二曲目の意味は、まだ聞けません②
曲が終わると、ノアは私を広間の端へ送ってくれた。
手が離れたところで、薔薇色の髪が目に入る。
「セレティア様」
「あっ、ローゼリア様!」
嬉しくなって、思わず一歩近づいた。
「お会いしたかったんです!」
「ふふ。わたくしもですわ。ようやく、お話しできますわね」
「ご挨拶が遅くなってしまって」
「お気になさらないで。ずいぶん、お忙しそうでしたもの」
……見られていた。
ご挨拶しているところ?
踊っているところ?
まさか、さっきノアの前で慌てていたところまで!?
ローゼリア様はノアとも挨拶を交わし、それから私へ目を戻した。
「今日は、社交のお勉強も兼ねて来たんですけど……」
「では、成果はいかがでした?」
「思っていたより、難しいです!」
答えると、彼女が小さく笑った。
「ええ。大勢の方とお話しすると、気も張りますものね」
「ローゼリア様は、いつも落ち着いていらっしゃるから」
「わたくしだって、気を張ることはありますわ」
意外で、顔を上げる。
「そうなんですか?」
「ええ。ですから、気兼ねなくお話しできる相手がいると、ほっとするのです」
その視線が、一瞬だけノアへ向いた。
……あ。
今、私も同じようなことを言った。
隣のノアを見る勇気がなくて、私はローゼリア様へ頷いた。
「……はい。それは、よくわかります」
そのとき、広間の向こうからノアを呼ぶ声がした。
公爵閣下が立っている。
ノアはそちらへ顔を向けてから、私を見る。
「ご家族のところまで、送ろうか」
「わたくしも、ご一緒いたしますわ。ちょうど、お母様へご挨拶したかったので」
ローゼリア様が言ってくれたので、私は頷いた。
「大丈夫。ノアも、行ってきて」
「……うん」
ノアが礼をして離れていく。
その背中を見送り、私はそっと息をついた。
さっき、令嬢と踊りに行ったときとは違う。
今は、また話せたことの方が嬉しかった。
「本当に、お似合いのお色ですわね」
ママのところへ向かいながら、ローゼリア様が私のドレスへ目を向けた。
「ありがとうございます! ローゼリア様も、とてもお綺麗です」
「ふふ。ありがとうございます」
「そのドレス、髪のお色にぴったりですね」
近くで見ると、刺繍も素敵だった。
思わず目を向けていると、ローゼリア様が楽しそうに笑う。
「今度は、お茶をいただきながら、ゆっくりお話ししたいですわね」
「ぜひ!リリアさんにも、今日のことをお話ししたいです」
そうだ。
聞いてほしいことが、たくさんある。
そこで、銀灰色の青年を思い出した。
「あの、ローゼリア様。綺麗な銀灰色の髪の方を、ご存じですか?」
「先ほど、テラスでご一緒だった方ですか?」
「はい。お名前を伺う前に、お別れしてしまって」
ローゼリア様は少し考えてから、首を横へ振った。
「申し訳ありません。わたくしも、存じ上げない方ですわ」
「そうなんですね」
少し残念だった。
あんなに目立つ方なら、どなたかご存じかと思ったのだけれど。
「気になる方でしたの?」
「えっ」
慌てて顔を向ける。
「お話をしたので、お名前くらいは知っておきたくて! 猫のお話も聞いてくださったんです」
「まあ。ルゥちゃんの?」
「はい! 髪の色が似ていたので、つい」
答えると、ローゼリア様がくすっと笑った。
「セレティア様らしいですわね」
……私、そんなに猫の話をしているかな。
しているかもしれない。
ルゥ、可愛いもの。
「初めてお会いしたのに、何だか話しやすい方だったんです」
続けると、ローゼリア様は穏やかに頷いた。
「そういう出会いも、あるのでしょうね」
……出会い。
そう言われると、少しだけ照れくさい。
今夜は、いろいろな方と話した。
知らなかった薬草のことも聞けたし、また話したいと思う方もいた。
それは、きっといいことだ。
ただ、ノアが誰かと踊るのは、気になって。
自分を迎えに来てくれたら、嬉しくて。
その気持ちは、どこへ置けばいいのだろう。
「……社交のお勉強って、本当に難しいですね」
ぽつりと言うと、ローゼリア様が口元を緩めた。
「それは、社交だけのお悩みかしら?」
私は顔を上げた。
……え。
どうして今、ノアの顔が浮かんだの!?
何と返せばいいのかわからずにいると、彼女はそれ以上尋ねず、優しく微笑んだ。
ますます、頬が熱くなる。
……今度のお茶会。
私だけ、質問される側になりそうな気がする!




