き着くつもりなんだろ……」

 プチポちゃんの可能性は無限大でっす。ちなみにキムチ味のプチポちゃんには攻撃力アップ効果がついてます。MPやSPは回復致しません。だからマリリンには不要です……とは言い切れないのは何ででしょうね~。何気に肉体派の魔法士なマリリンです。

「ねぇねぇ、アレどうやったら倒せるかな? カズねぇ、何か良いプチポちゃん持ってないの?」

 マリリンが他の人には聞こえないように小声で話し掛けてきました。オニギリは口実で、実は俺と話すために接近してきたみたいです。

「目下、考え中だ。マリリン達のタイムリミットも近いし、そろそろ何とかしないといけないんだがな」

 マリリンだけは俺の正体を知っているので無視は出来ません。それとなくマリリンの耳に顔を近づけてコソコソ話します。あ、枝毛みっけ。

「ところで、空で何かあったのか? 珍しく隕石の数が少なかったように思うんだが」

「うん、ちょっとね。ペガサスナイトが3人も現れちゃって。流石のヴァージニアさんでも3人相手にするのは無理だったみたい。結構強かったし」

「ペガサスナイトが3体か。ハンデありでそれは辛いな」

「私も法術で援護したんだけど、空中戦は初めてだからうまくいかなくて」

「空中軌道は地上とはまるで違うからな。ヴァージニアは無事なのか?」

「うん、それは大丈夫。ただ……」

「ただ?」

「ウィンダリアちゃんに無理をさせすぎて、暫く飛べなくなっちゃったみたい。だから、ヴァージニアさんはこの戦いには駆け付けられないって。ウィンダリアちゃんの事が心配で」

「そうか……」

 となると、悠長に構えていると状況はもっと不利になるという事ですね。ヴァニーちゃんの援軍が期待出来ないうえに、そのヴァニーちゃんを追い詰めた天馬騎士3体が敵の援軍として現れる可能性がとても高いです。

 む? だとすると、もしかしてお空に旅立ったシン君がいつまでたっても降りてこないのは、まさかその敵と遭遇してしまったからです? だとしたら大変です。あのヴァニーちゃんですら退けた敵をシン君がどうこう出来る道理がありません。

 まさか既にシン君は討ち取られている可能性も……いえ、それはきっとありませんね。このミッションはシン君が死ぬと失敗ですから、きっとその時にはポックル君達がとてもムカツクようなニヤニヤ顔で現れる筈です。

「急がないといけないか……」

「うん。頼りにしてるからね、カズねぇ」

「……珍しいな、ゲームの中でそんな事を言ってくるのは。何か悪い物でも食べたか?」

「ん~、カズねぇが作ったキムチ味プチポちゃんぐらいかな?」

 失敬な。あれは悪い物じゃなくて不可思議な物です。力がほんの少しだけアップする謎に満ちた回復ドリンクです。効果は使用者の力を+1%するだけなので、力のステータスが低いマリリンにはほとんど効果はありません。

 ……ん? お、良い事思い付いちゃった~。この方法ならば、もしかしたら……。

「マリリン、あいつの気を反らせるか? 出来れば俺に対して背中を向けさせたい」

「何か悪い事でも思い付いちゃった?」

「越後屋ほどではないな」

「悪代官カズねぇの悪巧みにはさしもの越後屋シン君も敵わないと思うよ。ん~、どうだろ。あのボス、ずっとカズねぇの事を意識しながら闘ってるみたいだからちょっと難しいかも? 一応頑張ってみるけど、期待はしないでね」

「俺は心の底からマリリンを信じている。裏切りには罰を!」

「ひどっ!?」

「これは餞別だ。受け取れ」

「このタイミングでお金を渡されても……ドーピングプチポちゃんプリーズ」

「それはダメ」

「ケチ」

 さて、やる事は決まったので後はチャンスを待つばかりです。千載一遇とまでは望みませんし、この方法でうまくいくとも思っていません。でもやってみる価値はあるでしょう

「きゅーけー終わり! そろそろぶっとばしていっくよ~っ!」

 そう言いながら、マリリンが何かをパクッと。む、それはもしや……。

「お、マリリンが復活っす。待ってましたっす」

「センねぇ!」

「はい!」

 呼ばれたセンねぇちゃんがタタタタッと駆け寄ってきました。その間にマリリンが俺の鎧をよじ登って肩の上に立ちます。マリリンはローブ姿なのであんまり高いところに立つとアレが見えちゃうんですけど、そんなのお構いなし。もう少し恥じらい持とうよ。

 近くまで来たセンねぇちゃんが俺の上にいるマリリン目掛けてジャンプ。待ち構えていたマリリンが両手を前に出して構え、その手を足場にしてセンねぇちゃんが更に跳躍。同時にマリリンが詠唱しながら俺の身体を蹴って明後日の方向へと走る。何となく先の展開を予想しながら、その時に向けて俺もスタンバイ。

 っと、こんな時にヴェル君がそわそわと首を縦に揺らし始めました。どうやらマリリンが食べていたオニギリの香りに食欲が刺激されて、御飯食べたいってお強請りしてきましたよ。ヴェル君も大概マイペースなんですよね。仕方ありません。ここ一番という時に力が発揮できないと困るので、少しオヤツをあげちゃいましょう。

 残り少なくなってきた携帯プチポちゃんを一つ取り出し、ヴェル君の舌にあうように天馬人参さんでパパッと味付け。人が食べると麻痺効果がついちゃうようですが、馬であるヴェル君なら大丈夫だよね。ほーれお食べ~。

 そんな事をしている間にマリリンが楕円軌道を描きながらラズベリーの側面へ。その両手には炎が宿り、詠唱が既に完成している事が分かりました。いったいどれだけの熱量があるのか、轟々と燃え盛っている炎は赤光をうみ俺のところまで熱を伝えてきます。

「むっ! くるか、赤い悪魔!」

 レイ君達が必至にラズベリーの注意を引いてマリリンとは反対側へと視線を誘導していましたが、あの熱量なのですぐに気が付き反転。どのような攻撃がきてもいいように身構えます。

「エアリアルストライク!」「雷盾撃!」「スターダストアロー!」「セイントフルール!」

「ぬぅ……小賢しい! はぁ!」

 マリリンを援護するためにユリアちゃん達が一斉に必殺技を放つも、ラズベリーは盾を地面に突き刺し全方位への強烈なノックバック衝撃波を発生。可愛い悲鳴とともにユリアちゃん達が吹き飛ばされました。しかしその口元には笑み。

 ラズベリーの行動で一番怖いのは、ほとんど全ての攻撃を弾き返してしまう盾の衝撃波による防御攻撃でした。あれをやられると大抵の攻撃は無効化されてしまいます。間接攻撃もあの衝撃波によって蹴散らされてしまうので、マリリンの法術でも大火力のものでないと防御を突破出来ず、例え突破出来ても威力は半減してしまいます。

 その厄介な技を、マリリンが攻撃する前に出させるのに成功したことでユリアちゃん達は目的を達成。回復を担当していた人達も攻撃に参加していたので暫くは無茶出来なくなりましたが、それでもこれが起死回生の一手となる事を信じているようでした。それだけマリリンとセンねぇちゃんのコンビ攻撃は凄いということなのでしょう。俺も何度か見ていますけど、確かに凄いものが多いです。色んな意味で……。

「しゃーくーねーつーの~」

 その期待に応えるかのように、マリリンが獰猛な笑みを浮かべながらラズベリーへと向けて疾走。遠回りして距離を稼ぎ移動速度をMAXまであげたマリリンが、鉄でも溶かしてしまいそうな業火を拳に宿してラズベリーに襲い掛かる。

 しかしラズベリーに焦りの色はありませんでした。それもそのはず、邪魔な者達は排除したばかりなので、たかが魔法士一人どうにでもなると思っているからでしょう。ラズベリーが剣を握る手に力を込め、攻撃態勢に入ります。

 うん、悪手ですね。二人が持っているチートな必殺技を知っている皆がたぶんそう思ったと思います。

「死ねぃ!」

 そしてラズベリーが剣を振り降ろした瞬間。

「「チェンジ!」」

 高速で疾走していたマリリンと、地面と水平になって高速で落下していたセンねぇちゃんが入れ替わりました。

「超裏・秘奥義! 絶・瞬天雷迅閃!」

 高速で振り降ろされた巨大な剣がマリリンと入れ替わったセンねぇちゃんの身体をとらえる前に、落下速度を前へと進む速力へと変換したセンねぇちゃんの姿が掻き消えます。その刹那の間に必殺技を発動させたセンねぇちゃんの剣がラズベリーを一閃。強烈な一撃が決まりました……かと思われました。

 しかし俺達が見たのは、盾で防御したラズベリーの姿でした。

 あの知らなければ予測不可能の必殺技を、ラズベリーは咄嗟に盾を持つ腕を引き寄せ防御態勢を取っていました。まさか危険な予感でも感じたというのでしょうか。それとも、危険な相手には攻撃しつつも防御する癖を身体に覚え込ませていたというのでしょうか。

 ラズベリーは絶妙なタイミングで振るわれたセンねぇちゃんの雷の如き鋭い斬撃を真正面から盾で受け、その強大な威力のほとんどを防御する事に成功していました。

「くぅ……まさかそのような奇怪な技を持ち合わせていようとは。流石の俺もヒヤッとしたぞ。だが残念だったな。今日の俺の勘は、いつにもまして冴えている」

 ラズベリーが勝ち誇ったように言い放ちます。そして再び剣を振り上げ……

「まだ終わりではありませんよ」

 両手で握った剣を振り抜いた体勢でセンねぇちゃんがそう言い返しました。その声はエコーのように反響し、ラズベリーや俺達の耳に届けられます。

 いったい何が……と思う間もなく、センねぇちゃんの短い髪が急にフワッと浮かび上がり、一瞬遅れてその現象が唐突に起こりました。

「なにっ!?」

 まるで雷が落ちたかのように世界が轟き、ラズベリーの身体を中心とした空間に斜め一線の斬撃痕が発生。それは刹那の間のみ、ピカッと浮かび上がりました。あたかも空間に亀裂が入ったかのような謎の現象は、防御姿勢にあったラズベリーの巨大な身体を大地から引き剥がし、宙へと舞い上がらせます。その頃には、センねぇちゃんの白いメッシュの入った薄くて青い髪は完全に逆立っていました。

 起こった現象を推測するに、超高速で雷の如き斬撃を繰り出したことで一時的に真空を生みだし、そこに超高電圧の雷が流れ込んだといったところでしょうか。予め散布していた霧を利用してある程度の電気を帯電させておき、センねぇちゃんが持っている水竜剣スイフィードセイバー改を一閃することで強烈な大気摩擦を生みだし電圧を急上昇。すぐに放電しなかったのは雷となるほどの超高電圧になるまで少し時間がかかっただけだと思います。もしくは必殺技としての仕様?

 髪が逆立っていたのは真空化した空間がセンねぇちゃんの背丈よりも上の方にあったからだと思います。真空なので、当然すぐに安定しようと空気を貪り始めます。その空気の流れに引かれて軽い髪が吸い込まれていったものと推測します。それとは違い、ラズベリーが宙に浮かび上がったのは、雷による衝撃が下方から叩き付けられたからだと思います。

「馬鹿な……この俺が浮かされるだと!?」

 見た目にはとても派手でしたが、ラズベリーはほとんどダメージを受けていないようでした。浮かばされる前に雷は盾を伝って大地に逃げてしまったんでしょうね。衝撃も盾で防御していたというのであれば納得です。

「紅に彩る炎の精霊よ……我が手に集いし猛る炎よ……」

 驚愕するのはまだ早いです。ラズベリーが恐れていた少女は、まだ攻撃を仕掛けていません。攻撃を仕掛ける素振りを見せてセンねぇちゃんと変わる事で、ラズベリーの意識から完全に外れたマリリンが上空で長い長い詠唱を行っていました。

「森羅万象、全てを焼き尽くす灼熱となりて、全てを滅ぼす業火とならん。大いなる神々すらも焼き滅ぼし……」いや、そこは焼き滅ぼしちゃだめでしょうに「煉獄の炎に包まれてもなお在り続ける悪しき魂すらも消し炭と化す滅炎。炎の魔女は微笑み、焔の乙女は怒りに包まれ、其の焔炎より生まれし緋色の翼を持つ怪鳥は荒れ狂う火の海で焼き鳥にな……あ、間違えた。もういいや。長すぎるから以下省略!」

 えっ!? それってありなの!?

 マリリンが両手を頭の後ろに振り上げる。

「滅炎魔法! しゃ~くねつの~……七極星魔炎砲《セブンズスター・プチファイアレーザー》!」

 そして思い切り手を振り降ろし、その両手より真っ赤な光の奔流をラズベリー目掛けてうちだしました。まるで太陽のように赤く輝く両手に、世界が突然に焦熱地獄の如く赤一色へと染まり、周囲の温度が急激に上昇。

「しまった!」

「いっけ~、焼き鳥になっちゃえーーーーっ!」

 意味不明の言葉と共に迫ってきた灼熱光線を、ラズベリーは宙にありながらも全力で盾を構え防御。それは間一髪で間に合い、赤光を放つ強力なレーザー光線は巨大な盾の僅かな傾斜に沿ってラズベリーの身をそれて大地に降りかかります。

「熱っ!? 滅茶苦茶熱いっす!」

 その余波をレイ君が早速受けて、焼き鳥第一号……。

「あーもう、ちゃんと避けなさいよ。シールドブーメラン!」

 ――になる前に、信号三姉妹の長女が投げた盾に守られ九死に一生を得ました。

「うう……有難うっす」

「あとで何か奢りなさいよ」

 盾職が同じ盾職に救い出されるって、なんか格好悪いなぁ。レイ君の評価、50点マイナスにしちゃえ。ちなみにこの点数はリアルでの扱いに影響する点数です。レイ君、次に家に来た時には門前払いにしちゃいましょう。

「ぐおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「う~りゃうりゃうりゃうりゃうりゃ~~っ!!」

 そんな外野の事は置いといて。視線を戻すとまだ2人の攻防は続いていました。

 前に突きだしたマリリンの両手が小刻みに揺れるたびにレーザー光線の一部がポコッと丸みを帯び、眼下のラズベリーへと向けて移動していきます。そしてラズベリーが必至に構えている盾に当たるごとにラズベリーの身体が僅かに震え、一際大きくレーザー光線が散乱。その散乱光でレイ君があっと言う間に死にかけたのですから、レーザー本体の威力は相当なものでしょう。

 マリリンが放っているのは、火の魔法スキルで覚えられるプチファイアという魔法のオリジナル応用技でした。

 スキルにはスキルレベルとスキル熟練度という2つのパラメータがありますが、それらをあげていくことで様々なボーナスステータスを得られたり、新しい魔法や必殺技などを覚える事が出来ます。そして、その覚えたボーナスステータスや魔法や必殺技にスキル熟練度を振り分ける事で、それぞれの能力を強化する事が出来ます。

 スキル熟練度は数値が低ければ低いほどあがりやすい傾向にあるので、上がった先から覚えた魔法などに振れば能力強化しやすいのですが、反面それを繰り返しているとなかなか高位の魔法などを覚える事が出来ません。それに、スキル熟練度は総量が増える事によって徐々に上がりにくくなるという特徴も持っているうえに、スキル熟練度が一定値なければ効果を発揮しないボーナスステータスもあるため、一概に振ればいいというものでもありませんでした。

 例えば、以前俺が吟遊詩人レベル1の時に、短剣術スキルの熟練度が75まであがった事で覚えた必殺技『ニードルスラッシュ』は、今でも使用する事が出来ます。しかし、その間に取得していたボーナスステータス――斬属性+2、突属性+4、攻撃力+7、命中+15、回避+15、必殺+2です――は、とある事情によりスキル熟練度が0まで落ちたことで、すべてのボーナスステータスが消え去り、今では効果がなくなっています。

 どのようにスキルを強化していくのかはプレイヤー次第。熟練度を保持したまま全体的な能力をあげるか、特定の魔法や必殺技を強化して威力を高めるか、バランス良く振っていき少しずつ強くなっていくか。一つのスキルだけでも悩むのに、普通のプレイヤーは10個以上もスキルを持っているので、スキルのカスタマイズにいつも頭を悩ませているそうです。折角育てたスキルを捨てて派生スキルや上位スキルを取得する事も出来るので、尚更頭を悩ませています。

 マリリンの場合、火の魔法スキルに関しては、低熟練度で最初に覚えるプチファイアの強化に一極集中させているとのこと。スキル熟練度があがったらプチファイアに即振り。流石に最初に覚える初級魔法だけあってどれだけ熟練度を振ってもプチファイアの威力はほとんどあがらなかったみたいですが、その代わり徐々に連射性能や同時に撃てる数の増加、消費MPの減少という効果が現れてきたそうです。

「あれってやっぱ、プチファイアなんだよね? どれだけ熟練度振ったらあんな風になるんだろ……」

「レーザー砲にしか見えんな……隕石に続いてレーザーまで空から降らされたら洒落にならんぞ」

 連射性能が上がればまるで繋がっているように見えるほどプチファイアを連続で放つ事ができ、同時にプチファイアを複数個放てば威力も比例して上がります。もちろん、消費するMPも相当なものになりますけど、MP最大値をひたすら上げ続けているマリリンならば不可能な事では……ない訳がありませんね。

 マリリンったら、やっぱりMPが超回復し続けるドーピングプチポちゃんをまだ隠し持っていましたか。じゃないとあのプチファイアの連射と威力がいつまでも持続している説明がつきませんよ。いったい秒間何発のプチポちゃんをうってるんだろ……考えるだけで怖いです。無理してなければ良いですけど……。

「極限まで燃え上がれ、私のコスモ! 1.5倍! しょーねつの~……十一極星魔炎砲《イレブンズスター・プチファイアレーザー》!」

「ぬおおおおおっっ!?」

 レーザー光の幅が約1.5倍に膨れあがりました。但しその代わりに、瞬間的にプチファイアの個数を増やして威力に緩急をつけていた行為が無くなります。純粋に真っ赤で綺麗なレーザー光がラズベリーの身体に襲い掛かり続け、周囲の温度をひたすらにあげていました。

 見ているだけで熱いです。鎧の中はもう汗だくだくです。赤い重鎧を着ている信号三姉妹長女さんが鎧を脱いでストリップショーまがいの事をし始めてました。その隣では、中身は中年親父なのかお爺さんなのか分からないイケメン男性のストリップショーも行われています。レイ君は呪いのせいで鎧は脱げないので、溶けてしまいそうな顔をして舌をべろんと出していました。俺も楽になりたいでっす……あついよ~。

「2倍だーっ! ば~くねつの~……|十四極星魔炎砲《フォーティンズスター・プチファイアレーザー》!」

「ぬおおおおおおおおおっっ!?」

「3倍だーっ! げ~きねつの~……|二十極星魔炎砲《トウェンティーズスター・プチファイアレーザー》!」

「ぬおおおおおおおおおおおおおおっっ!?」

 いえ、言葉の応酬だけでしたけどね。レーザー光の威力はまるで変わっていませんでした。2人で何やら言葉の掛け合いだけで盛り上がっていましたよ。見ているこっちはあまりの熱さでツッコミをいれるどころじゃありません。

 ああ、地形効果ダメージまで入り始めました。気分は砂漠か溶岩洞窟にいるような心境です。もうどっちが勝っても良いから、そろそろ決着ついてくれないかな~。マリリンったら、俺のお願いとかまるで頭にない気がします。あれじゃ近づきたくても近づけませんよ。

 まぁ、とりあえず。みんなの意識が2人の熱戦に向いているうちに、地面に刺さっている剣を回収しましょうか。一応、借り物ですし。無くしたらいったいどれだけの金額を請求されるか分かった物じゃありません。……ん~でも、国が滅んじゃったら俺のモノ~?

「100倍だーーっ!!」

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」

 いや、流石にそれはありませんから。

 っと心の中で思わずツッコミを入れたら、その瞬間。マリリンの放っていたレーザー光線は突然に途切れました。

「あ、時間切れ」

 どうやらドーピングプチポちゃんの効果が切れたみたいです。センねぇちゃんと決闘していた時に使っていたプチポちゃんほど持続力はないプチポちゃんを使ったみたいです。きっと単位時間あたりのMP回復量が多いプチポちゃんを使ったんですね。

 ただ、あれって確かほぼ一瞬でMPがMAXまで回復するんじゃないかな~ってぐらいにMP回復量が多すぎるプチポちゃんだった筈なんですけど。あのレーザー光線まがいのプチファイアを放つのに必要とする単位時間あたりのMP消費量を聞くのがちょっと怖いです。

 ちなみに、センねぇちゃんもたぶん、雷属性の攻撃に+効果がつくプチポちゃんをコッソリ使ってます。当然、販売に回していない危険物指定プチポちゃんの方だと思いますけど。余談ですが、属性攻撃に+効果のつくプチポちゃんは、ちまたではネオプチポちゃんと呼ばれているそうです。

「ククククッ……フハハハハハッ! 耐えきったぞ、赤い悪魔! 貴様の全力とはその程度か!」

「……プラチナむかつく」

 勝ち誇ったように笑うラズベリー。その彼の死角から忍び寄るセンねぇちゃん。そのセンねぇちゃんが気配を殺したまま、突きの体勢を取りました。

 確か在庫からなくなってた雷属性+効果のプチポちゃんの効果はかなり長かったと記憶しています。また、雷属性の攻撃は連続した突きの攻撃を繰り出す事でも発生します。

 先程センねぇちゃんが放ったのは、斬撃系の必殺技。それでもあの威力。ならば本命の必殺技であればどうなるか。

 さっき拾ったばかりの剣ですが、もう一度地面に突き刺しましょうか……。あと、短時間だけど雷耐性があがるプチポちゃんとパクリと。

「カズミちゃん直伝。イナズマ突き!」

「これで分かっただろう。貴様等の実力ではこの俺に勝てバババババババババッ!?」

 その瞬間。広場全域に雷警報が発令致しました。

「ウギャギャギャギャギャギャァァァァァアっす!!」

 マリリンが作り出した猛烈な熱さにもめげず、金属鎧を着ていた人ほぼ全員が感電致しました。具体的に言うと、レイ君と俺の2人だけです。但し、俺は事前に剣を大地に刺して避雷針代わりにしてたのと、プチポちゃんの御陰でダメージは軽微。

「グォォォォッ、小賢しい!」

 雷攻撃にさらされながらもラズベリーが盾を大地に突き立て、全方位への震動衝撃波を発生。その衝撃でセンねぇちゃんが再び吹き飛ばされ、雷警報は解除されました。

「う~……やはり倒れませんでしたか。とても頑丈ですね……あっ」

 事前に予感出来たため吹き飛ばされたセンねぇちゃんは空中でクルリと回転して体勢を立て直しながら言います。が、着地を華麗に決めようとしたところで、ヴェル君がまた口でパクリと。ナイスキャッチ。

「食べちゃダメ~」

 しかしタイミング良く空から落ちて来たマリリンがヴェル君の背中にドンッと落ち、その衝撃でセンねぇちゃんは無事解放。

「う~ん、プチファイアレーザーでもダメか~……あっ!」

 マリリンが俺のことを見て何かを思い出し声をあげます。やっぱり忘れてましたか、俺のお願い。一応、ラズベリーの意識を俺から引き剥がすことには成功してますが、あんな状況で近づいたらプチファイアレーザーの散乱光でも軽く黒焦げになっちゃうので、俺の目的は達成出来ません。

「フフン、これで貴様の切り札も尽きたであろう。そろそろ大人しく投降する気になったか、ダークナイトよ」

「……」

「あくまで逆らうつもりか。既に皇国には未来がないというのに、何故に貴様はそうも死に急ぐ」

「……」

「答えぬか。まぁ良い。そろそろ終わりにするとしよう」

 シン君がいないので会話が成立致しませんでした。シン君、どうしてるかな~。まさか大気圏外まで飛んで、隕石並の威力を出そうとか考えてたりします? 不可能じゃないと思いますけど、当たった瞬間にシン君自身も砕け散ってしまいますよ。

「貴様も騎士の端くれ。さぁ、剣を抜くがよい」

 仕方ないので、言われた通りに剣を抜きます。と言っても、抜くという意味が違いますけどね。避雷針代わりにしていた剣を地面から抜きました。

「ふっ、抜いたな。では決着を付けるとしようか。行くぞ、ダークナイト! 貴様の命、このラズベリー・グレイコックが貰い受ける!」

 そして遂に俺もラズベリーと戦闘する羽目になるのか~っ、と思ったその瞬間。

 ラズベリーの背後にあった重厚な大扉が、突然に轟音と衝撃とともに吹き飛びました。

「いたたたたっ。ふぅ、うまくいって良かった」

「なっ、貴様は!?」

 舞い上がった粉塵が風によってぴゅ~っと吹き散らされた後に姿を現したのは、なんとシン君でした。

「このミッションは僕が砦から出ればクリアだと思っていたのですが、どうやら僕一人で逃げてもクリアにはならないようなので強攻策を取らさせてもらいました。少し賭けでしたが、無事に門を破壊できて良かったです」

 あ、一人で逃げてたんだ。いやまぁ確かに空を飛べるんですから逃げるのは簡単ですよね。

「では、皆さん。門も開いたことですし、ラズベリー氏の事は放っておいて逃げましょうか」

 飄々とした声で冷静に堂々と身も蓋もないことを言い放つシン君。

「貴様ぁっ! 逃がすと思うか! 全軍、門の守りをかた……」

 度重なる挑発、マリリンとセンねぇちゃんからのダメージ、そして予想外の出来事で遂に頭に血が上ってしまったのでしょう、ラズベリーがシン君の方へと向き直り、俺に背中を見せてくれました。

 この時を待っていましたよ。攻撃するだけならばいつでも出来ましたが、刃が心臓に届く可能性が一番高いのはやはり背後からの奇襲攻撃。盾によって妨害される可能性も低いので、ほぼ必中となる不意打ち攻撃が出来るその瞬間を俺は待っていました。

「あ……」

 大地から闇騎士の剣を抜き放ち、出来る限り気配を掻き消して全力疾走。背後で誰かが小さな驚きの声をあげていましたが、それを置き去りにして単身ラズベリーへと向かいます。鎧がガチャガチャと鳴りますが、シン君の意外な場所からの登場で兵士さん達の動揺も大きく、その喧噪に呑まれてラズベリーがその音に気付く可能性は低いとみました。

 俺の持つこの闇騎士の剣《ダークナイトブリンガー》は、防御無視効果を持った危険な刃物。いかなる鎧であろうとも、それを突き抜けて相手の身体に直接ダメージを与えます。それが急所であれば必殺の刃。

 俺の予想は見事に当たり、最後の踏み込みの瞬間までラズベリーは気付きませんでした。突きの体勢に構え、巨大騎士と化しているラズベリーのガラ空きの背中に向けて跳躍。

 とった!

「!?」

 その瞬間。パキーンという音と共に、俺の持つ剣は根本から折れました。げっ。

「……なるほど。ずっと何かを待っているとは思っていたが、まさかこの鎧の高い防御性能を無視する剣を持っていたとは」

 起死回生の一手が失敗に終わり呆然とする俺に向けて、ラズベリーがゆっくりと向き直ります。

「残念だったな。巨大化するとどうしても死角が多くなりその手の特殊攻撃に対処しきれなくなるため、予め対策を取っているのだ」

 ラズベリーが剣を振り上げます。何をするためにか。もちろんそれは俺へとその剣を振り下ろし、この戦いに終止符を打つためにです。

「策に溺れたな、ダークナイトよ。さらばだ!」

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