見つけるって、言ったでしょう?②
そのあとも、パパたちの知人へのご挨拶が続いた。
学園のことを尋ねられたり、リオンの魔法の話になったり。一通り終える頃には、少し肩に力が入っていたことに気づいた。
……ふう。
失礼なことは、言わなかったよね?
そう思い返していたところで、声をかけられた。
「セレティア様」
顔を上げると、若い令息が丁寧に礼をした。
「学園では、何度かお見かけしております。ご挨拶してもよろしいでしょうか」
「はい」
私も微笑んで、礼を返す。
学年は一つ上だという。共通の先生の話になり、少し緊張がほぐれたところで、彼が広間の中央へ目を向けた。
楽団が演奏の準備を始めている。
「よろしければ、最初の一曲を――」
「失礼」
すぐそばから、聞き慣れた声がした。
顔を向けると、ノアが立っていた。
「その一曲は、先に約束しているんです」
穏やかな声だった。
令息がこちらを見たので、私も言葉を添える。
「申し訳ありません。最初の一曲は、お約束しておりまして」
「そうでしたか。では、また機会がありましたら」
「ありがとうございます」
礼をして見送ると、ノアが私を見る。
「……間に合った」
「ちゃんと覚えていたよ? 約束していたもの」
小声で答えると、ノアはほっとしたように笑った。
そこで、初めてゆっくりと向かい合う。
彼の視線が、髪からドレスへ移った。
そして、もう一度私の顔へ戻る。
何も言われない数秒が、妙に長かった。
……あれ。
何か、おかしいかな。
「……どう?」
「え?」
「ドレス。ミアが、髪も綺麗にしてくれたんだけど」
自分から尋ねてしまってから、急に恥ずかしくなった。
褒めてほしいって、言っているみたいじゃない!
ノアは少し目を見開いたあと、私を見つめた。
「綺麗だよ」
息が止まった。
「さっき、驚いた。すぐに言えなくて、ごめん」
……え。
驚くほど?
ノアが、私を見て?
嬉しさが込み上げて、つい頬が緩んでしまう。
「ありがとう! ノアも、すごく格好いいよ!」
言うと、彼の目がわずかに見開かれた。それから、口元へ手を添える。
……あれ。
今度は、ノアが黙っちゃった。
「ノア?」
「……うん。ありがとう」
少し顔を背けた耳が、赤く見えた。
もしかして、照れてる?
そう思ったところで、近くから咳払いが聞こえた。
パパだった。
二人そろって顔を向ける。
……そうでした。
家族、すぐそばにいました!
ノアは姿勢を正し、パパへ礼をする。
「セレティア嬢と、一曲踊らせていただいてもよろしいでしょうか」
パパは私を見て、それからノアを見た。少しだけ間があって、頷く。
「ああ。娘を頼むよ」
「はい」
ママの隣で、リオンが微笑んだ。
「姉様。足元に気をつけて」
……それ、今言わないで!
せっかく、足のことは忘れていたのに!
* * *
ノアが、私へ手を差し出す。
昨日と同じ仕草だった。
でも、今日は練習ではない。周囲には大勢の人がいて、音楽が始まろうとしている。
私は、その手へ自分の手を重ねた。
「……ちゃんと、見つけてくれたね」
小さく言うと、ノアが目を細めた。
「言ったでしょう?」
指先が、優しく握られる。
「見つけるって」
胸が跳ねた。
……もう。
そんなふうに言われたら、余計にどきどきするでしょう。
広間の中央へ進み、ノアと向かい合う。
腰へ手が添えられ、私も彼の肩へ手を置いた。
大丈夫。
昨日、ちゃんと踊れた。
「緊張してる?」
「してるよ。ノアは?」
「僕も」
「……本当? 落ち着いて見える」
「そう見えるように、頑張ってるから」
少し照れたように笑われ、私も笑った。
ノアも同じなんだ。
そう思うと、肩の力が少し抜けた。
音楽が始まる。
最初の一歩。
ノアに合わせて、足を動かす。
向きを変える前に、手がわずかに動いた。
ああ、こっちだ。
ついていくと、ドレスの裾が柔らかく広がった。
……よかった。
ちゃんと、覚えてる。
「今日も、つけてくれてありがとう」
ノアの視線が、髪飾りへ向いていた。
嬉しくなって、私はつい答えた。
「これに合うドレスを、選んだの」
言ってから、はっとする。
そこまで言うつもりじゃ、なかったのに。
ノアの瞳が、私へ戻った。
「……そうなんだ」
笑う声が、少しだけ甘くなる。
「そんなことを聞いたら、今日のこと、忘れられなくなるよ」
足の順番が、頭から消えかけた。
……待って。
今は、踊っているところなんですけど!
「……まだ、始まったばかりだよ?」
「うん。だから、楽しみ」
ノアが笑う。
何も返せなくて、私はその顔を見つめた。
嬉しい。
でも、こんなに嬉しくなってしまって、大丈夫なのかな。
恋愛には関わらない。
そう決めたことが、頭の片隅をよぎる。
ただ、一緒に踊って楽しいと思うくらいは。
……いいよね?
答えは出ないまま、また向きを変える。
今度は迷わずついていけた。
嬉しくなってノアを見ると、彼も笑っていた。
つられて、私も笑う。
気がつけば、最初ほど周りの視線は気にならなくなっていた。




