ししょーは手強い!
剣の修行を始めて、数日が経った。
「お嬢様、もう一度お願いします」
「はいっ!」
今日も私は、訓練場で木剣を握っている。
最初は構えるだけで精いっぱいだったけれど、最近は少しずつ剣を振れるようになってきた。
……ふふふ。
私、成長してるんじゃない?
「ししょー! 今のどうだった!?」
「先ほどより良くなっています。ただ、踏み込むときに上体が前に傾いていますね」
「むむっ……」
「焦る必要はありません。まずは正確な動きを覚えましょう」
「はーい!」
……ししょー。
なかなか褒めてくれません。
いや、褒めてはくれるんだけど!
そのあと必ず直すところが出てくるんだよね!
隣では、リオンが真剣な表情で木剣を振っていた。
「グランフォード卿、こちらはどうでしょうか?」
「ええ。よくできています。ですが、少し力が入りすぎていますね」
「はい。気をつけます」
……リオン。
本当に真面目だなぁ。
私も見習わないと!
* * *
「ティア、少し休んだら?」
聞き慣れた声に振り返ると、ノアが訓練場の端に立っていた。
「ノア! もう終わったの?」
「うん。今日は早めに終わったから」
ノアは自分の剣の稽古を終えてから、こちらへ来たらしい。
最近はこうして、時間が合うと一緒に修行に参加してくれる。
「ノアもやる?」
「あとでね。それより、顔が赤いよ」
「えっ、そう?」
「うん。無理してない?」
「大丈夫! まだまだ元気だよ!」
私が胸を張ると、ノアは小さくため息をついた。
「……ティアは、そう言うと思った」
……あれ?
なんだか呆れられてる?
「お嬢様、ちょうど休憩にしようと思っていたところです」
アルヴィンが声をかけてくれた。
「ええっ!? まだできるよ!」
「休むことも修行の一つです」
「……はーい」
……ししょー。
その言葉、便利に使ってません?
ノアが小さく笑った。
「ほら、言われたでしょ」
「ノアまで!」
「僕は心配してるだけだよ」
そう言って、ノアは私に水の入った杯を差し出した。
「ありがとう!」
冷たい水を飲むと、体の熱が少し落ち着いた。
……ふう。
確かに、ちょっと疲れてたかも。
* * *
休憩が終わると、ノアも木剣を手に取った。
「ヴォルフィード様、本日は少し踏み込みの速さを確認させてください」
「はい。お願いします」
アルヴィンとノアが向かい合う。
二人の動きは、私たちとはまるで違う。
……すごい。
木剣なのに、本物の剣みたいに見える。
ノアが素早く踏み込み、アルヴィンがそれを受け止める。
乾いた音が訓練場に響いた。
「見事です。以前より踏み込みが鋭くなっていますね」
「ありがとうございます」
……ノア、やっぱりすごいなぁ。
「姉様、ノア兄様は本当にお強いですね」
「うん! かっこいいよね!」
私がそう言うと、ノアが一瞬こちらを見た。
そして、ほんの少しだけ口元を緩めた。
……あ。
また笑った。
最近、ノアって修行中によく笑う気がする。
「お嬢様」
「はいっ!」
「こちらも再開しましょう」
「はーい!」
……ししょー。
私がよそ見してるの、すぐ分かるんだね。
* * *
修行が終わる頃には、私はすっかりへとへとになっていた。
「……つ、疲れたぁ」
「お疲れさまでした、お嬢様」
「ししょー、明日はもっと上手になるからね!」
「楽しみにしております。ただし、無理は禁物ですよ」
「分かってる!」
……たぶん。
アルヴィンが木剣を片づけに向かうと、ノアが隣に立った。
「ティア」
「なあに?」
「……最近、楽しそうだね」
「うん! 修行、すっごく楽しいよ!」
「そう」
「ししょーも優しいし、リオンも頑張ってるし、ノアも一緒だし!」
ノアは少しだけ目を伏せた。
「……僕も?」
「もちろん! ノアがいると嬉しいよ!」
そう答えると、ノアは驚いたように私を見た。
「……そっか」
「うん!」
ノアは何か言いかけて、やめた。
そして、小さく笑った。
「……じゃあ、また明日」
「うん! また明日!」
ノアが去っていくのを見送りながら、私は首をかしげた。
……あれ?
今日のノア、なんだか機嫌がよかったような?
まあ、いっか!
修行仲間が増えるのは嬉しいことだもんね!
……そういえば。
私、恋愛を避けるために攻略対象とは距離を置くはずだったよね?
なのに、最近ノアと毎日のように会ってる気がする。
……。
ま、まあ!
ノアは幼馴染だし!
今さら距離を置くのも変だよね!
それに、これは修行だから!
恋愛とは関係ありません!!
……たぶん。




