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『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
第1章 恋愛しないはずの学園生活

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剣を握った幼馴染は、知らない顔をしていた

観客席へ着く頃には、会場はすっかり賑わっていた。


試合場を囲むように席が並び、中央には白い線で区切られた区画がある。出場する生徒たちが、その端で剣や防具を確かめていた。


「よく見えますね!」


リリアが、隣へ腰を下ろす。


「ええ。こちらなら、試合全体が見渡せますわ」


ローゼリア様も頷いた。


私は飲み物を膝の上へ置き、出場者たちへ目を向ける。


……ノア、どこかな。


黒髪を探していると、試合場の向こうに見慣れた姿があった。


上着を脱ぎ、防具を身につけている。剣の柄へ手を置き、相手の生徒と言葉を交わしていた。


「あっ、いた!」


小さく声を上げると、ノアが顔を向けた。


目が合う。


私は胸元で、そっと手を振った。


ノアの表情が柔らかくなる。軽く手を上げて応えてくれたので、私も嬉しくなった。


……ふふ。気づいてくれた!


「セレティア様を見つけるの、お早いですね」


リリアが感心したように言う。


「ちょうど、こっちを見ていたからじゃないかな?」

「そうですわね」


ローゼリア様は、なぜか楽しそうだ。


……あの。その笑い方、最近よく見かける気がするんですけど!


* * *


開会の挨拶が終わり、予選が始まった。


審判の合図に合わせて、生徒たちが剣を構える。


会場に響く足音と、剣を打ち合わせる音。一人が踏み込むたび、観客席から小さな声が上がった。


……速い!


師匠に教わったことがあるとはいえ、私が見ていたのは練習が中心だ。


勝つために向き合う二人の動きは、思っていたよりずっと緊張感があった。


この大会では、定められた部位への有効な打突が一本認められると、勝敗が決まる。防具があるとはいえ、見ているだけでも力が入ってしまう。


「今のは、どうして止まったのでしょう?」


リリアが、小声で尋ねる。


「線の外へ出てしまったからみたい」


私は試合場の端を指した。


先ほど説明された規則では、場外へ出た場合も試合が止められる。相手の剣だけでなく、足元や周囲も見ていなければならないのだ。


……剣を振るだけじゃないんだよね。

頭も体も、忙しすぎる!


何試合かが終わり、次の出場者が呼ばれた。


「ノア・ヴォルフィード」


胸が、少し弾む。


ノアが試合場へ進み、相手と礼を交わした。


審判を務めるのは、アルヴィン様だ。さっき私と話していたときとは違う、引き締まった表情で二人を確認している。


……師匠も、ノアも。急に遠く見えるな。


ノアが剣を構えた。


その瞬間、私は背筋を伸ばした。


いつもの柔らかな笑顔が、消えていた。


* * *


開始の合図とともに、相手が踏み込んだ。


ノアは半歩引き、剣を受ける。


鋭い音が響いた。


続けて、もう一度。相手は足を止めず、攻め込んでいく。


私は思わず、膝の上で手を握った。


……ノア。


けれど、彼の足取りは乱れていなかった。


相手の剣を受け流し、向きを変える。大きく動いているようには見えないのに、次の一撃が届く場所から、すっと外れていた。


そして、相手の踏み込みが深くなった瞬間、ノアが前へ出た。


相手の剣を外側へ払い、空いた胴へ踏み込む。


「そこまで!」


アルヴィン様の声が響いた。


ノアの剣は、相手の防具の胴を捉えていた。


一拍遅れて、観客席から拍手が起こる。


「……すごい」


気づいたら、声が漏れていた。


受けていたと思ったのに、あっという間に攻めに変わった。


……今の動き、もう一回見たい!

できれば、もう少しゆっくり!


相手の生徒は自分の胴へ目を落とし、それからノアに向かって頷いた。


二人が礼を交わす。


ノアが剣を下ろすと、張り詰めていた空気も少し和らいだ。


「お見事でしたわね」

「はい! 最後、とても速かったです!」


二人の声に、私はようやく頷いた。


「……うん。本当に」


知っていた。


ノアが剣術を頑張っていることも、才能があることも。大会で優勝したことがあるのだって。


でも、目の前で見た姿は、私の知っている優しい幼馴染とは違っていた。


静かで、迷いがなくて。


……格好いい。


そう思った途端、なんだか落ち着かなくなった。


いや、格好いいのは前から知っていたけど!

今のは、そういうことじゃなくて!


……じゃあ、どういうこと!?


自分で自分に聞いても、答えなんて出なかった。


* * *


次の試合までの休憩に入り、私は二人と席を立った。


少し歩いて戻ろうとしたところで、試合場の脇からノアが出てくる。


「あっ、ノア!」


声をかけると、こちらへ顔を向けた。


さっきまでの鋭い眼差しが、ふっと柔らかくなる。


「ティア」

「お疲れさま! すごかったね!」


近づいて言うと、ノアは小さく息をついて笑った。


「ありがとう。見えてた?」

「うん!最後、すごく速くて……私、びっくりしちゃった!」


ノアは少しだけ照れたように、視線を落とした。


「うまく合わせられたから」

「相手の方、ずっと攻めていたでしょう? でも、ノアは慌てていなくて」

「……そう見えた?」

「うん!」


頷くと、ノアは私を見た。


「それなら、練習した甲斐があったね」


その言葉に、もう一度、さっきの試合を思い出した。


あの落ち着いた動きも、何度も練習して身につけたものなんだ。


「……格好よかったよ」


素直に、そう言った。


ノアが、ぴたりと動きを止める。


「……本当に?」

「うん。すごく!」


答えたあとで、少し恥ずかしくなった。


……あれ。本人に言うと、急に照れる!


けれど、ノアは笑ってからかったりしなかった。


一度だけ口元へ手を当て、それから私を見る。


「……そっか」


その耳が、少し赤い気がした。


私も何となく視線を落とし、飲み物の容器を両手で持ち直す。


「次も、見ていてくれる?」


ノアの声に、顔を上げた。


「もちろん! リオンも、午後は応援に来るって」

「うん」

「だから、本戦まで勝ち進んでね!」


そう伝えると、ノアが小さく笑った。


「それは、頑張らないとね」


会場の中から、次の出場者を確認する声が聞こえた。


ノアはそちらを見てから、私へ向き直る。


「じゃあ、行ってくる」

「うん。怪我には気をつけてね」


彼は頷き、試合場へ戻っていった。


その背中を見送っていると、ローゼリア様が静かに口を開いた。


「次の試合も、楽しみですわね」

「……はい」


頷いてから、私は手元の飲み物へ目を落とした。


剣を構えたノア。

私を見つけて、いつもの顔に戻ったノア。


どちらも、同じ人なのに。


……知らないノア、まだまだいるんだなぁ。


そう思いながら顔を上げた、そのときだった。


会場の入り口付近が、ふいにざわめく。


「あの方……」

「国家魔術師の、アシェル様では?」


聞こえてきた名前に、私は思わず振り向いた。

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