第二十四話 勝利、故の悲観
「俺らの勝利だぁ!」
サリエールの兵士がライフルを空に掲げてそう叫んだ。
アルゲンは高地にあるため非常に寒く敗残兵は凍傷に苦しみそして逮捕される。
敗残兵を一人も逃がさない…つまり富樫の完全勝利なのだ。
思わず富樫も目をぎゅっと瞑った。
「俺は…俺は勝ったのか…。」
戦いに勝ったのに武者震いがしてとっまらない。
こんな興奮は感じたことがなかった。
戦いに勝つ喜び…こんな壮大な興奮は多分今の人間には出来ないのだろう。
生まれて初めての感覚に富樫は喜びと何人もの犠牲を出したのだという恐怖を感じた。
両腕を抱き合わせて膝を地につけ口だけを笑わせた。
口角の上がった口から出てくる白息の荒々しさから彼のその感情が伺えた。
だが、この現実は受け止めなければならない。
富樫は今、平和は血にまみれた屍の上に成り立っていることを実感した。
平和ボケしていた自分が現実世界で何を守っていたのか…深く考えさせられる一瞬だった。
明日からは死体処理やがれき撤去などの戦後処理が始まる。
富樫が一番心痛む瞬間だ。
駐屯地の真横にあるアルゲン城の塔の上で一通りの具足を外したメイジがリズリ―に言った。
「彼は…本当に喜んでいるかしらね…。」
「恐らく、素直に喜べてないでしょう。」
秘書官リズリ―の見解は案の定であった。
翌日。
丸一日町を挙げた戦後処理が始まった。
主にがれき撤去や死体処理、戦犯裁判が相当な時間を食うのである。
エリゼがこの日の指揮を執っていた。
「やぁエリゼ、ちゃんと働いているかい?」
「あぁ、これはメイジ様。着々と任務は進んでおります。」
「この時間帯だと逃亡兵が凍死して運ばれてきてもおかしくないわね。」
「ご博識で…確かに留置場所が不足していて困っているところですよ。」
「…大変ね。ところでトガシ君は?」
「それが今…体調を崩されておりまして…。」
「はぁ…。まぁそうだと思ったわ。リズリ―サリエール軍の宿舎へ行くわよ。
「あぁ…メイジ様、今は会われない方がよろしいかと…。」
「要するにトガシ君は気を病んでるんでしょ?」
「はぁ…まぁそんなところです。」
「なればこそよ。」
メイジは長いマントをなびかせながら振り返るとリズリ―と富樫のいる宿舎へと向かっていった。
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サリエール陸軍 第四宿営地。
駐屯地内に設けられた宿営地には無数の軍用テントが密集していた。
その中央に一際目立つテントがあった。
住人はもちろん富樫である。
「トガシ君…入るわよ?」
「いや、今は入らないでくれ。」
だいぶうなだれた声で富樫は返事した。
「その様子だと一睡もしてないわね?」
「寝られるかよ…。」
「寝ないと体がもたないわよ?」
「俺は…俺は初めて見たんだ。人同士が殺し合うのをさ…昨日まで話していたような戦友が目の前で散っていくのを。」
「…。」
メイジは思わず黙ってしまった。
「残酷なんだよなぁ…。俺は警官としていろんな死を見てきた、だけど…言葉に出来ないんだよ。初めて死ぬのが怖いと思ったんだ…もっと、もっと俺の動きが迅速だったら犠牲が出なくて済んだのかもしれないって…。」
「…あ、貴方の動きは確かに迅速では無かったわ…軍の招集が確かに遅れてた。でも…あなたがこの町に救援を差し向けなければもっと人は死んでいたわ…。貴方が居なければこの白い城壁も真っ赤に染まっていたかもしれない。看板に何人もの首がかかっていたかもしれない。」
「貴方は…この国の本来の歴史を変えたのよ…それも根底から。」
「…。」
富樫は最後のこの言葉に目が覚めた。
「そもそも兵士の犠牲は少ない方だったわよ。この地の領民だってあなたを信じて血を流したのよ。貴方は貴方にしかできないことをした。これってナポレオン以上の偉業だと思わない?」
「…………そうなのかな…俺…間違って…ないのかな…。くそ…この勝利がこんなにも悲しいものだとは思わなかったんだよ…くそ!…」
富樫の声は明らかに変わった。
テント越しでも彼が涙ぐんでいるのが分かった。
「おれ…生きてみるよ…あきらめずに…。」




