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『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
第1章 恋愛しないはずの学園生活

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ししょー!……ではなく、アルヴィン様!

剣術大会、当日の朝。


学園の正門をくぐると、いつもとは違う賑わいが迎えてくれた。


会場へ続く道には案内板が立ち、荷物を抱えた生徒たちが行き交っている。遠くからは、剣を打ち合わせる音まで聞こえた。


……いよいよだ!


私たちが確認した薬草や備品も、昨日のうちに担当の先生へ引き渡してある。今日は全部、必要なところへ届いているはずだ。


「姉様、楽しそうですね」


隣を歩くリオンが、微笑んだ。


「うん!リオンは、午前中は授業だよね?」

「はい。今日は中等部も午後から観戦できるので、本戦には間に合います」

「じゃあ、あとで一緒に見ようね!」


中等部は午前中に通常の授業を受け、午後は希望する生徒が大会を観戦できることになっている。


朝から一緒に見られないのは少し残念だけれど、午後には合流できる。それまで、リオンの分もしっかり応援しておこう。


「ノア兄様にも、頑張っていただかないと」

「そうだね。午後まで勝ち進んでくれたら、リオンも応援できるね!」


私が頷くと、リオンは楽しそうに目を細めた。


「ええ。ぜひ、お伝えしておいてください」

「うん!」


中等部へ向かう道の分かれ目でリオンと別れ、私は会場へ歩き出した。


* * *


「セレティア様!」


会場の入り口近くで、リリアが手を振っていた。その隣には、ローゼリア様もいる。


「おはようございます!」

「おはよう、リリアさん。ローゼリア様も」

「ごきげんよう。今日は、ずいぶん賑やかですわね」


三人で案内を確かめていると、近くにいた生徒たちの声が聞こえた。


「王国騎士団の方々、もういらしているのね」

「あちらの方が、審判を担当されるそうよ」


思わず顔を上げる。


会場の端で、数人の騎士が学園の先生と話していた。


その中に、見覚えのある姿があった。


……あ。


騎士服を着て、背筋を伸ばして立つ姿。先生の説明を聞き、短く頷く仕草。


「では、試合前に改めて確認を」


聞き慣れた声に、胸が弾む。


「ししょ……!」


慌てて口を閉じた。


……危ないーーー!!

ここ、学園!しかも、お仕事中!


私は一度息を吸い、姿勢を正した。


「……アルヴィン様!」


声に気づいた彼が、こちらを向く。


目が合った途端、アルヴィン様がわずかに目を見開いた。


何かを言いかけた唇が止まる。その視線が、私の顔に留まった。


……あれ?もしかして、声が大きすぎた?


心配になりかけたところで、彼の表情がふっと和らいだ。


「……セレティア様」


聞き慣れた呼び方に、頬が緩む。


来てた。本当に、来てくれたんだ!


嬉しくて、つい足が前へ出そうになった。けれど、まだお話の途中かもしれない。


その場で待っていると、アルヴィン様が先生へ何かを告げ、こちらへ歩いてきた。


「おはようございます」

「おはようございます!今日は、審判をなさるんですか?」

「ええ。騎士団から、運営に協力することになりました」


近くで見ると、騎士服の留め具が朝の光を受けて輝いていた。腰には剣があり、立っているだけでも自然と目を引く。


……そっか。今日は、私の師匠としてではなく、王国騎士としていらしているんだ。


「学園生活は、いかがですか?」

「楽しいです!お友達もできましたし、今日は大会の観戦も楽しみにしていて」


私が二人を振り返ると、リリアとローゼリア様が丁寧に挨拶をした。アルヴィン様も礼を返す。


「セレティア様、お知り合いでしたのね」


ローゼリア様の問いに、私は頷いた。


「はい。以前、お世話になったことがあるんです」


剣を教わったことまで、ここで話す必要はない。


……うん。ちゃんと、ご挨拶できてる。

さっきの「ししょ」は、たぶん聞こえていないはず!


そう思って顔を戻すと、アルヴィン様が私を見ていた。


その口元が、わずかに緩む。


……あっ。これは、聞こえていた顔では!?


* * *


「アルヴィン卿」


先生に呼ばれ、アルヴィン様が振り向いた。


「少し、確認をお願いできますか」

「承知しました」


私たちへ向き直り、軽く頭を下げる。


「失礼します。また、あとで」

「はい。お仕事、頑張ってください」


見送ろうとした、そのときだった。


荷物を運んでいた生徒が、会場から出てきた人を避けようとして足を止めた。


抱えていた木箱が傾く。


「あっ」


布包みが滑りかけた瞬間、アルヴィン様が一歩踏み出した。


片手で箱の底を支え、もう片方の手で荷物を押さえる。


「大丈夫です。ゆっくり下ろしてください」


近くの台へ箱を置くまで支えてから、アルヴィン様が手を離した。


「お怪我は?」

「ありません。ありがとうございます!」

「それならよかった。人が多いので、運ぶときは二人で」


駆け寄った別の生徒が箱の反対側へ手をかける。それを見届けて、彼は先生のところへ戻っていった。


……速かった。

私が「あっ」と言っている間に、もう支えていた!


「頼もしい方ですね」


リリアが、小さく呟く。


「ええ。周りをよく見ていらっしゃいますわ」


ローゼリア様も頷いた。


……そうなの。師匠って、格好いいんだよね。


小さい頃から知っていたはずなのに、騎士服で人の輪へ戻っていく背中を、私はもう少しだけ目で追っていた。


* * *


観客席の場所を確認したあと、リリアとローゼリア様は飲み物を見に行った。


私は入り口近くに戻り、掲示された予選の組み合わせを確かめる。


ノアの名前は、すぐに見つかった。


……よし。この試合なら、ここから近いね!


「ノア様の試合ですか?」


声に顔を上げると、確認を終えたらしいアルヴィン様が立っていた。


「はい。応援に来たんです」

「彼の試合は、私も楽しみにしています」

「ノア、ずっと頑張っていますものね」


私が笑うと、アルヴィン様も頷いた。


人の流れから少し脇へ寄ると、周りの声が遠くなる。


「リオン様は?」

「午前中は授業です。午後には来られると思います」

「では、あとでご挨拶できそうですね」

「はい。きっと喜びます!」


答えてから、私は少しだけ声を落とした。


「……ししょーがいらして、嬉しいです」


アルヴィン様が、私を見る。


……あ。つい、言っちゃった。


慌てて言い直そうとしたけれど、その前に彼が笑った。


「先ほども、そう呼びかけていましたね」

「……聞こえていたんですか?」

「ええ」


……やっぱりーーー!!


頬が熱くなる。


「お仕事中なのに、すみません。ちゃんと呼ぼうと思っていたんですけど」

「呼び直したのは、私に気を遣ってくださったからでしょう?」


私は、小さく頷いた。


「お話の途中でしたし、ここではアルヴィン様とお呼びした方がいいかと思って」

「ありがとうございます」


穏やかに返されて、ほっとする。


「ただ、声を聞いて、すぐにわかりましたよ」

「……私だって?」

「ええ」


アルヴィン様の目元が和らいだ。


「変わらない呼び方だったので」


……うう。私だけ、小さい頃に戻っちゃったみたいじゃない!


「私も、少しは大人になったつもりなんですけど」

「ええ。わかっています」


思っていたより静かな返事に、顔を上げた。


アルヴィン様は私をまっすぐ見て、柔らかく微笑んだ。


「ですから、最初は少し驚きました」

「……そうなんですか?」


何に驚いたのか、もう少し聞きたかった。


でも、その前に、彼が続ける。


「会えて嬉しいのは、私も同じです」


「……え?」


「声をかけてくださって、嬉しかったですよ」


まっすぐ向けられた言葉に、胸がきゅっとした。


さっきまで、あんなに凛々しい騎士のお顔だったのに。今は、私に向かって優しく笑っている。


「……私も、お会いできてよかったです」


ようやく答えると、アルヴィン様の笑みが少し深くなった。


会場から、出場者を呼ぶ声が響く。


彼はそちらへ目を向け、もう一度私へ頷いた。


「では、また」

「はい。試合、楽しみにしています!」


背中を見送りながら、私はそっと頬に触れた。


……もう。会えたら嬉しいな、とは思っていたけれど。

こんなふうに言ってもらえるなんて、聞いてない!


「セレティア様、お待たせしました!」


リリアたちの声に、慌てて手を下ろす。


「ううん! 私もちょうど、確認が終わったところ!」


差し出された飲み物を受け取り、三人で観客席へ向かう。


大会は、まだ始まってもいない。


なのに、私の胸は、もう忙しくなっていた。

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