孤児院へ行こう!
「ティア、今度の休みに孤児院へ行ってみない?」
朝食の席で、お母様が突然そんなことを言い出した。
「孤児院?」
「ええ。アストレイア家で支援してい孤児院があるでしょう? 今度、子どもたちに届け物をすることになったの」
「へえ〜!」
孤児院かぁ。
そういえば、侯爵家では定期的に食料や衣服を届けているらしい。
今まではお母様に任せきりだったけど、私も一度行ってみたいな。
「私も行っていいの?」
「もちろんよ。ティアも子どもたちと仲良くしてくれたら嬉しいわ」
「行く!」
私は元気よく答えた。
すると、隣に座っていたリオンが顔を上げた。
「姉様、僕もご一緒していいですか?」
「もちろん! 一緒に行こう!」
「ありがとうございます!」
リオンが嬉しそうに微笑む。
……ふふっ。
弟と一緒のお出かけ!
楽しみだなぁ!
* * *
数日後。
私たちは馬車に乗って、王都の外れにある孤児院へ向かった。
馬車には、お母様と私とリオン。
そして、子どもたちへの贈り物がたくさん積まれている。
お菓子に絵本、新しい服。
……うん!
これは喜んでもらえそう!
「姉様、楽しそうですね」
向かいに座ったリオンが笑う。
「だって、みんなに会えるんだよ? 楽しみじゃない?」
「はい。僕も楽しみです」
そう言って微笑んだリオンの顔が、少しだけ懐かしそうに見えた。
……そうだ。
リオンも、昔は孤児院にいたんだよね。
私はそっとリオンの手を握った。
「今日はいっぱい遊ぼうね!」
「……はい、姉様」
リオンは少し驚いたあと、嬉しそうに握り返してくれた。
* * *
孤児院に到着すると、院長先生が出迎えてくれた。
「ようこそお越しくださいました、アストレイア侯爵夫人」
「お久しぶりです。皆さん、お元気?」
「はい。おかげさまで、子どもたちも元気に過ごしております」
院長先生は優しそうな女性だった。
建物はそれほど大きくないけれど、庭には花が咲いていて、窓からは明るい笑い声が聞こえてくる。
……なんだか、いいところだなぁ。
「今日は娘のセレティアと、息子のリオンも連れてきましたの」
「まあ! ようこそいらっしゃいました」
「初めまして。セレティア・アストレイアです」
「リオン・アストレイアです。よろしくお願いいたします」
私たちが挨拶すると、院長先生はにっこり笑った。
「子どもたちも、きっと喜びますよ」
その言葉どおり、庭に出た瞬間、子どもたちが集まってきた。
「わあ! お姫様みたい!」
「髪、きれい!」
「ねえねえ、一緒に遊んでくれる?」
……お、おおっ!?
すごい勢い!!
「もちろん! 何して遊ぶ?」
「鬼ごっこ!」
「お絵描き!」
「絵本読んで!」
……待って待って!
一度に全部は無理だよ〜!?
困っていると、リオンが隣でくすっと笑った。
「姉様、順番にしましょう」
「そ、そうだね!」
さすがリオン!
頼りになる弟です!
* * *
最初は庭で鬼ごっこをした。
……うん。
子どもたち、元気すぎる!!
「ティアお姉ちゃん、こっちこっち!」
「待って〜!」
私は小さな子どもたちを追いかけながら、思わず笑ってしまった。
貴族令嬢らしくない?
そんなこと、今は気にしません!
だって、楽しいんだもん!
一方、リオンは子どもたちに囲まれていた。
「リオンお兄ちゃん、魔法できる?」
「少しだけなら」
「見たい!」
「じゃあ、小さな光を出してみましょうか」
リオンが指先をかざすと、淡い光の粒がふわりと浮かび上がった。
「わああっ!」
子どもたちが歓声を上げる。
……おお!
きれい!
さすがリオン!
「ティアお姉ちゃんもできる?」
一人の女の子が私を見上げた。
「えっ? 私?」
「うん! 魔法!」
……あはは。
来ました、この質問!
「ごめんね。私は魔法が使えないんだ」
「えー! そうなの?」
「うん。でも、鬼ごっこなら得意だよ!」
「じゃあ、もう一回!」
「ええっ!? まだ走るの!?」
子どもたちが笑い出した。
……ふふっ。
まあ、いっか!
魔法が使えなくても、楽しいことはいっぱいあるもんね!
* * *
たくさん遊んだあと、私たちは庭の木陰で休憩することになった。
お母様が持ってきたお菓子を、みんなで分け合う。
「おいしい!」
「こんなの初めて食べた!」
嬉しそうに笑う子どもたちを見ていると、私まで幸せな気持ちになった。
「ティアお姉ちゃん、また来てくれる?」
さっき一緒に遊んだ女の子が、私の袖をちょんちょんと引っ張った。
「もちろん! また遊ぼうね!」
「ほんと!?」
「うん、約束!」
私は小指を差し出した。
女の子も小さな小指を絡めてくれる。
「ゆびきり!」
「ゆびきり!」
二人で笑い合った。
……なんだか、懐かしいなぁ。
前世でも、こうして誰かと約束したことがあった気がする。
でも、今は思い出せない。
まあ、いいや!
大切なのは、これからだもんね!
そのとき、少し離れたところから声が聞こえた。
「ねえ、こっちで遊ぼうよ!」
「うん!」
子どもたちが、庭の奥へ駆けていく。
そこには花壇と、古い植木鉢が並んでいた。
「走ると危ないわよ〜!」
院長先生が声をかける。
「はーい!」
元気な返事が聞こえた。
私はその様子を見ながら、お菓子をもう一つ口に運んだ。
……うん!
おいしい!
今日は本当に楽しい一日だなぁ。
子どもたちとも仲良くなれたし、リオンも楽しそうだし。
また来たいな。
そう思った、そのときだった。
――ガシャン!
庭の奥から、何かが割れる音が響いた。
「……え?」
続いて、小さな悲鳴が聞こえる。
「きゃあっ!」
私は思わず立ち上がった。
「……今の、何!?」
花壇の方で、子どもたちが騒いでいる。
その中心に、一人の女の子が座り込んでいた。
私は考えるより先に、駆け出していた。




