二
「うぅ、まさか秒差で負けてしましたとは…」
と口でこう言ってるが、音月はよっほどの悔しさを感じているわけではない。全力を出していないとはいえ、制限した力の中で、お互いもなかなか奮戦したのだ。悔しさより、彼は充実感を感じている。そして音月は相手もまた同じく全力を出していないと考えているし、彼にとってお互い底を尽くすほど死闘を広がることなく勝負できたわけだ。それに実際、負けたではなく、ドローだったし、何より戦いの後この部屋に連れられてきたということはつまり、まだなにかあるってことになる。
実のことを言うと、さっきはそれぞれ独立の場所で様々な戦闘が行われたが、空間の隔離によってひとつの闘技場からはほかの場所の情報も存在も知ることは出来ない。だが音月が行ったのは一対一のせいか、彼は冷静に状況を分析することが出来た。だから試されたのは自分たち二人だけではなく、きっと他にもあるだろうと思っていた
音月は改めてこの部屋を見渡す。
さっきの音月と同じように、ゆくゆくと異なるところで戦闘を行ったものたちがここに転送されてゆく。そして、あるときを境に、人数が増えなくなる。思わぬ出会いのせいか、みんながみんなで何かを考えいるようだ。
あえて共通するところを言えば、それはみんなが翼がないと言う点だけだ。
(ここにいる人の数がちょっと微妙だな…もし僕を参考とするのなら、ここにいるやつはみんな、実力があって勝てなかったやつらなのか?しかし、引き分けにしてみれば、数がちょっと多いな。タイムリミットがあるとはいえ、引き分けってそんなにするものなのか?)
実際ここにくるものは確か勝利を得なかったものたちばかりだが、決して引き分けをしたものたちだけではない、中には失敗を味わったものもいる。その認識と事実の差こそが音月が自分の実力に対して、どれほどの自信を持つかを意味する。
けれどそんなことを考えている音月が突然に出てきた女声の声に視線を空中に向けさせられた。
「くず共よ、私が次の担当者だ。名前は―――まっ、また会う機会があれば、その時に言おう。」
翼を持つ女性はその綺麗な青い髪を触り、不敵な微笑み浮かべてさらに言う。
「時間は大切に使わねばな、ではさっさと本題に入るぞ。お前たちが自分たちが特別にここに集められていることは気づいているだろ。が、その中にはさっきの対戦で引き分けを取ったものはいるが、負けたものもいる。その意味を知っているか?つまり、君たちはたとえ非凡の力を持ちながらも、相手のそのさらに絶対的な強さに負かされたか、あるいは
自分と同じ程度の強さ持つやつと出会ってしまった故、制限された時間内で決着を付けなかったのだ。一方、運のいいやつは、そこそこの力だけもってしても試合に勝っただろう。そう、お前たちは運が悪いだけなんだ、でも運が悪いこそお前たちは勝てなかった。いかなる力をもってしてもお前たちは運に負けた。運だよ運、逆に言えば正しい時に正しい強運が発揮する、すごいではないのか!」
こんな言葉を聴いた人たちの内心はもちろん穏やかではなかった。いかに女性は正しいことを言ってるとはいえ、彼女の言葉ではまるで自分のすべてが否定されたかのようだ。だが、そんな彼らの心を見透かしたその女性担当者は着地し、右手を横に伸ばす。
「でもだ!運は認めるが、それは全てではない!そうね。たとえば、お前らが十分の強さを持っている時、運は決定打にはならないだろう。わかるか?お前らが最強なれたら、運が強くても、最強には勝てないだろう。だから我々ガーデンは可能性を持ち君たちをあきらめない。そう、君たちは芽だ。わかるか、その意味?」
ここで彼女は少し間を置き、この部屋はこの瞬間で静かさに支配された。
立っているものたちはおそらく、彼女の言葉の意味を考えているだろう。あるいは実際なんの意味もないと思う人たちは沈黙で否定しているだろう。とにかく、この時間の中は様々な思想、思考、思惑が飛び交う。
そしてこの僅かだけの安らぎを破ったのもまた彼女だった。さっきから右手のあるところに巨大な扉が出現した。
「五分間を与えよう。そしたら、この扉を潜れ!そしてまっすぐ進め、唯それだけでチャンス掴め取れる、簡単だろ?あぁ、もちろん、拒否権は与えてないぞ?ではカウントダウンだ!」
そしたら、女性は目を閉じ、何もしゃべらなくなった。彼女から発した雰囲気に押され、誰も彼女に近づけようとしなかった代わりに、大半のやつはあわて出した。
またしてもタイムリミットだ、煩くも感じてしまうのだが、そんな不満をぶつけだし暇もなく、彼らは決断を迫られる。彼女の言葉では、ソロでやると明言していない。ならパーティーを組むという選択と状況も出てくる可能性があるのではないか。たしか、進むだけで良いとは言ったが、別に何一つ障害がないとは言っていない。なら、もっとも安全な選択はパーティーを組むということになるだろう。
しかし音月は別の問題で悩んでいる、それはほかのみんながおとなしくその担当者ってひとに従っていることだ。それではまるで彼らはこのひとつ、またひとつのことに何かの意味があるかと知っているではないのかと音月は思わざるを得ない。
「どうしました?パーティーを組まないのですか?」
ふと、何かと悩んでいる音月に、赤い髪と黒いドレスがセットな美少女が話しかけた。少女を正体を悩んでいる音月に、さらに言う。
「あっ、さっきはお世話に成りました。まだ私のことを忘れてないですよね?」
その言葉に音月は反応を示す。
「もしかして、さっきの戦った人ですか?服はそのままですけど、角はどうしましたか?」
「私みたいな天才になりますと、切り替えは簡単にできます。しかし、うまい例えですね、芽だって」
「普通は種って言うけど芽とはまた、うまく嵌っていますよ」
「ええ、種とはまだ成長をはじまってないものを形容しますが。一方、芽とは未発達の枝のことを指しますが、それはつまりすでに成長を始まっているということです。」
「でも開花できるかどうかは別問題って所でしょう」
「いかにも」
初見ではないとはいえ、お互いに会話をしたことのない二人。普通は少なくともいささかな警戒を抱くのだが、さっきまで敵だった二人がこんなにも話しやすいなんて、音月は困惑を感じざるを得なかった。
自分にだ。彼はそんな熱血バカではないし、小さいことに根を持ちひとでもないが、しかしこんな奇妙な親切感を感じるのは初めてだ。
「ところで、さっきの質問、パーティーを組まないのですか?」
音月はいまから答えを見つけ出して、
「どうでしょ、パーティーを組むという手は実に安全ですけど。逆に言えば、それが危険にもなりますね。こんな少ない時間で背中を任せられる人を見つけ出すにはすごい観察眼を持ってないといけないですし。そうでないと、お互いの足を引っ張ってしまいます。やっばり独りでいくほうがいいと思いますが?」少女に答えた。
そして彼は少女の琥珀色な目に吸い込まれていたように、静かに彼女の言葉を待つ。
「そう、じゃわたしもワンマンチームでいいです」
「そうですか?」
「じゃ今度があったら、自己紹介をさせてくださいね」
「すぐ会えますよ」
「でしょうね、ではね」
「じゃね」
そして彼女は香りと音月を残して、長い髪を揺らしながら、遠ざかってゆく。
その時、音月は自分の答えが間違って、彼女を不愉快にしたのではないかと迷ったとき、担当の女性の声が聞こえてきた。
「時間だ!くず共の準備は出来ているか?まぁ、どうであれ、さっさと門をくぐれ、遅れたやつはこの私が潰す」
巨大な扉が開いた。
話の流れでうまくいろいろなことを聞く機会を失い、自分でもあきれてしまうの音月だが、いずれここで何を行っているのかを知る機会はきっと来るだろうと思い、彼は前進んだ。




