↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
第1章 恋愛しないはずの学園生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/95

弟は噂より、一枚上手!?

その日の放課後。


リオンとの待ち合わせ場所へ向かう途中、私は中庭の向こうに弟の姿を見つけた。


「あっ、リオン!」


声をかけようとして、足を止める。

リオンは、数人の高等部の生徒たちと話していた。手にしているのは、魔法の術式が描かれた紙らしい。


「では、こちらの式を変えると?」

「魔力の流れが安定すると思います。ただ、出力を上げるなら、こちらも調整した方がいいですね」


リオンが紙の一部を指で示すと、隣の生徒が感心したように頷いた。


……おおっ。うちの弟、なんだかすごく先生っぽい!


リオンは中等部の生徒だけれど、魔法の実力を認められ、特別に高等部の授業にも参加している。


家では姉様、姉様と甘えてくれるのに、学園ではこんなに頼られているんだなぁ。


「ありがとう。助かったよ」

「いえ。僕も勉強になりますので」


落ち着いた声で答える姿に、思わず頬が緩んだ。

ふふ。格好いいじゃない、リオン!

そのとき、弟がこちらを見た。


「……姉様」


さっきまでのきりっとした表情が、ぱっと柔らかくなる。


「失礼します。姉が迎えに来ましたので」


……ふふ。私を見つけた途端、嬉しそうな顔になっちゃって。

さっきまであんなに格好よかったのに、やっぱり可愛いなぁ。


生徒たちに丁寧に一礼して、リオンがこちらへ歩いてくる。


「姉様、お待たせしました」

「ううん!私も今来たところ。お話の途中だったんじゃない?」

「もう終わりましたから」


そう言って、リオンは嬉しそうに微笑んだ。


「……姉様が待っていてくださったので、少し急いでしまいました」


もう。そんなこと言われたら、嬉しくなっちゃうじゃない!


「さっき、すごく頼られてたね」

「授業で扱った術式について、少し」

「少しって……私には、さっぱりわからなかったよ」


私が笑うと、リオンもくすっと笑った。


「姉様に見ていただけるとわかっていたら、もう少し格好をつけたのですが」

「十分、格好よかったよ?」


リオンが一瞬、目を丸くした。それから、口元を緩める。


「……では、今日も撫でていただけますか?」

「えっ。ここで?」

「少しだけ」


弟が、そっと身を屈める。

……うう。さっきまで、あんなに頼もしかったのに!

私は周囲を確認してから、さらさらの白金色の髪を軽く撫でた。


「今日も頑張ったね」

「はい」


目を細めたリオンの顔は、いつもの可愛い弟だった。


* * *


「姉様。昨日の噂、今日も少し聞かれました」


回廊へ向かって歩き始めると、リオンが何気ない調子で言った。


「……ノアとの?」

「はい。ご婚約が決まったのかと」


やっぱり、まだ続いてる!


昨日の帰りにも、馬車の中でリオンに話したのだ。婚約していないのに、そんな噂になっていると訴えたら、弟はにこにこしながら聞いてくれた。


まさか、今日も尋ねられていたなんて。


「婚約はしていないって、伝えてくれた?」

「もちろんです。姉様からも伺いましたから」

「ありがとう、リオン」


ほっとすると、リオンが少し首を傾げた。


「そんなお話があれば、僕にも先に教えていただけますよね?」

「もちろんだよ!大切な家族なんだもの」


リオンは満足そうに微笑んだ。


「……はい。安心しました」


そのとき、背後から聞き慣れた声がした。


「ティア。リオン」


振り向くと、ノアがこちらへ歩いてくるところだった。


「あっ、ノア!」

「二人で帰るところ?」

「うん!ノアも?」

「途中まで一緒に行こうと思って」


ノアが私の隣に並ぶ。

すると、リオンがにっこり笑った。


「ノア兄様。今日は、手は繋がれないんですか?」


「…………」


ノアが黙った。


……リオン!?何をさらっと聞いてるの!?


「今日は繋がないよ!」


私が慌てて答えると、リオンは素直に頷いた。


「そうですか」

「昨日、あんなに噂になったんだもの」

「ええ。姉様がお困りだったと伺いましたから」


ノアが、少しだけ弟を見る。


「……リオン」

「はい?」


いつもの可愛い笑顔だ。

……あれ?ノアだけ、ちょっと困った顔になってない?


* * *


三人で回廊を歩いていると、前方から来た令嬢たちが、そっとこちらを見た。


「今日は、弟君もご一緒なのね」

「仲のよろしいご姉弟だと伺っているわ」


……ふぅ。今日は婚約のお話ではなさそう。


ほっとしたところで、リオンが私の鞄へ手を伸ばした。


「姉様、お持ちします」

「大丈夫だよ。そんなに重くないもの」

「僕が持ちたいんです」


そう言って、ごく自然に鞄を受け取る。

……あら。こういうところも、成長したなぁ。


「ありがとう、リオン」

「どういたしまして」


リオンは満足そうに笑った。


「ティア、それなら僕も持てたのに」


ノアが言うと、リオンは穏やかに答えた。


「今日は、僕にお任せください。姉様と一緒に帰るのを楽しみにしていたんです」


……ふふ。そんなに楽しみにしてくれていたんだ。


「私も、リオンと帰れて嬉しいよ」


すると、弟の笑顔がますます深くなった。

そのまま歩きながら、リオンが少し声を落とす。


「姉様。今日の魔法の授業で、先生に褒めていただいたんです」

「本当?」

「はい。新しい術式の組み方を試してみたら、うまくいって」

「すごい!どんな術式?」


尋ねると、リオンは嬉しそうに話し始めた。

専門的なことは難しいけれど、弟が楽しそうなのはよくわかる。新しい方法を見つけるまで、何度も試したらしい。


「いっぱい頑張ったんだね」

「はい。でも、姉様に聞いていただけたので、もう十分です」


そう言って微笑まれて、胸がじんわり温かくなった。


「また聞かせてね。難しいところは、ゆっくり教えてくれると嬉しいな」

「もちろんです」


隣では、ノアも話に耳を傾けていた。


「それ、実技でも使えそう?」

「まだ調整は必要ですが。成功したら、お見せします」

「うん。楽しみにしてる」


……おおっ。二人とも真剣だ。

リオンの魔法も、ノアの剣術も、私の知らないところでどんどん上達しているんだろうな。

私も、薬学の勉強を頑張ろう!


* * *


馬車の待つ場所へ近づいたところで、私は鞄を受け取ろうとした。


「リオン、ありがとう。もう大丈夫だよ」

「馬車までお持ちします」

「でも――」


言いかけて、制服の袖に小さな葉がついていることに気づいた。


「あれ?どこでついたんだろう」


中庭のベンチかな?

葉を払っていると、後ろから二人の声が聞こえた。


「……リオン。楽しんでるよね」

「姉様と一緒ですから」

「そういう意味じゃなくて」

「ふふ。存じています」


……ん?


顔を上げると、リオンは何事もなかったように微笑んでいた。ノアは、少しだけ眉を下げている。


「二人とも、何のお話?」

「帰り道のことです、姉様」

「……まあ、間違ってはいないね」


やっぱり仲良しだ。私の知らないところでも、いろいろ話しているんだろうな。


「ノア、また明日ね!」

「うん。また明日、ティア」


ノアに手を振り、馬車の踏み台へ足をかける。すると、リオンがすぐに手を差し出してくれた。


「姉様、どうぞ」

「ありがとう!」


その手を借りて、馬車へ乗り込む。

リオンは私の鞄を御者に渡すため、少しだけ外に残った。私は座席に腰を下ろし、窓から見える空を眺める。


今日も、うちの弟は頼もしくて可愛い!

ほどなく乗り込んできたリオンへ、私は笑いかけた。


「今日はたくさんお話しできて嬉しかったよ」

「僕もです」


向かいに座ったリオンが、少しだけ身を乗り出す。


「では、帰ってからも、少しご一緒していただけますか?」

「もちろん! お茶にしようか」

「はい。楽しみです」


嬉しそうな弟を見て、私も頬が緩む。

……うん。学園では頼られる魔法の天才でも、私の前では、やっぱり可愛いリオンだ。


* * *


遠ざかる馬車を見送りながら、ノアは小さく息をついた。


ティアが乗り込んだあと、鞄を御者へ渡したリオンは、ノアのそばへ戻ってきた。

そして、彼女には聞こえない声で囁いたのだ。


――姉様と手を繋いでも、僕なら噂になりませんから。


そのときの笑顔は、ティアに甘えていたときと少しも変わらなかった。

ノアは、馬車の去った道をもう一度見る。


「……本当に、手強いな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。