うちの猫、ちょっと変です
ルゥが我が家にやってきて、三日が過ぎた。
そして私は、ある重大な事実に気づいてしまった。
……この猫、絶対に自分がかわいいって分かってる!!
「ルゥ〜♡ おはよう!」
朝食を終えた私は、窓辺でくつろぐルゥに駆け寄った。
ふかふかのクッションの上で、銀灰色の尻尾がゆらりと揺れる。
「今日もかわいいねぇ」
そっと頭をなでると、ルゥは片目だけ開けた。
……なに、その顔。
『また来たのか』って言ってない?
「ルゥ、今日は一緒にお庭に行こうね!」
「……にゃ」
「やった! お返事してくれた!」
するとルゥは、もう用はないとばかりに目を閉じた。
……えっ。
お返事したんだよね?
まさか、適当に鳴いただけじゃないよね!?
「お嬢様、そろそろお勉強のお時間です」
ミアが声をかけてきた。
「ええっ! もう!?」
「はい。ルゥも待ってますから、早く終わらせましょうね」
「……はーい」
私は名残惜しくルゥを見つめた。
「ルゥ、いい子にしててね!」
ルゥは尻尾を一度だけ振った。
……やっぱり、分かってる気がする。
* * *
午後になって、ようやくお勉強が終わった。
「ルゥー! 遊ぼう!」
私はルゥを探して廊下を歩いていた。
ところが、いつもの窓辺にも、パパのお気に入りのソファにもいない。
……あれ?
どこ行ったんだろう。
「姉様?」
声のした方を見ると、リオンが立っていた。
「リオン! ルゥ見なかった?」
「先ほど中庭で見かけましたよ」
「ほんと!? ありがとう!」
私が駆け出そうとすると、リオンが声をかけた。
「姉様、僕もご一緒していいですか?」
「もちろん!」
ふふっ。
リオンもルゥが気になるのかな?
* * *
中庭に出ると、ルゥは噴水のそばに座っていた。
「ルゥ! いた!」
私の声に、ルゥが振り返る。
……あっ。
また『騒がしいのが来た』って顔してる!
「もう、ルゥったら!」
私はしゃがんで手を伸ばした。
するとルゥは、仕方がないとでも言いたげに近づいてくる。
……えへへ。
なんだかんだ、来てくれるんだよね。
「姉様、本当に懐いていますね」
「そうでしょ! かわいいでしょ!」
「はい。でも……」
リオンが言葉を止めた。
「ん? どうしたの?」
「……少し、気になることがあるんです」
リオンはルゥをじっと見つめた。
ルゥもまた、リオンを見返している。
……あれ?
なんだか、空気が変わった?
「この猫、魔力の気配がほとんどないんです」
「えっ? 猫だからじゃない?」
「普通の動物でも、わずかに魔力を感じることがあります。でも、この子は……」
リオンは首をかしげた。
「何もないようで、何かがあるような……。うまく説明できません」
……うーん。
難しいなぁ。
私はルゥを抱き上げた。
「でも、ほら! こんなにふわふわだよ!」
「……姉様。毛並みの話ではありません」
「えへへ。そうだった!」
リオンが小さくため息をつく。
……あれ?
今、ちょっと呆れられた?
「ルゥ、リオンが不思議だって言ってるよ?」
「……にゃ」
「ね! ちゃんとお返事するの!」
リオンは笑わなかった。
むしろ、少し真剣な顔になった。
「姉様、その子を少し下ろしてもらえますか?」
「いいよ?」
私はルゥを地面に下ろした。
リオンが一歩近づく。
ルゥは逃げずに、その場に座っていた。
「……君は、何者なの?」
「リオン!?」
ちょっと待って!
猫に何を聞いてるの!?
ルゥは静かにリオンを見上げた。
「……にゃ」
「……そうですか」
「ええっ!? 今ので何か分かったの!?」
リオンは困ったように笑った。
「いいえ。ただ、普通の猫ではない気がしただけです」
「えー? こんなにかわいいのに?」
「姉様、かわいいかどうかは関係ありませんよ」
「そうなの?」
……うーん。
私には、かわいいことが一番大事なんだけどなぁ。
* * *
そのあと、私たちは庭のベンチで休むことにした。
ルゥは私の膝の上で丸くなっている。
……ふふ。
あったかい。
「姉様」
「なあに?」
「その猫を飼うことにしたのは、姉様が決めたことですよね?」
「うん! パパとママにもお願いしたの!」
リオンは少し考えるように黙った。
「……姉様は、怖くないんですか?」
「えっ? ルゥが?」
「はい。何か分からないものが、そばにいることが」
私は膝の上のルゥを見下ろした。
ルゥは目を閉じている。
銀灰色の毛並みが、午後の日差しを受けて柔らかく輝いていた。
……怖い?
私はそっと、その背中をなでた。
「うーん。よく分からないけど……」
「はい」
「ルゥは、私に何も嫌なことしてないよ?」
リオンが目を瞬かせた。
「それに、最初に会ったとき、なんだか寂しそうだったの」
「……寂しそう?」
「うん。だから、ここで楽しく暮らしてくれたらいいなって」
私はルゥの頭をなでながら笑った。
「それじゃ、だめかな?」
リオンはしばらく私を見つめていた。
そして、ふっと表情を緩める。
「……いいえ。姉様らしいと思います」
「えへへ!」
そのとき、膝の上のルゥが小さく動いた。
青みがかった灰色の瞳が、ゆっくり開く。
……あれ?
起きちゃった?
「ルゥ、どうしたの?」
私は顔をのぞき込んだ。
ルゥは何も答えず、私の手にそっと頬を寄せた。
……っ!!
「リオン! 見て! 今、自分からすりすりしてくれた!!」
「……はい。見ていますよ」
「かわいいーーー!!」
リオンが声を上げて笑った。
でも、その目は一瞬だけ、ルゥを見つめていた。
ルゥもまた、リオンを見返す。
……ん?
「二人とも、仲良くなった?」
私が聞くと、リオンはにっこり笑った。
「ええ。これから、ゆっくりと」
ルゥは、尻尾を一度だけ揺らした。
……うん!
きっと仲良くなれるよね!
私は二人を見て、満足げにうなずいた。
ただ、このときの私は知らなかった。
リオンとルゥの間で、何やら静かな駆け引きが始まっていたことを。
……まあ、そんなことより。
ルゥの肉球、今日も最高です♡




