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『恋愛しません!……って言ってるのに、攻略対象が近づいてきます』  作者: ルミ
第2章 恋を知るには、近すぎます!

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弟だからって、油断してました!①

次の休みの朝。


玄関へ向かった私は、先に待っていたリオンを見つけて足を止めた。


白いシャツに、落ち着いた色の上着。学園の制服とも、家でくつろいでいるときとも違う姿だった。


……あれ。

うちの弟、こんなに背が高かった?


「姉様?」


呼ばれて、慌てて顔を上げる。


「ごめん。待たせちゃった?」

「いいえ。僕が早く来ただけです」


リオンは笑ってから、私を見た。


「その服、とてもお似合いです」

「ありがとう! リオンも格好いいね」


弟の口元が、ふっと緩む。


「では、今日は僕の隣を歩いてくださいね」

「もちろん。そのためのお出かけでしょう?」


答えると、リオンは一瞬だけ黙った。それから、私へ手を差し出す。


「ええ。今日は、僕との約束ですから」


……何だか、とても嬉しそう。


私まで楽しみになって、その手へ指先を重ねた。


* * *


馬車を降りた先には、小さな店が並ぶ通りがあった。


色鮮やかな布。磨かれた銀細工。窓辺に吊るされた、硝子の飾り。


休日らしく人は多いけれど、少し離れたところには、うちの護衛もついてきてくれている。


「今日は、何を見に行くの?」

「選んでいただきたいものがあるんです」

「私に?」


尋ねると、リオンが頷いた。


「贈り物を」

「そうなの? 私でよければ、もちろん!」


お世話になった先生だろうか。それとも、学園のお友達?

誰への贈り物か尋ねようとした、そのとき。


「わあ……!」


店先の棚へ目が留まった。


小さな硝子の猫が、何匹も並んでいる。丸くなったもの。背中を伸ばしたもの。前足で顔を洗っているものまでいた。


その中に、一匹。


「リオン、見て。ルゥに似てる!」


淡い灰色の体に、青みのある目。ちょこんと座った姿が、どこか得意そうだ。


「本当ですね」

「この顔、私の椅子を先に取ったときに似てる」


言うと、リオンが吹き出した。


「姉様が座ろうとしていた椅子を、先に取られたんですか?」

「うん。でも、あんな顔で見上げられたら、そのまま座らせてあげたくなるでしょう?」


猫へ顔を近づけたところで、背後から人の声が近づいた。


通りを譲ろうと半歩下がる。けれど、荷物を抱えた人がすぐそばを通ろうとしていた。


「姉様、こちらへ」


腰の横へ手が添えられ、そっと引き寄せられる。肩が、リオンの胸元へ触れた。


……わ。


腰を支える手は、思っていたよりしっかりしていた。私が足を止めると、リオンも動かず、人の流れから庇ってくれる。


「ぶつからなくてよかった」

「……うん。ありがとう」


顔を上げた。


すぐ上に、紫色の瞳がある。見慣れた綺麗な顔を、こんなに近くから見上げている。


胸が、どきっとした。


……ちょっと待って。

今、どうしてどきっとしたの、私。


「姉様?」


声をかけられ、私は慌てて姿勢を戻した。


「何でもない! 頼もしくなったなって思っただけ」


リオンは私を見ていた。それから、ゆっくり微笑む。


「では、これからも頼ってください」


腰に添えられていた手が離れる。代わりに差し出された腕へ、私は手を添えた。


……今日は、人も多いから。

それに、さっき助けてもらったばかりだもの。


うん。歩きやすくするためです。


そう考えてから、気づいた。


これ、殿下のときにも思いませんでしたか、私。


* * *


リオンが足を止めたのは、リボンや髪飾りを扱う店だった。


中へ入ると、店主らしい女性が顔を上げる。


「いらっしゃいませ」


リオンは挨拶をして、棚へ目を向けた。


「普段、髪に結べるリボンを見せていただけますか」

「贈り物でしょうか?」

「はい」


店主は、リオンの腕へ手を添えた私を見て微笑んだ。


「では、ご一緒に選んでいただけますね」


案内された机の前で腕から手を離す。その上へ、何本ものリボンが並べられた。


柔らかな桃色。落ち着いた緑。縁に細かな刺繍の入ったものもある。


「どれがお好きですか?」


リオンに尋ねられ、私は少し考えた。それから、淡い紫色の一本を指さす。


「これかな。綺麗な色だし、端のお花も可愛い」


白い糸で、小さな花が縫い取られていた。光へかざすと、布に艶が浮かぶ。


リオンの目元が和らいだ。


「僕も、それがいいと思っていました」

「本当? 好みが合ったね!」


嬉しくなって笑うと、店主がリボンを手に取った。


「お嬢様のお髪に、よく映えると思いますよ」

「え?」


顔を上げる。リオンが私を見ていた。


「受け取っていただけますか?」


……私に?


リボンと弟の顔を、交互に見る。


「贈り物って、私へのものだったの?」

「はい」

「それなら、先に言ってくれたらよかったのに!」


何の遠慮もなく、自分の好みで選んでしまった。


いや、私へのものなら、それでいいんだけど!


リオンは楽しそうに笑う。


「先にお伝えしたら、僕に気を遣うでしょう?」

「それは……」


しそうです。

お値段とか、ほかに必要なものはないのかとか。


「本当に気に入ったものを、贈りたかったんです」


言葉が止まった。


私が、気に入ったもの。

選ぶところから、楽しませてくれたんだ。


「……ありがとう。すごく嬉しい」


伝えると、リオンがほっとしたように笑った。


「よかった」

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