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『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
第1章 恋愛しないはずの学園生活

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見つけるって、言ったでしょう?②

そのあとも、パパたちの知人へのご挨拶が続いた。


学園のことを尋ねられたり、リオンの魔法の話になったり。一通り終える頃には、少し肩に力が入っていたことに気づいた。


……ふう。


失礼なことは、言わなかったよね?

そう思い返していたところで、声をかけられた。


「セレティア様」


顔を上げると、若い令息が丁寧に礼をした。


「学園では、何度かお見かけしております。ご挨拶してもよろしいでしょうか」


「はい」


私も微笑んで、礼を返す。


学年は一つ上だという。共通の先生の話になり、少し緊張がほぐれたところで、彼が広間の中央へ目を向けた。


楽団が演奏の準備を始めている。


「よろしければ、最初の一曲を――」


「失礼」


すぐそばから、聞き慣れた声がした。

顔を向けると、ノアが立っていた。


「その一曲は、先に約束しているんです」


穏やかな声だった。

令息がこちらを見たので、私も言葉を添える。


「申し訳ありません。最初の一曲は、お約束しておりまして」

「そうでしたか。では、また機会がありましたら」

「ありがとうございます」


礼をして見送ると、ノアが私を見る。


「……間に合った」

「ちゃんと覚えていたよ? 約束していたもの」


小声で答えると、ノアはほっとしたように笑った。

そこで、初めてゆっくりと向かい合う。

彼の視線が、髪からドレスへ移った。

そして、もう一度私の顔へ戻る。

何も言われない数秒が、妙に長かった。


……あれ。

何か、おかしいかな。


「……どう?」

「え?」

「ドレス。ミアが、髪も綺麗にしてくれたんだけど」


自分から尋ねてしまってから、急に恥ずかしくなった。

褒めてほしいって、言っているみたいじゃない!

ノアは少し目を見開いたあと、私を見つめた。


「綺麗だよ」


息が止まった。


「さっき、驚いた。すぐに言えなくて、ごめん」


……え。


驚くほど?

ノアが、私を見て?

嬉しさが込み上げて、つい頬が緩んでしまう。


「ありがとう! ノアも、すごく格好いいよ!」


言うと、彼の目がわずかに見開かれた。それから、口元へ手を添える。


……あれ。

今度は、ノアが黙っちゃった。


「ノア?」

「……うん。ありがとう」


少し顔を背けた耳が、赤く見えた。

もしかして、照れてる?

そう思ったところで、近くから咳払いが聞こえた。


パパだった。


二人そろって顔を向ける。


……そうでした。


家族、すぐそばにいました!

ノアは姿勢を正し、パパへ礼をする。


「セレティア嬢と、一曲踊らせていただいてもよろしいでしょうか」


パパは私を見て、それからノアを見た。少しだけ間があって、頷く。


「ああ。娘を頼むよ」

「はい」


ママの隣で、リオンが微笑んだ。


「姉様。足元に気をつけて」


……それ、今言わないで!

せっかく、足のことは忘れていたのに!


* * *


ノアが、私へ手を差し出す。

昨日と同じ仕草だった。

でも、今日は練習ではない。周囲には大勢の人がいて、音楽が始まろうとしている。


私は、その手へ自分の手を重ねた。


「……ちゃんと、見つけてくれたね」

小さく言うと、ノアが目を細めた。


「言ったでしょう?」

指先が、優しく握られる。


「見つけるって」

胸が跳ねた。


……もう。

そんなふうに言われたら、余計にどきどきするでしょう。


広間の中央へ進み、ノアと向かい合う。

腰へ手が添えられ、私も彼の肩へ手を置いた。


大丈夫。

昨日、ちゃんと踊れた。


「緊張してる?」

「してるよ。ノアは?」

「僕も」

「……本当? 落ち着いて見える」

「そう見えるように、頑張ってるから」


少し照れたように笑われ、私も笑った。

ノアも同じなんだ。

そう思うと、肩の力が少し抜けた。


音楽が始まる。

最初の一歩。

ノアに合わせて、足を動かす。

向きを変える前に、手がわずかに動いた。


ああ、こっちだ。

ついていくと、ドレスの裾が柔らかく広がった。


……よかった。

ちゃんと、覚えてる。


「今日も、つけてくれてありがとう」


ノアの視線が、髪飾りへ向いていた。

嬉しくなって、私はつい答えた。


「これに合うドレスを、選んだの」


言ってから、はっとする。

そこまで言うつもりじゃ、なかったのに。

ノアの瞳が、私へ戻った。


「……そうなんだ」


笑う声が、少しだけ甘くなる。


「そんなことを聞いたら、今日のこと、忘れられなくなるよ」


足の順番が、頭から消えかけた。


……待って。

今は、踊っているところなんですけど!


「……まだ、始まったばかりだよ?」


「うん。だから、楽しみ」


ノアが笑う。

何も返せなくて、私はその顔を見つめた。

嬉しい。

でも、こんなに嬉しくなってしまって、大丈夫なのかな。


恋愛には関わらない。

そう決めたことが、頭の片隅をよぎる。

ただ、一緒に踊って楽しいと思うくらいは。


……いいよね?


答えは出ないまま、また向きを変える。

今度は迷わずついていけた。

嬉しくなってノアを見ると、彼も笑っていた。


つられて、私も笑う。

気がつけば、最初ほど周りの視線は気にならなくなっていた。

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