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『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
第1章 恋愛しないはずの学園生活

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恋のお話は、薬草より難しい!?

翌日の昼休み。


私はリリアとローゼリア様と一緒に、中庭のベンチに座っていた。


昼食を終えて、次の授業まではまだ少し時間がある。今日は風も穏やかで、外で過ごすにはちょうどよかった。


そして、何より。今はノアと一緒ではない。


……ふふ。今日は昨日より、落ち着いて過ごせそう!


「そういえば、リリアさん。昨日お話ししていた薬草なんだけど」

「はい!乾燥させる時間のことですか?」

「うん!あれ、私も気になって――」

「その前に、一つ伺ってもよろしいかしら?」


ローゼリア様が、そっと口を開いた。


「はい。何でしょう?」


私が顔を向けると、ローゼリア様は膝の上で手を重ねた。


「セレティア様は、ノア様のことをどう思っていらっしゃるの?」


……ん?


「ノアのこと、ですか?」

「ええ」


私は少し考えてから答えた。


「優しくて、頼りになる人だと思います。小さい頃から、何度も助けてもらっているので」


ローゼリア様が頷く。その隣で、リリアも真剣に耳を傾けていた。


……あれ?二人とも、薬草のお話のときより熱心じゃない?


「では、大切な方なのですね」

「はい!もちろん!」


それは、迷わず答えられる。


すると、リリアが少し遠慮がちに身を寄せてきた。


「あの……私も、気になっていたんです」

「何が?」

「ノア様とご一緒のとき、セレティア様がとても楽しそうなので」


「そうかな?」

「はい!」


リリアが嬉しそうに頷いた。


「ノア様も、セレティア様とお話ししているときは、すごく優しいお顔をなさいますし」

「ノアは、いつも優しいよ?」


私が答えると、ローゼリア様とリリアが顔を見合わせた。


……あっ。その顔、昨日も見た!


「何か変なこと言った?」

「いえ。セレティア様には、そう見えていらっしゃるのですね」


ローゼリア様が、どこか納得したように言った。


……どういう意味!?


* * *


「では、少し聞き方を変えますわ」


ローゼリア様が、私へ向き直った。


「ノア様と二人で過ごしていて、落ち着かなくなることはありません?」

「落ち着かなく……?」


思い浮かんだのは、昨日の昼食だった。


――やっぱり、隣がいいなと思って。


――うん。ティアの。


……っ。

ちょっと待って。今、思い出す必要あった!?


「セレティア様?」


リリアの声に、慌てて顔を上げる。


「な、何でもないよ!」

「まだ何も伺っておりませんわ」


……しまったーーー!!


ローゼリア様の口元が、少しだけ緩む。


「何か、思い当たることがおありなのね」

「その……最近のノアは、前より大人っぽくなったので」


私は膝の上で指を組んだ。


「小さい頃から知っているのに、知らない人みたいに見えるときがあるんです。それで、ちょっとびっくりすることは……」


ある。ものすごく、ある。

手を繋いだときも。隣に座って、じっと見られたときも。


……でも、それって。


「私たちも、もう十六歳ですし。昔とは違うところもありますよね?」


そう言うと、ローゼリア様は静かに頷いた。


「ええ。そうですわね」


よかった。わかってもらえた。

そう思ったのに、リリアがそっと尋ねる。


「でも、びっくりするだけですか?」


……えっ。


私は口を開きかけて、止まった。

昨日、ノアに隣がいいと言われたとき。困った。顔が熱くなって、何を返せばいいかわからなかった。


でも、嫌だったわけじゃない。むしろ――。


「……嬉しいことも、あるよ」


小さく答えると、リリアがぱっと笑った。


「そうなんですね!」


……うう。どうして、そんなに嬉しそうなの!?


ローゼリア様まで、優しい顔で私を見ている。

なんだか、お茶会に招かれたつもりが、いつの間にか面接を受けている気分なんですけど!


「それは、恋なのではありませんか?」


リリアが、控えめに言った。

私は思わず背筋を伸ばした。


「こ、恋!?」


近くの小道を歩いていた生徒が、こちらを見ている。

慌てて口元を押さえると、ローゼリア様が肩を揺らした。


「声を落としましょう、セレティア様」

「……はい」


……落ち着いて、私。ここは学園。しかも、中庭。

脳内まで声に出してどうするのーーー!!

私は息を整えて、二人を見た。


「でも、嬉しいからって、恋とは限らないと思います」

「ええ。それは、そうですわね」


ローゼリア様は、あっさり頷いた。


「ご家族やお友達と過ごしていても、嬉しいことはありますもの」

「そうなんです!」


ルゥが膝に乗ってくれると嬉しい。リオンが甘えてくれるのも嬉しい。二人とお茶をする時間だって、大好きだ。


……ほら。嬉しい気持ちにも、いろいろある!


「ノアは、昔から大切な人なので」


そう続けると、ローゼリア様の表情が少し柔らかくなった。


「でしたら、今すぐ名前をつけなくてもよろしいのではなくて?」

「……え?」


思っていた返事と違って、私は瞬きをした。


「わたくしたちが、決めることではありませんもの」


ローゼリア様は、私をまっすぐ見た。


「ただ、ご自分が何を嬉しいと思ったのかまで、否定なさらなくてもよろしいと思いますわ」


私は、膝の上の手へ視線を落とした。

嬉しかったことまで、否定しなくていい。


……そっか。


「すみません、セレティア様」


リリアが、少し眉を下げる。


「私、気になってしまって。困らせるつもりではなかったんです」

「ううん! 困ってないよ」


私は慌てて首を振った。


「ちょっと、びっくりしただけ。こういうお話、あまりしたことがなくて」

「私もです。だから、つい……」


リリアが照れたように笑う。それを見て、私も肩の力が抜けた。


……なんだ。リリアも、全部わかって聞いていたわけじゃないんだね。

ゲームのヒロインだからって、恋愛に詳しいとは限らない。


「恋のお話って、難しいね」

「はい。薬草の方が、まだ説明できます」

「わかる!」


思わず頷くと、ローゼリア様がくすっと笑った。


「お二人とも、本当に薬草がお好きですこと」


* * *


そのあと、ようやく本来の薬草の話に戻った。


リリアのノートを三人で覗き込み、乾燥させる時間や保存方法について話しているうちに、いつもの調子が戻ってくる。


……うん。やっぱり、こっちの方が落ち着く!


やがて予鈴が鳴り、私たちは立ち上がった。


「では、またあとで」

「はい!お話しできて楽しかったです!」


二人と別れ、教室へ戻る途中。廊下の向こうに、見慣れた黒髪が見えた。


「ティア」

「ノア!」


ノアは私の前で足を止めた。


「中庭にいたの?」

「うん。リリアさんたちとお話ししてたの」

「薬草の話?」

「……それも、少し」


ノアが、不思議そうに首を傾げる。

……お願い。それ以外は聞かないで!


「楽しかった?」

「うん!」

「そっか。よかったね」


いつもの笑顔なのに、さっきの話が頭をよぎって、つい目を逸らしてしまった。


……もう、二人とも。どうしてくれるの!?


「ティア?」

「な、何でもない!教室に戻ろう?」

「うん」


ノアと並んで歩きながら、私はそっと息をついた。


会えて嬉しい。それだけは、確かなんだけど。


……薬草なら、図鑑を開けばわかるのに!


自分の心は、どうしてこんなにわかりにくいんだろう。

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