第24話 周波数追従(オートチューニング)
「ひ……ひぃぃぃぃっ! ふ、ふざけるな! ふざけるなぁぁぁ!!」
恐怖で限界を迎えたガラドが、半狂乱になって喚き散らす。
「たまたまだ! 今のは偶然、俺様の声の波長と重なっただけだろ!! なら……これならどうだぁぁぁ!!」
ガラドが喉の筋肉を無理やり引き絞った。
その巨躯から解き放たれたのは、 人間の可聴域を遥かに超えた『超高音』だ。
キィィィィィィィィィン――――ッ!!
毎秒数十万回という途方もない振動数。
空気が摩擦熱で発火し、高周波の刃が空間を切り裂きながら俺へ向かって迫り来る。
だが、俺はポケットに手を突っ込んだまま、眉ひとつ動かさなかった。
「周波数、48,000ヘルツ。超高音域だな」
(リアルタイム・アナライザー――自動追従)
脳内のアナライザーが、飛来する高周波の波形を一瞬で捉える。
追従に要した時間は、わずか0.001秒。
パチン。
「……(無音)」
高周波の刃は俺の数センチ手前で勢いを失い、そのまま大気に溶けるように「フッ」と消滅した。
「なっ……!? 高音がダメなら……これならどうだぁぁぁ!!」
ガラドは即座に首回りを太く膨らませ、今度は地脈すら破砕する『超低音』へと切り替えてきた。
ズズズズズズズズズ……ッ!!
10ヘルツ以下の、目に見えない巨大な空気の重圧が地を這う。
「周波数、7.8ヘルツ。シューマン共振領域の低周波か」
パチン。
「……(無音)」
ずんと重くのしかかっていた気圧の乱れが、一瞬で平穏な大気へと戻る。
「ひぁっ!? じ、じゃあ……高音と低音の同時連射だぁぁぁ!!」
ガラドは喉を二重に振動させ、超高音の金切声と超低音の地鳴りを同時に叩き出してきた。
複雑に絡み合った不協和音が、乱雑な波形となって空間を乱舞する。
「周波数をランダムに変調させても無駄だ。音である以上、波形として捉えられる」
俺は小さく息を吐き、解析アルゴリズムを【自動周波数追従モード】へと移行させた。
相手が周波数を変えようが、高音と低音を混ぜ合わせようが関係ない。
ガラドの喉から吐き出される音波の波形をリアルタイムで自動解析し、その瞬間の波形と完璧に一致する『逆位相』をコンマゼロ秒のズレもなく生成し続ける。
「キィィィンーー」パチン。
「……(無音)」
「ズズズズーー」パチン。
「……(無音)」
「ギャァァァーー」パチン。
「……(無音)」
ガラドが狂乱状態で高音、低音、ノイズ、変調波を休みなく乱射するが、そのすべてが指先ひとつの操作で、虚しく虚空へと消去されていく。
テレビのチャンネルを高速で切り替えながら、そのすべてに即座にミュートボタンを押されているかのような、異様な静寂の連鎖。
「あ……あぁ……」
ガラドの巨躯から力が抜け、膝からどさりと地面へ崩れ落ちた。
酷使しすぎた喉元からは血が滲み、ぜぇ、ぜぇと惨めな呼吸音だけが漏れ出している。
どんな音を出そうが、どれだけ小細工を弄そうが、放った端からゼロへとリセットされる絶望。
「つ、追従してやがる……。俺様の喉の変化に……瞬時に……自動で……」
「オートチューニング(自動追従)だよ」
俺は静かにガラドの眼前に歩み寄った。
「音の高さ(周波数)を変えれば逃げ切れるとでも思ったか? 波形が解析できている以上、あんたがどれだけ喚こうが、俺にとってはただの『消去可能なデータ』に過ぎないんだよ」




