幼馴染の恋は、前途多難!?
学園生活が始まって、三日目。
午前の授業を終えた私は、廊下を歩きながらあることを考えていた。
リリアさんにノアを紹介するなら、いつがいいかな?
昨日、リリアさんと話していて思ったのだ。あんなに優しくて、一生懸命な子なら、きっとノアとも仲良くなれるはず。もちろん、二人がどう思うかは本人たち次第だけど。
……うん。まずはノアに聞いてみよう!
そう決めたところで、ちょうど見慣れた黒髪が目に入った。
「ノア!」
声をかけると、ノアが振り向いた。
「ティア。どうしたの?」
「ちょっと聞きたいことがあるの!」
「うん。何?」
「ノアって、どんな女の子が好き?」
「…………え?」
ノアが足を止めた。
あれ?そんなに驚く質問だったかな?
「ほら、ノアももう十六歳でしょう?好きな女の子のタイプとか、あるのかなって」
「……急にどうしたの?」
「ちょっと気になって!」
ノアは私をじっと見つめたあと、困ったように笑った。
「……ティアみたいな子、かな」
「えっ!私みたいな子?」
「うん」
へえ!そうなんだ!私と気が合うような子が好きってことかな?
……それなら!
「じゃあ、リリアさんとも気が合うかも!」
「…………」
ノアの笑顔が止まった。
「……リリアさん?」
「うん!この前お友達になった子なの。すごく優しくて、薬草にも詳しくてね。ノアにも紹介したいなって思ってたんだ!」
「……なるほど」
ノアは小さく息をついた。
「ティア。俺、結構頑張ってるんだけど」
「え?何を?」
「……いや。何でもない」
そう言って笑うノアの表情が、なぜだか少しだけ寂しそうに見えた。
……あれ? 私、何か変なこと言っちゃった?
「ノア?」
「ううん。ティアが俺のことを考えてくれたのは、嬉しいよ」
「本当?」
「うん。でも……」
ノアは一度言葉を切って、私の目を見た。
「俺が誰と仲良くなりたいか、考えたことある?」
その問いに、私は瞬きをした。
……あ。そうだよね。ノアがどんな人と仲良くなりたいかなんて、私が勝手に決めることじゃない。
「……ごめんね、ノア。私、ちょっと先走っちゃった」
「謝らなくていいよ」
ノアはいつもの優しい笑顔に戻った。
「紹介してくれるのは嬉しい。でも、俺のことは、俺に決めさせてね」
「うん! もちろん!じゃあ、もし機会があったら、お友達として紹介してもいい?」
「……うん。それなら、ぜひ」
よかった。怒ってるわけじゃなかったんだ。
ノアはなぜか、もう一度小さく息をついた。
* * *
その日の昼休み。
私は中庭でリリアさんを見つけた。
「リリアさん!」
「セレティア様!」
リリアさんは私を見るなり、ぱっと笑顔になった。
「ちょうどよかった!少しお話ししませんか?」
「もちろん!」
近くのベンチに腰を下ろすと、リリアさんは嬉しそうにノートを開いた。
「昨日、セレティア様とお話しした薬草のことなんですけど、気になって、あのあともう少し調べてみたんです」
「本当!? 見せて!」
二人でノートを覗き込んでいると、背後から声がした。
「ティア」
振り向くと、ノアが立っていた。
「あっ、ノア!」
ノアは私の隣にいるリリアさんへ視線を向けた。
「……お友達?」
「うん!ちょうどよかった!」
私は立ち上がって、二人を交互に見た。
「ノア、こちらがリリア・フローレスさん。リリアさん、こちらはノア・ヴォルフィードさん。私の幼馴染なの!」
リリアさんは慌てて立ち上がり、丁寧に頭を下げた。
「は、初めまして!リリア・フローレスと申します」
「初めまして。ノア・ヴォルフィードです」
ノアも穏やかに微笑んだ。
「ティアからお話は聞いています」
「えっ、私のことを?」
「うん。薬草にとても詳しい方だって」
「そ、そんな!まだまだ勉強中です!」
リリアさんが照れたように笑う。
ふふ。いい感じ!やっぱり二人とも優しいから、すぐに打ち解けられそう。
「ノアも薬草に興味ある?」
「……ティアが楽しそうに話しているのを聞くのは、好きだよ」
「そうなんだ!」
「うん」
ノアはそう答えると、私の隣に腰を下ろした。
……あれ?リリアさんの隣、空いてるんだけどな。
まあ、いっか!
「それでね、リリアさん。さっきの薬草なんだけど――」
話を再開すると、リリアさんが楽しそうに説明してくれる。ノアは時々相槌を打ちながら、静かに私たちの話を聞いていた。
しばらくして、リリアさんがふと顔を上げた。
「……セレティア様とノア様は、本当に仲がよろしいんですね」
「うん!小さい頃からずっと一緒だから!」
「そうなんですね」
リリアさんは私たちを見比べると、なぜか少しだけ微笑んだ。
「……素敵ですね」
「えへへ。ありがとう!」
隣でノアが小さく笑った。
* * *
昼休みの終わりが近づき、リリアさんは次の授業の準備があると言って席を立った。
「今日はありがとうございました、セレティア様。ノア様も」
「こちらこそ。楽しかったよ!」
「またお話ししましょう!」
リリアさんが去っていくと、中庭には私とノアだけが残った。
「ねえ、ノア。リリアさん、素敵な子でしょう?」
「うん。感じのいい人だね」
「でしょう!」
嬉しくなって笑うと、ノアが私を見つめた。
「……ティア」
「ん?」
「もし俺に好きな人がいたら、応援してくれる?」
「もちろん!」
そんなの、決まってる。ノアが誰を好きになっても、私は応援するよ。だって、ノアには幸せになってほしいもの。
「……そっか」
ノアは少しだけ目を細めた。
「じゃあ、そのときは逃げないでね」
「……え?」
逃げる? どうして私が?
首を傾げると、ノアはくすっと笑った。
「何でもない。今はまだ、ね」
「もう!ノアって時々、変なこと言うよね!」
「そうかな?」
「そうだよ!」
ノアは楽しそうに笑うと、私の髪に目を向けた。そこには今日も、銀色の髪飾りが留められている。
「……今日もつけてくれたんだ」
「うん!お気に入りだもの」
「……ありがとう」
ノアの声が、少しだけ柔らかくなった。
その笑顔を見ていると、私まで嬉しくなってくる。
……やっぱり、ノアにはずっと笑っていてほしいな。
私が笑いかけると、ノアも嬉しそうに目を細めた。
「ティア」
「なあに?」
「俺は、今も十分幸せだよ」
「……え?」
まるで私の考えていることがわかったみたいな言葉に、思わず目を丸くする。
ノアは何も言わず、ただ優しく笑っていた。
……もう。ノアって、時々ずるいんだから。




