↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
第1章 恋愛しないはずの学園生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
65/102

攻略対象と、二人きりは困ります!

剣術大会から、数日。


放課後、私は書類を抱えて生徒会室へ向かっていた。


薬学の先生から預かったのは、大会で使った備品の記録だ。準備を手伝った生徒の名前も添えられている。


生徒会室の近くを通る予定だったので、私がお届けすることになったのだけれど。


……紙って、まとまると意外と重い!


抱え直したところで、前方の扉が開いた。


「セレティア嬢?」


顔を上げると、ユリウス殿下が立っていた。


「ごきげんよう、殿下。こちらを、薬学の先生からお預かりしてまいりました」

「ああ。ありがとう」


差し出そうとすると、殿下が先に手を伸ばした。腕の中から、書類の束がすっと軽くなる。


「ずいぶんあったね」

「はい。でも、すぐそこからでしたので」

「それでも、助かったよ」


当たり前のように受け取られて、私は空いた手をそっと重ねた。


……王太子殿下に、荷物を持っていただいてしまった。


「お忙しいところ、失礼いたしました」

「待って。担当者が席を外していてね。少し確認させてもらってもいいかな」


殿下は表紙をめくり、項目を確かめた。


「備品の控えも照合しておこう。すぐ隣の資料室なんだが、少し付き合ってもらえる?」

「はい」


お届けするだけの予定が、少し延びた。


でも、確認が済めば終わりだもの。何も難しいことはない。


……うん。普通にお手伝いして、普通に帰りましょう!


* * *


資料室には、高い棚が何列も並んでいた。


窓はあるけれど、棚に光を遮られて、奥は少し薄暗い。殿下は入口に近い机へ書類を置き、棚から一冊の帳簿を取り出した。


「そこに掛けて。すぐ終わるから」

「ありがとうございます」


椅子を引こうとした、そのとき。背後で、ばたん、と大きな音がした。


思わず肩が跳ねる。振り向くと、開けてあった扉が閉まっていた。


「ああ、風か」


殿下が扉へ向かい、取っ手を下げる。


けれど、扉は開かなかった。


もう一度、少し押す。今度は引く。


……あれ?


殿下は取っ手の付け根を確かめ、小さく息をついた。


「留め金が引っかかったようだな」

「……開かない、ということでしょうか」

「今はね。外からなら、動かせると思う」


私は閉まった扉を見つめた。


つまり……閉じ込められた!?

しかも、王太子殿下と二人きり!?普通に帰る予定は、どこへ行ったのーーー!!


殿下は扉を数回叩き、廊下へ声をかけた。


「誰か、いるかな」


返事はなかった。


もう一度、強く扉を叩く。しばらく耳を澄ませたけれど、廊下に人の気配はない。


殿下は窓の外も確かめてから、懐中時計へ目を落とした。


「もうすぐ生徒会の打ち合わせがある。私が戻らなければ、誰かが探しに来るよ」

「そう、ですか」

「用事が長引いてしまって、すまない」


私は慌てて首を振った。


「殿下のせいではありません」

「君が一緒なのが、せめてもの救いかな」

「えっ?」


顔を上げると、殿下が少し笑った。


「一人で帳簿を眺めて待つより、ずっといい」


……あ。そういう意味、ですよね。

びっくりした。今、ちょっとだけ変な受け取り方をしちゃった!


* * *


「確認だけ、済ませてしまおうか」


殿下に促され、私は机へ戻った。


向かい合って帳簿を開く。先生から預かった記録と照らし合わせると、備品の数はすべて揃っていた。


「問題なさそうだね。ありがとう」

「いえ」


殿下が帳簿を閉じる。


……終わった。確認も終わってしまった。


私は膝の上で指を重ね、向かいの殿下へそっと目を向けた。


王太子で、生徒会長。ノアをからかうのが好きで、仕事では頼もしい人。


そして、乙女ゲームの攻略対象。


……今さらだけど、ものすごい方と二人きりなんですけど!


「セレティア嬢」

「は、はい」

「そんなに背筋を伸ばしていると、疲れない?」


指摘されて、肩の力を抜いた。


殿下が、口元を緩める。


「ノアがいたら、私が怖がらせたと思われそうだ」

「怖がっているわけでは……!」

「うん。それならよかった」


楽しそうな瞳を見て、ようやく少し笑えた。


「ノアには、いつもあのようにお話しになるのですか?」

「あのように?」

「その……少し、からかうように」


殿下は一瞬考え、それから頷いた。


「昔からだね。あいつは、何でもそつなくこなすから」

「それで、からかいたくなるんですか?」

「そう。もっとも、最近はわかりやすくて助かる」


……わかりやすい?


首を傾げると、殿下はそれ以上言わず、私を見た。


「君はどうかな。学園には慣れた?」

「はい。お友達もできましたし、授業も楽しいです」

「薬学も?」

「もちろんです!」


思わず即答すると、殿下が笑った。


「それは聞くまでもなかったか」


……うう。今の返事、元気すぎたかもしれない。


けれど殿下は、続きを聞くように私へ向き直った。


大会の準備で知ったこと。リリアが教えてくれた薬草の見分け方。


殿下はときどき質問を挟みながら、私の話を聞いてくださった。


話しているうちに、緊張していたことを少し忘れていた。


* * *


しばらくして、廊下の方から物音がした。


「……誰か、来た?」


私は顔を上げ、椅子から立ち上がった。殿下も席を立ち、扉へ目を向ける。


「声をかけてみよう」


私は殿下より少し先に、机の脇へ出た。棚との間を抜けようとしたところで、足先が椅子の脚に引っかかる。


「あっ」


前へ傾いた体を支えようとしても、足がついてこない。床が近づいた、と思った瞬間、すぐ後ろにいた殿下が私の横へ踏み出した。


片手が私の腕を捉え、もう片方が腰を支える。支えられた方へ体の向きが変わり、私は殿下と向かい合う形で踏みとどまった。


反射的に掴んだのは、殿下の袖だった。


「……大丈夫?」


顔を上げた途端、息が止まる。


すぐ目の前に、殿下のお顔があった。


……近い近い近い!

さっきまで、ちゃんと机一つ分の距離があったんですけど!?


「足を、ひねっていないかな」

「は、はい。大丈夫です」


殿下は足元を確かめ、自分の足で椅子を少し横へずらした。


「急がなくていい。ゆっくり、足を戻して」


落ち着いた声だった。腕を取る手も、腰を支える手も、私が立ち直るまで待ってくれている。


袖を掴んだ自分の指に気づき、ますます顔が熱くなった。


……私、王太子殿下にしがみついてる!?

待って。この方は攻略対象。しかも、ローゼリア様との婚約のお話もある方ーーー!!


「ありがとうございます……」


足を戻しかけたところで、扉の向こうから声がした。


「殿下?」

「ノア?」


私が顔を向けると、すぐに取っ手が動いた。


「ノア。留め金が引っかかっている。外側から動かせるかな」

「……少々お待ちください」


金具の擦れる音がして、扉が開く。


廊下の光が差し込んだところで、私はようやく両足を揃えた。


「よかった……!」


ほっとした私とは反対に、入口のノアは動きを止めた。


私はまだ、殿下と向かい合うように立っている。片手はその袖に添えたまま。殿下の手も、私の腰から離れるところだった。


ノアの視線が、私の顔から、その手へ落ちる。


「……何を、なさっているんですか」


いつもより低い声だった。


殿下は私が立っているのを確かめてから、手を離す。


「転びそうだったから、支えていたんだが?」


……そう! そのとおりです!


私は頷きながら、慌てて殿下の袖から手を離した。それを見たノアの口元が、きゅっと引き結ばれる。


……あれ。ノア、何だか怖いお顔になってませんか?


殿下はノアを見て、ほんの少しだけ口元を緩めた。


扉は開いた。これで帰れるはずなのに。

……なんだか、さっきより落ち着かないんですけどーーー!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。