↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
第1章 恋愛しないはずの学園生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/102

その手を離した、そのあとで

ノアと手を繋いだまま、食堂へ向かう。


こうして並んで歩いていると、小さい頃に戻ったみたいだ。懐かしくて、つい頬が緩んでしまう。


「ティア」

「ん?」

「今日は、ずいぶんご機嫌だね」

「うん!だって、ノアといっぱいお話しできたから!」


そう答えると、ノアが一瞬だけ黙った。こちらを見る瞳が、ふっと柔らかくなる。


「……そっか」

「ノアは?」

「僕も、嬉しいよ」


ふわりと微笑まれて、なぜか少しだけ胸が跳ねた。


……あれ?今日のノア、いつもより甘い気がする。

いや、最近はこういうことも多いんだけど。それにしたって、なんだか調子が狂うなぁ。


そんなことを考えているうちに、食堂の入り口が見えてきた。行き交う生徒たちに気づき、ふと繋いだ手へ視線を落とす。


……あっ。そういえば、ここは学園だった!

しかも、私たちはもう子どもじゃない。幼馴染だからって、手を繋いだまま食堂に入るのは、さすがに目立つよね!?


「ノア、そろそろ手を離そうか?」

「……どうして?」

「だって、みんなに見られちゃうでしょう?」


少し声を落として言うと、ノアは目を細めた。


「僕は、別に構わないけど」

「でも、ノアは人気者だもの。変な噂になってしまったら……」


ノアがふっと笑う。


「君は、自分のことは心配しないんだね」

「私?」


……ん?今はノアの話をしているんだけど。


首を傾げる私を見て、ノアは繋いでいた手に視線を落とした。それからゆっくりと指をほどき、そっと手を離す。


「……わかった。今日はここまでにしておくよ」


……今日は?


ちょっと気になる言い方だったけれど、ひとまず目立たずに済みそうだ。


「ありがとう、ノア」


ノアが優しく微笑む。その隣を歩きながら、私は空いた手を軽く握った。


さっきまで包まれていた温かさが、まだ残っている気がする。手を離そうと言ったのは私なのに、なんだか少し落ち着かなかった。


そのとき、入り口の方から声が聞こえてきた。


「今の、見た?」

「ええ……ノア様とセレティア様よね?」

「手を繋いでいらしたわ……」


思わず顔を上げると、何人かの生徒がこちらを見ていた。


……遅かった!

もう、しっかり見られてるーーー!!


「幼馴染だって聞いていたけど……」

「でも、あんなふうに……」


ひそひそと交わされる声に、頬が熱くなる。しかも、少し離れたところからは、別の声まで聞こえてきた。


「セレティア様、今日もお綺麗だな……」

「ノア様が羨ましい……」


……えっ!?私の話まで?

ノアが羨ましいって、どうしてそうなるの!?


「ティア、大丈夫?」

「ええ。少し驚いただけ」


できるだけ落ち着いて答えたつもりだったけれど、ノアには伝わってしまったらしい。


私の前に半歩出て、さりげなく周囲の視線を遮ってくれる。そのおかげで、ようやく少し息がつけた。


「気にしなくていいよ」


穏やかな声に、顔を上げる。


こういうところ、ノアは昔から優しい。私が困ると、いつも気づいてくれるのだ。


「……ありがとう」


今度は少し小さな声でお礼を言うと、ノアも微笑んだ。


「セレティア様?」


聞き慣れた声に振り向けば、食堂の入り口にリリアとローゼリア様が立っていた。リリアは目を丸くしていて、ローゼリア様は口元に手を添えている。


「リリアさん、ローゼリア様。お待たせしてしまって、ごめんなさい」

「い、いえ。まだ四人で座れる席が見つからなくて……。それより、今……ノア様と……?」


リリアの視線が、私の手元へ落ちた。


……二人にもしっかり見られてた!

うう。手を離すの、もう少し早くすればよかった……!


「昔から仲がいいので、つい……」

「……つい、ですか!?」


慌てて説明したのに、リリアはますます驚いた顔になってしまった。


「ふふ。ノア様も、なかなか大胆でいらっしゃいますのね」


ローゼリア様が、楽しそうに笑う。


……大胆?

やっぱり、手を繋ぐのはそんなに大胆なことだったの?


小さい頃は当たり前だったのに。

うーん。貴族の男女って、難しい!


「……ローゼリア嬢」

「わたくし、何かおかしなことを申し上げました?」


少し困った顔のノアに、ローゼリア様は上品に微笑んだ。


……あれ?このやり取り、さっきのユリウス殿下とちょっと似ている気がする。


「……いえ」


ノアが小さく息をつくと、リリアまでくすっと笑った。


……もう!私だけ、何の話かわかってないんですけど!


首を傾げながら、三人と一緒に食堂へ入る。


食堂には、昼食を楽しむ生徒たちの声が響いていた。けれど、私たちが通ると、あちこちから視線が集まる。


「でも、婚約のお話なんて聞いていないわ」

「幼馴染だそうよ」


……婚約!?

また、そのお話になるの!?手を繋いだだけで、そこまで話が飛ぶのーーー!?


思わず隣を見上げたけれど、ノアはいつもと変わらない顔をしていた。


……ノア!どうしてそんなに落ち着いてるの!?

私たちの婚約のお話なんですけど!


「ティア、こっち。席が空いたよ」

「あっ、うん」


ノアが示した先では、窓際の席にいた生徒たちが、ちょうど立ち上がったところだった。


案内されたのは、四人掛けの席だった。明るい日差しが差し込んでいて、外の庭もよく見える。


「素敵な席ね」


私が腰を下ろすと、ノアが自然に隣へ座った。向かいにはリリアとローゼリア様が座る。


ようやく落ち着けた気がして、ほっと息をついた。


「ティア、何を食べる?」

「今日はおすすめのランチにしようかな」

「じゃあ、僕もそれにしよう」


昔から、ノアとはこうして一緒に食事をしてきた。周りに注目されていても、隣にいてくれると安心する。


「……仲がよろしいんですね」


リリアが、ぽつりと呟いた。


「ええ。ノアとは小さい頃から、よく一緒に過ごしていたの」


そう答えると、ノアがわずかに眉を下げた。


……あれ?何か変なこと言った?


「……そうだね。昔からずっと」


ノアは私を見たまま、ゆっくりと言った。その眼差しがあまりに優しくて、すぐには目を逸らせなくなる。


近くで見ると、ノアって本当に綺麗な顔をしている。


そんなこと、前から知っていたはずなのに。


「……ティア?」

「えっ?」


名前を呼ばれて、はっとする。慌てて視線を手元へ戻すと、隣から小さな笑い声が聞こえた。


「どうしたの?」

「何でもないよ。ちょっと考え事をしていただけ」


そう答えながら、私は膝の上で手を握った。


……危ない、危ない。

本人を前に、何を見とれてるの、私!


「ふふ。今日は楽しい昼食になりそうですわね」


ローゼリア様の声に顔を上げると、リリアも嬉しそうに頷いていた。


「本当に。ご一緒できて嬉しいです」

「私も。皆さんとお話しできるのを楽しみにしていたの」


ようやくいつもの調子で笑えたのに、隣から視線を感じて振り向けば、ノアが頬杖をついて私を見ていた。


「……なあに?」

「やっぱり、隣がいいなと思って」

「隣?」

「うん。ティアの」


そう言って、ノアが柔らかく微笑む。


たったそれだけの言葉なのに、胸がきゅっとした。


「……いつも隣に座ってるでしょう?」

「そうだね。だから、今日もここがよかった」


当たり前のことみたいに言うから、余計に困ってしまう。私は何と返せばいいか分からず、手元へ視線を落とした。


隣に座っているだけなのに、さっきより近く感じる。


……私も、ノアの隣がよかった。


でも、今それを口にしたら、顔まで熱くなってしまいそうだった。


そんな私たちの様子を、周囲の生徒たちがちらちらと見ていたことには、気づかなかった。


そして、その日の午後。


学園のあちこちで、ある噂が囁かれ始める。


――アストレイア侯爵令嬢と、公爵家のノア様が、手を繋いで歩いていたらしい、と。


もちろん、その噂がどれほど広がることになるのか、このときの私は知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。