お姉ちゃんですから!
そのとき。
「――私の弟に、何か?」
聞き慣れた声がした。
* * *
――ティア視点。
声をかけると、リオンを囲んでいた少年少女たちが、一斉にこちらを振り向いた。
「……姉様!」
リオンがほっとしたように私を見る。その顔を見て、胸がきゅっとなった。
……何があったの?
お菓子を取りに行って戻ってきたら、リオンが知らない子たちに囲まれていた。
しかも、聞こえてきたのは「拾われた子」という言葉。
どう考えても、楽しいお話をしていたわけじゃなさそうね。
私は手にしていたお菓子のお皿を近くのテーブルに置き、リオンの隣に立った。
「セ、セレティア様……!」
中心にいた令嬢が、慌てて姿勢を正した。
「あら。私のことをご存じなのね」
「も、もちろんですわ!」
「そう。では、リオンが私の弟だということも、もちろん知っていますわよね?」
「……はい。ですが、その方は養子で……」
「ええ、そうよ」
私はうなずいた。
「それが何か?」
令嬢が言葉に詰まる。隣にいた少年が、口を開いた。
「ですが、セレティア様も以前はその者を嫌っていたと……」
……なるほど。そういうことね。
確かに、以前の私はリオンにひどい態度を取っていた。それは事実だ。
だからといって。
「ええ。以前、私がリオンに冷たくしていたのは事実よ」
私がそう答えると、令嬢たちが顔を見合わせた。
「で、でしたら――」
「でも」
私はその言葉を遮った。
「それが、あなた方にリオンを侮辱する権利を与えるのかしら?」
誰も答えない。
私はリオンの手を取った。
「それに、リオンはアストレイア侯爵家の正式な一員よ。血がつながっているかどうかなんて、関係ないわ」
「……姉様」
リオンが小さく私を呼んだ。
私はその手を握ったまま、令嬢たちに向き直る。
「あなた方も、貴族の家に生まれたのなら、お分かりになるでしょう?」
にっこりと微笑む。
「アストレイア侯爵家に、喧嘩を売るおつもりかしら?」
令嬢の顔から、さっと血の気が引いた。
「そ、そんなつもりでは……!」
「では、どういうおつもりだったの?」
「わ、私たちは、ただお話をしていただけで……」
「あら。そうなの?」
私は首をかしげた。
「では、『拾われた子』というのは、どういう意味のお話だったのかしら?」
「そ、それは……」
令嬢が口ごもる。
「私には、弟を侮辱しているように聞こえたのだけれど」
誰も答えられない。
しばらくして、中心にいた令嬢が深く頭を下げた。
「……申し訳ございませんでした」
ほかの子たちも、慌ててそれにならう。
私はリオンに目を向けた。
「リオン。どうする?」
「……え?」
「あなたが嫌な思いをしたんだもの。どうしたいかは、あなたが決めていいのよ」
リオンは少し驚いたように私を見つめたあと、令嬢たちに向き直った。
「……もう、こんなことはしないでください」
「は、はい……!」
「僕だけじゃなく、ほかの人にも」
令嬢たちは何度もうなずいた。
「分かりました。申し訳ございません……!」
それを聞いて、リオンが私を見上げる。
「……姉様、もう大丈夫です」
「そう?」
「はい」
私はうなずき、令嬢たちに向き直った。
「では、失礼するわ」
リオンの手を引いて、その場を離れる。
少し歩いたところで、私は足を止めた。
「リオン」
「はい、姉様」
「……大丈夫?」
そう尋ねると、リオンは一瞬だけ目を伏せた。
「……はい」
でも、握った手には少し力が入っている。
私はその手を、ぎゅっと握り返した。
「ごめんね。一人にしちゃって」
「姉様が謝ることではありません」
「でも、嫌な思いをしたでしょう?」
リオンは小さくうなずいた。
「……少しだけ」
「そっか」
私は少しかがんで、リオンと目線を合わせた。
「ねえ、リオン」
「はい」
「さっきも言ったけど、あなたは私の大切な弟よ」
リオンの目が、わずかに見開かれる。
「養子だからとか、血がつながってないとか、そんなことは関係ないの」
「……姉様」
「だから、何かあったらちゃんと言ってね。私、お姉ちゃんなのだから!」
そう言って笑うと、リオンは少しだけ唇を震わせた。
そして――。
「……はい!」
今度は、いつもの笑顔で答えてくれた。
よかった。やっぱり、リオンには笑っていてほしい。
私は立ち上がり、リオンの手を引いた。
「さ、ノアのところに戻ろっか!」
「はい、ティア姉様!」




