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『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
第1章 恋愛しないはずの学園生活

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姉様の隣は、応援席です!

「姉様のお話を、ゆっくり聞かせてくださいね」


にっこりと微笑むリオンに、私は頷いた。


「うん!でも、その前にお昼にしようか」

「はい。僕も、まだですので」


リリアとローゼリア様にも声をかけ、四人で食堂へ向かう。


午前の試合を終えた生徒たちも来ているらしく、食堂はいつも以上に賑やかだった。どうにか席を見つけると、リオンが自然に私の隣へ座った。


「それで、姉様。何から伺いましょうか」

「えっとね、まず、アルヴィン様がいらしていたの!」


声を落として伝えると、リオンが目を丸くした。


「そうだったんですか」

「うん。審判をなさっていて。少し、お話もできたよ」

「あとで、僕もご挨拶したいです」


嬉しそうな弟を見て、私も頬が緩む。


「アルヴィン様、とても頼もしい方でしたね」


リリアが言うと、ローゼリア様も頷いた。


「荷物が崩れかけたところを、すぐに支えていらしたわ」

「そうなの! 私、見ているだけで……」


そこで、はっと口を閉じた。


……いけない。また、格好よかったところを思い出しちゃった。


リオンが、私を見上げるように少し顔を傾ける。


「姉様?」

「な、何でもないよ!それから、アシェル様にもお会いしたの」


話を続けると、リリアが嬉しそうに身を乗り出した。


「試合を見るときは、足元にも注目するといいと教えてくださったんです」

「へえ」

「おかげで、少し動きがわかるようになって!」


リオンは静かに話を聞いていた。それから、私へ目を戻す。


「では、午後は姉様に教えていただけますね」

「えっ、私が?」

「午前中に、たくさんご覧になったのでしょう?」


……うう。それを言われると、先生を見ていて試合を見逃したことが、ちょっと後ろめたい!


「わかるところだけ、ね」

「はい。楽しみにしています」


リオンは、楽しそうに笑っていた。


* * *


昼食を終えて会場へ戻ると、試合場の前に午後の組み合わせが貼り出されていた。


人の輪が途切れるのを待って、四人で覗き込む。


「あっ、ノア!」


名前を見つけて指さすと、リオンも掲示へ目を向けた。


本戦では学年の枠を越えて対戦する。ノアの最初の相手は、上級生だった。


対戦相手の名前も確かめていると、近くでその名を呼ぶ声がした。準備をしていた一人の生徒が、顔を上げて返事をする。


「体格のよい方ですわね」


ローゼリア様が、小さな声で言った。


肩幅も広く、ノアよりひと回り大きく見える。手にした剣を軽く振るだけで、ずいぶん力がありそうだった。


……あの方が、相手なんだ。


「姉様」


隣から呼ばれ、顔を向ける。


「まだ、試合は始まっていませんよ」

「えっ?」

「もう、お顔に力が入っています」


……しまった。

見る前から、こんなに緊張してどうするの、私!


私はそっと頬へ手を当てた。


「だって、強そうだったから」

「ええ。ですが、ノア兄様も強いでしょう?」

「……うん」


リオンは、落ち着いて頷いた。


「では、まずは見ましょう」


その言い方が少し大人びていて、私は思わず弟の顔を見た。


……こういうとき、頼りになるんだから。


* * *


本戦の開始が告げられ、私たちは観客席へ座った。


隣にはリオン。向こう側に、リリアとローゼリア様が並んでいる。飲み物を足元の荷物の脇へ置き、私は試合場へ目を向けた。


ノアが相手と礼を交わす。剣を構えると、午前中に見た、あの静かな顔になった。


……大丈夫。ノアは、ちゃんと練習してきたんだもの。


開始の合図が響いた。先に動いたのは、上級生だった。大きく踏み込み、剣を振る。

ノアが受けた瞬間、午前中より重い音が響いた。


思わず、指先に力が入る。


ノアは剣を押し返さず、斜めに下がった。相手がすぐに間合いを詰める。

一歩、もう一歩。


白い線が、ノアの背後へ近づいていた。


……待って。

このままだと、外に出ちゃう!


「姉様。足を」


リオンの小さな声に、ノアの足元へ目を向ける。


後ろ足が、線の手前で止まった。相手の次の踏み込みに合わせて、ノアの体が横へ動く。

上級生の剣が、さっきまでノアのいた場所を通った。


「……あっ」


ノアは、もう相手の正面にはいなかった。けれど、上級生もすぐに向き直る。剣が重なり、二人が距離を取った。


会場のあちこちから、息をつく音が聞こえた。


……今の、避けた!

でも、相手の方もすぐ戻った!


一度では終わらない攻防に、胸が忙しくなる。隣のリオンも、今は何も言わず見つめていた。


再び、相手が踏み込む。ノアが半歩下がった。

先ほどと同じように見えた、その瞬間、今度は後ろへ引いた足がすぐに前へ戻る。


相手の剣を受け流しながら、ノアが踏み込んだ。鋭い音とともに、その剣が胴を捉える。


「そこまで!」


審判の声が響いた。


一瞬、動けなかった。

それから、ノアの勝利が告げられる。


「……勝った」


隣で、リオンが拍手をした。その音で、ようやく私も拍手を始める。


「勝ったね、リオン!」

「はい」


嬉しくて弟を振り向くと、リオンも微笑んでいた。


「今の踏み込み、見えましたか?」

「うん!後ろに下がると思ったら、戻って……」

「ええ。相手の方も、次の一歩を読み違えたんでしょうね」


……すごい。

速さだけじゃなくて、相手がどう動くかまで考えているんだ。


試合場では、二人が礼を交わしていた。


ノアが顔を上げ、観客席を見る。


私は今度こそ、しっかり拍手を送った。


ノアが、少しだけ笑った。


* * *


試合が終わってから、飲み物を手に取り、私たちも通路へ出た。そこで、試合場から戻ってきたノアに会うことができた。


「お疲れさま、ノア!」

「ありがとう」


近づいてきた彼の額には、汗が浮かんでいた。息も、まだ少し弾んでいる。


「最後、見えたよ!一度下がってから、前に出たところ!」

「本当?」

「うん。途中で線が近くなったときは、ドキドキしたけど……」


言うと、ノアが苦笑した。


「あれは、少し下がりすぎたね」

「えっ」


全部、考えていたわけじゃなかったんだ。


私の表情を見て、ノアが続ける。


「途中で、動き方を変えたんだ。相手も強かったから」


その声を聞いて、改めて思った。


落ち着いて見えても、簡単に勝っているわけじゃない。試合の中で考えて、動いて、勝つ方法を探しているんだ。


「……勝ててよかったね」

「うん」


ノアは頷いてから、リオンへ顔を向けた。


「来られたんだね」

「はい。間に合ってよかったです」

「どうだった?」

「お見事でした。姉様も、ずっと応援されていましたよ」


……リオン!

それは、見ればわかるでしょう!?


ノアが私を見る。私は、慌てて頷いた。


「も、もちろん!」

「うん。見えてた」


その返事に、少しだけ頬が熱くなった。


リオンが、私の手元へ目を落とす。


「姉様、少しお持ちします」

「え?」


返事をする前に、飲み物をそっと受け取られた。

空いた手を、私は何となく開いたり閉じたりする。


……あ。試合中、ずっと力を入れていたからかな。まだ指がこわばってる。


リオンは容器を持ったまま、ノアへ微笑んだ。


「次も、頑張ってくださいね」

「うん。ありがとう」


ノアが私の手元を見て、少し眉を下げた。


「ティア。次は、もう少し楽に見ていてね」

「それは、ノアの試合次第かな……!」


思わず答えると、ノアが声を漏らして笑った。リリアも、ローゼリア様も笑っている。


私までつられて笑ったところで、会場から次の案内が響いた。


まだ、大会は続く。


ノアが試合場へ戻るのを見送り、私はリオンから飲み物を受け取った。


「ありがとう」

「どういたしまして」


弟は何事もなかったように、私の隣へ並ぶ。


……ふふ。

午後から来たのに、すっかり頼りにしちゃってるなぁ。


「次も、一緒に応援しようね」

「はい、姉様」


にっこりと答える弟と、観客席へ向かう。


次の試合では、手を握りしめすぎないようにしよう。


……たぶん。

それがいちばん難しいんだけど!

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