猫と弟と、にぎやかなお茶会!
学園が始まって、初めての週末。
今日は、ちょっと特別な日だ。
なんと、リリアとローゼリア様が、我が家に遊びに来てくれるのだ!
「ふふふ……楽しみだなぁ」
朝からそわそわしている私を見て、ミアが小さく笑った。
「お嬢様、もう何度目でしょう。そのお言葉を聞くのは」
「えっ、そんなに言ってた?」
「はい。少なくとも、十回は」
……そんなに?
でも、仕方ないよね!
だって、お友達をお家に招くんだもの!
「姉様、おはようございます」
振り返ると、リオンが扉のところに立っていた。
「リオン!おはよう!」
「今日はずいぶんご機嫌ですね」
「うん!今日はお友達が来るんだよ!」
リオンは、ふわりと微笑んだ。
「ええ、聞いています。姉様のお友達なら、僕もぜひご挨拶したいです」
「もちろん!紹介するね!」
すると、リオンが少しだけ首を傾げる。
「……ところで、姉様」
「ん?」
「今日は、僕にも少しお時間をいただけますか?」
……あら?
「もちろんだよ!どうしたの?」
「いえ。最近、姉様は学園でお忙しそうですから」
そう言って、ちょっぴり寂しそうに笑う。
……うっ。
そんな顔をされたら、お姉ちゃん弱いんですけど!
「リオン!」
思わず両手を広げると、リオンが嬉しそうに近づいてきた。
「ふふ。姉様、大好きです」
「私も大好き!」
ぎゅっと抱きしめる。
……あれ?前より顔が近い?
そういえば、リオンはいつの間にか私より背が高くなっていたんだよね。
小さい頃は、私の胸元にすっぽり収まっていたのに。
……大きくなったなぁ。
「姉様?」
不思議そうに見下ろしてくるリオンの頭を、私はそっと撫でた。
「ううん。なんでもない!今日も可愛いね、リオン!」
「……ふふ。ありがとうございます」
そのとき。
「……にゃあ」
足元から、低い鳴き声が聞こえた。
「あっ、ルゥ!」
銀灰色の猫が、じっとこちらを見上げている。
……なんだろう。
ちょっと不機嫌?
「ルゥもおいで!」
手を伸ばすと、ルゥは軽やかに跳び上がり、私の腕に収まった。
リオンが、くすりと笑う。
「……姉様は、本当に人気者ですね」
「えへへ。幸せ者だね!」
ルゥは私の胸元に顔を埋めて、満足そうに喉を鳴らした。
……ふふ。
今日はにぎやかになりそう!
***
午後。
応接室に案内されたリリアとローゼリア様は、少し緊張した様子だった。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます!」
リリアが深々と頭を下げる。
「こちらこそ、お招きいただき光栄ですわ」
ローゼリア様も優雅に微笑んだ。
「そんなにかしこまらないで!今日は楽しくおしゃべりしよう!」
そう言って席を勧めると、二人の表情が少し和らいだ。
「姉様」
扉の向こうから、聞き慣れた声がした。
「お客様にご挨拶してもよろしいですか?」
「もちろん!入って!」
入ってきたリオンは、いつもの甘えん坊な弟とは少し違っていた。
背筋を伸ばし、落ち着いた笑みを浮かべている。
「初めまして。セレティアの弟、リオン・アストレイアと申します。本日は姉がお世話になります」
……おおっ!
なんて立派なご挨拶!
「初めまして!リリアと申します!」
「ローゼリアですわ。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
リオンは二人に丁寧に一礼した。
「姉様が、今日をとても楽しみにしていたんです。どうぞ、ゆっくりしていってください」
……リオンったら!
そんなことまで言わなくても!
「ふふ。素敵な弟さんですわね」
ローゼリア様が微笑む。
「はい!とても優しそうです!」
リリアも頷いた。
「えへへ。自慢の弟なの!」
すると、リオンが少しだけ頬を染める。
「……姉様。そんなふうに言われると、照れてしまいます」
……可愛い!
本当に、なんて可愛い弟なの!
「それでは、僕はこれで失礼します。姉様、またあとで」
そう言って、リオンは静かに退室していった。
……うん。
今日も我が弟は完璧でした!
「セレティア様、本当に弟さんと仲がよろしいんですね」
「うん!とっても!」
リリアに答えた、そのとき。
「……にゃ」
窓辺から、小さな鳴き声がした。
「あっ、ルゥ!」
銀灰色の猫が、いつの間にか窓辺に座っていた。
「まあ……!」
ローゼリア様が目を輝かせる。
「この子が、お話しされていた猫ちゃんですのね?」
「うん!ルゥだよ!」
私が手を伸ばすと、ルゥは当然のように膝へ跳び乗ってきた。
そして、くるりと丸くなる。
……あら?
今日はずいぶん甘えん坊さんだね?
「わあ……!綺麗な毛並みですね!」
リリアが感心したように声を上げる。
「本当に……。なんて愛らしいのでしょう」
ローゼリア様も、うっとりと見つめている。
「ふふ。可愛いでしょう?」
私が頭を撫でると、ルゥは満足そうに目を細めた。
「……あの、セレティア様」
ローゼリア様が、少し遠慮がちに口を開く。
「ルゥちゃんを、撫でてもよろしいかしら?」
「もちろん!ね、ルゥ?」
ローゼリア様が、そっと手を伸ばす。
すると。
……すいっ。
ルゥが、見事に顔を背けた。
「……あら?」
ローゼリア様の手が、宙で止まる。
「ルゥ?」
私が呼ぶと、ルゥは何事もなかったようにこちらを見上げた。
「にゃ」
……えっ。
もしかして、恥ずかしがってる?
「ごめんね、ローゼリア様。ルゥ、ちょっと人見知りみたい」
「い、いえ。猫ちゃんにも気分がありますもの」
ローゼリア様が微笑んだ。
……でも、ちょっと残念そう。
「ルゥ、ローゼリア様は優しい人だよ?」
そう囁いてみる。
すると、ルゥは私の膝の上で、さらに丸くなった。
……うん。
今日は動く気がないらしい。
「ふふっ」
リリアが、思わず笑い声を漏らした。
「ルゥちゃん、セレティア様のことが大好きなんですね!」
「そうなのかな?」
「ええ。だって、ずっとお膝の上から離れませんもの」
……確かに。
「ふふ。私もルゥが大好きだよ!」
そう言って背中を撫でると、ルゥの喉が小さく鳴った。
しばらくして、お茶も二杯目になった頃。
「……こうして、何も気にせずお茶をいただくのは、久しぶりですわ」
ローゼリア様が、ぽつりと呟いた。
「えっ?ローゼリア様、お茶会にはよく参加されるんじゃないの?」
「ええ。けれど……今日のようなお茶会は、あまりありませんの」
ローゼリア様は、少し困ったように微笑んだ。
「公爵家の娘として出席するお茶会では、どうしても立場を意識してしまいますから」
「……そうなんだ」
私は思わず、ローゼリア様の顔を見つめた。
いつも優雅で、しっかりしていて。
何でもそつなくこなしてしまいそうな方だけど……。
きっと、私の知らない苦労もあるんだろうな。
「でも、今日は楽しいですわ」
ローゼリア様が、ふわりと微笑む。
「お二人といると、不思議と肩の力が抜けますの」
「……私もです!」
リリアが嬉しそうに頷いた。
「最初は緊張していたんですけど、今は普通にお話しできるのが嬉しくて!」
「私も!だから、今日は遠慮しないで楽しんでね!」
そう言って笑うと、ローゼリア様も柔らかく目を細めた。
そのとき。
……ちょん、ちょん。
膝の上で、何かが私の手に触れた。
「ん?どうしたの、ルゥ?」
見下ろすと、ルゥが前足で私の手をつついている。
……あっ。
おしゃべりに夢中で、撫でるのを忘れてた!
「ごめんね、ルゥ」
頭を撫でると、ルゥは満足そうに喉を鳴らした。
「ふふっ。まるで、セレティア様に構ってほしいって言っているみたいですね」
リリアが笑う。
「本当ですわ。ずいぶん甘えん坊な猫ちゃんですこと」
ローゼリア様も微笑んだ。
「そうなのかな?ルゥ、寂しかった?」
「……にゃ」
……あれ?
なんだか、返事をしてくれたみたい。
「ふふ。大丈夫だよ。ちゃんとそばにいるからね」
そう言ってもう一度撫でると、ルゥは気持ちよさそうに目を閉じた。
***
楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。
窓から差し込む日差しが少し傾いた頃、扉が控えめに叩かれた。
「姉様、失礼します」
顔を出したのは、リオンだった。
「リオン!どうしたの?」
「そろそろお客様のお帰りのお時間かと思いまして。馬車の準備が整ったそうです」
「あっ、もうそんな時間?」
時計を見ると、思っていたよりずっと時間が経っていた。
「ふふ。ずいぶん楽しそうでしたね、姉様」
「うん!すっごく楽しかった!」
すると、リリアが微笑んだ。
「リオン様は、本当にお姉様が大好きなんですね!」
リオンは、少しだけ目を細めた。
「ええ。世界で一番、大切な姉ですから」
……えっ。
そんなこと、さらっと言っちゃう!?
「まあ……!」
ローゼリア様が、嬉しそうに微笑む。
「本当に仲のよろしいご姉弟ですのね」
「ふふ。姉様には、いつもお世話になっていますから」
リオンが穏やかに笑う。
……もう!
そんなに褒められたら、お姉ちゃん照れちゃうよ!
「私だって、リオンのこと大好きだからね!」
そう言うと、リオンは一瞬だけ驚いた顔をして、それから嬉しそうに笑った。
「……はい。知っていますよ、姉様」
……ああ。
うちの弟、本当に可愛い。
帰り際、リリアが名残惜しそうに振り返った。
「今日はありがとうございました!また遊びに来てもいいですか?」
「もちろん!何度でも来てね!」
ローゼリア様も、そっと微笑む。
「……わたくしも、またお邪魔してよろしいかしら?」
「もちろんだよ、ローゼリア様!」
すると、ローゼリア様は少しだけ目を見開いて、それから嬉しそうに頷いた。
「……ありがとうございます」
二人を見送って応接室へ戻ると、ルゥはまだソファの上で丸くなっていた。
「ルゥ、今日は楽しかったね!」
そう話しかけると、ルゥがゆっくりと顔を上げる。
「……にゃ」
私が腰を下ろすと、待っていたとばかりに膝へ跳び乗ってきた。
「ふふ。まだ甘え足りないの?」
柔らかな背中を撫でると、ルゥは満足そうに目を細めた。
……どうやら、うちの猫は今日も私の膝が一番好きらしい。
そんなことを思いながら、私はもう一度、その銀灰色の毛並みを撫でた。




