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『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
第1章 恋愛しないはずの学園生活

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猫は、何でもお見通し?

学園生活、二日目の夜。


湯浴みを終えた私は、寝台の上に腰を下ろした。


「はぁ……今日も楽しかったぁ!」

「にゃ」


枕元から返事が聞こえる。振り向くと、銀灰色の猫がこちらを見つめていた。


「ルゥ!ねえ、聞いて!」

両手を伸ばすと、ルゥは慣れた様子で近づいてくる。私はその小さな体を抱き上げ、膝の上に乗せた。

「今日ね、新しいお友達ができたの!」

「にゃあ」

「リリアさんっていうんだけど、薬草にすっごく詳しくてね。私と同じくらい、薬草のお話が大好きなの!」


思い出すだけで嬉しくなって、頬が緩む。


「ご実家が薬草のお店なんだって。今度、もっといろんなお話を聞いてみたいなぁ」

ルゥは私の膝の上で、ゆっくり尻尾を揺らした。

「それからね、ローゼリア様ともお話ししたの。ちょっと厳しいけど、やっぱり素敵な方だったよ」

「にゃ」

「ふふ。ルゥもそう思う?」


喉の下を撫でると、ルゥは気持ちよさそうに目を細めた。


ああ、可愛い。このふわふわに触れていると、一日の疲れなんて全部どこかへ飛んでいってしまう。


「そうそう!ノアもね、今日ちょっと変だったの」


ぴたり、とルゥの尻尾が止まった。


「私が髪飾りをつけていったら、なんだか照れてたみたいで。ふふっ、珍しいよね!」

「……にゃ」

「でも、嬉しそうだったからよかった!」


そう言って笑うと、ルゥが顔を上げた。青みがかった灰色の瞳が、じっと私を見つめている。


「ん?どうしたの?」

「にゃあ」


ルゥは小さく鳴くと、私の手に頭を押しつけてきた。


「もう、甘えん坊なんだから!」

思わず笑って、その額に頬を寄せる。

「ルゥも大好きだよ」


すると、ルゥは満足したように目を細めた。

ふふ。本当に可愛いなぁ。


* * *


夜が更け、部屋には静かな寝息だけが響いていた。


月明かりが寝台の端を淡く照らしている。その傍らで、銀灰色の猫がゆっくりと身を起こした。


淡い光がその体を包む。


光が消えたとき、そこに立っていたのは銀灰色の髪をした一人の青年だった。

青年は眠るセレティアを見下ろし、小さく息をついた。


「……まったく。あいつの話になると、随分と楽しそうだな」


当然、返事はない。セレティアは穏やかな寝息を立てている。


青年は寝台のそばに腰を下ろした。月光を受けた金色の髪が、枕の上で柔らかく輝いている。


「……昔から、そういうところは変わらないな」


誰にでも分け隔てなく笑いかける。自分の笑顔が、どれほど人の心を動かしているかも知らずに。


青年はそっと手を伸ばしかけ、途中で止めた。


「……今は、まだ」


呟きは、夜の静けさに溶けていく。

しばらく彼女を見つめたあと、青年は再び猫の姿へ戻った。


銀灰色の猫は寝台に飛び乗り、いつもの場所で丸くなる。その尻尾が、眠るセレティアの指先にそっと触れた。


* * *


翌朝。

学園に到着した私は、いつもより少し早足で教室へ向かっていた。


昨日、リリアさんと話した薬草のことが、まだ気になっていたのだ。


今日は、もう少しお話できるかな?


そんなことを考えていると、廊下の先に見覚えのある栗色の髪が見えた。


「あっ、リリアさん!」

声をかけると、少女がぱっと振り向いた。

「セレティア様!」


リリアさんが嬉しそうに駆け寄ってくる。


「おはようございます!」

「おはよう!昨日の薬草のお話、もっと聞きたいなって思ってたの」

「本当ですか?実は私も、お話ししたいことがあって……!」


リリアさんは抱えていたノートを開いた。そこには、昨日とは違う薬草の絵が描かれている。


「これ、実家の近くで採れる薬草なんです。乾燥させると香りが変わるんですけど、使い方によっては――」

「えっ、そうなの!?」


思わず身を乗り出すと、リリアさんが楽しそうに笑った。


「セレティア様って、本当に薬草がお好きなんですね」

「うん!大好き!」

「……嬉しいです」

「え?」


リリアさんは少し照れたように、ノートの端を指で押さえた。


「私、学園に来るまで、貴族の方とうまくお話しできるか不安だったんです。でも、セレティア様は、私の話をこんなに楽しそうに聞いてくださるから……」


その言葉に、胸がじんわり温かくなる。


「私も嬉しいよ。リリアさんとお話ししてると、時間を忘れちゃうもの!」

「……ありがとうございます!」


リリアさんは、花が咲くように笑った。


こういうの、いいなぁ。


ゲームのヒロインだからとか、平民だからとか。そんなことは関係なくて、ただ同じものが好きで、一緒に笑える。


それだけで、こんなに嬉しいんだ。


「……お二人とも、朝から楽しそうですわね」


声のした方を見ると、ローゼリア様が立っていた。


「あっ、ローゼリア様!おはようございます!」

「おはようございます、セレティア様」


ローゼリア様は私に挨拶を返すと、リリアさんにも視線を向けた。


「あなたは、昨日の……」

「リリア・フローレスと申します!昨日は失礼いたしました」


リリアさんが慌てて頭を下げる。


「……そんなに畏まらなくても結構ですわ。昨日のことは、もう済んだことでしょう?」

「は、はい!」


ローゼリア様の視線が、リリアさんのノートに留まった。


「薬草について調べていらしたの?」

「はい。セレティア様とお話ししていたところです」

「……そう」


少し考えるような間があった。


「薬学は、わたくしも選択しております。よろしければ、今度そのノートを見せていただけるかしら」

「えっ!もちろんです!」


リリアさんの顔がぱっと明るくなる。私は思わず身を乗り出した。


「じゃあ、今度三人で薬草のお話をしませんか?」


ローゼリア様が瞬きをする。


「……三人で、ですか?」

「はい!きっと楽しいと思うんです!」


リリアさんも期待に満ちた目でローゼリア様を見つめている。ローゼリア様はほんの少しだけ視線を逸らした。


「……授業の妨げにならない範囲でしたら、構いませんわ」

「やった!」


思わず声を上げると、ローゼリア様が眉を寄せる。


「セレティア様。廊下で大きな声を出すのは……」

「あっ、ごめんなさい!」


リリアさんがくすっと笑った。それにつられて私も笑うと、ローゼリア様は小さくため息をつく。


けれど、その口元がほんの少し緩んだのを、私は見逃さなかった。


ふふ。なんだか、いい感じ!


やがて始業の時間が近づき、私たちはそれぞれの教室へ向かうことになった。


リリアさんとローゼリア様に手を振って別れ、自分の教室へ戻る。


席に着くと、先ほどのリリアさんの笑顔が浮かんだ。


優しくて、明るくて、薬草のことになると夢中になって。リリアさんって、本当に素敵な子だなぁ。


……そういえば、リリアさんはゲームのヒロインなんだよね。


ということは、これから誰かと恋をすることだってあるのかもしれない。


ふと、黒髪に青い瞳の幼馴染が頭に浮かんだ。


ノア。


優しくて、頼りになって、昔から私の大切な人。


……うん。リリアさんもノアも、私の大好きな人たちだ。


二人が仲良くなったら、きっと嬉しいだろうな。


……そうだ!


まずは、二人を紹介してみようかな?


きっと、話してみたら気が合うと思うんだよね。


そう考えると、なんだか楽しみになってきた。


今度、ノアにも聞いてみようっと。

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