第十玖話 暗雲苦戦
「この町は俺らで守るんだ! かかれー!」
要塞からの攻撃が続くなか地元民による突撃が始まってしまった。
「馬鹿な真似はするな! 要塞の中に逃げろ!」
外壁上から兵士が叫んだ。
本来、サリエール帝国法第二十二条ノ二項により戦闘時に住民は自宅待機か駐屯地内に逃げ込むことが義務付けられている。
これは地元民の死傷を防ぐためであって町の防衛や治安維持は軍と警察の仕事だ。
それに基本、大都市は駐屯地や基地の真後ろにあるため容易に落ちることはまずない。
「アルゲンは俺らが生まれ育った町だ、合戦を黙って見ていられるか!」
住民は奮い立っている。
それに対して兵士は必死に説得を続けていた。
「お前たちの行為は条例違反だ、今すぐ逃げろ!」
「死にたいのか⁈ 戦いは俺たち陸軍に任せて住民は早く避難してください!」
叫んでも叫んでも住民は一切耳を貸そうとはしなかった。
これは陸軍の大きな誤算となってしまった。
時計のゼンマイは一つでも狂うと他のゼンマイを巻き込んで盛大に壊れてくれる。
少しづつ運命の歯車は狂っていく…。
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サリエール宮殿外苑。
陸軍の戦闘服を着た富樫が外苑に皇級警備兵を整列させていた。
その数およそ五百。
富樫は高さ一メートルほどの白い台の上に上がっていた。
大きく息を吸うと彼は叫ぶ。
「オウェリナ帝国主戦派は宣戦布告も無しに攻め込んできた。北方都市アルゲンは今、劣勢に立たされている。過去に敗戦を重ねていた我らサリエール軍にも遂に日の出の時を迎えようとしている。兵士よ今こそ立ち上がれ! 誇り高く戦い抜いた先人たちの名に恥じぬように奮闘することを期待して訓示とする。」
僕自身も台本も何もない状況でこんなに言葉が出て来るとは思わなかった。
陸軍大臣、オルゴが叫ぶ。
「総員乗車!」
号令がかかると皇級警備兵は陸軍のトラックに乗車していった。
富樫はエリゼやオルゴと共に天鵞絨に塗装したパトカーに乗車した。
勿論運転は富樫が担当している。
戦闘にパトカー、その後ろに人員輸送トラックが十二号車まで続いている。トラックにはそれぞれサリエール語で「特別派遣」の天幕がかかっていた。
国政は一時セドリックに任せて富樫たちは出発するのだった。
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オウェリナ帝国和解派本部。
「主戦派とトガシ君が開戦⁈ 早すぎるわ…サリエール帝国の宣戦布告の通牒まではあと二か月以上もあるのよ⁈」
メイジは騎士姿でサリエールからの手紙を読んでいた。
「こうしちゃいられないわね…リズリー、今すぐ攻勢用の兵士の招集をして。明日には出発よ。」
「了解いたしました。皇帝。」




