↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
第1章 恋愛しないはずの学園生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/95

幼馴染です!……それで通じませんか?

午後の授業が終わり、私は机の上の教科書を片づけていた。


今日の授業も面白かった。帰ったら、忘れないうちにノートを見直しておこう。


……うん!学園生活、なかなか順調じゃない?


そう思っていた、そのときだった。


「セレティア様。少し、よろしいでしょうか?」


顔を上げると、同じ教室の令嬢たちが立っていた。何度かお話ししたことのある、親切な方々だ。


「はい!どうかしましたか?」


私が微笑むと、三人はなぜか顔を見合わせた。


「あの……お昼に、ノア様とご一緒だったと伺って」

「ええ。リリアさんとローゼリア様も一緒だったんです」


もしかして、お昼のお誘いだったのかな?それなら、今度はご一緒できるといいなぁ。


けれど、令嬢たちは少しだけ身を寄せてきた。


「その、食堂へ向かわれるときに……」

「ノア様と、手を繋いでいらしたというのは、本当ですか?」


……あ。そっちのお話でしたか!


「はい。でも、食堂に入る前には離しましたよ?」


すると、一人の令嬢が小さく息を呑んだ。


……えっ? そこ、大事なところじゃなかった?


「では、やはり……」

「ご婚約がお決まりになったのでしょうか?」

「していません!」


思わず即答してしまった。


令嬢たちが目を丸くする。私は慌てて教科書を机に置き、少し声を落とした。


「ノアとは、昔から仲のいい幼馴染なんです」

「まあ、そうでしたの?」

「はい。小さい頃から、よく一緒に過ごしていたので」


三人は、ほっとしたように顔を見合わせた。


……よかった。ちゃんと説明すれば、わかってもらえるよね!


ところが、一人の令嬢が遠慮がちに口を開いた。


「けれど、ノア様から手を差し出されたと伺いましたわ」


……そこまで知られてるの!?

ちょっと待って。誰がそんなに詳しく見ていたの!?


「ティア」


聞き慣れた声に顔を上げると、ノアがこちらへ歩いてきた。令嬢たちが、さっと背筋を伸ばす。


「ノア様。ごきげんよう」

「こんにちは」


ノアは穏やかに挨拶を返して、私を見た。


「ティア、まだ帰らないの?」

「あ、うん!今、少しお話ししていたの」

「何の話?」

「えっと……私たちが婚約したっていう噂があるみたいで」


口にすると、なんだか余計に恥ずかしい。けれどノアは、一度瞬きをしただけだった。


「……なるほど」

「だから、幼馴染なんですって説明していたところなの」


ノアが私を見る。ほんの少しだけ間があって、それから小さく笑った。


「そうだね。婚約はしていません」


令嬢たちは、ようやく安心したように頷いた。


「失礼いたしました。あまりに仲睦まじいご様子だったと伺ったものですから」

「いえ。気にしないでください」


……さすがノア。落ち着いてるなぁ。


私はほっとして、鞄を手に取った。


「ティア、行こうか」

「うん!」


令嬢たちに挨拶をして、ノアと一緒に教室を出る。


これで誤解も解けたし、もう大丈夫!


……と、思ったんだけど。


* * *


廊下へ出た途端、あちこちから視線が向けられた。


「ほら、ノア様と……」

「本当に、いつもご一緒なのね」


……ん?今、私たちの話をしていた?


そっとノアを見る。ノアは気にする様子もなく、私の隣を歩いていた。


すると、向こうから来た男子生徒たちまで、こちらを見て足を緩めた。


「あれが、噂の……」

「婚約は違うらしいぞ」

「そうなのか?」


最後の一人が、なぜか少し嬉しそうな顔をする。


……えっ?何がそんなに嬉しいの?


「ねえ、ノア」

「ん?」

「もしかして、さっきの噂って……あの方たちだけじゃないのかな」

「そうみたいだね」


そうみたいだね、じゃなくて!

なんだか、ものすごく広まってませんか!?


お昼に手を繋いだだけなのに。まだ、午後の授業が終わったばかりなのに!

……噂って、足が速すぎる!


「セレティア様!」


前方から声がして、リリアが手を振った。隣には、ローゼリア様もいる。


「あっ、リリアさん!ローゼリア様!」


二人のそばへ行くと、リリアが私とノアを見比べた。


「やっぱり、ご一緒だったんですね」

「うん。それより、二人とも聞いて! なんだか私たちが婚約したって……」

「伺いましたわ」


ローゼリア様が、静かに頷いた。


「えっ」

「わたくしたちも、何人かの方に尋ねられましたもの」

「私もです! お昼にご一緒していたから、何か知っているかって……」


……ひええ。二人にまで聞きに行くなんて!

学園の皆様、そんなに気になるお話なんですか!?


「婚約はしていないと、お伝えしておきましたわ」

「ありがとうございます……!」


思わず頭を下げると、ローゼリア様が小さく笑った。


「ただ、皆様が気にされるのも、無理はありませんわね」

「手を繋いでいたから、ですか?」

「それもありますけれど」


ローゼリア様の視線が、私の髪に向いた。


「その髪飾りも、ノア様からの贈り物でしょう?」


私はそっと髪に触れた。指先に、小さな銀色の飾りが当たる。


「はい。お気に入りなんです」

「ええ。いつも大切につけていらっしゃいますものね」


……あれ?今の説明、もしかして逆効果だった?


「それに、お二人でいらっしゃることも多いですわ」

「共通授業が一緒なので……」

「ええ。そうですわね」


ローゼリア様は、なぜか楽しそうだ。


……もう!さっきから、何を言っても笑われている気がする!


「でも、安心された方もいらっしゃるみたいですよ」


リリアが、少し声を落とした。


「安心?」

「はい。セレティア様に憧れていらっしゃる方が……」

「……私に?」


思わず聞き返すと、リリアはこくりと頷いた。


「ご婚約されたと聞いて、残念がっていらしたので」


……えっ!?

ノアじゃなくて、私!?


ノアが人気者なのは知っている。でも、私の婚約で残念がる人がいるなんて、そんなこと考えたこともなかった。


「……そう、なんだ」


どう答えたらいいのかわからず、そっと隣を見る。


ノアはちらりと廊下の先へ目を向けてから、私を見た。


「ティア、困ってる?」

「うん。びっくりしてる。していない婚約のお話が広まるのは、ちょっと困るかな」

「そうだね。それは、きちんと訂正しよう」


すぐに答えてくれたので、ほっとした。


「ありがとう、ノア」

「でも、ティア」

「ん?」


ノアが、少しだけ首を傾げる。


「僕と仲がいいのは、本当でしょう?」

「……もちろんだよ?」


そこまで否定するつもりなんて、ない。ノアは、昔から私の大切な人なんだから。


すると、ノアがふっと笑った。


「じゃあ、それは訂正しなくていいね」


……っ。


青い瞳が、まっすぐ私を見ている。


お昼にも、こんなふうに見つめられた。ティアの隣がいいって、当たり前みたいに言われて。


「……うん」


なんだか、さっきより小さな声になってしまった。


ノアは嬉しそうに目を細める。向かいでは、リリアが口元を押さえていた。ローゼリア様も、そっと顔を逸らしている。


……あの。二人とも、笑ってませんか?


* * *


二人と別れて、ノアと回廊を歩く。


リオンとの待ち合わせ場所は、もう少し先だ。


「でも、次からは気をつけようね」

「うん。こんなに話が広がるとは思わなかった。ごめんね」

「ううん。私も、気づかずに手を繋いでいたもの」


ノアだけが悪いわけじゃない。それに、手を離したあと、少し落ち着かなかったのも本当だ。


……きっと、小さい頃を思い出して、懐かしくなっただけ。

そう。そういうことにしておこう!


私は顔を上げた。


よし!明日からは、もう少し気をつければいいよね。


ところが、回廊の先にいた生徒が私たちを見つけ、隣の友人へ顔を寄せた。


「ほら、やっぱりご一緒よ」

「仲がよろしいのは、本当なのね」


……聞こえてます。


私は、そっと自分の手を見た。


繋いでいない。今は、ちゃんと離している。

なのに、並んで歩くだけで噂になるなんて!


「……ノア」

「ん?」

「噂って、どうしたら落ち着くのかな」


ノアは少し困ったように笑った。


「それは……僕にも、すぐにはわからないかな」


……ですよね!


私は小さく息をついた。


目立たず、騒がず、穏やかな学園生活。そう決めたはずなのに。

幼馴染と並んで歩くだけで、こんなに大変だなんて聞いてない!


……もう。

明日は、何も起きませんように!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。