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『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
序章 家族

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ノアにだけ話したいこと

「ティア、いる?」


聞き慣れた声に、私はぱっと顔を上げた。

振り返ると、部屋の入口にノアが立っていた。

「ノア! いらっしゃい!」

「うん。今日は時間ができたから」

そう言って微笑むノアを見て、私は嬉しくなった。


最近、ノアは公爵家のお勉強や剣の稽古で忙しいらしい。

前みたいに毎日会えるわけじゃないから、こうして遊びに来てくれると嬉しいんだよね。

ちなみに、リオンは今、魔法の練習中。

あとでノアが来ていることを教えてあげよう!


「ねえ、今日は何して遊ぶ?」

「その前に、ティア」

「ん?」

ノアは私の顔をじっと見つめた。

「……何かあった?」

「えっ?」

「いつもより、少し元気がない気がする」

……うそ。

そんなに顔に出てた!?


「元気だよ! ほら!」

私は両手を上げてみせた。

「……それ、元気な証拠?」

「うん!」

ノアが呆れたように笑う。

でも、その青い瞳は、まだ私を心配そうに見ていた。


……ノアには、話してもいいかな。


私は少し考えてから、ノアの袖を引いた。

「ねえ、ノア。ちょっと聞いてほしいことがあるの」

「うん。何?」

「……あのね。私、魔法が使えちゃった」

「……え?」

ノアの目が丸くなる。

うん。

その反応、わかるよ。

私だってびっくりしたもん!


私はノアをソファへ案内して、孤児院で起きたことを話した。

女の子が怪我をしたこと。

治ってほしいと願ったら、手のひらが光ったこと。

そして、傷がきれいに消えたこと。


ノアは途中で何も言わず、真剣な顔で聞いていた。

「……それで、昨日は王宮魔導師の方にも調べてもらったんだけど、よくわからなかったんだって」

「そうなんだ」

「うん。普通の魔力とは違うかもしれないって」

私は膝の上で指を組んだ。

「なんだか、自分のことなのに、自分でもよくわからなくて……」


ノアは少し黙っていた。

それから、静かに尋ねた。

「ティアは、怪我しなかった?」

「え?」

「その子を助けたとき。ティア自身は大丈夫だった?」

「う、うん! 私は平気だったよ!」

「……そっか」

ノアは小さく息を吐いた。


……あれ?

魔法のこと、もっと聞かれると思ったのに。


「ノア、驚かないの?」

「驚いてるよ」

「そうなの?」

「うん。でも、それより……」

ノアは私の手を見つめた。

「ティアが無事でよかった」


……!


なんだろう。

胸の奥が、少しだけ温かくなった。


「……ありがとう、ノア」

「うん」

ノアは微笑んだ。

でも、すぐに少し真剣な顔になる。

「ティア。誰かを助けるのはいい。でも、自分のことも大事にして」

「うん!」

「……本当にわかってる?」

「わかってるよ!」

「じゃあ、俺がいないところで無茶しないで」

「え? ノアがいたら無茶していいの?」

「そういう意味じゃない!」

思わず二人で笑ってしまった。


「もう。ノアって心配性だね」

「……ティアが心配させるんだよ」

「えへへ。ごめんね」

そう言うと、ノアは困ったように笑った。


そのとき。

「にゃあ」

ソファの背もたれから、聞き慣れた声がした。

「あっ、ルゥ!」

いつの間にか、ルゥがこちらを見下ろしていた。

「ルゥもノアにご挨拶?」

「……にゃ」

ルゥは優雅に尻尾を揺らした。


ノアの笑顔が、ぴたりと止まる。

「……またいたんだ」

「またって何!? ルゥはうちの子だよ!」

「知ってるけど」

ノアはルゥを見つめた。

ルゥも、じっとノアを見返す。


……あれ?

またこの空気?


「ねえ、ノア。ルゥって本当にかわいいでしょ?」

「……うん。ティアはそう思うんだね」

「もちろん!」

私はルゥを抱き上げた。

すると、ルゥは当然のように私の腕の中へ収まった。

「ほら! こんなに甘えん坊なんだよ!」

「…………」

ノアが黙ってしまった。

……どうしたの?


「ノア?」

「……ティア」

「ん?」

「その猫、いつもそうやって抱っこしてるの?」

「うん! 寝るときも一緒だよ!」

「……寝るときも?」

「そうだよ?」

ノアは片手で額を押さえた。


……あれ?

なんでそんなに疲れた顔してるの!?


「……ずるい」

「え?」

「なんでもない」

小さな声だったから、よく聞こえなかった。

でも、なんだかノアの耳が赤い気がする。

……暑いのかな?


私はルゥを膝に下ろして、ノアの隣に座り直した。

「ねえ、ノア」

「何?」

「今日、話を聞いてくれてありがとう」

「……うん」

「ノアに話したら、ちょっと安心した!」

そう言って笑うと、ノアは一瞬、驚いた顔をした。


それから、ふっと表情を和らげる。

「……よかった」

「えへへ」

「ティア」

「ん?」

「これからも、何かあったら話して」

「うん!」

「……約束だよ」

ノアが小指を差し出した。

私は嬉しくなって、その指に自分の小指を絡める。

「約束!」


小さな指を結んだまま、ノアは少しだけ目を細めた。

その表情が、いつもより大人びて見えて。

私は思わず首を傾げた。


……ノアって、たまに不思議だよね。

でも、こうして一緒にいると安心する。


「ねえ、ノア! 今度また一緒にお出かけしようね!」

「うん。どこに行きたい?」

「えっとね……リオンも誘って、みんなでお出かけしたいな!」

「……リオンも?」

「うん! きっと喜ぶよ!」

ノアは少しだけ困ったように笑った。

「……そうだね。でも、たまにはティアと二人で出かけたいな」

「え? リオンと喧嘩したの?」

「してないよ!」

ノアが慌てて否定した。


「だって、ノアはリオンのこと好きでしょ?」

「もちろん。リオンは大事な弟みたいなものだよ」

「だよね! じゃあ、どうして?」

「……それとこれとは別なんだ」

「別?」

「うん。ティアと二人で過ごしたいんだよ」

ノアはそう言って、少しだけ視線を逸らした。


私はぱちぱちと瞬きをした。

……そっか!

ノアも、たまには二人だけで遊びたいんだね!


「うん! もちろんいいよ!」

「……本当?」

「うん! ノアと二人でお出かけするの、楽しみ!」

そう答えると、ノアは嬉しそうに微笑んだ。

その笑顔があんまりきれいで、私はつられて笑ってしまう。


……よかった。

ノア、元気になったみたい!


ただし。

私の膝の上では、ルゥが不満そうに尻尾を揺らしていた。


……あれ?

今度はルゥが拗ねてる?


もしかして、うちの猫と親友って、相性悪いのかなぁ!?


私の平和なお出かけ計画。

なぜか、始まる前から波乱の予感がするんですけどーーー!!

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