弟が頼もしくなりました!
「姉様!」
廊下を歩いていると、後ろから元気な声が聞こえた。
振り返ると、リオンが小走りで近づいてくる。
「リオン! 魔法の練習は終わったの?」
「はい! 今日は先生に褒めていただけました!」
「本当!? すごいじゃない!」
私は思わずリオンの頭を撫でた。
さらさらの髪が指の間をすり抜ける。
「えへへ……ありがとうございます」
リオンが嬉しそうに笑う。
……かわいい。
うちの弟、今日もかわいい!!
「ねえ、リオン。どんな魔法を練習したの?」
「今日は魔力の制御です。小さな光を一定の大きさで保つ練習をしました」
「へえ! 難しそう!」
「最初はうまくいかなかったんですけど、最後にはできるようになりました」
「さすがリオン!」
私が拍手すると、リオンは少し照れたように頬を染めた。
……うんうん。
こうして見ると、まだ九歳の男の子なんだよね。
でも、最近のリオンは少しずつ変わってきた。
前より自分の意見をはっきり言うようになったし、剣のお稽古も魔法のお勉強も頑張っている。
……お姉ちゃん、ちょっと感動。
「姉様?」
「ううん。リオンが立派になったなぁって思って」
「……僕、まだまだですよ」
「そんなことないよ!」
私は胸を張った。
「リオンは自慢の弟だもん!」
その瞬間、リオンがぴたりと動きを止めた。
「……自慢、ですか?」
「もちろん!」
「……そう、ですか」
リオンは俯いた。
あれ?
どうしたんだろう?
「リオン?」
「……嬉しいです」
小さな声が聞こえた。
私は思わず瞬きをした。
リオンが顔を上げる。
その瞳は、少しだけ潤んでいるように見えた。
「僕も、姉様の弟でよかったです」
……っ!
な、なにそれ。
そんなこと言われたら……。
「リオーーーン!!」
「わっ!?」
私は思わずリオンを抱きしめた。
「私も! リオンが弟でよかったぁぁ!」
「ね、姉様! 苦しいです!」
「あっ、ごめん!」
慌てて腕を緩めると、リオンはくすくす笑った。
……よかった。
笑ってくれた。
* * *
「そういえば、姉様」
庭のベンチに並んで座っていると、リオンが口を開いた。
「昨日、ノア兄様がいらしていたんですよね?」
「うん! リオンが魔法の練習をしている間に来てくれたの」
「そうだったんですね」
「今度、みんなでお出かけしようって話してたんだ!」
「みんなで?」
「うん! リオンも一緒に!」
リオンの顔がぱっと明るくなる。
「本当ですか?」
「もちろん!」
「嬉しいです!」
……あれ?
でも、ノアは二人で出かけたいって言ってたんだよね。
うーん。
どうしよう。
「……姉様?」
「ん?」
「何か気になることでも?」
「えっとね。ノアが、たまには二人でお出かけしたいって言ってたの」
「……二人?」
「うん。私とノアの二人だけ」
「…………」
リオンが黙った。
……あれ?
どうしたの?
「リオン?」
「……なるほど」
「なるほど?」
「いえ、なんでもありません」
リオンは少しだけ笑った。
なんだか、妙に大人びた笑顔だった。
……え?
九歳だよね!?
なんでそんな顔できるの!?
「姉様」
「なあに?」
「僕は大丈夫です。ノア兄様とお二人でお出かけしてきてください」
「えっ、いいの?」
「はい。僕はまた別の日に、ご一緒できれば嬉しいです」
「リオン……!」
なんていい子なの!?
お姉ちゃん、感動で泣いちゃう!!
「じゃあ、今度はリオンと二人でもお出かけしよう!」
「……僕と、ですか?」
「うん! リオンの行きたいところに行こう!」
「……ありがとうございます、姉様」
リオンは嬉しそうに微笑んだ。
でも、そのあと小さな声で何か呟いた。
「……ノア兄様も、なかなか大変ですね」
「ん? 何か言った?」
「いいえ。なんでもありません」
……?
なんだろう。
* * *
その日の夕食。
「まあ、二人とも楽しそうね」
ママが微笑んだ。
「今日はリオンとお出かけの約束をしたんです!」
「そうなの?」
「はい! 姉様が誘ってくださって」
リオンが嬉しそうに答える。
パパも満足そうに頷いた。
「それはいい。二人とも、ずいぶん仲良くなったな」
「もちろんです! だって私たち、姉弟ですから!」
私は胸を張った。
すると、リオンが隣で小さく笑った。
「……はい。姉様」
その笑顔を見て、私は思った。
少し前まで、私たちはこんなふうに笑い合えなかった。
リオンにどう接したらいいのかわからなくて、私自身もたくさん悩んだ。
でも、今は違う。
一緒に笑って。
一緒にご飯を食べて。
くだらないことで騒いで。
そんな毎日が、たまらなく愛おしい。
「……ティア?」
ママが不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの?」
「ううん! なんでもないです!」
私はにっこり笑った。
今の私は、ちゃんと幸せだ。
……あっ。
そういえば。
「パパ! 今度、リオンとお出かけするんですけど、お小遣いって増えますか!?」
「……ティア?」
「だって、かわいい弟にいっぱい買ってあげたいんです!」
「姉様!?」
パパが声を上げて笑った。
ママも、口元を押さえて笑っている。
「ははは! そういうことなら、少し考えてやろう」
「やったぁ!」
「姉様、そんなに買っていただかなくても……!」
「遠慮しないで! お姉ちゃんに任せなさい!」
……ふふふ。
待っててね、リオン!
かわいい弟のためなら、私はいくらでも頑張っちゃうんだから!
……ただし。
お財布の中身は、パパ次第ですけどね!!




