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『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
第1章 恋愛しないはずの学園生活

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もう、幼馴染だけではいられない②

繋いだ手の温かさに、少しずつ気持ちが落ち着いてきた頃。


ノアが、私を見た。


「今日、話そうと思ってくれたのは……どうして?」


私は少し考えた。


嬉しかったことまで否定しなくてもいいと、教えてもらった。

それから昨夜、自分で考えて、決めたのだ。


「何も言わずに、私だけで離れるって決めるのは違うと思ったの」


ノアは黙って聞いている。


「それに、怖いからって、ノアといて嬉しかったことまで、気のせいにしたくなくなったから」


言えた。


……言えたけど。

言ったあとで、急に顔が熱くなってきた。


ノアが、私をじっと見ている。


「じゃあ、これからは考えてくれる?」

「何を?」

「僕のこと。幼馴染としてだけじゃなくて」


胸が跳ねた。


まっすぐな青い瞳から、目を逸らせない。


「……うん。ちゃんと、考えたいと思ってる」


答えると、ノアの指に少し力がこもった。

彼は何か言いかけて、口元を押さえる。


「……ノア?」

「ごめん。少し、待って」


顔を背けた耳が、赤かった。


……え。

私、今、そんな反応をされることを言った?


いや、言った。

たぶん、言いました。


つられてますます熱くなった頬を、空いている手で押さえる。


やがてノアが、こちらへ向き直った。


「僕は、ティアが好きだよ」


息が止まった。


「幼馴染だから大切なのも、本当。でも、それだけじゃない」


声は静かだった。

冗談にしてくれるような笑顔でもなかった。


「君と踊りたかったのも、休みの日に会いに行きたかったのも、好きだから」


一つずつ、覚えのある言葉が重なる。


ハンカチを返すためだと言った、あの日。

夜会で、もう一度差し出された手。


「資料室で、殿下に支えられていたとき。あのとき平気な顔ができなかったのも、好きだからだよ」


扉が開いたときの顔まで思い出して、私は言葉を失った。


「……そう、だったんだ」


ようやく出た声に、ノアが少しだけ苦笑した。


「うん。そうだったんだよ」

「……ずっと、私のこと、そういうふうに思ってくれてたの?」


尋ねると、彼は繋いだ手へ目を落とした。


「うん。でも、伝えたら、また距離を置かれるかもしれないと思ってた」


胸が詰まった。


「そばにいられるなら、それでいいって。でも、最近は、そう思うのも難しくなってた」


ノアが顔を上げる。

私はその目を見つめたまま、唇を開きかけた。


何か、答えなきゃ。

そう思うのに、うまく言葉が出てこない。


「今すぐ、答えを出さなくていいよ」


ノアが、静かに言った。


「ただ、これから僕のことを考えてくれるなら、知っていてほしかった」


私はゆっくり頷いた。


嬉しい。

でも、どうしたらいいのか、まだわからない。


ノアのことを大切に思う気持ちと、恋として好きな気持ち。

その違いを、私はようやく考え始めたばかりなのだ。


「……まだ、同じ気持ちだって言えるかはわからない」


包まれた手へ目を落とす。

離したいとは、思わなかった。


「でも、聞けて嬉しい」


ノアの指が、わずかに動いた。

顔を上げると、彼が笑っていた。


何度も見てきた笑顔なのに、今日はまともに見ていられない。


「じゃあ、ティア」

「……なあに?」

「これからは、もう遠慮しないから」


私は顔を上げた。


「遠慮って……」


聞き返した私の手を、ノアが少し持ち上げる。


「今みたいに、手を繋ぎたいときは、そう言う」

「……うん」

「会いたいときも。綺麗だと思ったときも、ちゃんと伝える」


……待って。


今までも、十分落ち着かなかったんですけど!?


「もちろん、嫌なら言ってね」


慌てて何か返そうとしたのに、ノアがあまりに嬉しそうに笑うから、言葉が止まった。


私は繋いだ手を見下ろす。


怖いことは、まだある。

何も解決していない。


それでも、話してよかったと思った。


「……今は、嫌じゃないよ」


小さく答えると、ノアが黙った。


それから俯いて、繋いだ手へ視線を落とす。

しばらくして聞こえた声は、さっきより少し低かった。


「……嬉しいな」

「そんなに?」


ノアが顔を上げる。

目が合うと、彼は隠しきれないように笑った。


「うん。もっと、一緒にいたくなるくらい」


……もう。


話し始める前より、ずっと心臓が忙しい。


でも、今日は。


その嬉しさまで、気のせいにはしなかった。

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