第19話 迎撃準備・王都全域の音響スキャン
「ガハハハハ! 泣き叫べ、地を這いずり回れぇぇぇ!!」
地平線の彼方から、大気を裂くような濁声とともに地響きが押し寄せてくる。
10ヘルツ前後の暴力的なインフラノイズが地脈を伝い、王都の外郭石垣をジワジワと内側から侵食していく。
「あぁ……っ、ダメですわ……! 胃が、頭が……立っていられません……!」
エルナが膝を折り、周囲の騎士たちも地面に崩れ落ちて悶絶していた。
目に見える傷を負わされたわけではない。
地面の微振動(低周波)が直接体内に伝わり、脳と内臓を乱暴に揺さぶり続ける生理的拷問だ。
「言っただろ、無駄に動くなと」
俺は短く息を吐き、両足を肩幅に開いてしっかりと地面を踏みしめた。
「物理的な音波が地面(媒介)を伝わってくるなら、まずはこの王都全体の『構造』を把握する」
俺は全身の魔力を足裏に集中させ、極小の魔力パルスを真下へ向けて撃ち込んだ。
(アクティブ・ソナー――広域構造解析)
トン……。
かすかな打音とともに、単一の高周波パルスが地殻を蜘蛛の巣状に駆け巡っていく。
前世で海洋調査船や医療用超音波診断に用いられていたアクティブ・ソナー技術の、魔力による模倣だ。
パルスは表土を抜け、地下水脈を弾き、王都を支える岩盤から外郭城壁の空洞に至るまで、密度の異なる境界すべてで跳ね返り、反射波として俺の脳内へ戻ってきた。
(……見えた)
意識のスクリーンに、王都全域の「三次元音響マップ」が鮮明に立ち上がる。
王都はすり鉢状の盆地に作られており、ガラドが陣取る西の丘から王都中央へ向かって、三本の強固な地脈が伸びている。
奴の『超超低周波破砕砲』は、この地脈を天然の「音導管」として利用し、振動エネルギーを減衰させずに王都へ直接流し込んでいたのだ。
「地脈がスピーカーの役割を果たしていたのか。……なら、地形そのものを『消音器』に変えてやる」
俺は速やかに次の術式を組み立てた。
低音の波長は数十メートルにも及ぶ。
大気中で打ち消そうとすれば莫大な魔力を浪費するが、波が集中する地中の交差点、ソナーが捉えた三箇所の地脈の結節点を直接叩けば話は別だ。
「振動の節をピンポイントで抑え、逆位相のパルスを地盤へ直接流し込む」
右腕を振り下ろし、大地へ魔力を叩きつけた。
ドスン、と鈍い衝撃が地中を走る。
地脈を通じて足元を激しく揺らしていた不快な重低音と地鳴りが、まるで嘘のようにピタリと止まった。
「え……!?」
地面に伏していたエルナが、信じられないといった様子で顔を上げた。
騎士たちも驚愕の表情で己の手足を見つめる。先ほどまで全身を苛んでいた強烈な吐き気と激しいめまいが、潮が引くように消え去っていた。
「揺れが……止まりましたわ。アキト様、一体何を……?」
「地脈を使って振動を送り込んできていたから、その中継地点に制振結界を打ち込んでやった。地面からの低周波はこれで完全に遮断した」
「地中の振動を……直接、打ち消したのですか……!?」
「それだけじゃない」
ソナーが弾き出した西の丘の座標データを、魔力の指向性パルスでエルナの意識へ直接送り込む。
「敵の破砕砲の位置、周波数、射出角度、すべて割り出した。西の丘の先端、標高120メートルの岩棚だ」
「あそこに……!」
エルナが息を呑み、遠くの稜線を見据えた。
「敵の低音攻撃は無効化した。だが、発生源そのものを潰さなければいつまでも耳障りな地鳴りが続く。……出撃だ、エルナ」
俺は静かに告げた。
「以前、教えた『指向性消音暗殺詠唱』を使う。ソナーの座標へ、無音のまま極大魔法を叩き込め」
エルナの表情から迷いが消え、その美しい銀髪が風に躍った。
「了解いたしました、アキト師匠! 我が聖なる消音の炎で……あの下品な騒音兵器を、跡形もなく黙らせてみせますわ!」
王都を包む音響防衛網は完成した。
青年の反撃が、誰にも気付かれない静寂のなかで幕を開ける。




