↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
序章 家族

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/95

いつの間にか、いつもの場所に①

今日もノアは、いつもの場所でお茶を飲んでいる。

テーブルには紅茶とお菓子。少し離れたところには、いつものようにミアが控えている。


リオンは今、王都から来た魔術の先生とお稽古中。

つまり、ここにいるのは私とノア。


……あれ?


私は紅茶のカップを持ったまま、ノアを見た。

なんで私、攻略対象と二人で普通にお茶してるの?

しかも、なんだかもう、これが通常モードになってない?


前は二、三週間に一度くらいしか来なかったのに、最近は三日に一度くらい来る。

来たら来たで普通にお茶を飲んで、リオンとも話して、夕食まで食べて帰ることもある。


――まずい。

なるべく関わり合いたくないのにー!


「ティア」

「なに?」

「今日も魔法の練習をするのか?」

ノアに聞かれて、私は首を横に振った。

「んー。今日は王都から魔術の先生が来てるから、私は参加しないの」


今日の先生は、リオンのために来ている。

私も一緒に教えてもらうことはあるけれど、今日はリオンの訓練が中心だ。


「一人で練習しても楽しくないし。どうしようかなって思ってる」

「そうか」

ノアが紅茶のカップを置いた。

「俺は魔法が使えないから、詳しいことは分からないけど」

「うん?」

「ティアは、前よりずっと熱心に練習しているんだな」

「……え?」


思わずノアを見る。

「この前も、リオンと一緒に頑張っていただろう?」

「……」

「努力しているのは、見ていれば分かるよ」


なに。急に。


「あ……そう」

なんだか落ち着かなくなって、私はカップに視線を落とした。

「ありがとう」


こんなふうにノアが思ってくれてるなんて、知らなかった。

ずっと私のことを見ていたってこと?


……いやいや。違う。そういう意味じゃない。


「そんなふうにノアが思ってくれてるって、知らなかった」

「そうか?」

ノアは少し考えるように首を傾げた。

「伝わっていると思っていた」

「全然知らなかった」

「……そうか」


ノアが少し黙る。それから、私を見た。

「じゃあ、これからはちゃんと言う」

「……え?」


思わず顔を上げると、青い瞳がまっすぐ私を見ていた。

「…………」


なになに? なんなの?

最近のノア、なんか甘くない?


やめてー! これ以上、親密になったら困るんだから!


私は慌てて話題を変えた。

「そ、そういえば! ノアって剣術が得意なんだっけ?」

「剣術?」

「うん」

「そうだな。幼い頃から習っている」

「すごいね!」


素直にそう言うと、ノアは少し困ったような顔をした。

「義務みたいなものだ」

「義務?」

「公爵家の人間だからな。得意かと言われると……ありがたいことに、成績は残せている」

「……」


私はじっとノアを見る。

「ノアって、固くない?」

「固い?」

「うん。固い」

ノアが眉を寄せた。

「固いかどうかは分からないが、公爵家の次期当主として、いろいろなことを学ばなくてはいけないとは思っている」

「まあ、そうなんだろうけど……」


私は頬杖をついた。

勉強して、剣術をして、公爵家の仕事についても学んで。

まだ十二歳なのに、毎日忙しそう。


「そんな生活してたら、気づいたときにはおじいちゃんになっちゃうよ?」

「……おじいちゃん?」


ノアが本気で困惑した顔をした。

私は少し離れたところにいたミアに同意を求める。

「ねえ、ミア?」

「お嬢様。ノア様もお忙しい中、時間を作っていらっしゃるのですよ」

「……はーい」


どうやらミアはノアの味方らしい。


「だって、そうじゃん。もっと人生楽しまないと!」

私はノアに向き直った。

「ねえ、ノア」

「なんだ?」

「ノアは、何をしてるときに幸せって感じる?」

「……幸せ?」


ノアが少しだけ目を見開いた。そのまま黙ってしまう。

あれ? そんなに難しい質問だった?


「私はねー」

私は考えるまでもなく答えた。

「パパとママとリオンと一緒にいるとき!」


自然と笑顔になる。

「家族といると、幸せなの」

「……家族」

ノアが小さく繰り返した。

「うん!」


ノアは何かを考えるように黙った。

けれど、その答えを聞く前に――。


「姉様ー!」


庭の向こうから声が聞こえた。

「リオン!」

私は椅子から立ち上がり、こちらへ走ってきたリオンに駆け寄った。

「お稽古終わったの?」

「はい!」

「じゃあ、森にピクニックにいこー!」

「え?」

リオンが目を丸くする。


私はすぐにミアを振り返った。

「ミアー! ピクニックに行きたいんだけど、お弁当お願いできる?」

「かしこまりました。すぐにご用意いたします」

「ありがとう!」


ミアが屋敷へ戻っていくのを見送り、私はリオンに向き直った。

「姉様」

「なに?」

リオンが私の格好を上から下まで見る。

「その格好で行くの?」

「え?」


私は自分のスカートを見下ろした。

いつもの服だけど。


「スカートで木に登らないでくださいね」

「……」

「姉様?」

「あれは、帽子が枝に引っかかったから仕方なかったの!」

「その場合は、僕を呼んでください」

「はーい」

「本当に分かってます?」

「分かってるってば」


最近、リオンがパパみたい。


「姉様は一人にしておくと、何をするか分からないですから」

「そんなことないもん」


そう言い返していると、リオンがノアのほうを見た。

「ノア兄様も、一緒にピクニックに行かれますか?」

「え?」


私が振り返ると、ノアは迷う様子もなく立ち上がった。

「ああ。付き合う」

「えーーー!」


思わず声が出た。

「ノアも来るの!?」

「……駄目なのか?」

「駄目っていうか……」


困る。

一緒にお茶を飲んで、一緒に話して、今度は一緒にピクニック?

どんどん親密になっちゃうじゃん!


「姉様、みんなで行ったほうが楽しいですよ」

リオンが嬉しそうに笑う。

「……そうだね」


ううっ。そんな顔で言われたら断れない。


しばらくして、ミアが用意してくれた籠を持って、私たちは森へ向かった。


* * *


少し先を歩くティアとリオンを、ノアは後ろから眺めていた。


「姉様、走ったら危ないですよ」

「大丈夫だってば」

「この前もそう言って転びました」

「あれは地面に木の根っこがあったの!」

「だから、ちゃんと前を見て歩いてください」

「はーい」


ティアが笑っている。その隣で、リオンも笑っていた。


「ノアー!」

突然、ティアが振り返った。

「早く!」

「……ああ」

ノアは少しだけ歩く速度を上げた。


さっきまで、俺も来るのかと嫌そうな顔をしていたのに。今は何事もなかったように俺を呼んでいる。


ノアには、ティアの気持ちが分からなかった。

普通に笑って話していたと思えば、突然、困ったような顔をして離れていく。けれど、本気で拒絶されているようにも思えない。


近づいたと思えば、離れて。離れたと思えば、また笑いかけてくる。


――なんなんだろう。この感じ。


「ノア! 置いてっちゃうよー!」

前を歩くティアが、もう一度振り返った。

「……今行く」

ノアは思わず笑ってしまった。


分からない。だからこそ、やっぱり気になる。

ノアは二人のあとを追いかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。