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『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
第2章 恋を知るには、近すぎます!

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殿下、離れられないんですけど!?①

「セレティア嬢。少し、手を貸してもらえるかな」


放課後、図書館から戻る途中で、ユリウス殿下に呼び止められた。


隣には、魔法を教えている先生が立っている。

二人の前の机には、いくつかの魔道具が並んでいた。


「展示前の確認をしていてね。この箱を、そちらへ移したいんだ」

「はい」


私は机に鞄を置き、箱の片側へ手を添えた。

反対側を殿下が持ち、二人で持ち上げる。


軽い箱だった。

けれど、机へ下ろそうとしたとき、中で、かたんと音がする。


仕切りの板が外れ、銀色の輪が二つ、箱の縁へ転がってきた。


「あっ」


落ちる前に、と手を伸ばす。

殿下の手も、反対側から伸びてきた。


それぞれの手に輪が触れた瞬間、淡い光が弾けた。


……え。


触れた銀色の輪が開き、私の左手首へ巻きつくように動く。

小さな音を立てて閉じた輪に、私は手を止めた。


向かいに立つ殿下も、ご自分の右手を見ている。

そこには、同じ銀色の輪が収まっていた。


二つの輪の間に、細い光の筋が伸びている。


私は瞬きをした。

殿下も、一度だけ目を瞬かせる。


「……先生」


落ち着いた声に、先生が振り向いた。

それから私たちの手元を見て、顔色を変えた。


* * *


「申し訳ございません。停止させておいたはずなのですが」


先生が、輪の表面を確かめる。


説明によると、これは二人が離れないようにするための魔道具らしい。

人の多い場所での誘導などに使うもので、片方が一定の距離まで離れると、輪に引かれて足が止まる仕組みだという。


……迷子防止みたいなもの?


ただし、今、繋がっているのは。


王太子殿下と、私。


「外せますか?」


尋ねると、先生は頷いた。


「はい。誤って外れないよう、専用の解除具を使う仕組みです。手首に食い込むことはありませんが、急に離れないよう、お気をつけください」

「では、解除具を取りに行っていただけますか」


殿下が言うと、先生は深く頭を下げた。


「すぐに戻ります。お二人は、そのままでお待ちください」


先生が近くの準備室へ入っていく。


私は手首へ目を落とした。

輪はきつくない。指で触れても、特に変わったところはなかった。


殿下の手首へ続く光を見てから、そっと顔を上げる。


「申し訳ありません。私が、落ちかけたものに触ってしまって」

「私も触ったからね。君一人のせいではないよ」


殿下は、輪へ触れていた私の指を見た。


「痛くない?」

「はい。殿下は?」

「私も、大丈夫だ」


それなら、まずはよかった。


……よかったけど。


私は廊下へ目を向けた。


通りかかった生徒が、こちらを見ている。

机の前に向かい合って立ち、手首から光の筋を伸ばしている私たちを。


うん。

見ますよね。


私も、絶対に見ると思います!


「立って待つのも何だね。あちらへ座ろうか」


殿下が、窓際の長椅子を示した。


「はい」


頷いて、私は体の向きを変えた。

そのまま一歩、踏み出す。


左手首が、くい、と引かれた。


「わっ」


足を止めた私の肘を、殿下が空いている手で支える。


「大丈夫?」

「は、はい!」


殿下がまだ歩き出していなかったのだ。


私たちの手首の間で、光の筋がぴんと伸びていた。

離れられるのは、思っていたより短い距離らしい。


「急に動くと危ない。私に合わせて」


落ち着いた声で言われ、私は頷いた。


* * *


殿下の右側へ並び、一緒に歩き始める。


一歩、二歩。

今度は引っ張られない。


けれど、繋がっていることを気にすると、左手をどうしておけばいいのかわからなかった。

殿下の腕が動くたび、自分の手首まで引かれそうで、つい動きを小さくしてしまう。


「歩きにくい?」

「少しだけ。手を、どこに置けばいいのか迷ってしまって」

「無理に揃えなくても――」


そこで、ふと思いついた。


手首だけの距離を気にするから、難しいのだ。

腕のそばにいれば、離れすぎることもない。


「あの。少し、失礼します」


私は繋がれた左手を、殿下の右腕の、手首と肘の間へ添えた。

右手でも肘の少し上を軽く掴み、歩く速さを合わせる。


光の筋が緩んだ。


「こうすれば、引っ張られませんね!」


顔を上げる。


殿下は、私を見下ろしていた。

返事がない。


……あれ。


何か、間違えました?


「殿下?」

「……ああ。そうだね」


少し遅れて、声が返ってきた。


殿下は一度、自分の腕へ目を落とす。

それから、私の歩幅に合わせるように足を緩めた。


「その方が、歩きやすいなら」

「はい。ありがとうございます」


安心して、長椅子へ向かう。


……途中までは、よかった。


窓の前を通ったとき、硝子に私たちの姿が映ったのだ。


殿下の腕に、私が両手を添えている。

体の向きも、歩く速さも揃っていて。


これ。


……エスコートされているみたいでは?


そう気づいた瞬間、顔が熱くなった。


さっきは魔道具のことしか考えていなかった。

でも、相手はユリウス殿下なのだ。


学園でも、皆さんの注目を集める方で。

ローゼとの婚約のお話だって、出ていた方で。


その腕に、私。


「……セレティア嬢?」


呼ばれ、慌てて顔を上げた。


「は、はい」

「歩きにくくなった?」

「いえ。そうではなくて」


離れた方がいいのかと考え、手首の輪を見る。


……離れられないのでした!


殿下の視線も、私の手元へ落ちる。

それから、窓硝子へ向かった。


映った姿を確かめた彼が、わずかに口元を緩める。


「もう少しだ。ゆっくりでいいよ」


……気づかれた。

たぶん、何を考えたのかまで。


私は小さく頷いて、足元へ目を戻した。

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