ノアとルゥ、初対面です!
「ティア、久しぶり」
「ノア!」
午後のお茶の時間。
久しぶりにアストレイア侯爵家を訪れたノアを見つけて、私は思わず駆け寄った。
今日は剣のお稽古ではなく、お父様に用事があって来たらしい。
ちょうどお茶の時間だったので、私も一緒に過ごせることになったのだ。
「元気だった?」
「うん! ノアも元気そうだね!」
「まあね。……最近、何か変わったことはあった?」
「ある!!」
私は思いきりうなずいた。
そうだ!
ノアに、まだ紹介してなかった!
「ノア、聞いて! 新しい家族が増えたの!」
「……家族?」
ノアが不思議そうに首をかしげる。
「うん! ちょっと待ってて!」
私はソファの上でくつろいでいたルゥを、そっと抱き上げた。
今日もふわふわ!
今日もかわいい!
そして今日も、ちょっと偉そう!
「じゃーん! ルゥです!」
「…………猫?」
「そう! ルゥっていうの!」
「……へえ」
ノアはルゥをじっと見つめた。
ルゥも、ノアをじっと見つめ返す。
……あれ?
なんだろう、この空気。
「ルゥ、こちらはノアだよ。私の大切なお友達なの!」
「……にゃ」
ルゥは短く鳴いた。
「ほら! ご挨拶できた!」
「……今の、挨拶なの?」
「もちろん!」
ノアは何か言いたそうな顔をしたけれど、結局何も言わなかった。
* * *
「それでね、ルゥってすっごく賢いんだよ!」
私はノアの隣に座って、ルゥの話を始めた。
「呼んでも来ないことが多いんだけど、私が何を言ってるか分かってるみたいなの!」
「……呼んでも来ないんだ」
「うん! でも、そこがまたかわいいの♡」
「…………そう」
ノアは紅茶のカップを持ち上げた。
なんだか、いつもより口数が少ない気がする。
「それにね! ルゥ、私と一緒に寝てくれるんだよ!」
「…………え?」
ノアの手が止まった。
「毎晩、枕元に来てくれるの!」
「……毎晩?」
「うん! 昨日なんて、自分からベッドに乗ってきたんだよ!」
「…………」
「もう、かわいくてかわいくて!」
私は腕の中のルゥをぎゅっと抱きしめた。
するとルゥは、ノアの方をちらりと見たあと、私の腕にすりっと頬を寄せてきた。
「きゃっ! ルゥ〜♡」
……なに!?
今日、すっごく甘えん坊じゃない!?
「……ティア」
「ん?」
「その猫、いつもそんなに甘えるの?」
「ううん! むしろ普段は、ちょっとそっけないくらい!」
「……そう」
「今日はどうしたんだろうねぇ?」
私はルゥの頭をなでた。
ルゥは気持ちよさそうに目を細めている。
ノアは、その様子をじっと見ていた。
「……最近、僕よりその猫と一緒にいる時間の方が長くない?」
「え?」
私はきょとんとした。
「そりゃあ、ルゥはうちに住んでるからね!」
「…………」
「ノアも一緒に住んでたら、毎日遊べるのにね!」
「……っ!」
あれ?
ノアの顔が、ちょっと赤い?
「ノア?」
「……いや、何でもない」
ノアは顔をそらして、紅茶を飲んだ。
……熱かったのかな?
* * *
「ねえ、ノアもルゥをなでてみる?」
「……僕が?」
「うん! ふわふわだよ!」
私はルゥを抱え直して、ノアの方へ向けた。
「ルゥ、ノアにもなでてもらおうね!」
ノアは少し迷ってから、そっと手を伸ばした。
その瞬間。
すっ。
ルゥが顔をそらした。
「……あ」
ノアの手が空中で止まる。
……えええ!?
ルゥ!?
今、避けた!?
「ル、ルゥ! ノアは優しい人だよ!」
「……にゃ」
ルゥは何食わぬ顔で、私の腕の中に収まっている。
「……別に、無理になでなくてもいいよ」
ノアは静かに手を引っ込めた。
「ご、ごめんね! ルゥ、人見知りなのかな?」
「……そうかもね」
でも、ノアの目は笑っていない。
……あれ?
二人とも、どうしたの?
私はルゥを見た。
ルゥは澄ました顔で尻尾を揺らしている。
次にノアを見る。
ノアはルゥを見つめたまま、にっこり笑った。
「……ずいぶん、ティアになついてるんだね」
「うん! えへへ、嬉しいなぁ!」
そう答えると、ルゥが小さく鳴いた。
「……にゃ」
……あっ!
今の、絶対「そうだろう」って言った顔!
「もう! ルゥったら、偉そうなんだから!」
私が笑うと、ノアは小さく息を吐いた。
* * *
お茶の時間が終わり、ノアが帰ることになった。
「今日は楽しかった! また来てね!」
「……うん。また来るよ」
ノアはそう言ってから、私の腕の中を見た。
「……その猫にも、よろしく」
「うん! ルゥ、ノアがまた来るって!」
ルゥは片目だけ開けた。
「……にゃ」
……えっ。
なに、その気のないお返事!
「ルゥ! ちゃんとご挨拶!」
「……にゃ」
「よし! いい子!」
ノアが、なぜか苦笑した。
「……ティア」
「なあに?」
「次に来たときは、その猫の話だけじゃなくて……」
「うん?」
「……いや。何でもない」
「ええっ!? 気になる!」
「今度、剣のお稽古の話も聞かせてよ」
「もちろん! ノアも一緒にしようね!」
「……うん」
今度は、ノアが嬉しそうに笑った。
ノアを見送ってから、私はルゥを抱き直した。
「ねえ、ルゥ。ノアって優しいでしょ?」
「……にゃ」
「今度は仲良くしてね?」
ルゥは返事の代わりに、ゆっくりと尻尾を揺らした。
……うーん。
なんだか今日の二人、ちょっと変だったなぁ。
でも、まあ、いっか!
大好きなノアと、大好きなルゥ。
二人が仲良くなってくれたら、きっともっと楽しいはず!
私はそう思って、ルゥの頭をなでた。
……そのときの私は、まだ知らなかった。
この二人が仲良くなるまでには、どうやら少し時間がかかりそうだということを。




