大会準備も、立派な学園生活です!
翌日の薬学の授業。
先生が教卓へ置いた箱を見て、私は少し身を乗り出した。
中には、乾燥させた薬草が袋に分けて入っている。その隣には、布や空の容器も積まれていた。
……おおっ。今日は、何か作るのかな?
「授業の前に、剣術大会の準備について説明します」
その言葉に、私は顔を上げた。
ついに来た!
殿下がお話しされていた、お手伝い!
「薬学を選択している皆さんから、準備に参加する生徒を募ります。作業は放課後、教員の立ち会いのもとで行います」
先生が、黒板へ日程を書いていく。
薬草と備品の確認。
容器や布の準備。
そして、必要な数の点検。
私は手帳を開き、予定を確かめた。
……うん。参加できそう!
アシェル様の授業の日とは、重なっていない。
「参加は希望者のみです。大会の出場者や、ほかに予定のある方は、無理をしないように」
説明が終わると、隣から小さな声がした。
「セレティア様は、参加されますか?」
リリアが、期待するようにこちらを見ている。
「うん。リリアさんは?」
「私も参加したいです!」
顔を見合わせて笑うと、反対側から声がした。
「わたくしも、その日は予定が空いておりますわ」
ローゼリア様だった。
「では、三人とも?」
「ええ。ただし、おしゃべりに夢中になって、数を間違えないようにしませんと」
ローゼリア様の視線が、私とリリアを順に見る。
「気をつけます!」
「は、はい!」
二人で答えてから、思わず笑ってしまった。
……ふふ。お茶会とは違うけれど、三人で一緒に準備するのも楽しそう!
* * *
数日後の放課後。
薬学の実習室には、参加を申し込んだ生徒たちが集まっていた。
私たち三人も、同じ作業台につく。
「まずは、こちらを確認してください」
先生が示したのは、机の上に並べられた札だった。
確認前。
確認済み。
その文字を見て、私は小さく瞬きをした。
……あ。生徒会室で、お話ししたことだ。
「薬草は一袋ずつ、名前と中身を確かめます。判断に迷ったものは、必ず私に尋ねてください」
先生は袋を一つ持ち上げた。
「皆さんが確認したあと、私がもう一度点検します。終わるまでは、こちらの場所へ。確認済みのものと混ぜないように」
殿下が、先生にも相談してくださったんだ。
自分が話したことが、こうして準備の一部になっている。
……なんだか、嬉しい。思いつきでも、口にしてみてよかったな。
「セレティア様?」
リリアに呼ばれ、慌てて顔を向けた。
「あっ、ごめんなさい。始めようか」
「はい!」
最初の袋を開き、皿へ少量を取り出す。
葉の形。
縁の細かな切れ込み。
乾燥させたあとの色。
私は図鑑のページを開いて、見比べた。
「こちらは、葉の先が少し尖っていますね」
「うん。でも、こっちは丸いような……」
同じ袋から出した葉を見つめていると、リリアがそっと指を添えた。
「これは、先が折れているんだと思います。こちら側に、欠けた跡があるので」
「あ、本当だ!」
よく見ると、丸く見えた部分は、途中で切れていた。
……なるほど。図鑑みたいに、全部綺麗な形で残っているわけじゃないんだ。
「リリアさん、すぐわかったね」
「お店でも、こういうものを扱うので。でも、迷うときは父や母に確認していました」
リリアはそう答えて、先生へ手を挙げた。
慣れているからこそ、勝手に決めつけない。
……うん。私も、見習おう。
* * *
薬草の確認が一区切りつくと、今度は備品を数える作業になった。
ローゼリア様が一覧を読み上げ、私とリリアが箱の中を確かめる。
「布は、こちらで一組ですわ」
「一、二、三……」
私は数えた分を、空の箱へ移していった。
……よし。今のところ、順調!
「セレティア様、こちらのお皿も数えますか?」
「うん。えっと、布が二十――」
「今、十八でしたわ」
ぴたりと手を止める。
ローゼリア様が、静かにこちらを見ていた。
……あっ。今、頭の中で二枚ほど増えた!?
「……もう一度、数えます」
リリアも、申し訳なさそうにノートを抱え直した。
「すみません。数えていらっしゃる途中で」
「ううん。私も、先に数え終わればよかったね」
ローゼリア様が、小さく微笑む。
「途中で別のお話が入ると、数がわからなくなりますものね。一つずつ終わらせましょう」
「はい!」
今度こそ、一枚ずつ確かめる。
十八、十九、二十。
きちんと揃えて箱へ入れると、ローゼリア様が一覧に印をつけた。
「はい。こちらは完了ですわ」
「よかった……!」
その隣で、リリアも容器を数え終えていた。
少しずつ、机の上が片づいていく。
三人で役割を分けると、一人で全部するより早い。一人では見落としそうなことも、三人なら確かめ合える。
……頼もしいなぁ。
私も、二人を助けられるように頑張らなきゃ!
「こちらの箱、持てますか?」
リリアが尋ねると、ローゼリア様が立ち上がった。
「二人で運びましょう。その方が安定しますわ」
「はい!」
箱の両側を持って歩く二人を見て、私は慌てて通り道の椅子を引いた。
「こっち、空けておきますね」
「ありがとうございます、セレティア様」
先生の机のそばへ箱が置かれる。
最後の確認を受けて、ようやく今日の作業が終わった。
* * *
実習室を出ると、廊下の窓が夕日に染まっていた。
「……終わったぁ」
小さく息を吐くと、リリアが笑った。
「思ったより、いろいろありましたね」
「うん。でも、楽しかった!」
「ええ。準備する側になると、大会の見方も変わりそうですわね」
ローゼリア様の言葉に、私は頷いた。
選手が試合をするだけでは、大会は開けない。その前に、数を確かめたり、必要なものを揃えたりする人がいる。
あの箱の一つに、自分たちの準備したものが入っていると思うと、少し誇らしかった。
「大会当日、楽しみだね」
私が言うと、リリアがぱっと顔を上げた。
「そういえば、王国騎士団からも、騎士の方がいらっしゃるそうですよ」
「……騎士団から?」
思わず聞き返す。
「はい。先生がお話しされていました。審判や、運営への協力でお見えになるそうです」
……へえ。そうなんだ。
王国騎士団、と聞いて、真っ先に一人の顔が浮かんだ。
アルヴィン師匠。
小さい頃、私とリオンに剣を教えてくれた人。
「セレティア様?」
「あ、ううん。どなたがいらっしゃるのかなと思って」
「当日の案内に、お名前も載るかもしれませんわね」
ローゼリア様が答える。
私は、窓の外へ目を向けた。
もしかしたら、師匠も。
そう思いかけて、そっと首を振る。
騎士団には、たくさんの方がいるんだもの。来ると決まったわけじゃない。
……でも、会えたら嬉しいな。
「セレティア様、参りましょう?」
「はい!」
二人のあとを追って、歩き出す。
大会で楽しみなことが、また一つ増えてしまった。
……ふふ。
当日まで、落ち着いて待てるかなぁ。




