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『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
序章 家族

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20/99

新しい護衛は攻略対象!?

街での事件から、二日が経った。


あれ以来、パパもママも、なんだか私に甘い。

ママは何度も抱きしめてくれるし、パパは仕事の合間に様子を見に来てくれる。

リオンに至っては、私が少し席を立つだけで心配そうについてくるのだ。


……うん。

心配かけちゃったもんね。

でも、そろそろ普通に戻ってほしいなぁ。

特にリオン!

お姉ちゃんはお手洗いくらい一人で行けます!


そんなことを考えていた朝。


「お嬢様、本日は旦那様がお呼びでございます」

ミアが髪を整えながら教えてくれた。

「パパが?」

「はい。新しい護衛の方をご紹介くださるそうです」


……来た。

ついに、この日が来てしまった。


王国騎士団。

腕の立つ若い騎士。

その条件に当てはまる人物を、私は一人知っている。


アルヴィン・グランフォード。


乙女ゲームの攻略対象の一人だ。

赤い髪に緑の瞳。

剣の腕は一流で、真面目で面倒見のいい騎士。


……いやいや!

まだ決まったわけじゃない!

王国騎士団には、きっと若くて腕の立つ騎士が山ほどいるはず!

お願い!

どうか普通の騎士さんでありますように!


* * *


応接室の前で、私は深呼吸した。


「お嬢様、どうかなさいましたか?」

「う、ううん! 何でもないよ!」

ミアが不思議そうに首をかしげる。


……よし。

覚悟を決めよう。


扉が開く。


部屋の中には、パパと、一人の青年が立っていた。

すらりと背が高く、鍛えられた体つき。

騎士団の制服をきちんと着こなしている。


そして――。


燃えるような赤い髪。

鮮やかな緑の瞳。


……はい、終了ーーー!!


どうして!?

どうしてこうなるの!?

私、攻略対象には近づかないって決めたよね!?

なのに、向こうからやってくるんですけど!!


「ティア、おいで」

パパが優しく手招きする。

「今日からお前の護衛を務めてくれる、アルヴィン・グランフォード卿だ」


……知ってます!

ものすごーく知ってます!!


青年は私の前に進み、片膝をついた。

「アルヴィン・グランフォードと申します。これより一か月、お嬢様の護衛を務めさせていただきます」


低く落ち着いた声。

真っすぐな眼差し。


……うん。

ゲームで見たとおり、かっこいい。

いや、違う違う!

見とれてる場合じゃない!


「セレティア・アストレイアです。グランフォード卿、よろしくお願いいたします」

どうにか挨拶を返すと、アルヴィンは少しだけ表情を和らげた。

「どうぞ、アルヴィンとお呼びください」

「えっ、でも……」

「今は騎士として護衛の任に就いております。敬称はお気になさらず」


……なるほど。

お仕事中は騎士として接してほしいってことね。


「で、では……よろしくね、アルヴィン」


……ああ。

言っちゃった。


* * *


「アルヴィンは剣の腕だけでなく、判断力にも優れている。安心して任せられる騎士だよ」

パパが説明してくれる。


うん。

それも知ってる。

ゲームでは、主人公を何度も危険から救ってくれる頼れる騎士だった。


でもね、パパ。

その人、攻略対象なんです!!


「ティア?」

「は、はい!」

考え込んでいた私に、パパが不思議そうな顔をした。

「どうしたんだい? 緊張しているのかな?」

「う、うん! ちょっとだけ!」

すると、アルヴィンが穏やかに微笑んだ。

「ご安心ください。必要以上にお嬢様の行動を制限するつもりはありません」


……えっ。

意外と話が分かる人?


「ただし、危険な行動をなさった場合は、お止めします」


……ですよね!


「特に、見知らぬ相手に向かって飛び出すようなことは、今後お控えください」

「うっ……」

もう事件のこと、知ってるんだ。

恥ずかしい……。


「人を助けたいというお気持ちは立派です。ですが、ご自身が傷ついてしまっては意味がありません」

真面目な顔でそう言われると、何も言い返せない。

「……はい。気をつけます」

アルヴィンは、満足そうにうなずいた。


……あれ?

なんだろう。

この感じ。

まるで、先生に注意されてるみたい。


* * *


応接室を出ると、廊下でリオンが待っていた。


「姉様!」

「リオン!」

リオンは私のそばへ駆け寄ると、アルヴィンを見上げた。

「あなたが、姉様の新しい護衛の方ですか?」

「はい。アルヴィン・グランフォードと申します」

アルヴィンが丁寧に頭を下げる。


リオンはじっと彼を見つめたあと、ぺこりとお辞儀した。

「リオン・アストレイアです。姉様をよろしくお願いします」


……リオン!

なんだか、お姉ちゃんをお嫁に出すみたいな挨拶なんですけど!?


「承知しました。必ずお守りいたします」

アルヴィンが真剣な表情で答える。


……うん。

この二人、妙に息が合ってない?


「姉様」

リオンが私の手を握った。

「これで、少し安心できます」


……そっか。

リオンも、ずっと心配してくれてたんだよね。

「ありがとう、リオン」

私は笑って、弟の頭をなでた。


* * *


その日の午後。


私は庭を散歩していた。

もちろん、後ろにはアルヴィンがいる。


……いる。

ずっと、いる。


「……アルヴィン」

「はい」

「疲れない?」

「問題ありません」

「退屈じゃない?」

「任務ですので」

「……そっか」


うーん。

会話が続かない!

これ、一か月も続くの!?


そんなことを考えながら歩いていると、庭の隅で木剣を振るう騎士たちが目に入った。


……あ。

剣の稽古だ。


私が足を止めると、アルヴィンも視線を向けた。

「剣に興味がおありですか?」

「うん、ちょっとだけ」


そう答えた瞬間、街での出来事が頭をよぎった。


あのとき。

私は女の子を助けようとして、何もできなかった。

リオンが魔法を使ってくれなかったら、どうなっていたんだろう。


……怖かった。

でも、それ以上に。

リオンを危険な目に遭わせてしまったことが、悔しかった。

私にも、何かできることがあれば。


「……アルヴィン」

「はい、お嬢様」

私は少し迷ってから、顔を上げた。

「私にも、剣って使えるようになるかな?」


アルヴィンが、わずかに目を見開いた。

「剣、ですか?」

「うん。強くなりたいの」


誰かに守ってもらうだけじゃなくて。

私も、大切な人を守れるようになりたい。


アルヴィンはしばらく私を見つめていた。

そして、静かに口を開く。

「……本気で、そうお考えですか?」

「うん!」

私が力強くうなずくと、彼は少しだけ微笑んだ。

「でしたら、まずはお父上の許可をいただきましょう」


……え?


「許可がいただければ、基礎からお教えします」

「本当!?」

「はい。ただし、稽古は決して楽ではありませんよ」


……ふふん!

こう見えて私、やると決めたら頑張るタイプなんだから!


「大丈夫! 頑張る!」

アルヴィンが小さく笑った。

「では、楽しみにしております」


……よーし!

こうなったら、目指せ!

自分の身くらい守れる立派な令嬢!


……あれ?

ちょっと待って。

私、攻略対象に近づかないって決めてたよね?

なのに、今。

自分から剣を教えてくださいってお願いしちゃった……?


……。

ま、まあ!

これは恋愛じゃないから!

修行だから!

ノーカウント!!


そう自分に言い聞かせながら、私は大きくうなずいた。


――こうして私と、新しい護衛の奇妙な一か月が始まった。

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