弟の特権、幼馴染の受難!?
学園生活、三日目の放課後。
授業を終えた私は、リオンとの待ち合わせ場所へ向かっていた。
待ち合わせ場所は、学園の中庭に面した、人通りの少ない回廊だ。
今日は朝からリリアやローゼリア様とお話しできたし、お昼にはノアにもリリアを紹介できた。
うん!今日も充実した一日だったなぁ。
そんなことを考えながら歩いていると、聞き慣れた声がした。
「姉様!」
振り向くと、リオンがこちらへ歩いてくるところだった。
「あっ、リオン!」
思わず手を振ると、リオンは嬉しそうに微笑んだ。
「お待たせしました。お迎えに参りました」
「ふふ。ありがとう!」
近づいてきたリオンを見上げて、私は改めて思う。
……大きくなったなぁ。
四年前は、私の肩にも届かなかったのに。
今では、少しだけ見上げなければ目が合わない。
「姉様?どうかなさいましたか?」
「ううん。ただ、リオンって本当に背が伸びたなぁって」
そう言うと、リオンは少し得意げに笑った。
「姉様を追い越してしまいましたからね」
「そうだねぇ。昔はあんなに小さかったのに……」
しみじみと呟くと、リオンがくすっと笑う。
「姉様。それ、最近よくおっしゃいますよ」
「だって、本当なんだもの!」
私は背伸びをして、リオンの頭に手を伸ばした。
すると、リオンは何も言わずに少し身を屈めてくれる。
「ふふ。ありがとう!」
さらさらの髪を撫でると、リオンは気持ちよさそうに目を細めた。
「……やっぱり、姉様に撫でていただくのは好きです」
「もう、リオンったら!」
こんなに大きくなっても、甘えん坊なところは変わらない。
可愛いなぁ、もう!
「……楽しそうだね」
不意に聞こえた声に振り向くと、ノアがこちらへ歩いてくるところだった。
「あっ、ノア!」
ノアは私たちを見て、少しだけ眉を上げる。
「リオン、迎えに来てたんだ」
「はい。姉様と一緒に帰る約束ですので」
リオンはにっこり笑った。
「ノア兄様も、ご一緒にいかがですか?」
「……ああ。途中までなら」
ノアが私の隣に並ぶ。
「ティア、今日は楽しかった?」
「うん!すっごく!」
そう答えると、ノアは柔らかく笑った。
「そっか。それならよかった」
その笑顔を見て、私も嬉しくなる。
やっぱり、ノアと一緒にいると落ち着くなぁ。
「姉様」
リオンが私の袖を、ちょん、と引いた。
「ん?なあに?」
「少し、お願いがあるのですが」
「お願い?」
リオンはちらりとノアを見たあと、少しだけ首を傾げた。
「……久しぶりに、抱きしめていただいてもいいですか?」
「えっ?」
思わず瞬きをする。
リオンは少し照れたように笑った。
「最近は、姉様とゆっくり過ごす時間が減ってしまいましたから」
……そう言われると、確かに。
学園が始まってから、以前より一緒に過ごす時間が少なくなっている。
「もちろん!」
私は両手を広げた。
「おいで、リオン!」
すると、リオンは嬉しそうに身を屈めて、そっと私を抱きしめた。
「……ありがとうございます、姉様」
昔とは違う、少し低くなった声が耳元で聞こえる。
でも、私にとってはずっと可愛い弟だ。
「ふふ。いつでも甘えていいんだからね?」
そう言って背中をぽんぽんと叩くと、リオンは小さく笑った。
「……はい」
そのとき。
「……リオン」
ノアの声がした。
「はい、ノア兄様?」
リオンが私から離れて、にっこりと微笑む。
ノアは何か言いたげに口を開きかけたけれど、結局、小さく息をついただけだった。
「……いや。何でもない」
「そうですか?」
リオンは首を傾げる。
それから、何かを思いついたように口元を緩めた。
「……弟でよかったです」
「…………」
ノアが黙り込んだ。
……ん?
「リオン?どういう意味?」
私が尋ねると、リオンは何でもないことのように答えた。
「姉様に、こんなふうに甘えられますから」
「ふふ。そんなの、当たり前じゃない!」
リオンは満足そうに微笑む。
一方のノアは、なぜか少し困ったような顔をしていた。
「ノア?どうしたの?」
「……いや。リオンは、なかなか手強いなと思って」
「えっ?リオンが?」
思わずリオンを見る。
リオンは、いつもの優しい笑顔のままだ。
「ふふ。ノア兄様には、まだまだ敵いませんよ」
「……そうかな」
ノアが苦笑する。
……二人とも、何の話をしているんだろう?
首を傾げる私を見て、リオンが楽しそうに笑った。
「姉様、そろそろ帰りましょうか」
「あっ、そうだね!」
私は二人を見上げて微笑んだ。
「ノアも、一緒に帰ろう!」
ノアは一瞬だけ目を丸くしたあと、いつもの優しい笑顔を浮かべた。
「……うん。喜んで」
こうして私たちは、三人並んで歩き出した。
隣では、リオンとノアが何やら小声で話している。
「……リオン。わざとだろ」
「何のことでしょう、ノア兄様?」
「……本当に、いい性格になったね」
「ふふ。ノア兄様のおかげかもしれません」
……ん?
何だか楽しそう。
「二人とも、何のお話?」
そう尋ねると、二人は同時にこちらを向いた。
「何でもないよ、ティア」
「はい。姉様は気になさらないでください」
……むぅ。
二人だけで秘密のお話なんて、ずるい!
「姉様、明日も一緒に帰りましょうね」
「うん!もちろん!」
「……ノア兄様も、よろしければ」
「……最初から誘ってくれないかな」
リオンは楽しそうに笑った。
……二人って、本当に仲良しだなぁ。
そう思いながら、私は二人と並んで帰り道を歩いた。




