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「ふむ、まぁいいでしょう」
面接官は書き込んだ紙をそのまま手で持ち上げて、そしてそれが上から下までヒラヒラと光となりて散っていった。
「あなたには求められた資格と適正を十分以上に持っていることがわかったので、これであなたの採用も決まりですね。ならば答えて差し上げましょう」
答え。一体何の答えなんだろう。
此処がどこなのかとか。俺はどうやってここに来たのかとか。
お前は誰だとか。なぜ俺はお前の姿が見えないのかとか。
俺は本当に俺だったのか、それとも何かで作られたコピーみたいな存在なのか。
あの記憶は・・・などなど。
俺は今冷静になっているとはいえ、知らないこと、知りたいことが泡のように頭に浮かんでは消えてゆく。
ただここで座っているだけで、時間が経過するのと共に何を知りたかったのかすら忘れてしまう。
お前は俺の知りたいことまでも、答えてくれると言うのか?
できないだろうな、普通。
俺がなにも返答せずで待っていると、クスっと笑う声が漏れてきた。
「私には君の考えていることが大体分かります。私に分かるように君をそう歪ませたのですから」
「・・・歪ませた?どういう意味、ですか?」
「そのままの意味です。私の力で君の認知を歪ませたのだよ、今君を悩ませているものすべてをです」
たとえば自分のものなのに他人のもののように見える記憶。
あなたの大きな悩みの一つではあるんですよね。でも心配はいりませんよ、これは確かに別視点で見たあなた本人の記憶なのですから。
たとえば時間感覚、位置情報。
あなたには今は何時で、ここが何処かなのかもわからないでしょう?
何時此処にきたのか、何時からここに居たのか。どの位あなたがここに居たのかも。
どうです?
どうと聞かれても、俺には言われたことがさっぱり意味がわからなかった。
だが、少なくとも自分はなにかしらにコピーされた存在じゃないと分かり、俺は本当に俺自身であることが証明された。
一瞬で、浮いている自分という存在がまたちゃんと地面の上に立っているような安心感を得ることができた。
「君を君自身として認知できないようにすることで、今ここにある君を本来の君と別物扱いして、ここに居させています。元の君を何の干渉もされていないまま、他に居るべき場所にいさせていながら、こうして異なる時間に異なる場所であるように面接することができるようにしたのです」
や、やはり意味が分からない。
いや、そうじゃない。なんとなく理解できるような理解できないような感じはある。
理屈まで理解できていないというべきか。これが正しいかもと認める感覚があるが、その認識の下地となる知識を持ち得ないからこそのあやふや感というべきか。
いかん。
理解のできない理屈を理解しようと、自分の思考までがぐるぐると迷走し始めそうだ。
「あぁ、そうですね。簡単に言えば、君を二つの存在として認識させることで、もう一つの君として現実と、今この面接の場所に同時にいさせている。そういう理屈だと理解していただければいいですよー」
「理屈って・・・」
「私がこの世界にそういう理屈の認知を押し付けたのですから、この世界がそれを認めることで、それを真実としてことが起こりました」
世界にって。
いや、それって。神様の力なんじゃ。
「はい、臨時で雇われた神様ですよー。あなたももうじき私と同じ立場になるのでしょう」
――一緒に仕事ができることは多分あまりないのかもしれませんが、今から楽しみです。
――では。
遠くからか、指を鳴らす音を聞こえた。
俺は、今座っている場所が試験官がいるデスクから急激に遠ざかれたように感じた。まるで逆そうしているジェットコースターみたいに。
いや、違う。
俺が後退したのではなく、まるでいきなりあるはずの距離を伸ばされたかのようだ。
あれ?ちょっとまってよ?
これってもしかして――
「そうです。君は本来ここに居ない、私もここにはいなかった。私は、私たちの間に存在している歪まれた距離感を戻しただけです。この面接も、無事に終わりましたからね」
――あなたはもうじき目覚めるのでしょう、普通の日常に。そして今の出来事を全部思い出すこととなるでしょう。
――その時にまたお会いしましょう。
いかにもライトノベル感の書き方だとすごく書きやすいんですね。もう片方のはそうもいかなくて中々に手間取ってます。




