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『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
第2章 恋を知るには、近すぎます!

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その呼び方で、もっと近くに①

「ルゥ。今日ね、ノアと話せたよ」


寝台へ腰を下ろして声をかけると、銀灰色の猫が顔を上げた。


膝へ乗せ、背中をゆっくり撫でる。

昨日、この部屋で何を言おうか考えていたことが、ずいぶん前みたいだった。


「うまく説明できないところもあったけど、ちゃんと聞いてくれたの。一緒に考えようって」


ルゥの尻尾が、膝の上でゆっくり動いた。


「……話して、よかった」


怖いことは、まだある。

けれど、ノアは知らないままではなくなった。


そう思うと、もう一度、ほっと息が漏れた。


「それでね……」


撫でていた手が止まる。

ルゥが、私を見上げた。


「ノアに、好きだって言われたの」


声にした途端、頬が熱くなった。


……報告するだけなのに!

本人は、ここにいないのに!


「幼馴染としてだけじゃないって」


ルゥの耳が、ぴくりと動いた。

私はその顔を覗き込む。


「びっくりするよね?」


青灰色の目が、じっとこちらを見ている。


返事がないと、今度は自分の言った言葉ばかりが頭に残った。

私はルゥをそっと抱き寄せる。


「まだ、同じ気持ちかはわからないって伝えたよ。でも、聞けて嬉しかったの」


温かな背中へ頬を寄せると、ルゥの前足が私の手に触れた。


「……どうしよう。明日、普通に顔を見られるかな」


小さく呟くと、短い鳴き声が返ってきた。

私は少しだけ顔を離し、困ったように笑う。


「そこは、大丈夫って言ってほしいんだけど」


もちろん、何と言われたのかはわからない。

それでも、いつものようにそばにいてくれるのが嬉しくて、もう一度背中を撫でた。


* * *


翌朝、教室の入口で、私は一度立ち止まった。


窓際には、いつもどおりノアがいる。


……うん。

いるよね。同じ教室なんだから。


昨日、あんな話をしたからといって、席が遠くなったりするわけではありません。


鞄を持ち直したところで、ノアが顔を上げた。


「おはよう、ティア」


目が合った瞬間、昨日の声まで思い出した。


――僕は、ティアが好きだよ。


「お、おはよう!」


……声。

今、少し上ずりましたね、私!


ノアのそばを通って自分の席へ向かう。

鞄を置くことに集中していると、隣から声がした。


「昨日、ちゃんと眠れた?」

「うん。ノアは?」

「僕も。少し、寝つくまで時間はかかったけど」


思わず顔を向けると、ノアが笑った。


「昨日のこと、思い出してたから」


私は教科書を取り出す手を止めた。


それを、朝から本人に言うんですか!?


「……私も」

「うん?」

「少し、思い出したけど」


ノアが黙った。

そっと見ると、その口元が緩んでいる。


……そんなに嬉しそうにされたら、ますます落ち着かないでしょう。


私は教科書へ目を落とした。


「ティア」

「な、何?」

「今日は、一緒にお昼を食べない?」

「うん。でも、リリアさんたちと約束してるから」

「じゃあ、ご一緒してもいいか聞いてくれる?」

「もちろん」


それなら、いつもと変わらない。


少し安心して頷くと、ノアが私の机に目を向けた。


「ティア。一時間目は、その教科書じゃないよ」

「……あっ」


本当だ。

朝から、何をしているんだろう。


隣で笑う声がして、私は教科書を入れ替えながら、小さく息を吐いた。


ルゥ。

やっぱり、難しかったです。


* * *


「もちろんですわ」


昼食にノアも一緒でいいか尋ねると、ローゼリア様は快く頷いてくれた。

リリアも嬉しそうに笑う。


「皆さんでいただきましょう!」


ありがたい。

今の私には、二人がとても心強い。


そう思っていたのに。


食堂で席についたところで、ノアが私へ顔を向けた。


「隣、いい?」

「う、うん!」


返事をしてから、正面の二人と目が合った。


ローゼリア様は、まだ何も言っていない。

リリアも、にこにこしているだけだ。


……何も言われていないのに、どうしてこんなに落ち着かないの!?


ノアが隣へ座る。


一緒にお昼を食べたことなんて、何度もある。

それなのに、腕が少し動いただけで気になってしまう。


「ティア、パン取る?」

「あっ、うん。ありがとう」


差し出された籠から、一つ取る。

指が触れたわけでもないのに、つい手元を見てしまった。


「……ティア?」


小さく呼ばれて、顔を向ける。


「今日は、目を合わせてくれないね」


声を落とされ、ますます困った。


「……今、ちょっと難しいの」

「どうして?」

「わかってるでしょう……!」


小声で返した途端、ノアが口元を押さえた。


……笑ってる。

絶対、嬉しそうにしてる!


正面で、カップがそっと置かれる音がした。


「お二人とも、スープが冷めますわよ」


私は慌てて背筋を伸ばした。


「は、はい!」


* * *


昼食のあと、ノアは返却する本があるからと、図書館へ向かった。


「また教室でね」

「うん」


ようやく落ち着いて返せた、と思ったところで。


「ティア」


数歩進んだノアが振り返る。


「一緒に食べられて、嬉しかった」


……っ。


返事をするまで待ってくれている。

今日は、その笑顔を見ても、何のことだろうとは思わなかった。


「……私も」


答えると、ノアは満足そうに笑って、今度こそ歩いていった。


その背中を見送ってから、私はそっと頬へ手を当てた。


たった、お昼を食べただけなのに。


「少し、お庭へ寄りませんこと?」


隣から声をかけられ、ローゼリア様を見る。

穏やかな微笑みだった。


「……はい」


何となく、何を聞かれるのかわかった。

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