↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
第1章 恋愛しないはずの学園生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/95

ゲームのヒロイン、現る!?

学園生活、二日目。


昨日はあんなに緊張していたのに、今朝は少しだけ気持ちが軽かった。


理由は、ちゃんとわかっている。


ローゼリア様という、素敵な方に出会えたこと。

そして、ノアがそばにいてくれたこと。


……うん。

今日もきっと、大丈夫!


「お嬢様、髪飾りはこちらでよろしいですか?」


鏡の前で、ミアが銀色の髪飾りを手に取った。

小さな青い宝石が、朝の光を受けてきらりと輝く。


「あ、うん!それがいい!」


昨日、ノアにお願いされたのだ。


――明日も、その髪飾りをつけてきてくれる?


……俺が嬉しいから。


思い出した途端、なんだか頬が熱くなった。


……もう。

どうして、あんな言い方するのかな。


「お嬢様?」


鏡越しにミアと目が合った。


「お顔が赤いようですが……」

「な、なんでもない!」


ミアは不思議そうに首を傾げたあと、そっと微笑んだ。


……うう。

朝から調子が狂うなぁ。


* * *


午前中の授業が終わり、私は薬学の教室へ向かっていた。


今日は、ずっと楽しみにしていた薬学の授業がある。


……ふふ。

どんな薬草を扱うのかな。

珍しい植物も見られたりする?


そんなことを考えながら廊下を曲がった、そのときだった。


「あっ!」


目の前で、一人の少女が抱えていた本を落とした。


ばさばさっ、と音を立てて床に広がる本と紙束。


「ご、ごめんなさい!」


少女が慌ててしゃがみ込む。


「大丈夫?手伝うね!」


私もすぐに膝をつき、散らばった紙を拾い始めた。


「えっ!?あ、ありがとうございます!」


少女は驚いたように顔を上げた。


柔らかな栗色の髪。

明るい緑色の瞳。

飾り気のない、親しみやすい笑顔。


……あれ?


どこかで見たことがあるような……。

でも、こんなところで会うはずが……。


「これ、薬草の図鑑?」

「はい!あ、でも、こっちは自分でまとめたものなんです」


拾い上げた紙には、丁寧な文字と植物の絵が描かれていた。


「すごい!こんなに詳しく?」

「いえ、まだまだです。家が薬草を扱うお店なので、小さい頃から好きで……」


少女は少し照れくさそうに笑った。


「でも、薬草って面白いですよね!同じ種類でも、育つ場所によって香りや効き方が変わることがあって……」

「わかる!」


思わず声が大きくなった。


「私も、それが面白いと思うの!」

「本当ですか!?」


少女の表情がぱっと明るくなる。


「薬草の話をすると、つい夢中になっちゃって。あまり興味を持ってくれる人がいないので、嬉しいです!」


……わかる。

すごくわかる!


初対面なのに、なんだか話が合いそう。

私たちは顔を見合わせて笑った。


話に夢中になっていた私たちは、足元にまだ何冊か本が残っていることにも気づかなかった。


「あ、申し遅れました!私、リリア・フローレスと申します!」


……え?


リリア?

フローレス?


私の手が、ぴたりと止まった。


――リリア・フローレス。


前世で遊んだ乙女ゲームの主人公。


平民出身でありながら、優秀な成績を認められ、特待生として王立学園に入学した少女。


そして、攻略対象たちと恋に落ちる――。


ゲームのヒロイン。


……き、来たーーー!!


昨日は悪役令嬢。

今日はヒロイン!?


ちょっと待って!

展開、早くない!?


「あの……?」


リリアさんが心配そうに私を覗き込む。


「大丈夫ですか?」

「はっ!だ、大丈夫です!」


私は慌てて姿勢を正した。


「セレティア・アストレイアと申します。よろしくお願いいたします」


「アストレイア……?」


リリアさんが目を丸くした。


「もしかして、侯爵家の……?」

「あ、はい」

「わっ!す、すみません!私、失礼なことを……!」


慌てて頭を下げようとするリリアさんを、私は急いで止めた。


「そんなことないよ!それより、薬草のお話、もっと聞きたいな」

「えっ……いいんですか?」

「もちろん!」


リリアさんは少し迷ったあと、嬉しそうに笑った。


……あれ?


この子、本当にゲームのヒロイン?


もっとこう、攻略対象たちに囲まれて、恋愛イベントを起こしているイメージだったんだけど。


目の前のリリアさんは、ただ薬草が大好きな女の子に見える。


……いや、待って。


そもそも、ゲームのヒロインだって、普通の女の子だよね。


私が勝手に、ゲームの印象で決めつけていただけかもしれない。


* * *


「セレティア様?」


聞き覚えのある声に振り向くと、ローゼリア様が立っていた。


「ローゼリア様!」

「こちらで何をなさっているの?」

「あの、薬学の教室へ向かっていたところで……」


私が答えると、ローゼリア様は床に残っていた本へ視線を落とした。


「……廊下で本を広げていらしたの?」

「あっ!申し訳ありません!」


リリアさんが慌てて残りの本を拾い集める。


「私が落としてしまって……」

「そうでしたの」


ローゼリア様は少しだけ眉を寄せた。


「廊下は多くの生徒が通ります。通行の妨げにならないよう、お気をつけくださいませ」

「は、はい!」


……あ。

ローゼリア様、今日もきっちりしてる。


でも、言っていることはもっともだ。


「私も拾うのを手伝っていたんです。すぐに片づけますね」


そう言って最後の一冊を持ち上げると、ローゼリア様は私たちを見比べた。


「……そういうことでしたのね」


その視線が、リリアさんの抱えた本へ向かう。


「薬草の本、ですか?」

「はい!今日の授業に備えて、少し調べてきたんです」

「……熱心ですのね」


ローゼリア様が静かに言った。


リリアさんは、驚いたように瞬きをした。


「ありがとうございます!」

「ただし、次からは持ち運びにも気をつけることですわ」

「はい!」


……ふふ。

ローゼリア様らしいなぁ。


「では、わたくしは先に失礼いたします。お二人とも、授業に遅れませんように」


優雅に一礼すると、ローゼリア様は廊下の先へ歩いていった。


リリアさんは、その背中を見送りながら小さく息をついた。


「……すごく綺麗な方ですね」

「うん!ローゼリア様って、素敵な人だよ」

「そうなんですね」


リリアさんは、ほっとしたように微笑んだ。


……あれ?


ゲームでは、ヒロインと悪役令嬢って、対立する関係だったはず。


なのに、今の二人を見ていると……。


少なくとも、すぐに喧嘩が始まりそうな雰囲気ではなかった。


……もしかして。


この世界って、私が知っているゲームとは、少し違うのかな?


* * *


薬学の授業が終わり、私は教室を出た。


……楽しかった!


先生のお話も面白かったし、リリアさんとも少しだけ薬草について話せた。


同じことに興味を持つ人がいるって、嬉しいな。


そんなことを考えていると、廊下の向こうから見慣れた姿が近づいてきた。


「ティア」

「ノア!」


ノアは私の前で足を止めた。


「授業、どうだった?」

「すっごく楽しかった!今日はね、薬草に詳しい子とも知り合えたの!」

「そうなんだ。よかったね」


ノアは嬉しそうに笑った。

そして、ふと私の髪へ視線を向ける。


「……今日も、つけてきてくれたんだね」

「あ、これ?」


私は髪飾りにそっと触れた。


「うん!昨日、ノアが嬉しいって言ってくれたから」


ノアが一瞬、動きを止めた。


「……それ、俺のため?」

「そうだよ?」


だって、ノアがお願いしたんだもの。


ところが、ノアはなぜか片手で口元を覆ってしまった。


「……ティアは、本当に」

「ん?どうしたの?」

「……いや。ありがとう」


そう言ったノアの耳が、ほんの少し赤かった。


……あれ?

ノア、照れてる?

でも、どうして?


「……ノア?」

「なに?」

「……なんでもない!」


私が慌てて首を振ると、ノアは楽しそうに笑った。


……もう。

本当に、最近のノアってずるい。


* * *


帰りの馬車に乗り込む頃には、私はすっかり上機嫌だった。


学園生活、二日目。


薬学の授業も楽しかったし、新しい知り合いもできた。


……うん。

なかなか順調じゃない?

そう思いかけて、ふと気づく。


昨日は、ゲームの悪役令嬢。

今日は、ゲームのヒロイン。


しかも、二人とも、私が思っていたような人ではなかった。


ローゼリア様は厳しいけれど、周囲をよく見ている人。

リリアさんは、薬草が大好きで、素直な女の子。


ゲームでは、二人は対立するはずだった。


でも、本当にそうなるのかな?


私は窓の外へ視線を向けた。

夕日に照らされた学園の校舎が、少しずつ遠ざかっていく。


……もしかしたら。


この世界は、私が知っている物語とは、違う未来へ進んでいるのかもしれない。


そう思うと、なぜだか少しだけ胸が弾んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。