↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
序章 家族

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/99

銀色の猫は何を想う?

「はぁぁ……今日は疲れたぁ!」

夕食とお風呂を済ませた私は、ベッドにぽすんと倒れ込んだ。

王宮魔導師アシェル・ヴァルディア。

とうとう会ってしまった。

しかも、また会うことになりそうだなんて……。

「……私、何も悪いことしてないよね?」

天井に向かって呟いてみる。

うん。してない。

怪我をした子を助けただけだもん!

それなのに、どうして攻略対象が増えていくんでしょうか!?


「にゃ」

枕元から小さな声がした。

顔を向けると、ルゥがちょこんと座っていた。

「ルゥ〜!」

私は起き上がり、ふわふわの身体を抱き寄せた。

「聞いてよぉ。今日ね、すっごく大変だったんだよ!」

「……にゃ」

「知らない魔法の道具を使って、あれこれ調べられちゃったの!」

ルゥの耳が、ぴくりと動いた。

「でもね、結局よくわからなかったんだって。変なの!」

私はルゥの背中を撫でながら、ため息をついた。

そういえば。

ルゥには、まだ孤児院での出来事をちゃんと話してなかったな。


「ねえ、ルゥ。もっとびっくりする話があるんだよ」

「にゃ?」

「私ね、魔法が使えちゃったの!」

ルゥの尻尾が、ぴたりと止まった。

「しかも、治癒魔法! 怪我した子の腕がね、ぴかーって光って、きれいに治っちゃったの!」

「…………」

ルゥがゆっくり顔を上げる。

青みがかった灰色の瞳が、まっすぐ私を見つめた。

「びっくりでしょ? 私もびっくりした!」

私は笑いながら、ルゥの顎の下をくすぐった。

「でも、もう一回やろうとしても、全然できないんだよねぇ」

「……にゃ」

「アシェル様にも、普通の魔力とは違うかもしれないって言われちゃった」

その瞬間、ルゥの瞳がわずかに細められた。


……あれ?

「ルゥ、どうしたの?」

私は顔を覗き込んだ。

「もしかして、眠い?」

「にゃ」

「そっかぁ。もう遅いもんね」

私はルゥを抱き直し、ふわふわの毛に頬を寄せた。

「でもね、あの子が元気になって、本当によかった」

思い出すのは、泣いていた女の子の顔。

そして、傷が消えたときの嬉しそうな笑顔。

「魔法が使えるかどうかより、そっちの方がずっと大事だよね」

「…………」

ルゥは何も言わなかった。

ただ、私の腕の中で静かに目を閉じた。


「ふふ。ルゥって、本当にいい子」

私は額にそっと口づけた。

「おやすみ、ルゥ」

「……にゃ」

小さな返事を聞いて、私は目を閉じた。


* * *


やがて、部屋が静かな寝息に満たされた。

月明かりが窓から差し込み、ベッドの上を淡く照らしている。

ルゥはゆっくりと目を開けた。

――治癒の力。

あの娘は、確かにそう言った。

怪我をした子どもに触れ、傷を癒やしたと。


ルゥは眠るティアを見つめた。

最初にこの娘を見つけたときから、感じていたものがある。

遠い昔、失ったはずの温もり。

長い時をかけて探し続けた、懐かしい魂の気配。

けれど、治癒の力については何も知らなかった。

……偶然か。

それとも、何か意味があるのか。


ルゥはそっとベッドから降りた。

床に足をつけた瞬間、銀灰色の毛並みが淡い光に包まれる。

光が消えると、そこには一人の青年が立っていた。


月光を映したような銀灰色の髪。

青みがかった灰色の瞳。

どこか人間離れした、美しい容貌。

「……治癒、か」

低い声が、静かな部屋に落ちる。


この世界には、魔法を扱う人間がいる。

治癒の力も、存在そのものがあり得ないわけではない。

だが、魔力を持たないとされていた娘が、突然その力を使ったという。

「……興味深いな」

青年は窓辺へ歩み寄り、夜空を見上げた。


あの王宮魔導師。

紫色の髪をした男も、何かに気づいたようだった。

こちらを見る目が、ただの猫に向けるものとは違っていた。

「……面倒なことにならねばよいが」

ルゥは小さく息をつく。

人間の魔導師に正体を知られるつもりはない。

まして、ティアを巻き込むつもりもなかった。


そのとき、背後から小さな声がした。

「……ルゥ……」

青年が振り返る。

ティアは眠ったまま、枕元に手を伸ばしていた。

「……どこぉ……?」

「…………」

ルゥはしばらくその姿を見つめていた。

……まったく。

眠っていても、こちらを探すのか。

青年の口元が、わずかに緩む。


彼は再び猫の姿に戻ると、ベッドへ飛び乗った。

ティアの手のそばに身体を丸める。

すると、小さな手がふわりと背中に触れた。

「……えへへ。いた……」

安心したような寝言。

ルゥは目を細めた。


……この娘は、何も知らない。

自分がどんな存在をそばに置いているのかも。

自分の中に、どんな秘密が眠っているのかも。

だが、今はそれでいい。

ルゥはティアの手に、そっと額を寄せた。


――もう少しだけ、見守っていよう。


月明かりの下、銀色の猫は静かに目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。