↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
序章 家族

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/99

ししょーが笑ってくれません!

翌朝。


「……よし!」

私は鏡の前で、ぎゅっと拳を握った。

今日は、ししょーにもう一度ちゃんと謝るんだ!


昨日はあのあと、パパとママにもたっぷり叱られた。

人を助けたことは間違っていないと思う。

でも、自分が怪我をしたら、みんなを悲しませてしまう。

……それも、ちゃんと分かった。


「お嬢様、そろそろ朝食のお時間ですよ」

「うん! 今行く!」

ミアに返事をして、私は部屋を飛び出した。


* * *


朝食を終えてから、私はアルヴィンを探した。

今日は剣の修行がない日だけれど、護衛のお仕事はあるはずだ。


「あっ! ししょー!」

廊下の向こうに赤い髪を見つけて、私は駆け寄った。


「お嬢様。おはようございます」

「おはよう! あのね、昨日のことなんだけど……」

アルヴィンは静かに私を見つめている。


……ううっ。

やっぱり、まだ怒ってる?


「昨日はごめんなさい。ししょーが下がってって言ったのに、勝手に動いちゃって」

「……はい」

「でも、あの子を助けたかったのは本当なの」

「それは、分かっています」

アルヴィンは少しだけ表情を和らげた。

「お嬢様が、誰かを見捨てられない方だということは、以前から存じております」

「……ししょー」

「ですが、今後は私を頼ってください。お嬢様をお守りするために、私はここにいるのですから」


……あ。

そうだった。

ししょーは、私の護衛なんだ。


「……うん。次はちゃんと頼る!」

「お約束ですよ」

「約束!」

私が元気よく答えると、アルヴィンは小さく息を吐いた。

「……本当に、困ったお嬢様です」

そう言いながら、ようやく少し笑ってくれた。


……やった!

ししょーの笑顔、戻った!


* * *


その日の午後。


私はリオンと一緒に、書斎でお勉強をしていた。


「……うう、難しい」

「姉様、こちらの問題ですか?」

「うん。領地の税についてなんだけど……」

リオンが教本をのぞき込む。

「これは、先ほどの説明をもう一度読むと分かりやすいと思います」

「ほんと? ありがとう!」


……リオン。

九歳なのに、なんでそんなに頼りになるの?

私がお姉ちゃんのはずなのに!


「姉様?」

「な、なんでもない!」

慌てて教本に目を戻した。

……よし。

お勉強も頑張らなくちゃ!


しばらくして、休憩の時間になった。

ミアが運んでくれたお茶を飲みながら、私は窓の外を眺めた。


「ねえ、リオン」

「はい?」

「ししょーって、もうすぐ護衛のお仕事が終わるんだよね?」

「そうですね。ひと月のお約束でしたから」


……そっか。

最初は、ちょっと怖い騎士様だと思ってたのに。

今では、すっかりししょーだもんね。


「……寂しくなるなぁ」

思わずつぶやくと、リオンが私を見た。

「姉様、剣の修行は続けられないのでしょうか?」

「えっ?」

「グランフォード卿にお願いしてみては?」


……あ!

そうだよね!

護衛のお仕事が終わっても、剣を教えてもらうことはできるかもしれない!


「リオン、天才!」

「えっ!?」

「あとでししょーに聞いてみる!」

「ふふ。僕も、また教えていただきたいです」


……うん!

やっぱりリオンは頼りになる弟です!


* * *


夕方。


私は庭の近くで、アルヴィンを見つけた。


「ししょー!」

「お嬢様。どうなさいましたか?」

「あのね、お願いがあるの!」

アルヴィンが少し首をかしげる。


「護衛のお仕事が終わっても、また剣を教えてくれる?」

「……剣、ですか」

「うん! 私、もっと上手になりたいの!」

アルヴィンはすぐには答えなかった。


……あれ?

難しいのかな?


「もちろん、ししょーのお仕事が忙しいのは分かってるよ! だから、時間があるときだけでいいの!」

「お嬢様……」

アルヴィンは少し困ったように笑った。

「お嬢様は、昨日あれほど叱られたばかりだというのに、もう次の修行のことを考えていらっしゃるのですね」

「えへへ……だめ?」

「いいえ。剣を学ぶこと自体は、決して悪いことではありません」


……おっ!

これは、もしかして!


「ただし」

「……はいっ!」

「ご自身を危険にさらさないこと。そして、無理をなさらないこと。その二つを守っていただけますか?」

「守ります!」

アルヴィンはしばらく私を見つめたあと、ようやく頷いた。

「では、任務が終わりましたら、ご当主様とも相談いたしましょう」

「ほんと!?」

「はい。私の都合がつくときに限りますが」

「やったーー!!」

嬉しくて、思わず飛び跳ねてしまった。


「ありがとう、ししょー!」

アルヴィンが目を細めた。

「……こちらこそ」


……ん?


「ししょー、何か言った?」

「いいえ。何でもありません」

そう言って、アルヴィンはいつもの穏やかな笑顔を浮かべた。


……ふふっ。

やっぱり、ししょーは笑ってる方がいいな!


* * *


その夜。


アルヴィン・グランフォードは、騎士団へ提出する報告書に目を通していた。

アストレイア侯爵家での護衛任務も、残りわずか。


昨日の出来事を思い返す。

少年を守ろうと飛び出した、小さな背中。

危険を前にして震えながらも、自分の行動を後悔しなかった少女。


無謀だと思った。

実際、あの行動は褒められたものではない。

それでも、教えたばかりの動きを必死に思い出し、誰かを守ろうとした姿が頭から離れなかった。


「……まったく」

アルヴィンは小さく息を吐いた。


騎士として、守るべき相手を危険にさらしたくない。

それは当然のことだ。

だが、昨日感じた恐怖は、それだけでは説明できない気がした。


間に合わなかったら。


そう考えた瞬間の、胸の冷たさ。


「……考えすぎか」

アルヴィンは報告書に視線を戻した。

そして、夕方のティアの言葉を思い出す。

『護衛のお仕事が終わっても、また剣を教えてくれる?』


あれほど叱られたのに、まだ自分を師匠と呼んでくれる。

その無邪気な信頼を、裏切るわけにはいかない。


「……次は、もっと慎重さも教えなければな」

そうつぶやくと、アルヴィンはようやく筆を取った。


任務が終わっても、あの少女の成長を見守る機会があるのなら。

それは、きっと悪くない。


そう思った自分に、彼はまだ深い意味を見いだしていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。