↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
第1章 恋愛しないはずの学園生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/102

悪役令嬢との出会い

高等部の校舎は、想像していた以上に立派だった。


「……すごい」


思わず天井を見上げると、美しい装飾が目に飛び込んできた。

磨き上げられた床には朝の光が差し込み、広々とした廊下には制服姿の生徒たちが行き交っている。


「どう?気に入った?」

隣を歩くノアが、楽しそうに尋ねてくる。

「うん!想像してたよりずっと素敵!」

「それはよかった」

「でも……」


私は周囲をそっと見渡した。


……やっぱり、見られてる。


さっきから何度も視線を感じるのだ。

しかも、私だけじゃない。

隣のノアにも、かなりの視線が集まっている。


……そうよね。

ノアって、こんなに格好いいんだもの。


いや、昔から整った顔立ちだったけれど、十六歳になった今は、さらに目立つ存在になっている。


「ノアって、学園でも人気があるんだね」

「……急にどうしたの?」

「だって、みんなノアのこと見てるよ?」

「ティアも見られてるけどね」

「私は珍しいからでしょう?」

「……それだけじゃないと思うけど」


ノアが小さく笑う。


……ん?

どういう意味?


「ほら、教室はこっち」

「あ、うん!」


私は慌ててノアの後を追った。


* * *


教室に入ると、すでに多くの生徒たちが集まっていた。

窓際で談笑する令嬢たち。

友人同士で笑い合う男子生徒たち。

新しい学年への期待に満ちた、賑やかな空気。


……わあ。

なんだか、前世の入学式を思い出すなぁ。


「ティア、席はあそこみたいだよ」

「ありがとう、ノア」


案内された席に向かおうとした、そのときだった。


「ノア様!」


明るい声とともに、数人の令嬢がこちらへ近づいてきた。


「ごきげんよう。高等部でもご一緒できて嬉しいですわ」

「今年もどうぞよろしくお願いいたします」

「こちらこそ。よろしく」


ノアは慣れた様子で挨拶を返している。


……さすが公爵令息。

こういうところも、すっかり大人になったのね。


感心していると、一人の令嬢が私へ視線を向けた。


「あの……そちらの方は?」

「アストレイア侯爵家のセレティア嬢だよ」


ノアが自然に紹介してくれた。


「初めまして。セレティア・アストレイアと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


私は習ったとおりに微笑み、軽く礼をした。

すると、令嬢たちの表情がぱっと変わった。


「まあ!アストレイア侯爵家の!」

「初めてお目にかかりましたわ!」

「お噂はかねがね伺っておりました」


……ここでも噂になってるんだ。

私、そんなに珍しい存在だったのね……。


「本当にお綺麗な方ですのね」

「い、いえ。そんな……」


どうしよう。

褒められるのは嬉しいけど、こんなに注目されるとは思っていなかった。


すると、ノアが穏やかに口を開いた。


「ティアは今日が初めての登校なんだ。いろいろ教えてあげてくれると助かるよ」

「あら、もちろんですわ!」


令嬢たちが嬉しそうに頷く。


……ノア、助かった!


私はこっそりノアに目でお礼を伝えた。

すると、ノアは小さく微笑んでくれた。


……うん。

やっぱり、ノアがいてくれると心強い。


* * *


しばらくして、教室の入口付近がふいに静かになった。


……あれ?


それまで賑やかだった生徒たちが、自然と道を空けていく。

何事かと思って振り向くと、一人の令嬢が教室へ入ってきた。


艶やかな薔薇色の髪。

気品を感じさせる紫色の瞳。

背筋をすっと伸ばし、堂々と歩く姿は、まるで一枚の絵画のようだった。


……綺麗な人。


思わず見とれてしまう。


すると、近くにいた令嬢たちが小声で話し始めた。


「ローゼリア様ですわ」

「エーデルシュタイン公爵家のご令嬢……」

「ユリウス殿下の婚約者候補でいらっしゃるのよね」


……え?

今、なんて?


ローゼリア?

エーデルシュタイン?


私はもう一度、その令嬢を見つめた。


そして。


――思い出した。


ローゼリア・エーデルシュタイン。

前世で遊んだ乙女ゲームに登場する、王太子ユリウス殿下の婚約者候補。


そして……。


悪役令嬢。


……き、来たーーー!!


ついに来た!

乙女ゲームの主要人物!!


私は思わず背筋を伸ばした。


落ち着いて、私。

大丈夫。

今の私は、ゲームのヒロインじゃない。

そもそも、恋愛イベントに関わるつもりもない。


だから、余計なことをしなければ……。


「……そちらの方」


……ん?


凛とした声が聞こえた。

顔を上げると、先ほどの薔薇色の髪の令嬢が、こちらを見つめていた。


……え?

まさか。


「あなたが、アストレイア侯爵家のセレティア様?」


……私!?


「は、はい。セレティア・アストレイアと申します」


慌てて立ち上がり、礼をする。

すると、ローゼリア様は私をじっと見つめた。


……な、何でしょう?

何か失礼なこと、した?


「……そう」


短く答えた彼女は、少しだけ眉を寄せた。


「お噂は伺っておりますわ」


……噂。

また噂!?


「長く社交界から遠ざかっていらしたそうですわね」

「はい。これまでは、屋敷で学んでおりましたので……」

「そうですか」


ローゼリア様は静かに頷いた。

そして、私の隣に立つノアへ視線を向けた。


「ノア様。ごきげんよう」

「おはよう、ローゼリア嬢」

「高等部でも、どうぞよろしくお願いいたします」

「こちらこそ」


……あれ?

なんだか、普通の挨拶だ。


もっとこう、悪役令嬢らしい高圧的な感じを想像していたんだけど……。


すると、ローゼリア様が再び私を見た。

その視線が、私の周囲に集まっていた令嬢たちへ、ちらりと向けられる。


「セレティア様」

「は、はい!」

「学園では、家名だけでなく、ご自身の振る舞いも大切ですわ」

「はい」

「注目を集める立場だからこそ、何気ない言動にもお気をつけくださいませ」


そう言うと、ローゼリア様は優雅に一礼し、自分の席へ向かっていった。


……。

……えっと。


今のって。

注意された……のかな?


「ティア、大丈夫?」

隣からノアが声をかけてきた。

「う、うん。大丈夫だけど……」


私はローゼリア様の背中をそっと見つめた。


確かに、少し厳しそうな人だった。

でも、言っていることは間違っていない。


……むしろ、私が困らないように忠告してくれた?


「ローゼリア嬢は、責任感の強い人だから」

ノアが小さな声で教えてくれた。

「そうなの?」

「ああ。少し言い方が厳しく聞こえることもあるけどね」


……なるほど。


私はもう一度、ローゼリア様を見た。

薔薇色の髪が、窓から差し込む光を受けて柔らかく輝いている。


……それにしても。

綺麗な人だなぁ。


あんな美人が悪役令嬢なんて、乙女ゲームって本当に贅沢よね。


「……ティア?」

「ん?」

「何を考えてるの?」

「ローゼリア様って、すごく綺麗な人だなぁって」

「……そう」


ノアが一瞬、何とも言えない顔をした。


……あれ?


「どうしたの?」

「いや。ティアらしいなと思って」

「そう?」


私は首を傾げた。


……だって、綺麗なものは綺麗なんだもの!


* * *


やがて、始業を知らせる鐘が鳴り響いた。

生徒たちがそれぞれの席へ戻っていく。

私も慌てて腰を下ろした。


……ふう。


まだ授業も始まっていないのに、なんだかすごく疲れた気がする。


深窓の令嬢と呼ばれていることを知り、ノアと一緒にいるだけで注目され、ついにはゲームの悪役令嬢まで登場した。


……初日から、盛りだくさんすぎませんか!?


私は小さく息をつき、教室の前方へ視線を向けた。


ローゼリア様は、背筋を伸ばして静かに座っている。


ゲームでは、悪役令嬢と呼ばれていた人。


でも――。


本当に、悪い人なのかな?


少なくとも、今の私にはそうは見えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。