ジュジュさん
白猫を撫でていた騎士は立ち上がると、こちらを向いた。
「……」
騎士の編み込んだ髪からこぼれていた前髪が風に流れた瞬間、息を呑む。
露わとなった顔立ちはまるで人形のようで、人の温もりを感じさせないほどに整っていた。
ここカルティアのものとは異なる、壮麗な銀の騎士服と緋色のマントを纏ったその人は、フェアリスタ王国の――。
女騎士だった。
「……」
「……」
(誰、なの……?)
初対面の女性を前にして、恐れのような、言いようのない感覚が沸き起こっていた。
あの「妖精騎士」、あるいは「撫で斬り騎士」ことジュリアス・カルヴィン。絶対に関わりたくないと思っているあの男の姿を思い浮かべていたからだ。
女性なのだから、言うまでもなくあの男ではない。
それでも、美しいプラチナブロンドの髪、透き通った白い肌、そして妖しい赤の瞳――二人はどこか似ているような気がしてならなかった。
(妹……? それとも親戚……?)
いや、些細なことすら瞬く間に女たちの噂となるジュリアス・カルヴィンに、彼の親族もまた入国しているという話は一度も耳にしたことがない。
「……」
「……」
女騎士の凛とした佇まいと揺るぎないまなざし。それでいて、王族のようなたおやかな高貴さ。そして清涼な空気。
侍女の仕事柄、貴人と接する機会が多い私から見ても、彼女は明らかに異質だった。
「にゃーお! にゃーお!」
「ん? 何だい、チャーシャ?」
猫が真っ白な後ろ足で立ち上がり、女騎士の膝にえいやとばかりに爪を立てている。そんな白猫の小さな頭を、彼女は目を細めて愛おしそうに撫でる。
その微笑ましい様子に緊張が少し解け、ようやく姿勢を正す、が。
「「あっ」」
急に白猫が私の元へ駆け寄ってくる。猫を追った女騎士も私の前に立つ。
「……こんにちは」
そっと会釈した彼女が発した言葉は、フェアリスタではなく我が国のものだった。
「……こんにちは」
「もしかしたら……チャーシャが貴女にご迷惑を?」
眉尻を下げた彼女の奥ゆかしく柔和な微笑みと、ぷるんとした瑞々しい薄紅色の唇――それらは、深い赤の瞳ときめの細かい白い肌とで、見事な調和を保っていた。
「……」
「……」
私より少し背丈の低い美少女の、大粒の宝石のような瞳に見入ってしまう。
「なーう」
「あら」
「なーう、なーう」
くすぐったい感触に視線を足元へ移すと、白猫が見上げながら私たちの間を行ったり来たりしていた。
「チャーシャ。随分と落ち着かないね」
困ったように微笑んだ女騎士から背中を撫でられ、猫はぐーんと背伸びをする。
「あの……」
「はい」
「どうぞ、こちら。よろしければ」
彼女を立たせたままなのは失礼だと思いベンチを勧めた。
「ええ。では失礼。あの……」
「はい?」
「よろしければ、こちら、どうぞ」
「ええ……」
逆に女騎士から隣を勧められる。断るわけにもいかずそっと座ると、途端に白猫が体をスリスリと寄せてくる。足の位置をずらしても巧みに追いかけてくる。
「ちょ、ちょっと、くすぐったいわ」
「うびゃあ」
「ふふっ!」
猫様に翻弄される私が可笑しいのか、彼女は楽しげに吹き出した。その笑みは蠱惑的で、どんな男でも惹きつけてやまないのではないかと思った。
「こら、チャーシャ。止めなさい。ご迷惑でしょう」
「うびゃ~う」
(――ん? えっ……?)
苦笑しながら猫に向かって屈んだ彼女の胸元を、思わず二度見した。
(お、おおきい……)
今は胸当てを外しているようなのだが、私の慎ましいものとは正反対の、豊かな膨らみがはっきりと揺れていた。
勝ち負けの問題ではない。だが、圧倒的な敗北感めいたものを覚えた。
「……」
「ふふっ! チャーシャが誰かに懐くなんて、めずらしいんですよ」
「チャーシャという名前なのですね?」
「ええ! そうです!」
こちらは邪な(?)ことを内心考えていたというのに、彼女は輝くような笑顔を浮かべる。
「もしかしたら、こちらでご休憩中でしたか?」
「え、ええ」
「お邪魔してしまったのは、むしろ私のようでしたね。申し訳ありません」
「いえ……」
異国のアクセントはあるが流暢な彼女の発音に、あらためて驚きを覚えながら尋ねた。
「失礼ですが」
「はい」
「フェアリスタ王国からいらしているのですよね?」
「ええ。アンリエット様がこのカルティアに来るにあたり、護衛で参りました」
「……」
アンリエット様とは、かの国から輿入れしてきた、うら若き王女様のことだ。
「フェアリスタの近衛騎士を務めております。以後、お見知り置きを」
「……」
彼女の瞳を見つめながらうなずく。
そして、つい……彼女のことが羨ましくなる。
男爵家の長女として生まれた私は、子供の頃から男に生まれたらと思っていた。
そして、もし家を継ぐ長男ではなかったとしたら、騎士を目指していたかもしれない。体を思い切り動かすことが好きだからだ。一方、彼女は普通の騎士どころか近衛騎士らしい。
女性の近衛騎士など中々聞くものではない。才能や立場のみならず、努力の資質にも恵まれたのだろう。
実際、その穏やかでいて余裕のある佇まいは揺るぎない何かに満ち溢れていた。
だから、思わず口走ってしまう。
「……お若いのに、大変素晴らしいですわ」
「若い?」
「え」
「……私、二十九歳です」
「えっ?」
「なので、特段若いというわけでは……」
「た、た、大変申し訳ありません」
「いいえ。お気になさらず」
美少女にしか見えないため年下だと思い込んでいた。だが、私より三つも年上だった。自分の失言に恥ずかしくてたまらなくなる。
「あ、あの、私、ペトラ・ミューラーと申します。失礼ですが、お名前は?」
「ジュ――」
――ん?
「ジュと。ジュジュとお呼びください。ええと、ペ、ト、ラ……」
「はい。ペトラ、です」
「ペ、トラ……ミュー、ラー。ペトラ……ミューラー」
おそらくフェアリスタには無い名前なのだろう。彼女は長い睫毛を瞬かせながら、噛み締めるように繰り返した。
「……よろしく。ペトラ・ミューラーさん」
「こちらこそ。ええと、ジュジュ様は」
「ふふっ。様なんてお止めください」
「ジュジュ……さんは、こちらには慣れましたか?」
「うーん、そうですね……」
ジュジュさんは首をかしげた。顔や声だけでなく、考える仕草まで可愛らしいなんて一体どういうことなのか。
「最近、ひとり暮らしのアパートが用意されました」
「ええ」
「国からいろいろと持ち込んだので、今は何とかなっているのですけれど……例えば生活用品をどこで買えばいいのかなど、一つ一つ調べて慣れていかなければならないでしょう」
「まあ……それは大変ですわね……」
ジュジュさんはしばらく王都に滞在するようだ。
私も地方から上京したての頃は、右も左もわからなくて苦労したもの。誠に勝手ながら、彼女を放っておけないような気持ちになる。
「ペトラさんはこちらの王都のご出身ですか?」
「いいえ、生まれは地方です」
「そうですか。ご家族もこちらの王都に?」
「母と弟は地方の実家におります」
王都で一人暮らしをするようになって、八年の月日が経っていた。
「弟さんがいらっしゃるんですね?」
「はい、六つ下です」
「そうですか。弟さんはお元気ですか?」
「……」
弟のエリックの――姉の私はエリックが誰にも負けない美青年だと思っているが――線の細い顔つきを思い出す。
「実は弟は昔から体が弱くて、病気がちで……」
「……」
「最近は、あまり体調を崩さなくなったようなのですけれど……」
「そうですか……」
可愛い弟のことが懐かしくなり、つい喋りすぎてしまった。ふと顔を上げると、ジュジュさんは優しげに私を見つめていた。
「ペトラさんはお姉さんなんですね」
「はい」
「何となくそんな気がしていました。かくいう私は、姉たちとは年の離れた末っ子です」
「左様ですか」
「姉にも兄にも昔から……私はいろいろと心配をかけてしまいました」
「……」
そう静かに言ったジュジュさんは切なげだった。整った横顔に差す影には、隠しきれない深い愛情が滲んでいる気がした。
もし私に彼女のような妹がいたら――ジュジュさんは年上だが――きっと構いすぎてしまうことだろう。
「ジュジュさん」
「はい」
「姉からしますと、年の離れた子って可愛くてたまらないものなんですよ。迷惑だってわがままだって、問題ありません」
「ふふっ。そうですか。あ、でも、私も子供は好きです」
「あら、私もですわ」
「うにゃう」
「おっと。放って置いてしまってごめんね、チャーシャ」
視線を落とすと、白猫が「私にも構ってくださいまし」と言わんばかりにお尻を持ち上げていた。ジュジュさんが慣れた手つきで尻尾の付け根をぽんぽんすると、チャーシャは目を細めた。
ジュジュさんは猫好きでもあるようだ。
「そういえば私、実家で猫を飼っていたんです」
「いいですね! 私も実家にいた頃は犬を飼ってました」
「左様ですか」
「今はアパート住まいですから無理ですが……もしいつか家を持ったら、ペットはたくさんほしいなと思っています」
「まあ、素敵ですわ」
激しく同意だ。私も動物好きなので深くうなずく。一方ジュジュさんは楽しげに続ける。
「それに、結婚したら子供もたくさんほしいです。……っと、ええと、大変失礼しました。失言をお許しください」
「いいえ」
「まあでも、肝心の相手がいないのですけどね」
「……」
(ジュジュさんもお相手がいないのね……)
自嘲した彼女を見ながら意外に思う。どうしてこんな美人が結婚しないのだろう。
だが、仮に彼女とそっくりな子供たちが生まれて、動物にも囲まれた光景を想像すると――幸せな家庭と言ってよいのではないだろうか。
そんな思いで口を開く。
「もし、ジュジュさんみたいな可愛らしい子がたくさんいたら」
「えっ」
「素敵だと思いますわ」
「…………本当ですか?」
「ええ。もちろんです」
「あ……あ、ありがとう、ござい、ます……」
「間違いありませんわ」
なぜか妙に照れているジュジュさん。こちらとしては心からそう思った次第である。
すると彼女は、遥か遠くを見つめながらそっとつぶやいた。
「――くが、まさかこんな遠い国で……」
「……?」
「こんな女性に出会えるなんて」
「……」
微かに聞こえたそれは、フェアリスタ語だった。
実は私は、かの国の言葉を知っている。
学生時代に別の外国語を学んでいたとき、一緒に習得したのだ。
フェアリスタ語の文法や語彙が、授業で選択した外国語と少し似ていた。だからすぐに覚えられた。ちなみに、当時フェアリスタで出版された恋愛小説を読みたいと思ったのがきっかけだった。
「……」
「……」
遠い空の彼方を見つめるジュジュさんの赤い瞳は、ガーネットのように美しかった。
「……あ、ごめんなさい。ペトラさんと話すのが楽しくて、ついお喋りになってしまいました」
「……」
普段は私もここまで他人とほとんど……いや、全く喋らない。
こんなに穏やかで優しさを感じさせ、そして話しやすい人は初めてだった。
「ジュジュさん」
「はい」
「お国にはいつ頃お帰りになる予定ですか?」
「……未定です」
「えっ?」
「しばらく滞在しなければならないかもしれません」
さりげない質問のつもりだった。だが、赤い瞳には真剣な色が差している。
「……」
「……」
深刻な表情を浮かべているジュジュさん。先ほど彼女は、輿入れするアンリエット王女の旅路を護衛するために同行してきたと語った。
ならば、後は我が国の騎士たちへ護衛の引き継ぎさえ済ませれば、ジュジュさん本人は祖国へ直ちに帰れそうなものだ。
なおフェアリスタは、ここカルティアから見て、隣のベルダール帝国を挟んだ遠国である。
私では推し量れない事情があるのかもしれない。実際、今回の婚姻同盟に関してカルティアでは否定的な声の方が大きいのだ。
ジュジュさんにしたら、ご実家のある祖国に早く帰りたいことだろう。だが、ここでしばらく生活しなければならない――そう思うと、彼女のことが再び心配になる。
隣に体を向けた。
「ジュジュさん」
「はい」
「お手伝いできることはありませんか?」
「えっ?」
「しばらくこちらに住むのでしょう?」
「ええ」
「なら、何かお手伝いさせてください」
「いや、それはさすがに……。結構です。貴女に迷惑をかけてしまう」
「……」
ジュジュさんは言語も文化も異なる遠い異国から来ている。滞在が長引けば、苦労もさらに増えることだろう。だから、彼女の身心を目一杯おもてなししたいという気持ちがぐっと高まっていた。
彼女の肩にそっと左手を置く。奥ゆかしい彼女が遠慮しないよう顔を近づけて囁く。
「ジュジュさん、よろしいですか」
「ペ、ペトラさん?」
「迷惑などではありません」
「えっ」
「私――どんなことでも致します」
「ええっ? ど、ど、どんなことでも、ですか?」
「はい。ジュジュさんのためなら。……なんでも」
「ペ、ペトラさん……!」
「遠慮は不要です」
なぜか顔が真っ赤なジュジュさんを安心させようと、右の拳で自分の胸を叩く。
得意の片手腕立て伏せで鍛え上げた大胸筋が、ぽーんと小気味の良い音を響かせた。
「女に二言はありません」
「……本当にいいんですね?」
「はい」
「……ねえ、聞いた? チャーシャ?」
「にゃう」
ぷっくり膨らんだ白パンの生地みたいにもちっと座り、リラックスしきった体勢で毛づくろいをしていた白猫が返事をした。
さて、ジュジュさんをこれからどう「おもてなし」してみせようかと身構える。一方彼女は、なぜか胸に手を当て深呼吸を繰り返した後、口を開いた。
「……ペトラさんは」
「はい」
「こちらの王宮の侍女をされているのですよね?」
「え? はい」
普通の雑談だったので拍子抜けする。
ただ、よくよく振り返ってみると、制服を着ているとはいえ自分がここで何をしている何者なのかを話していなかったことに気づく。
「こちらでのお勤めは長いのですか? 大変ですか?」
「はい……」
目の前の輝くように立派な騎士様から尋ねられ、ついうつむいてしまった。
「……どうされました?」
「あ、いえ……大変お恥ずかしい話ですけど……」
「……」
「ここに勤めるようになってから、もう随分と経ちました。基本的にいつも忙しいです。でも、忙しいだけで、いまだにほとんど昇進できていなくて……」
「……」
「正直、上司とも上手くいっていませんし……」
「……」
「経歴がただ長いだけなんです」
「……」
「だから、私はジュジュさんのように立派な人間ではありません」
「……ペトラさん」
彼女は私の腕にそっと手を置いた。
「私だって、たいした者などではありません」
「……」
「それに出世って……実力よりも、むしろ運で決まると思いませんか?」
「えっ……」
「私も昔は、上司と馬が合わないことがあって……いろいろ悩みました」
「……」
「人との相性って、がんばったところで、なかなか変えられないですから……。でも、そのことにすら当時はなかなか気付けなくて」
「……」
「その後、別の上司の下についたら、急に何事も上手くいくようになり驚いたものです。あのときあんなに悩んでいたのは、一体なんだったんだろうって。運……いや、縁もあるのだと」
「……」
ここで働いてきた八年間を思い出す。
バルバラ様に限らず、これまで直属の上司とはほとんど反りが合わなかった。
もちろん、私自身が未熟なせいもあるだろう。だが、どうしていつも上手くいかないのだろうと、ずっと悩んでいた。
「ペトラさん。運や縁とは、『巡り廻る』ものだと思いませんか?」
私を見つめながらジュジュさんは続ける。
「仮に悪いことが続いていても、良いことだって必ず来る」
「……」
「たとえ、強い土砂降りの雨だって、いつか必ず止む」
「……」
「だから、ペトラさんのように素敵な人ならきっと、いい上司にだって巡り会えるような気がしますよ」
「……」
いつかいい人と出会える――それは、先日スミロから別れ際に言われた言葉と似ていた。
しかし、今の気持ちはあのときとは全く違っていた。まっすぐなジュジュさんの瞳を見つめながら、そんな自分が不思議に思えた。
「――ん?」
ジュジュさんの視線が私の背中の方へと向かう。
「ペトラさん、後ろに何かありますよ?」
「えっ? あっ!」
腕を回すと、秘密の趣味である恋愛小説本の手触り。
先ほどチャーシャが突然現れたとき、反射的に背中に回したものだった。
ベージュのカバーをかけた文庫本はベンチの色に紛れ込んでいた。しかも、浅く腰掛けていたせいで気付かなかった。
「お、おほほ……失礼しました」
速やかにバッグにしまう。
「読書がお好きなんですね?」
「え、ええ……。趣味は読書ですの」
目を逸らして答えた。筋金入りの恋愛小説マニアであることはさすがに秘密だ。しかし視線を戻すと、ジュジュさんはぱあっと顔を輝かせていた。
「僕も――」
――ぼく?
「い、いえ、私も。私も読書が趣味なんです。同じですね」
ジュジュさんは「これは趣味でなく、勉強用ですけど」と言いながら、本を懐から取り出して渡してくる。
「これは……」
文庫ながら分厚いその本をめくる。我が国カルティアの神話集だった。
「『ラストリア叙事詩』ではありませんか?」
「ええ」
実は私は、母からの影響もあり神話に詳しい。学生時代に宗教学は得意科目の一つだった。
「こちら……原本じゃないですか?」
「はい。仕事のために学びたいことがありまして。毎日少しずつ読んでます」
「フェアリスタの翻訳版でなく、原本を読むなんて……」
「実は翻訳本が見当たらなかったんです。フェアリスタ語での簡単な解説本ならあったのですが……」
「なぜ解説の方を読まないのですか?」
「それはもう読みました。でも、深く理解できた気がしなかったので……。こちらに手を出した次第です」
「……」
神話はとても難解だ。わかりにくいお話を徹底的に簡単にし、絵本レベルまでに噛み砕いてようやく理解できるようなもの。
カルティアの生まれの人でも、カルティアの神話をきちんと読んだことがある人は、おそらくほとんどいないと思う。実際、学生時代も周囲の学生たちは苦手にしていて、試験対策のみに終始していた記憶がある。
(そんなものを、原本で読む異国の人がいるなんて……)
「素晴らしいですわ……」
「え、ええ」
「まさに文武両道です」
「い、いやあ……」
「本当です。尊敬します」
「と、とんでもないです」
「いいえ」
彼女に向かって、実はりんごを軽々と粉砕できるほど育ってしまった握力を有する両手を握りしめて力説する。
「ジュジュさんは、まさに理想の騎士です」
「にゃーん」
ジュジュさんを褒めちぎっていたら、「あなた、少々落ち着きませんこと?」と言わんばかりの顔で白猫がこちらを見ている。
一方ジュジュさんは、なぜか顔を赤く染めている。
その直後、お昼休み終了の十分前の鐘が鳴った。
「あ。そろそろ行かないといけません」
「ええ」
「お邪魔しました」
「とんでもありませんわ」
ベンチから立ち上がった彼女を見ながら、そこはかとなく寂しさを覚えた。
「またお会いしましょうね。ペトラさん」
緋色のマントを翻して振り返ったジュジュさんの唇が美しい弧を描く。
チャーシャも立ち上がると、真っ白なかぎ尻尾をピンと立てながらジュジュさんの後をついて行く。
「…………」
彼女たちの姿が花壇の先から消えると、急に不安を覚えた。
ジュジュさんは、同盟国になったばかりのフェアリスタから来た、いわば賓客である。そして私は、カルティアの人間としてこの王宮に勤める身。
個人的に親しくなってしまうのは如何なものだろうか。
(いや……)
ジュジュさんが信頼できる女性なのは間違いないと思う。少なくとも、あのジュリアス・カルヴィンのように人を惑わす妖しい男ではない。
ゆえに、心配は全くいらないだろう。
――なんて、当時は思っていた。
会話の中で、自分がとんでもないことを幾つも口走っていたことに気づくのは、後の話となる。
何より、自分でも気づかないまま、私はすでに。
堕ちかけていた。




