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空に架かる

 物語を演じるのは、登場人物です。

 実際には存在しません。

 しかし、物語が作者の生きる世界とは別の世界であるように、物語の登場人物も作者とは別の存在なのです。作者の知っていることを知りませんし、作者の都合だけでは動きません。

 あくまでも「人物」なのです。

 人物であるからには何が好きで何が嫌い、何に対して何を導き出すかという思考回路があります。一貫した理由、思考回路、それが「その人らしさ」です。



 例えば、次のような状況があったとしましょう。

◇例1

 半壊したビルの中、意識を取り戻す男。周囲を見回した彼は、外壁の隅にしがみついている見知らぬ少年に気付く。

 少年の下に足場はなく、腕は震えていて、すぐにでも少年は空中へ放り出されかねない。


【A.助ける】

A1.誰であろうとも命の危険は見過ごせない

A2.亡くした弟に似ている、見過ごせない

A3.確か大富豪の息子だ、あの顔はテレビで見た覚えがある


【B.助けない】

B1.怖くて無理

B2.自分の見立てではあの外壁、あと30秒以内に崩れる、近寄れば自分ごと落ちるはずだ

B3.自分の大事な人が他にいるはず、探しに行かなくては


 こうしたところで、人間性は読み取れるようになるはずです。



 理由も手段も同じで、しかし過程だけが全く逆、ということもその人次第ではありえます。

◇例2

 不老不死の女性がいた。

 彼女を知る者はいずれいなくなる。人には寿命があり、ゆえに彼女は世界に忘れ続けられる。

 彼女はただ、自分を見つめてくれる人がほしかった。

 だから彼女は、見初めた少年を自分と同じ体にした。そして自分を見つめてほしかったから――


【A.少年を知る人間を皆殺しにした】

 復讐者に仕立て上げれば絶対に自分のことを忘れない。


【B.少年の前に現れ共に暮らし始めた】

 ただ普通に、一緒に歩んでいきたい。



 また、思考回路とはまた少し違い、あくまでも「理由」になりますが、次のように日常的なことでも、登場人物の方向付けはできます。

◇例3

 学校。プール開きで皆のテンション最高潮!

 でも、男子生徒が一人、体操服のままプールサイドに立っている。


A.体動かすの面倒くさい、仮病

B.体が弱い以外は完璧な優等生

C.実は女なのを隠しているので水着は着ない



 登場人物の描写は、影絵のようなものです。

 影はただの輪郭。実在の立体ではない。見せる側が意図したものに見えるよう、光源の方をいじるしか、見る側への影の見え方を変える手段はありません。

 例えば「この少年は冷静で、何にも動じない」と書いても、そんなものは表現、まして物語などではありません。誰だって動じるだろう、という大変な状況に、焦らず立ち向かわせてあげてください。そうしなければ冷静になど見えないのですから。

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