三人寄れば、お茶会日和!
学園生活、四日目。
放課後の談話室には、柔らかな午後の日差しが差し込んでいた。
「わあ……!素敵なお部屋ですね!」
リリアが、きらきらした目で室内を見回している。
「ふふ。ここは生徒同士の交流にも使われる場所ですの。お茶を楽しむには、ちょうどよろしいでしょう?」
そう言って微笑んだのは、ローゼリア様だ。
今日は三人で、約束していた薬草のお話をすることになった。
もちろん、それも楽しみなんだけど。
実は私、三人でお茶会ができることも、ちょっと楽しみにしていたのだ。
だって、女の子三人でお茶会なんて!
前世でも今世でも、こういう時間には憧れていたんだよね。
「セレティア様、こちらのお菓子も美味しそうですよ!」
「本当だ! わあ、どれから食べようかな」
「……お二人とも、まずはお茶をいただきませんこと?」
ローゼリア様が小さく笑った。
あっ。そうでした。
私たち、薬草のお話をしに来たんだった。
「リリアさん、ご実家は薬草を扱っているんだよね?」
「はい!小さなお店なんですけど、父と母が営んでいるんです。私も昔からお手伝いしていて」
リリアは嬉しそうに話し始めた。
季節によって採れる薬草の違いや、乾燥させると香りが変わる葉のこと。
私は思わず身を乗り出した。
「へえ!同じ薬草でも、保存の仕方でそんなに違うんだ!」
「そうなんです!特に湿気には気をつけないといけなくて」
「それは興味深いですわね」
ローゼリア様も、静かにカップを置いた。
「わたくし、薬草は書物で学ぶことが多いのですけれど、実際に扱う方のお話は新鮮ですわ」
「そ、そんな!ローゼリア様にそう言っていただけるなんて……!」
リリアが慌てて背筋を伸ばす。
「どうぞ、楽になさって。今日はお勉強ではなく、お茶会ですもの」
ローゼリア様は優雅に微笑んだ。
……うん。
やっぱり、素敵な方だなぁ。
最初は少し近寄りがたい雰囲気があったけれど、こうして話してみると、とても優しい。
それに、リリアのお話を聞く目が真剣だ。
「そういえば、ローゼリア様はどんなお花がお好きなんですか?」
私が尋ねると、ローゼリア様は少し考え込んだ。
「そうですわね……白い鈴蘭が好きですわ」
「鈴蘭!」
「ええ。小さくて可憐でしょう?けれど、見た目とは違って毒もあるのです」
「そうですね。鈴蘭は扱いに注意が必要です」
リリアが頷く。
「わたくし、そういうところも含めて、興味深い花だと思っていますの」
「なるほど……!」
綺麗なだけじゃなくて、ちゃんとその性質まで知っているんだ。
「ローゼリア様って、お花のことも詳しいんですね!」
「そ、そこまでではありませんわ。ただ、昔から植物の図鑑を眺めるのが好きでしたので……」
ローゼリア様が、少しだけ頬を染めた。
あれ?
照れてる?
「私も図鑑、大好きです!」
リリアがぱっと顔を輝かせる。
「特に、まだ見たことのない植物が載っていると、いつか実物を見てみたいなって!」
「……わかりますわ」
ローゼリア様が、思わずといった様子で身を乗り出した。
「本では色まで正確に伝わらないことがありますもの。実物を見られたときの嬉しさといったら……!」
「そうなんです!それに、珍しい薬草の中には、乾燥させると葉の色が変わるものもあって……!」
リリアが夢中になって話し始める。
けれど、途中ではっとしたように口をつぐんだ。
「あっ……! 申し訳ありません。私ばかり話してしまって……」
すると、ローゼリア様が首を横に振った。
「謝ることなんてありませんわ。……もっと聞かせてくださる?」
「……はい!」
リリアの顔が、ぱっと明るくなった。
「実は、うちのお店でも扱っている薬草なんですけど……」
再び楽しそうに話し始めたリリアに、ローゼリア様も嬉しそうに頷いている。
二人の声が弾んで、ふと顔を見合わせた。
「……ふふっ」
「あはは!」
つられるように、私も笑ってしまった。
なんだか、嬉しい。
少し前までは、三人でこんなふうに笑い合えるなんて思っていなかったから。
「セレティア様?」
ローゼリア様が、不思議そうに私を見る。
「どうかなさいまして?」
「ううん。二人とも楽しそうだなって思って!」
そう答えると、ローゼリア様が一瞬、目を見開いた。
「……そう、ですわね」
それから、ふわりと微笑む。
「わたくしも、とても楽しいですわ」
その笑顔があまりに綺麗で、私は思わず見惚れてしまった。
……ローゼリア様、笑うとこんなに可愛いんだ。
「私もです!」
リリアが嬉しそうに身を乗り出す。
「最初はすごく緊張していたんですけど、今はお二人ともっとお話ししたいなって!」
「私も!」
思わず即答してしまった。
ローゼリア様が、また小さく笑う。
「……お二人とも、本当に素直でいらっしゃるのね」
「えっ?そうかな?」
「ええ。少し、羨ましいくらいですわ」
その言葉は、とても小さかった。
けれど、どこか優しい響きがした。
しばらくして、テーブルの上のお菓子がすっかり少なくなった頃。
私は、ふと思いついた。
「あっ、そうだ!」
二人がこちらを見る。
「今度、よかったら私のお家に遊びに来ない?」
「えっ!?」
リリアが目を丸くした。
「セレティア様のお屋敷に、ですか!?」
「うん!もっとゆっくりお話ししたいし、お庭も案内したいなって」
それに、お母様もきっと喜ぶと思う。
……あ。
もちろん、お父様にも先に相談しないとね。
「ローゼリア様も、よかったら!」
「……わたくしも、ですか?」
「もちろん!」
ローゼリア様は、なぜか少し驚いた顔をした。
そして、カップに添えていた指をそっと離す。
「……ぜひ、お伺いしたいですわ」
その声は、いつもより少し柔らかかった。
「やった!」
私は嬉しくなって、両手を合わせた。
「それじゃあ、家族に相談してみるね!」
「わあ、楽しみです!」
リリアも嬉しそうだ。
そうだ。忘れちゃいけない。
「それに、我が家にはとっても可愛い猫がいるんだよ!」
「猫、ですか?」
「うん!ルゥっていうの。毛並みがすっごく綺麗で、ふわふわで……!」
思い浮かべただけで、頬が緩んでしまう。
「まあ……!」
ローゼリア様の目が、きらりと輝いた。
「猫ちゃんもいらっしゃるのね」
「ローゼリア様、猫は好き?」
「……ええ。実は、とても」
……おおっ!
今日一番の食いつきかもしれない!
「じゃあ、ルゥにも紹介するね!」
「楽しみにしておりますわ」
ローゼリア様が、嬉しそうに微笑んだ。
その隣で、リリアも笑っている。
私は二人の顔を見比べて、胸がぽかぽかするのを感じた。
学園生活が始まって、まだ四日目。
だけど、こうして一緒に笑える人が増えていくのは、なんだかとても幸せだ。
……ふふ。
今度のお茶会も、楽しみだなぁ。




