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『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
第1章 恋愛しないはずの学園生活

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その気持ちまで、隠さなくていい②

「……考えないように、していたんです」


小さく言うと、ルシア様が私を見た。


「何を?」

「そういう気持ちを持つことを」


本へ目を落とす。

さっきまで面白く読んでいた説明が、今は一文字も頭に入ってこなかった。


「私が近づいたら、その人に怖いことが起こる気がして」


ノアを、死なせてしまうかもしれない。


その言葉は、飲み込んだ。


ゲームでは、セレティアと関わった攻略対象たちが、どのルートでも死んでしまった。


それを知っているから、近づかないと決めた。

恋愛なんて、もちろんしないと。


けれど、そんな話をどこから説明すればいいのだろう。

前世のことも、ゲームのことも。


自分だって、どうして彼らが死ぬのか、全部わかっているわけではないのに。


「だから、最初から関わらなければいいって。そう決めていたんです」


言い終えて、そっと顔を上げる。


「……変なお話ですよね」

「相手を危ない目に遭わせたくないんだな」


私は頷いた。


「はい。大切な人なので」


そう答えた途端、胸が少し痛くなった。


大切なのに、近づくのが怖い。

でも、離れていくところを想像するのも寂しい。


……どうすればいいの、これ。


ルシア様は、私を見たまま言った。


「詳しく話せないなら、無理に聞かないよ」


思わず、息を吐く。


説明できないまま相談するなんて、困らせるだけかと思っていた。

けれど彼は、続きを急かさなかった。


「その怖いことは、君が近づけば、必ず起こるのか?」


すぐには答えられなかった。


必ず。


……そう言い切れるのかな、私。


ゲームでは、何度選択肢を変えても、彼らは死んでしまった。

でも、今の世界には違うところもある。


リリアも、ローゼリア様も。

私の知っている二人は、ゲームの中とは違う関係で笑っている。


だからといって、ノアも大丈夫だとは言い切れない。


「……わかりません。でも、起こるかもしれなくて」

「そうか」


ルシア様は少し考えてから、言った。


「それなら、気にしなくていいとは言えないな」


私は小さく頷いた。


何も起きないと、言ってほしかったのかもしれない。

でも、事情も話していないのに、そんな保証ができるわけではない。


わかっている。


「ただ、寂しいと思ったことまで、悪いことにしなくていいだろう」


顔を上げる。


「その気持ちに気づいたら、必ず今より近づかなければならないのか?」


私は、少し考えてから首を振った。


「……そういうわけでは、ありません」

「なら、まずは気づいただけでもいい」


本に添えた指先を、そっと動かす。


ノアと踊って、楽しかった。

迎えに来てくれて、嬉しかった。


そのたびに、恋じゃないから大丈夫、と考えようとしていた。


……でも。


そうやって理由を探しても、ノアに何が起こるのかが、わかるわけではないんだよね。


私は本の端を、そっとなぞった。


「認めたら、もっと一緒にいたくなりそうです」

「うん」

「そうしたら、離れた方がいいと思っても、離れられなくなるかもしれません」


口にして、ようやく気づいた。

怖いのは、そこでもあったのだ。


好きになったら。

今より、もっと大切になったら。


守るためだと思っても、そばにいたい方を選んでしまうかもしれない。


ルシア様は、すぐには返事をしなかった。


「……だから、気づかないようにしていたのか」


静かに言われ、私は頷いた。


「でも、うまくいかなくて」


ノアを見つけると、嬉しい。

ほかの方と楽しそうにしていると、気になる。


考えないと決めたからって、都合よく止まってはくれなかった。


……私の気持ちなんだから、もう少し言うことを聞いてくれてもいいのに。


そう思ってから、少しだけ笑ってしまう。


ルシア様が、私の顔を見た。


「何?」

「いえ。考えないようにするのも、結構大変だなって」

「そうだろうな」

「大変なんです。本を読んでいたはずなのに、窓の外が気になったり」


小声で言うと、彼の口元が緩んだ。

けれど、続く声は真面目だった。


「怖いことが起きる理由と、君がどう感じているかは、分けて考えてもいいと思う」


私は黙って聞いた。


「嬉しかったことを認めても、危険を忘れることにはならないだろう」


……そうか。


ノアといて楽しいと思ったら、守ろうとしていたことまで忘れてしまう。

どこかで、そう考えていたのかもしれない。


でも、今だって。

一緒にいたいと思いながら、危険な目には遭わせたくない。


どちらも、本当だ。


「……すぐに、答えを出さなくてもいいんですね」

「ああ。相手を大切に思うなら、なおさら、ちゃんと考えればいい」


私は小さく頷いた。


わからないことは、まだたくさんある。


何が彼らの死に繋がるのか。

今の世界でも、同じことが起こるのか。

それから、私はどうしたいのか。


「……考えることが、増えました」

「一度に片づけようとするからだろう」

「そんなつもりは……」

「本も、昼休みのうちに全部読もうとしていたし」


思わず、彼を見る。


「それ、この前ここでお会いした日の話でしょう!」


ルシア様が笑った。

私もつられて笑い、ようやく椅子の背へ少し体を預ける。


窓の外には、もうノアたちの姿はなかった。

何を話していたのか、今も少し気になる。


でも、その気持ちを追い払うことばかり、頑張らなくてもいいのかな。


* * *


「……本のお話をするつもりだったのに」


目の前のページを見て呟く。


「途中から、全然違うお話になってしまいました」

「君が話したくなったなら、それでいい」


顔を上げると、ルシア様がこちらを見ていた。


「話せて、少し楽になった?」

「はい」


そこは、迷わず答えられた。


怖くなくなったわけではない。

答えが見つかったわけでもない。


でも、一人で同じことばかり考えていたときより、少しだけ頭の中が整理できた気がした。


「ルシア様には、何でも話してしまいそうです」

「話せばいい」

「……そんなことを言うと、本当に毎回聞いてもらいますよ?」

「そのつもりだけど」


返事が早くて、私は口を閉じた。


……この方、本当に。

どうして、いつもそんなふうに言えるんだろう。


嬉しいのに、返す言葉が見つからなくなる。


ルシア様は私の顔を見てから、本へ栞を挟んだ。


「少し休憩にしよう」

「……はい」


時計へ目を向ける。

迎えまでは、まだ時間があった。


そのあと、本の挿絵が目に入った。


さっきから気になっていた、小さな印。

相談を始める前に、尋ねようとしていたのだ。


「ルシア様。では、もう一つ聞いてもいいですか?」

「もう休憩は終わり?」

「あっ……それは、まだです」


顔を見合わせて、笑ってしまった。


「じゃあ、質問だけ先に。答えは休憩のあとでお願いします」


そう答えると、彼は楽しそうに頷いた。

私はノートを引き寄せる。


帰ったら、もう少し考えてみよう。


怖い未来を、そのまま受け入れるのではなく。

大切な人を守るために、今の私に何ができるのかも。


私は本をルシア様の方へ少しずらし、ページの隅にある小さな印を指さした。


「あの、この印は何ですか?」


ルシア様が、本を覗き込む。

その顔を見て、私は少し笑った。


……休憩のはずが、また長くなりそうです。

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