↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
第1章 恋愛しないはずの学園生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/102

王太子殿下は、幼馴染をからかいたい!

週末のお茶会から数日。


学園生活にも、少しずつ慣れてきた。

授業は楽しいし、リリアやローゼリア様とも仲良くなれたし、今のところ大きな問題もない。


……うん。順調、順調!


そう思っていた、ある日の昼休み。


「ティア」


教室を出たところで、聞き慣れた声がした。


「あっ、ノア!」

振り返ると、ノアが廊下に立っていた。

「これから昼食?」

「うん! リリアさんたちと食べる予定だよ」

「そう。じゃあ、途中まで一緒に行こうか」


ノアが自然に私の隣へ並ぶ。


ふふ。こうしていると、昔に戻ったみたい。


「ノア、最近忙しそうだね」

「少しね。学園が始まったばかりだから」

「そっか。無理しないでね?」

「……ありがとう」


ノアが、ふっと目を細めた。


「相変わらずだな、ノア」


突然、背後から声がした。


「……っ」


隣のノアが、ぴたりと足を止める。


振り返ると、そこには一人の青年が立っていた。

整った顔立ちに、落ち着いた微笑み。制服を着ているのに、どこか周囲とは違う雰囲気がある。


「久しぶりだな。ずいぶん楽しそうじゃないか」


青年が、面白そうにノアを見つめる。


「……殿下」


ノアが小さく息をついた。


……殿下?


ちょっと待って!

この方って、まさか……!


私は慌てて姿勢を正し、深く礼をした。


「そうかしこまらなくていい。顔を上げてくれ」


穏やかな声に、そっと顔を上げる。


「久しぶりだね、セレティア嬢。覚えているかな?」


……えっ?


「以前、王宮のお茶会でお会いしたことがあるんだが」


……お茶会?


あっ!!


そういえば、昔、お父様に連れられて王宮のお茶会に参加したことがあったような……!


「ご無沙汰しております、ユリウス殿下。セレティア・アストレイアでございます」

「ふっ。思い出してもらえたようで何よりだ」


……よかった!

危うく、王太子殿下のことを忘れていたなんて失礼をするところだった!


ユリウス・フォン・アルセイン殿下。

この国の王太子であり、乙女ゲームの攻略対象の一人。


そして、学園の生徒会長でもある。


……王太子で生徒会長って、いかにも攻略対象らしい肩書きだよね!


しかも、ローゼリア様が婚約者候補に挙がっている、そのお相手!


……ついに来たーーー!!


いやいや、喜んでる場合じゃない!

攻略対象とは、なるべく距離を置く予定だったのに!


「君が学園に入学したと聞いてね。いつか挨拶をと思っていたんだ」

「そ、そうだったのですね!」


王太子殿下に気にかけてもらえるなんて、光栄だけど……緊張する!


すると、ユリウス殿下が隣のノアをちらりと見た。


「それにしても、ノア。相変わらずだな」

「……殿下。余計なことは言わないでください」

「おや。私はまだ何も言っていないが?」

「その顔がすでに余計なんです」


……ええっ!?


王太子殿下に向かって、その顔が余計って……!


ところが、ユリウス殿下は怒るどころか、楽しそうに笑った。


「ははっ! 相変わらず口が悪いな」

「殿下が相手だからです」

「それは光栄だ」


ノアって、殿下とこんな話し方するの!?

いつも穏やかで、誰に対しても丁寧なのに。


なんだか、新鮮!


「ふふっ」


思わず笑ってしまった。


「……ティア?」

「あっ、ごめん! ノアと殿下って、仲良しなんだね!」


すると、ノアが微妙な顔をした。


「……仲良し?」

「おや、違うのか? 私は仲がいいと思っていたんだが」


ユリウス殿下が、わざとらしく首を傾げる。


「……殿下」

「そう睨むな。セレティア嬢が驚くだろう?」


ふふ。ノアがこんなに困ってるところ、初めて見たかも。


「セレティア嬢」


ユリウス殿下が私に向き直ると、先ほどまでのいたずらっぽい表情を和らげた。


「学園生活には慣れたかな?」

「は、はい! おかげさまで、楽しく過ごしております」

「それは何よりだ。何か困ったことがあれば、遠慮なく相談するといい」


……おお!

さすが王太子殿下!


やっぱり、ちゃんと王子様なんだ!


「ありがとうございます!」


私が礼をすると、ユリウス殿下は穏やかに頷いた。


けれど、次の瞬間。


「ところで、ノア」

「……何でしょうか」

「昔のお茶会でも、君はセレティア嬢のことになると――」

「殿下」


ノアの声が、少し低くなった。


ユリウス殿下は一瞬だけ目を丸くし、それから楽しそうに笑う。


「おっと。これは失礼」

「……本当に、お願いします」


……えっ?

昔のお茶会で、何かあったっけ?


もしかして、私がノアに迷惑をかけていた話!?


や、やめてください!

そんな恥ずかしい話、王太子殿下から聞きたくありません!


「ノア、怒ってる?」


そっと顔を覗き込むと、ノアは一瞬だけ目を見開いた。


「……怒ってないよ」


さっきまでとは違う、柔らかな声。


「ただ……君が困るようなことは、聞かなくていいから」


……あ。

ノア、私が昔の話をされて困ると思って、止めてくれたのかな?


「ありがとう、ノア!」


そう言って笑うと、ノアは少しだけ困ったように微笑んだ。


「……どういたしまして」


「……なるほど」


ユリウス殿下が、小さく呟いた。


「思っていた以上だな」

「殿下」

「ははっ。わかった、もう言わない」


……何が?

私だけ、話についていけてない気がするんですけど!?


そのとき、廊下の向こうから声がした。


「セレティア様!」


振り向くと、リリアとローゼリア様が歩いてくるところだった。


「あっ、リリアさん! ローゼリア様!」


ローゼリア様はユリウス殿下に気づくと、すっと背筋を伸ばし、優雅に礼をした。

隣のリリアも慌てて頭を下げる。


「顔を上げてくれ」


殿下の穏やかな声を受けて、二人が顔を上げた。


「ごきげんよう、殿下」

「ああ、ローゼリア嬢。久しいな」

「お変わりなくお過ごしのご様子、何よりでございます」

「君も元気そうで安心したよ」


ローゼリア様は落ち着いた微笑みを返しているけれど、いつもより少しだけ背筋が伸びている気がする。


……おお。

なんだか、急に貴族らしい空気になった!


「ノアの顔を見かけたのでな。少し話していたところだ」


……少し?

結構、からかっていた気がするけど。


「それに、セレティア嬢にも会えた。なかなか興味深い時間だったよ」


……興味深い!?

私、何か変なこと言った!?


「殿下。そろそろお戻りにならなくてよろしいのですか?」


ノアが、すかさず口を開いた。


「おや。追い払うつもりか?」

「昼休みも限られていますので」

「ふっ。そういうことにしておこう」


ユリウス殿下は楽しそうに笑うと、私たちに向き直った。


「では、私はこれで。セレティア嬢、また話そう」

「は、はい!」


……また!?

いや、きっと社交辞令だよね!


「ノア」


去り際、ユリウス殿下が足を止めた。


「そう警戒するな。私はお前の味方だぞ?」

「……それなら、もう少し静かにしていてください」

「ははっ! 善処しよう」


そう言い残して、ユリウス殿下は去っていった。


……すごい。

王太子殿下って、もっと近寄りがたい方だと思ってた。


でも、ノアと話しているときは、なんだか普通のお兄さんみたいだったな。


「セレティア様」


リリアが、目を輝かせている。


「ノア様と王太子殿下って、あんなに親しいんですね!」

「ね! 私もびっくりしちゃった!」


ローゼリア様も、小さく微笑んだ。


「お二人は幼い頃からのお付き合いですもの。殿下も、ノア様には気を許していらっしゃるのでしょうね」


……なるほど!

やっぱり、長い付き合いっていいなぁ。


「二人とも、先に食堂へ行っててね! すぐ追いつくから!」

「はい! お席を探しておきますね」


リリアとローゼリア様は頷いて、食堂へ向かった。


「ノアも一緒に行く?」

「……その前に、少しだけ話してもいい?」


……ん?


「もちろん!」


廊下の窓から、柔らかな日差しが差し込んでいる。

ノアは少し黙ってから、私を見た。


「……ティア」

「なあに?」

「さっき、殿下と話していて……困らなかった?」


……あれ?

もしかして、心配してくれてる?


「ううん! びっくりはしたけど、楽しかったよ!」

「……そう」


ノアが、ほっとしたように息をついた。


「それにね、ノアの知らない顔が見られて嬉しかった!」

「……え?」

「だって、殿下と話してるノア、いつもとちょっと違ったんだもん!」


ノアが目を瞬かせた。


「……変だった?」

「ううん! なんだか、もっと仲良くなれた気がした!」


ノアが、ふっと息を漏らす。


「……君は本当に」


そこで言葉を止めた。


「ん?」

「……いや。何でもない」


そう言って、少しだけ笑う。


……あれ?

なんだろう。今の笑顔、ちょっと優しい。


「ティア」


ノアが、静かに私の名前を呼んだ。


「僕は、君の知らない僕を……これからも、たくさん見せられたらいいと思ってる」


思わず顔を上げる。

ノアは、まっすぐ私を見ていた。


「昔から一緒にいるけど、僕たち、もう子どもじゃないから」


……あ。

そうだよね。


ノアも私も、もう十六歳。

小さい頃とは、少しずつ変わっている。


「うん! 私も、もっとノアのこと知りたい!」


そう答えると、ノアは一瞬だけ目を見開いた。

それから、嬉しそうに目を細める。


「……そっか」


そして、そっと手を差し出した。


「じゃあ、昼食に行こうか。みんなを待たせてしまうから」

「うん!」


私は、その手を取った。


……あれ?


そういえば、ノアと手を繋ぐのって、久しぶりかも。


昔は当たり前だったのに。

今は、繋いだ手が妙に気になってしまう。


……なんでだろう?


隣を見ると、ノアが穏やかに微笑んでいた。


その笑顔を見た瞬間、なぜか胸が小さく跳ねる。


……あれ?

今の、何?


でも、ノアの手は昔と変わらず温かくて。


私は少しだけ不思議に思いながら、その手を握り返した。


すると、ノアもほんの少しだけ、私の手を握り返してくれる。


……ふふ。

やっぱり、ノアと一緒にいると落ち着くなぁ。


私はそんなことを思いながら、ノアと並んで食堂へ向かった。


――その手を離すタイミングなんて、少しも考えないまま。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。